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自社の強みを見つけるSECIモデルとは?(第7回)

本コラムでは「移行戦略」をキーワードに循環型ビジネスを行う企業になるための実践のポイントを紹介しています。
今回は「攻めのESG」戦略を検討するために有効な考え方として「SECIモデル」を解説いたします。

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SECIモデルとは?

SECIモデルは、一橋大学名誉教授、野中郁次郎が提唱した「個人が持つ知識、技術、経験などの暗黙知を組織で管理し、共有するために形式知に変換し、それらを組み合わせることで新しい知識を生み出す」フレームワークのことです。野中教授は日本の高度成長を支えた製造業の現場の研究に基づいて、暗黙知を基盤とする日本企業の強みを理論化しました。
後述しますが、この暗黙知を形式知に変換することが、攻めのESGを行うにおいても非常に重要な要素となります。
SECIモデルでは、組織の中で新しい知識が生まれることを以下の4つのプロセスで説明しています。

 ①共同化プロセス
  共同化では、言語化されていない暗黙知を体験や経験を通して他人に移転させます。
  例)弟子が師匠の仕事を見て職人技を学ぶ。

 ②表出化プロセス
  表出化では暗黙知を言語化し、形式知に変換します。
  例)業務のノウハウをマニュアル化し、誰が見ても理解できるようにする。

 ③連結化プロセス
  結合化では、変換した形式知を集めて組み合わせることによって、新たな知識やアイデアを生み
  出します。
  例)マニュアルから得たノウハウを業務に取り入れ、必要に応じてアレンジする。

  形式知の組み合わせ次第で、新しいビジネスを創出することにつながります。

 ④内面化プロセス
  内面化では新しく得た知識を反復練習によって頭や体に叩き込みます。
  例)繰り返し同じ業務を行うことでマニュアルを見なくても遂行できるようになり、さらに工夫
  をこらせるようになる。

  この段階で、企業が有する形式知は個人の暗黙知へと変化していきます。

自社の強みを形式知へ、 “SECIモデルの活用”

「攻めのESG」戦略を検討し、サステナブルで循環型の企業に移行するには、企業としての「価値(ミッション)」は変えずにビジネスモデルを変えるという視点が重要であるということは、これまでの記事で述べてきました。
柔軟に変化するためには、変わるもの(事業)と変わらないもの(理念や強み)をそれぞれ意識する必要があります。
本田技研工業の発展に貢献し名参謀と言われた藤沢武夫氏は、経営を布に例えて「布を織るとき、タテ糸は動かずずっと通っている。(略)タテ糸がまっすぐ通っていて、はじめてヨコ糸は自由自在に動く。一本の太い筋が通っていて、しかも状況に応じて自在に動ける、これが『経営』であると思う」(『経営に終わりはない』藤沢武夫著より抜粋)と述べています。

▼新規ビジネスを計画するために必要な要素(アミタ株式会社作成)

未来の社会像の共通イメージ自社の強みの明確化自社が未来において、提供したい価値と顧客像新市場の策定


しかし、多くの企業では、組織としてのあり方や、普段の仕事のやり方が、従業員の中で当たり前になっており(暗黙知)、自社の強みを自覚することが難しいのです。
例えば”優れた技術で特許を取っている”という類の強みなら分かりやすいのですが、強みが抽象的なものであったり、複数のバリューチェーンにまたがって存在していたりするような強み(≒ケイパビリティ)は、社外にとっても社内にとっても分かりにくいものです。自社の強みを言語化し、暗黙知から形式知に変換するプロセスで、活用できるのがSECIモデルです。

▼SECIモデルを通じ、自社の強みを理解するステップ(アミタ株式会社作成)

・共同化:まだ形式知になっていない段階。社風や独自性といったものが社員の中に共通でイメージされている。普段の仕事のやり方については、当たり前のことを当たり前にやっているという意識。
・表出化:経営理念やトップメッセージ、または外部からのヒアリング等を通じて、暗黙知としての自社の強みや価値が言葉に置き換えられる。
・連結化:明文化された自社の強みがすでにある形式知(既存の技術や事業)と結びつき、新たな工夫が生まれる。組織の共有財産となる。
・内面化:これまでのプロセスで形式知とされた知識が従業員に内面化され、新しい暗黙知へと変化する。

例として、ある化学製品メーカーのA社にヒアリングしたところ、なかなか自社の強みを見出せないケースがありました。しかし、A社には、製品の使用に必要な技術をユーザーに習得してもらうための施設を所有するというユニークな取り組みがありました。従業員はもちろん、この施設の存在を把握しているのですが「なぜこの施設が存在しているのか」までは理解していませんでした。
そこで「なぜこの施設が存在しているのか」を言語化するべく、ヒアリングを重ねた結果「製品を売るだけではなく、技術も併せて売る」という創業者の想いから作られた施設であるということが分かりました。

つまり、A社には創業以来、モノ売りだけでなく「コト売り」を実践してきたという歴史があったのですが、独自性や強みにつながるような事項だとは誰にも認識されていなかったのです。

時代は変わった、私たちは変われるか

「時代が変わっても経営がブレないようにしたい」というご相談を多く頂きます。その課題解決のための手段の筆頭は、企業理念(ミッション)や長期ビジョンの再確認です。これら には多くの暗黙知が詰まっているはずです。昨今では、パーパス(存在意義)という切り口からのアプローチも広まっていますが、企業理念の重要性は昔も今も変わりません。
SECIモデルのプロセスを回していくための組織作りにはコツがあります。それは「自律的で、多様かつ柔軟な組織体」を組成するということです。例えば新規事業創出を目的とした、部署横断型のチームです。一見無関係に見える情報が集約されるように見えますが、これまでにない組み合わせが生まれることによって暗黙知が形式知になり、形式知が共同化プロセスを踏んで、イノベーションにつながっていくのです。

ただし、同じ会社のメンバー同士では客観的な視点が十分に得られないというケースもあります。部署横断型チームだけでなく、外部からの目線を取り入れることが非常に有効です。例えば、プロジェクトのファシリテーションを社外のコンサルに依頼したり、メンバーや監査役的な役割として社外取締役などをアサインしたりすることが、暗黙知を形式知化し、連結化するプロセスをさらに促進します。

組織は大きくなればなるほど最適化が進んでいくので、変われない組織になっていくのは自然な流れです。しかし、極端な最適化の先にあるのは、成長というより膨張であって、急激な変化に対し脆弱な組織になってしまう恐れがあります。組織の中には暗黙知が存在すること、それは「表出化プロセス」によって形式知に変わりうること、そして形式知が「連結化」することが、組織によって新しい発見になり、変化の起点になるということをぜひ覚えておいていただき、自社のサステナブル経営のために役立ててください。

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執筆者情報

  • なかむら けいいち

    中村 圭一

    アミタ株式会社 社会デザイン事業部

    宮崎県出身。大学では環境教育を学び、セミナーや情報サービスの企画・運営、研修ツールの商品開発、広報・マーケティング、再資源化製品の分析・製造、営業まで、アミタのサービスを上流から下流まで幅広く手がけてきた。現在は、これまでに培った分析力と企画力を生かし、企業の長期ビジョン策定や移行戦略の立案、サーキュラーエコノミーに関するワークショップの設計・運営、AIを活用した「持続可能な競争優位」の仮説構築、AIツール開発等を手掛けている。

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