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ISO14001規格改定と順守義務(後編) 初心者向けリレーコラム

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前編では、ISO14001の規格改定のポイントを整理するとともに、次期ISO14001では特に「順守義務」に注目したいと述べてきました。

今回はその「順守義務」についてさらに踏み込んで解説を行います。

「順守義務」重視のISO14001

さて順守義務がなぜ注目かと言えば、やたらこの用語がドラフト版であるDIS(Draft International Standard)の中に登場してくるのです。数えてみると少なくとも13か所で規格要求事項となっています。次期ISO14001は非常に「順守義務を重視している」ということになります。

【順守義務というワードが使われている部分】
  • (ア) 環境方針(5.2)... 「環境方針に①順守義務に適合することへのコミットメントを含む」
  • (イ) 順守義務の決定(6.1.3)...「 組織の環境側面に関する②順守義務を特定し、参照する」及び「③順守義務に関する文書化した情報を維持しなければならない」
  • (ウ) 取組みの計画(6.1.4)...「④順守義務に対する取組みを計画しなければならない」
  • (エ) 環境目標(6.2.1)...「⑤順守義務を考慮に入れて環境目標を確立しなければならない」
  • (オ) 認識(7.3)...「組織の管理下で働く人々は、⑥順守義務を含む環境マネジメントシステムの要求事項に適合しないことの意味について認識を持たなければならない」
  • (カ) 外部コミュニケーション(7.4.3)...「⑦順守義務による要求事項に従って外部コミュニケーションを行わなければならない」
  • (キ) 監視、測定、分析及び評価 一般(9.1.1)...「組織は、⑧順守義務に関連する必要とされる監視及び測定の対象の決定しなければならない」
  • (ク) 順守評価(9.1.2)...「⑨順守義務への適合を評価するためのプロセスを計画し,実施しなければならない」、「⑩順守義務への適合状況に関する知識及び理解を維持する」及び「⑪順守評価の結果の証拠として,文書化した情報を保持しなければならない」
  • (ケ) マネジメントレビュー(9.3.1)...「⑫順守義務の変化を考慮しなければならない」「⑬順守義務への適合に関する情報を考慮しなければならない」

ご覧の通り、順守義務に関わる要求事項の多くは2004年版にも既に含まれていたもの、又は(恐らく)"順守義務"を強調したいという意図でワードが追加されたものが多く、実質的な追加要求事項ではありません。 しかし"追加"も少なからずあります。

例えば、(カ) 外部コミュニケーションの「⑦順守義務による要求事項に従って外部コミュニケーションを行わなければならない」や(ク)順守評価の「⑩順守義務への適合状況に関する知識及び理解を維持する」については、新しい考え方と言っていいと思います。

順守義務に関する追加要求事項(1)外部コミュニケーションと順守義務

まず外部コミュニケーションと順守義務についてです。外部コミュニケーションとは情報の外部発信、情報公開・開示のことです。外部コミュニケーションに関連する順守義務として、例えば廃棄物処理法の「管理票交付等状況報告」や水質汚濁法の「事故時の行政報告」あるいは省エネ法の「定期報告」がこれに当たるでしょう。2004年版では、これらは法的要求事項を登録して管理・運用してきました。そのため「何もわざわざ外部コミュニケーションの中で言わなくても」と思われる方がいるかもしれません。

しかし事故時や緊急事態の発生時に伴う外部コミュニケーションでは、コミュニケーション実行者は必ずしも当該現場の要員やISO事務局ではなく、本社の広報担当者や、場合によっては経営者が行うことが多いのではないでしょうか。このようなコミュニケーションを"リスクコミュニケーション"と言いますが、一度対応を誤まれば、深刻な事態に発展しかねません。わざわざ入れておくことで、法律を管理する人と報告する人が別々でもきちんとコミュニケート機能が発揮できるという効果が期待できるのではないでしょうか。

順守義務に関する追加要求事項(2)順守評価と順守義務

次に順守評価の中で新たに要求されている「⑩順守義務への適合状況に関する知識及び理解を維持する」についてです。順守評価は、自部門が客観的事実に基づいて順守義務が果たされているかどうかを、自ら確認することです。近しい用語に「順法監査」というのがあります。これは独立した内部監査人が、順守評価を含む法令順守体制が有効に機能しているかを確認することです。似ていますが一言で言えば評価者が異なるわけです。

これまでは環境法に関連する業務を、当該部門の部門長等が評価する、又は環境法に詳しい事務局が評価するというケースが多かったのではないでしょうか? 今度の要求事項では順守義務への適合状況を評価する要員に環境法や関連する設備能力等の知識の付与が必要だと読めます。場合によっては、力量基準の一つに法律の知識が入ってもいいのかもしれません。何れにせよ誰が評価者でも構わないわけではないのです。 順守評価者の力量担保、又は認識を高めるために以下のような手段を考えてみました。

  1. 特定分野毎の順守評価者の社内資格制度(力量基準)
  2. 社外の検定の利用(エコ検定、廃棄物管理検定、...)
  3. 外部研修の参加
  4. 外部データベースの活用
  5. 社内外の専門家を加えた順守評価の実施
  6. 配置転換、専門要員雇用...など

コンプライアンス強化が叫ばれるなか、企業の順守義務への信頼性確保の取組みは一層重要度を増してきています。規格改定の有無とは関係なく、評価者の認識や力量を向上はこれまで以上に求められていくのではないでしょうか。

執筆者プロフィール
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中川 優 (なかがわ まさる)
一般社団法人日本能率協会 ISO研修事業部 部長

EMS主任審査員(A11527)、全能連認定マネジメント・インストラクター、EMS登録主任講師(専門領域:環境経営、ISO14001、CSR、環境法規制)。著書に「ISO14001本審査問答集」(共著・JMAM刊)、「非製造業のISO14001入門」(共著・JMAM刊)「月刊ISOマネジメント誌 <連載 経営者のための使えるISO14001>」連載(日刊工業新聞社)CSR実践ガイド(JMA刊)、「JMAマネジメントレビュー」など。その他、執筆・講演・講義多数。

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