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コラム

第一回:CSRレポート含む統合報告の3つのポイント統合報告書を経営に活かすには?

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2014年4月2日にアミタの年次報告書が公開されました。この年次報告書は、国際統合報告評議会(IIRC)技術部会(TTF-Technical Task Force)メンバーである公認会計士の森洋一氏にアドバイスをいただき、統合報告の流れを意識して作成したものです。

そこで今回は、森様に一般的な統合報告の背景や、CSRレポートを含む企業報告の意味、企業としての活用方法、ステークホルダー・エンゲージメントの実効性等について、アミタホールディングス(株)の常務取締役の藤原と対談していただきました。

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統合報告は、経営者の認識、意思、行動、そして実績を表すもの

藤原:まず初めに、統合報告書とは何か?について、背景を含めて簡単にお話いただけますか?

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森氏:企業報告の歴史に少し触れながらご説明します。最も歴史が長く、企業報告の主流となってきたのは財務情報を投資家に対して報告する財務報告書です。この財務報告が制度として確立された発端は、1929年の世界恐慌と言われています。当時のアメリカ政府は、失われた資本市場への投資家の信任を取り戻すために企業の透明性確立が不可欠だという反省から、証券法、証券取引法を整備し、その中で投資家向けの開示制度が設けられました。その後、投資家向け開示制度の中でも、設備や従業員数に関する情報、リスク情報といった非財務情報が追加されてきましたが、財務情報が中核としてある点については変わっていません。

一方、1990年代後半から、企業の社会的責任に対する状況を幅広いステークホルダー(利害関係者)に報告することを目的に、いわゆるCSRレポートと呼ばれる企業報告が始まり、急速に実務が広がってきました。CSRレポートで開示される情報の多くも、いわゆる非財務情報と呼ばれるものです。財務情報と非財務情報は、本来的にはどちらも企業の状況を表すためのもので、密接に関連していますが、これまで両者は相互関連性が明確でない形で開示されてきました。

しかし、企業にとって人や知識、技術力と経験、さらにはステークホルダーとの関係といった無形の価値がもつ重要性が高まっており、また、持続可能性についての懸念が高まる現代においては、財務情報のみによって企業価値を評価することは適切でなくなってきています。また、リーマンショックによって顕在化されましたが、市場の短期志向が強まっていることが国際議論においても実務の現場においても問題視されており、長期視点での情報開示と投資判断の必要性が叫ばれてきています。

こうした反省をふまえて、財務と非財務の情報を統合し、ステークホルダーに伝える必要性が認識され、「統合報告」という流れが生まれました。

藤原:海外で生まれた流れだと思いますが、森さんから見て日本の統合報告に関する意識は、現在どのような状態だとお考えでしょうか?

annual_report_2013_02.png森氏:ここのところ、少しずつ日本企業の経営層の方々の間でも関心が高くなってきているように感じます。元来、日本の企業経営者は社会への価値を重視する経営をされてきたと思うのです。しかし、その状況は変化しています。バブル崩壊後、メインバンクシステムからの脱却、持ち合い株の解消が進み、株主利益を重視した経営への転換が求められて来ました。

しかしその一方で、投資家は比較的短い時間軸での財務利益を求めてきますから、そのような投資家からの期待やプレッシャーにどう対応すべきか、悩みを抱えられている企業が大変多いと感じています。また、国際的には長期的な視点での投資行動が公的年金等で広がってきていますが、残念なことに、日本では中長期的な視点で社会価値を考慮した投資が広がりを欠いている状況にあります。

こういった状況にあって、社会的な価値と株主利益とのバランスを取りながら、長期的な視点での経営を進めるため、投資家に対して説得力のある形でのコミュニケーションを進めていく必要が高まっています。この対策の1つとして、統合報告が注目されてきています。

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藤原:当社の年次報告書のトップメッセージで会長の熊野が語っている考えはその文脈にそっていると言えるのでしょうか?
森氏:そうですね。私は、統合報告は、経営者の認識、意思、行動、そして実績を表すものだと考えています。

  1. 社会と自社それぞれについての課題認識(認識)
  2. 経営ビジョンと課題解決に向けた事業戦略(意思)
  3. 戦略に基づき取られた経営行動(行動)
  4. 戦略の進捗と成果(実績)

認識と意思は将来に向けた情報ですね。行動と実績は過去の情報です。経営者の認識と経営の意思を示し、投資家の支持を得る。貴社の年次報告書トップメッセージで述べられている「共感資本」は、とても近い考え方だと思います。経営者の考えを示しながら、「我々は価値をこうやって生み出すので、仲間(カンパニー)になりましょう」というメッセージに良く表れていると思います。IIRCの統合報告は、財務資本の提供者を主なターゲットとしていましたが、貴社の報告では幅広いステークホルダーに対して理解を求めていくアプローチだと思います。

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日本の企業報告に共通する課題

森氏:日本の企業報告に共通する課題は、経営者がどのような課題を認識しているかが明示されていないことです。経営者の意思はトップメッセージに記載されていると思うのですが、企業の外部、内部環境を踏まえながら、どのような課題があるのかを語ることはされていないと思います。

特に社会の抱える課題、長期的な課題に触れられるケースが少ないと思います。その結果として、アニュアルレポートで語られる内容が、市況の変化、為替環境や燃料費高騰といった直近の課題への対応に限定されてしまい、どのような価値を、どのように生み出していくか、そのために経営資源をどう割り当て、強化していくか、といった全体像が示されない。本来的には、まずもって社会と自社の現状についての認識が示されてこそ、経営目標や戦略、経営行動に関わる情報が適切に理解されるはずです。

藤原:日本の経営者が今まで課題認識を明示する必要性をあまり感じてこなかったのは、従業員をはじめ、長く深く付き合うステークホルダーが多かったので、言葉にせずとも関係者とは共通の課題認識を持ちやすかったからかもしれないですね。

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森氏:おっしゃる通りだと思います。しかし、企業が大きくなり、多くの投資家から資金調達し、バリューチェーンが長くなってきた現代企業において、これらのステークホルダーとの認識を共有して行くことが難しくなっているのだと思います。国際的にも、ステークホルダーとの対話が求められてきたことの本来的な背景は、その点にあると考えています。今回の貴社の年次報告書の大きな特徴は、ステークホルダーとの認識の共有を図っていくことに注力されている点にありますね。


第二回:企業・経営者は報告書をどのように活用すべきか?~ステークホルダー・エンゲージメントの実践~

関連情報
プロフィール
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森 洋一 (もり よういち) 氏
公認会計士、IIRC TTF

一橋大学経済学部卒業後、監査法人にて会計監査、内部統制、サステナビリティ関連の調査研究・アドバイザリー業務を経験。2007年に独立後、政策支援、個別プロジェクト開発への参加、企業情報開示に関する助言業務に従事。日本公認会計士協会非常勤研究員として、非財務情報開示を中心とした調査研究を行うとともに、国際枠組み議論に参加。現在、国際統合報告評議会(IIRC)技術部会(TTF-Technical Task Force)メンバー。

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藤原 仁志 (ふじわら ひとし)
アミタホールディングス株式会社 常務取締役

大手都市銀行、教育出版事業会社を経て2002年にアミタグループに合流。現在はグループの事業開発、営業戦略、コミュニケーション戦略等を担当。

※2015年3月24日を持ってアミタホールディングスの役員を退任

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