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脱炭素経営の実現に向けたトランジション・ストラテジーとビジネスモデル手法の解説(第12回)

企業の脱炭素対策に対する要請は年々高まっています。特に近年では従来の環境対応以上にESGの視点で気候変動の財務影響を特定、科学的根拠に基づく中長期的な目標を設定し、目標達成に向けた戦略を具体化し適切に開示する姿勢が求められています。同時に様々なESG指標の台頭による企業の負担増加に関して問題視する声も上がっています。本コラムでは、包括的に脱炭素経営を実現し、企業価値を高めるビジネスモデルを創出するために必要不可欠なトランジションス・トラテジー(移行戦略)の具体的手法を解説します。

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気候変動対策の重要性:日本の対応状況を踏まえた今後の取り組み期待値

2022年11月に開催されたCOP27で、日本は3年連続で不名誉な「化石賞」を受賞しました。今回の主な受賞理由は、日本が石油、ガス、石炭プロジェクトに対する世界最大の公的資金提供国であり、2019年から2021年の間に年平均106億米ドルを拠出しているという点にあります。1.5℃目標の達成は化石燃料への投資を止めることを意味するという国際的な認識にもかかわらず、日本政府は石炭火力発電所にアンモニアを使用するなど、2030年以降の石炭火力の延命を意味するだけの誤った解決法を他国に輸出するために大きな努力を行っていると痛烈に批判されました。これはまさにパリ協定の目標達成に向けた移行戦略の不足に対する指摘と言えるでしょう。

現時点では「化石賞」は日本政府に対する批判ですが、日本企業の取り組み状況はいかがでしょうか。日本企業はSBT 認定、TCFD賛同、CDP気候変動のAリスト認定、RE100参加等、世界でもトップレベルの脱炭素に関するグローバルスタンダードへの対応先進国です。しかしCDPの調査によると、削減目標を公開している798社の日本企業を分析した結果、その削減水準は「2.8℃」であり、G7の中ではカナダの「3.1度」に次いでワースト2であるという報告がされています。つまり、日本企業は情報公開の側面では先進的ですが、内容が伴っていないのです。

欧米各国はEUタクソノミーやアメリカのSEC(米国証券取引委員会)の気候変動対策開示基準の規制強化により企業に対して更なる取り組みを要求しており、国際市場で競争力を発揮し価値を生み出し続けるには、日本企業にもより野心的且つ科学的根拠を満たす目標設定と目標実現に向けた説明責任を果たすことが期待されています。

出典:Missing the Mark: CDP temperature ratings – 2022 analysis

脱炭素経営に向けたトランジション・ストラテジーとは?

本コラムでは、企業におけるビジネス移行戦略(トランジション・ストラテジー)は「守り」と「攻め」の両側面に対し同時にアプローチしていかねばならないという原理原則と、その手法をお伝えしてきました。

GHG排出というテーマにフォーカスした「脱炭素移行戦略」も同様であり、「守り」と「攻め」の2軸で自社のビジネス全体を包括し、社内外のエンゲージメントを得られるような完全性のある戦略を構築、実践することが求められています。本項では、それを分かりやすく表現しており、自社が「脱炭素移行戦略」を検討する際にガイドライン的に参考にできる事例を紹介します。

  • 参考事例1:Race To Zeroによる移行戦略の定義

UNFCCC(国連気候変動枠組条約事務局)が主導する「Race To Zero」は、世界中の企業や自治体、投資家、大学などの非政府アクターに、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すことを促し、その達成に向けた行動を迅速に起こすことを呼びかける国際指標です。2022年11月現在、参加企業は8,000社を超え、約600社の金融機関、1125都市、65の医療機関等が参加する巨大な国際キャンペーンであり、国連が主導する多くのイニシアチブを傘下に抱えるため、ルール化に対する影響力が高いことが注目を集めています。
その指標の中で、移行計画について以下のような記述があります。

移行計画で特定すべき情報
・内部(エリア内またはバリューチェーン内)および外部の両方において、計画された GHG 削減・除去の量と性質
・計画の各要素の決定と実施に関する責任の所在等を含むアクションに対するガバナンス上の取り決め
・活動がどのように資金を調達しているか
・提案された行動が従来型のビジネス(Business as Usual)とどのように異なるか、また、いつ、どのように計画を更新する予定か
計画の主要原則
・基礎情報:実現可能性を含む野心と戦略
・プロセス:排出量削減のためにどのような行動をとり、どのように意思決定を行うか
・対策方針:石炭対策、森林減少対策などのセクター別対策、およびロビー活動やエンゲージメント計画
・指標と目標:進捗の測定とモニタリングのための明確なスケジュール・計画
・アカウンタビリティ(説明責任):明確なガバナンス体制、情報開示、業績へのインセンティブなど
・エンゲージメント:顧客、相手方当事者、同業他社、政策立案者、規制当局、業界団体、消費者等に対するエンゲージメントが目的と整合することを示す

出典:Race to Zero 解釈ガイドより一部抜粋

Race to Zeroは従来の指標に加え、参加団体に対して上記を含む透明性のある中長期移行計画の開示を求めており、計画は最終的に気候変動対策に特化するのではなく事業の戦略モデルの中核に組み込まれるべきであると提唱しています。

  • 参考事例2:World Benchmark AllianceによるJust Transition(公正な移行)指標

持続可能な発展は環境問題のみを重視した対策では成し得ません。Just Transition(公正な移行)は移行戦略において様々な社会的要素を複合的に考慮する重要な概念です。

世界の大手企業のSDGs達成貢献度を評価するWorld Benchmark Alliance(以下、WBA)は「Just Transition」という概念に基づいた評価指標を開発しています。石油・ガス、電気事業、自動車製造、輸送、建設・不動産、重機・電気機器、金属・鉱業等、高排出セクター450社を対象としており、2022年10月時点では本指標で評価された交通系90社のベンチマークが開示されています。

※「Just Transition」という概念は、特定の団体により定義されたものではありませんが、国際労働機関(ILO)、パリ協定の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、COP、欧州連合など、さまざまな分野の政府機関によって国際的に承認されており、いわば共通認識のようになっています。

  • WBAの「公正な移行」において企業に求める要素
  1. 社会対話とステークホルダー・エンゲージメント
  2. 公正な移行計画
  3. グリーンな仕事、適正な仕事の創出と提供またはアクセス支援
  4. 雇用の維持、再教育および/またはスキルアップ
  5. 社会的保護および社会的影響の管理
  6. 政策や規制に関する提言

低炭素経済への移行を公正かつ公平に行うことは、労働者やコミュニティにとって、コストよりも大きな利益をもたらします。うまく管理できれば、移行は「気候変動による膨大な人的・経済的コストを防ぎ、…実質的な新規雇用を創出し、不平等を減らす」ことになります。

出典:WBA 公正な移行評価メソドロジー

トランジションにおける「攻め」とは何をすればいいのか?
~脱炭素移行戦略を具体化する循環型ビジネスモデルの創出~

上記の指標・評価軸の中には「守り」と「攻め」それぞれに関する項目が設定されています。「守り」に実際に取り組むことは比較的容易ですが「攻め」に取り組むにはどうしたらよいのでしょうか。

脱炭素社会へのトランジションは既存のビジネスを変革します。その変革に取り残されることなく、むしろ機を捉えて、価値を創出し続けるビジネスモデルを構築することが企業に期待されています。これが「攻め」の側面に該当します。

企業の移行戦略を評価、策定する国際イニシアチブAssessing Low Carbon Transition(以下、ACT)では9つの評価モジュールにおいて新たなビジネスモデルの創出を含めて企業の移行戦略を評価しています。

ACT initiativeの情報をアミタ株式会社が翻訳

ACTでは業種別のメソドロジーによりセクターごとに注力すべき新たなビジネスモデルの評価軸を設定し、事業活動の低炭素化を促しています。本項では脱炭素と切り離せないサーキュラーエコノミーと親和性の高い小売業を例に、その評価軸の例を紹介します。

ビジネスモデルの変革というのは大きなテーマであり、何から考えていいか迷うことも多いと思います。以下はその参考となる切り口とお考え下さい。

小売業の低炭素ビジネスモデル変革例

循環型経済および/または低炭素型経済のための製品設計
・毒性低減、純度向上(再利用の観点から)、バイオベース材料、ライフサイクル GHG 負荷低減を含む材料選択
・ライフサイクルでの GHG 影響の低減
・部品の標準化・モジュール化
・分解、修理、再製造のための設計
・ダウンサイクルを最小限に抑えた効率的なリユース・リサイクルのための「タイトサークル」設計
・修理診断、サービスリマインダーなど、ケア、修理、再利用を強化するための新しい製品ソフトウェアの開発
・製品の寿命を向上させるためのソフトウェアの更新
・長寿命と耐久性のための設計
・レジリエンスのための設計:多目的、多機能、モジュール設計
循環型経済とGHG負荷低減消費モデル
・消費者と提供者がWin-Winの関係を構築する、サービスベースの非所有消費モデル
・「非マテリアル化」されたデジタル製品の消費
・製品使用後に製品を返却するための金銭的インセンティブの開発(デポジット、リース)
・製品の修理や再製造のためのインセンティブの開発
・修理サービスの提供
・再生・再製造された製品の販売
循環型経済のための「リバースサークル」インフラ構築
・引取・回収インフラの整備
・コスト削減のための適切な規模での修理・再生工場インフラの確立
・メーカー管理型回収スキームの提供
循環型経済のための構造的イネーブラーの開発
・関連する業界標準の開発に貢献
・資金調達へのアクセスを提供
・循環型消費への参加を促進するための消費者の教育
・循環型経済のためのスキル基盤の開発
・代替消費モデルやサービス型消費モデルの適切なマーケティング
・インセンティブを調整するための業界横断的な協働
・長寿命製品の販売を促進するための低コストまたは無料の延長保証の提供

出典:ACT Assessment Retail methodology

安定した利益を生み出し続ける既存のビジネスモデルを変えることには様々な抵抗が予想されますが、社会は大きく変わっており、企業のビジネスモデルだけ変わらないということの方がむしろ不自然です。また、実際のところ消費者も変化しているはずです。多様性の増加、SDGsの浸透、資源枯渇やコロナ禍や国際紛争に起因するサプライチェーンの混乱などを背景に、消費者の志向は社会全体がより持続可能になる生活習慣を求める傾向に変化しています。

公正な移行を実現し、脱炭素に寄与する新たなビジネスモデルを創出することが中長期的な企業成長を促し脱炭素社会で価値を発揮し続ける鍵となります。改めて自社のESG対応を見直し、本質的な脱炭素対応を実現する社内体制を構築しましょう。

関連情報

執筆者情報

  • すずき かおり

    鈴木 香織

    アミタ株式会社 役員付

    2015年アミタ株式会社に入社。サーキュラースキーム構築、脱炭素戦略、BPO支援等、クライアント企業の持続可能性向上支援を担当。

  • なかむら けいいち

    中村 圭一

    アミタ株式会社 社会デザイン事業部

    宮崎県出身。大学では環境教育を学び、セミナーや情報サービスの企画・運営、研修ツールの商品開発、広報・マーケティング、再資源化製品の分析・製造、営業まで、アミタのサービスを上流から下流まで幅広く手がけてきた。現在は、これまでに培った分析力と企画力を生かし、企業の長期ビジョン策定や移行戦略の立案、サーキュラーエコノミーに関するワークショップの設計・運営、AIを活用した「持続可能な競争優位」の仮説構築、AIツール開発等を手掛けている。

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