Q&A
SBT(Science Based Targets)とは?概要や取得のメリット、2024年1月の中小企業向け制度変更を解説
Science Based Targets (以下、SBT)は、科学的な知見と整合する、企業の温室効果ガス削減目標のことです。本記事ではSBTのメリット、日本での取り組み状況についてご紹介します。
参考情報
サプライチェーン排出量(Scope1,2,3)については「サプライチェーン排出量とは何ですか?」をご覧ください。
SBTとは
SBTは温室効果ガスの増加による問題を解決するため、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、 世界自然保護基金(WWF)が設立した共同イニシアチブ(以下、SBTイニシアチブ)によって提唱されました。日本語では「科学的根拠に基づいた排出削減目標」と訳されます。環境省Webサイトによると、SBTは以下のように定義されます。
▼SBTとは
Science Based Targetsは、パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のことです。 |
(出典:環境省)
▼パリ協定が定める温室効果ガス排出の水準
(出典:環境省)
なお、2019年4月に新しいルールが発表され、それまで認められてきた「世界の気温上昇を産業革命前より2℃程度に制限する水準」と整合する目標(2℃レベルの目標)は、2019年10月以降、認定の対象外となっています。また2025年から、企業は最初の目標承認日から5年ごとに目標を見直し、必要に応じて再検証することが義務付けられたことから、現在「2℃レベル」で目標設定済みの企業は「2℃を大幅に下回る(Well Below2℃)」または「1.5℃」レベルでの目標再設定が必須になります。
SBTの取得方法
実際にSBT認定を受けるにはどのような手順を踏んでいく必要があるのでしょうか。SBTによると大きく分けると以下のような5つのステップがあります。
▼SBTの手順
(出典:SBTよりアミタ作成)
まず、企業向けのSBTとしては「中小企業版SBT(SME Targets)」と「通常SBT(Near-term targets) 」2種類に分かれていますので、それぞれの認定条件を確認し自社が申請するSBTの種類を明確にしましょう。SBT認証の削減対象範囲としては、通常SBTの場合Scope1,2,3全てですが、中小企業版の場合はScope1,2のみが対象となっており、自社による排出量のみで取得可能となっているためSBT取得に対して多くのリソースをさけない中小企業でも取り組みやすい設計となっています。
▼中小企業向けSBTと通常のSBTの認定条件
中小企業向けSBT | 通常のSBT | |
対象 | 以下を満たす企業 従業員500人未満・非子会社・独立系企業 ※2023年12月時点 |
特になし |
目標年 | 2030年 | 公式申請年から、 5年以上先、10年以内の任意年 |
基準年 | 2018年~2022年から選択 | 最新のデータが得られる年での設定を推奨 |
削減対象範囲 | Scope1,2排出量 | Scope1,2,3排出量 ただし、Scope3がScope1~3の合計の40%を超えない場合には、Scope3目標設定の必要はなし |
目標レベル | ■Scope1,2 1.5℃:少なくとも年4.2%削減 ■Scope3 算定・削減(特定の基準値はなし) |
下記水準を超える削減目標を任意に設定 ■Scope1,2 1.5℃:少なくとも年4.2%削減 ■Scope3 Well below2℃:少なくとも年2.5%削減 |
費用 | 1回USD1,000(外税) | 目標妥当性確認サービスは USD9,500(外税) (最大2回の目標評価を受けられる) 以降の目標再提出は、1回USD4,750(外税) |
承認までの プロセス |
目標提出後、自動的に承認され、SBTi Webサイトに掲載 | 目標提出後、事務局による審査(最大30営業日)が行われる 事務局からの質問が行われる場合もある |
(出典:環境省)
また通常SBTと中小企業向けSBTでは申請方法が異なります。申請方法については以下のようになっています。
- (通常SBT、任意)コミットメントレター申請方法
コミットメントレターとは2年以内にSBT認定を取得する意思を表明するものです。提出は任意ですが、提出した場合SBT事務局、CDP、WMBのウェブサイトにて公表されます。
① SBTサイトにアクセスする ② 申請書類をダウンロードし、必要事項を記入する ③ 申請フォームに必要事項を記入の上、申請書類をアップロードして提出する |
- (中小企業向けSBT・通常SBT)SBTの申請方法
次にSBT認定の申請手順です。
中小企業向けSBT | 通常SBT |
① SBTサイトにアクセスする |
① SBTサイトにアクセスする |
通常SBTではSBT認定取得後、年1回の進捗報告と5年ごとの見直しが求められています。すなわち目標の再提出をする必要があるため、認定を取得したら終わりということではありません。目標に向けて継続的に取り組みをしていく必要があるため、SBT取得にむけた社内の体制づくりも重要な工程だといえるでしょう。
2024年1月からの中小企業向けSBT制度変更について
2024年1月から中小企業向けSBTの対象企業の条件と認証の手数料が変更される予定があります。ここではその変更内容について紹介していきます。
1.中小企業向けSBT、対象企業の定義の変更
現在は「従業員500人未満・非子会社・独立系企業」が対象となりますが、2024年1月からは以下の条件に該当する企業が対象となります。変更時期は間もなくですので、中小企業向けSBTを取得予定の企業は変更後の条件を踏まえた検討を行うように注意する必要があります。
▼中小企業向けSBT、対象企業の定義の変更点
【必須条件】 【必須条件に加えて下記2つ以上に該当する】 |
(出典:SBT)
※ロケーション基準手法:特定の地域に対する平均的な電力排出係数に基づいてScope2に分類されるCo2排出量を算定する手法」
2. 手数料の変更
中小企業向けのSBTについて認証の手数料が1,000ドルから1,250ドルに変更される予定です。
SBT認定のメリット
SBT認定を取得することで企業は以下の効果が期待されています。
▼SBT認定のメリット
• 環境問題に貢献することができる • CDP等外部評価の向上が期待できる • 新しい技術や事業の推進などのイノベーションを後押しする • 化石燃料由来の資源価格の上昇が予測される中で、コストを節約し競争力を高める • ステークホルダーに対して企業の信頼と評判を築く |
もちろん、SBTはステークホルダーへの対外的な評価をもらえるという側面もありますが、ビジネスを脱炭素型に移行させていくことを後押しするという面でも効果的でしょう。
日本でのSBT取り組み状況
2015年、当初8社しかなかった認定企業は年々増加し続けており、SBTイニシアチブによれば、2023年3月1日時点で、世界で認定を受けている企業は2310社、日本で認定を受けている企業は369社となります。これらの企業は環境省から企業名とその目標が公開されています。
▼SBTの参加表明もしくは認定を受けている企業数
(2023年3月1日時点)
世界 | 日本 | |
SBTへの参加を表明している企業数 |
2,304社 | 69社 |
SBTの認定を受けている企業数 | 2,310社 | 369社 |
(出典:環境省よりアミタ作成)
最後に
科学的な根拠に基づいた目標設定は、投資家などのステークホルダーの関心を高めるためにも重要です。削減目標を設定することで自社の取り組みを推進する大きなきっかけにもなることが考えられます。SBT認定の取得を目指すことは、自社のカーボンニュートラルに向けた取り組みを加速させるでしょう。
関連情報
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執筆者情報(執筆時点)
梅木 菜々子
アミタ株式会社
社会デザイングループ 共創デザインチーム