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コラム

第四回:KPIは定量でなければならない?一度決めたKPIは変えてはいけないのか?統合報告書を経営に活かすには?

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2014年4月2日にアミタの年次報告書が公開されました。この年次報告書は、国際統合報告評議会(IIRC)技術部会(TTF-Technical Task Force)メンバーである公認会計士の森洋一氏にアドバイスをいただき、統合報告の流れを意識して作成したものです。

そこで今回は、KPIについて、アミタホールディングス(株)の常務取締役の藤原と対談していただきました。

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藤原:今年初めて統合報告を意識した年次報告書を作ってみて、実際は掲載したかったが現時点で定義や情報内容が不十分であったため断念したKPI(重要成果指標)もかなりありました。事業計画やその進捗、実績数字、さらに事業が与える社会影響の可視化・定量化等々、2年目以降の課題が多くあります。

森氏:よく質問されることとして、KPIをすべて定量化しなければならないのか?ある程度定性的なものも認めるか?という話があります。これについて、唯一の正解はありません。定量化は明確になる反面、数字が独り歩きして本来の目的等が失われる等、ミスリードを起こすという短所があります。定量化するにふさわしい領域とそうでない領域を判断することも重要です。

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また、継続はもちろん重要ではありますが、この情報は一度出したことからやり続けなければ、と縛られすぎないことも大事です。当然、説明もなしに情報開示を止めると信頼は生まれませんが、経営は外部環境に応じて柔軟な対応が求められますので、随時説明をし、理解を得ながらという前提において、KPIを変更していくこともあり得ます。

日本の経営者はある意味真面目、ある意味リスクを避けるからなのか、「約束できないかもしれないから、報告しない」ということで機会損失していることが多いです。もう少しリスクをとっていき、対話を深めていけばよりステークホルダーの理解が深まると思います。

藤原:なるほど。では、具体的に来年度より一層改善していく部分はどこでしょうか?

森氏:1つ目は、先ほど既におっしゃっていましたが、KPIの設定と内容ですね。今回の年次報告書に表されているのは、アミタさんの実績です。例えばp24にKPIを意識して作成したものがありますが、まだこれは現状を表す数字です。成功要因を理解するためのベンチマークにはまだなっていませんね。ベンチマークする適切なKPIの設定、およびそのKPIが事業の進捗によって今後どうなるかがポイントです。

藤原:おっしゃるとおりですね。現状の理解を補助するものにとどまっています。本当はp55「fact date」で試みている天然資源の削減効果という指標等をあと1歩進めて、その結果社会に何の価値を生み出したかまで伝えていくことが必要と思っています。

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森氏:2つ目の課題としては、財務セクションと戦略との関連性をもっと具体的に見せていく必要があると思います。一般的に見て、現状の財務報告は、決算対象期の数字の説明がほとんどです。しかし、できれば、ある経営課題への対応のための戦略として、どのような投資をどれだけ実施したのか。それは、PL(損益計算書)のどこにどの程度影響したかというように、財務情報と非財務情報の結合性を高めていくことが期待されます。

これはアミタさんに限らず日本の財務報告、年次報告全体に期待することですね。 貴社の例でいうと、p34、 35等に記載されている数字が今後どのように推移するのか、そしてそれは売上、粗利等PLにどう跳ね返るのか、そしてそれを実現するための戦略は何かといった点は、投資家はとても関心を持たれると思います。

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藤原:まさに、痛いところをつかれました。特に投資開発事業である地域資源について、どれだけの人員、資金等のリソースを注いでいるかなどが、現在出せていません。それがきちんと報告できてこそ、ようやく戦略と、事業計画の進捗がつながってくると思っています。

森氏:ポイントは時間軸ですね。1年、2年だと主力事業(地上資源)の重要性が高くなります。5年~10年の視点になると現在サービス展開に力を入れている情報資源がどうなるか、さらに10年以降になると、投資開発事業である地域資源の重要性が高くなる。これらを時間軸で整理し、どんなポートフォリオを組んでいくのかを明示する必要がありますね。

おそらく経営側はそれぞれの重要性を認識していると思いますが、投資家にとってはどの時間軸でどれくらいのリソースが投下されているのかがわからない。それは報告書に記載するのか、説明会で話すのか対話の方法はいろいろあると思いますが、何かの手段で実施する必要がありますね。

藤原:確かに今はそこを明示できていません。もし今後もその戦略と計画、その進捗報告が自信を持ってきちんとできないなら、やはり戦略は絵に描いた餅となります。そして、それらを明示したほうがステークホルダーからの意見もさらに具体的にもらえると思いますね。

森氏:また、経営上のリスクをどう表していくかという点も課題となります。将来の経営の方向性を示されているわけですが、そこにどれだけの不確実性があり、そのような不確実性に対して、どのような経営上の対応を行っているか、という情報の開示です。リスク情報というと、どうしてもネガティブ情報として企業の方々は敬遠しがちですが、投資家はすべてがうまくいくわけではないという前提で評価します。

ポジティブな側面ばかりを強調するよりも、リスクも明示して、どういうリスクを想定していて、リスクにどう対策を取っているかを示すことによって、将来の計画の確からしさが高まります。次回はぜひ明示してほしいですね。 次回に続きます。

関連情報
プロフィール
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森 洋一 (もり よういち)
公認会計士、IIRC TTF

一橋大学経済学部卒業後、監査法人にて会計監査、内部統制、サステナビリティ関連の調査研究・アドバイザリー業務を経験。2007年に独立後、政策支援、個別プロジェクト開発への参加、企業情報開示に関する助言業務に従事。日本公認会計士協会非常勤研究員として、非財務情報開示を中心とした調査研究を行うとともに、国際枠組み議論に参加。現在、国際統合報告評議会(IIRC)技術部会(TTF-Technical Task Force)メンバー。

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藤原 仁志 (ふじわら ひとし)
アミタホールディングス株式会社 常務取締役

大手都市銀行、教育出版事業会社を経て2002年にアミタグループに合流。 現在はグループの事業開発、営業戦略、コミュニケーション戦略等を担当。

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