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インタビュー

IIRC統合報告フレームワークパネルメンバー 森 洋一 氏情報開示における大きな2つの方向性とは?【後編】

本日は、企業が持続的に成長していくためにどのような情報開示をするべきかについて、国際統合報告評議会(IIRC)統合報告フレームワークパネルのメンバーである、公認会計士の森洋一氏にお話をうかがいました。このインタビューは7/16放送の「未来開拓者ラヂオ」をもとにしています。

※写真:未来開拓者ラヂオより
(アミタHD蝦名(左)、アミタHD岩藤(中)、森氏(右))

情報開示における大きな2つの方向性とは? 【前編】 【後編

企業は何に注意して情報開示をすれば、よりステークホルダーからの支持が得られますか?

mr.mori_003.jpg森氏:統合報告に限らず情報開示はコミュニケーション手段の1つですから、読み手のニーズを捉えて開示することが大切です。相手に何かを伝え、理解してもらい、それにより何か行動が変わって行くことを目的に、開示をするわけですね。逆に相手に伝わらなければ理解にも行動変化にもつながらないため、その開示は目的を果たしていないわけです。

蝦名:ステーホルダーごとに違いはあると思いますが、読み手にとって有用な情報か否かのポイントはどこでしょうか?

森氏:企業と投資家の関係なら、投資家は企業価値を評価して投資の判断をするために報告書を読みます。企業側も、企業価値評価やファイナンス理論などを理解したうえで、投資家の行動や情報ニーズを踏まえて戦略的に情報開示を行うことは非常に重要です。

また、リクルート活動を意識して学生等も読者として想定する企業もあると思いますが、このような場合、これからこの企業に入りたいと思う人たち、あるいはどこの企業に入ろうかと考えている人たちの関心に沿った情報を考えて、伝える必要があります。

どのような読み手を想定するかは個々の企業判断ですが、投資家、顧客、従業員、NGOなど、ステークホルダーによって情報ニーズは異なります。情報ニーズの共通点を見出すことも必要ですが、一つの情報媒体で皆のニーズを満たすことは現実的でなく、想定利用者層のターゲットを絞って情報開示を行うことが重要だと思います。

日本企業と海外企業を比べて特徴や違い・長短などはありますか?

mr.mori_004.jpg森氏:日本は統合報告がとても速いスピードで広がっている国の一つです。IIRCの中でも、南アフリカ、イギリス、オランダなどと並んで統合報告先進国の一つと認識されています。日本で自己表明型の統合報告書は205社開示されているという報告もあります。私自身の実感としても、それくらいの数の会社が取り組んでいると考えて良いと思います。

その一方で、IIRC関係者や海外投資家とディスカッションをしていて痛感する点ですが、日本のレポートに質の高いものは少ないという評価があるのも事実です。正直に申し上げて、国際的に見て先進事例として紹介されるケースは非常に少ない。海外関係者が日本企業のレポートを読んだことが無いのではなく、読んだ上での結果です。
では先進事例とはどういったものか? 海外の先進事例には、以下の特徴があります。これらは日本企業の実務の弱点でもあります。

  • CEOや取締役会議長のコメントに説得力がある
  • 外部環境や経営資源からビジネスモデル、戦略、実績といった情報がロジカルに組み立てられている
  • 実績についての分析・評価が具体的でエビデンス(客観的証拠)に裏付けられており、納得性が高い
  • 財務戦略と経営戦略が結びついている。特に、戦略の中で、経営資源の配分について全体像が示されている
  • KPI(重要指標)を含めて、数字が多い

森氏:もう1つのポイントは、相手との対話・エンゲージメントを前提とした報告かどうかです。彼らのニーズを満たす報告でなければ対話は生まれてきません。たとえば、海外の投資家はコミットメントを非常に強く求めてきます。それを前提として、投資家側が企業と対話を行えるようになり、その後も改善に向けた対話が継続していきます。

私たちはこういう状態です、こういったことをやりたいです、といった企業側の一方的な開示では、信頼は得られませんよね。海外の投資家はその点にはとても厳しいです。対話のためには、真摯に現状に向き合い、将来に向けた方向をしっかりと示していくことが必要だと思います。

そして、投資家と直接対話する機会を設けることです。こちらの報告、コミットメントに対するフィードバックを得て、それを経営に活かして行くことです。報告・対話・経営改善というサイクルを回していくことが重要で、それらを通じて、ステークホルダーの信頼を得ることが出来ます。

蝦名:相手あってこその対話ですので、相手の行動に結び付くコミュニケーション・情報開示が必要ですね。

岩藤:最後に森さん自身は、お仕事を通じてどんな未来を作っていきたいですか?

森氏:「インクルーシブな社会・未来」というビジョンをよく意識しています。インクルーシブというのは、多様な人々を受容し、巻き込んだ状態を表す言葉として、欧州ではダイバーシティとセットでよく使われます。
多様な組織、人々を巻き込みつつ、共に手を取り合って未来の価値を創っていく。違いはあるのだけど、その差異を受け入れ、共通点を見出し、現実的な解を導き出して行く。
グローバル化が進み、日本でも格差が広がることは避けられません。企業、非営利組織、政府等がステークホルダーとともに、インクルーシブな形で「創造」していける、そういう社会に向かって行きたいと思いますね。

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プロフィール

mr.mori_profile.bmp森 洋一 (もり よういち) 氏
公認会計士
国際統合報告評議会(IIRC)統合報告フレームワークパネル(<IR>Framework Panel)メンバー

一橋大学経済学部卒業後、監査法人にて会計監査、内部統制、サステナビリティ関連の調査研究・アドバイザリー業務を経験。2007年に独立後、政策支援、個別プロジェクト開発への参加、企業情報開示に関する助言業務に従事。日本公認会計士協会非常勤研究員として、非財務情報開示を中心とした調査研究を行うとともに、国際枠組み議論に参加。

インタビュアー

ebina-001.jpg蝦名 裕一郎(えびな ゆういちろう)
アミタホールディングス株式会社
経営戦略グループ マーケティングチーム タスクリーダー

入社後人事を経て、本社環境部に対する環境教育活動のプロデュース、省庁自治体向けの地域活性化支援などを担当。ソーシャルビジネス関連の調査企画を経て、CSRコンサルティング業務や環境省「活かそう資源プロジェクト」の立上げなどに携る。その後自社の広報・Webマーケティングを中心に担当。現在はCSRJAPANを始めとする事業会社のWebサイト開発・運営などを担当している。

iwado_001.jpg岩藤 杏奈(いわどう あんな)
アミタホールディングス株式会社 
経営戦略グループ 共感資本チーム

岡山県出身。神戸大学卒業後、アミタ入社。学生時代、カンボジアでのボランティア活動を通してエネルギー循環型社会の大切さに気付く。入社後はテレマーケティングやメール・郵送DMなどの非対面営業部門にてアミタの各種サービスの提供、セミナー企画等を担当。2016年からは広報・IRを担当する共感資本チームに配属。同社の「未来開拓者ラヂオ」にてパーソナリティを務める。

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