伊藤忠|CSR推進担当者に求められるスキルとは?【後編】 | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

環境戦略・お役立ちサイト おしえて!アミタさん
「おしえて!アミタさん」は、未来のサステナビリティ経営・まちづくりに役立つ情報ポータルサイトです。
CSR・環境戦略の情報を情報をお届け!
  • トップページ
  • CSR・環境戦略 Q&A
  • セミナー
  • コラム
  • 担当者の声

インタビュー

伊藤忠株式会社 広報部CSR・地球環境室 小野 氏伊藤忠|CSR推進担当者に求められるスキルとは?【後編】

グローバルコンパクト・ネットワークジャパン(GC-NJ)でもご活躍の伊藤忠株式会社、広報部CSR・地球環境室の小野氏のインタビュー後半。前半部分では異動前、異動直後の話でしたが、着任後のCSRの取り組み、今後の展開についてお話しを頂きました。お楽しみに。(CSRJAPAN編集長=猪又陽一)

【前編】はこちら

積極的に行動することで社内外へのCSR浸透を図っていった

itochu2-003.jpg猪又:伊藤忠に勤めている社員は創業者である伊藤忠兵衛の「三方よし」のマインドは持っているのでしょうか?

小野氏:企業理念よりも「三方よし」の方がしっくりきている社員は多かったと思います。私自身がCSRに異動する前はそう思っていましたし、やはり「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」というのが企業文化として根付いているということでしょうね。当然、ビジネス上でのWin-Winを実施するのは当然でしょうが、そこにもう一つ加わってトリプルウィンになるということですよね。2014年にコーポレートメッセージ「ひとりの商人、無数の使命」が出来て、この「三方よし」と「企業理念」がすっきりと繋がりました。

猪又:社員意識にCSRが根付いていれば社内浸透などで困ることはないのでは?

小野氏:先ほどお伝えしましたが、初期の頃はトップダウンでかなりしっかりとやってきたのです。ただし、2012年に私がCSR部署に異動したときには、当初のようにCSR啓発ビデオを配布したり、有識者を集めたステークホルダーダイアログは止めてしまっていました。恐らく、一定の浸透が図れたということだっだと思いますが・・・。今まではトップダウンでしたが、私が着任してからはできるだけボトムアップで行動し始めようと思いました。とにかく、私がいる部署が社員の注目を浴びないと、CSRが伝わっていかないと思っていました。私たちの部署には、環境だけではなく社会貢献もあったので、1年目にキッザニアという子供向けの職業経験ができるテーマパークに「エコショップ」パビリオンをオープンして社員無料デーを設定したり、伊藤忠青山アートスクエアというギャラリー兼CSR拠点を立ち上げて展覧会を実施し著名人に来館して頂いたりして「CSRの連中が何か面白いことやっているぞ。」というイメージになるよう積極的に社内発信いたしました。

また、部内には社内報を作成している組織もありますので、社内広報が実施しやすかったことも運が良かったですね。さらに、新しいCSRの動きがあるごとに社外に向けてプレスリリースを発表したり、社内CSRイベントに記者を呼んで記事にして頂いたりしました。一部ちょっとやりすぎた部分もありましたが(笑)。結果として、社員には「何かCSRが盛り上がっているぞ」という印象にもなったと思いますし、他部署に何かを依頼しても「CSRがそう言うなら」と協力をして頂けるようになりました。

画像コメント:CSRの社内浸透を図るには、まず自分達が社内で注目されるように行動することが大切と語る小野氏

CSRについてのe-learning受講率を100%まで高める

itochu2-001.jpg小野氏:また、毎年実施している活動として、毎年9月末発行の社内報をCSR特集号にしてもらい、皆が読む社内報を活用した社内浸透を図っています。昨年はサプライチェーンの勉強を社員にしてもらいました。例えば、弊社のCSR担当役員と課長クラスを集めてCSR座談会を開いたりして、割と身近な人から身近なビジネスを通じてCSRについて語ってもらい、それを社内報に掲載することで社員に関心を持ってもらう仕掛けを作っています。また、社内報の発行に合わせてe-learning形式で10問程度ですが、社員全員にCSRについて小テストを受けてもらっています。そうすると否応なく社内報を読むことにもなりますので、ちょっと問題を難しめに設定して、CSRを業務で実践していただくために活用してもらっています。最初、私が着任したときには必須と言っていたのにもかかわらず、受講率は85%だったのですが、昨年は全世界の約7,000人の従業員に実施しまして、国内が100%、海外をいれても約99%ぐらいまで受講率が上がってきました。

猪又:そういう意味では社内浸透も出来つつあるのでしょうね。他に課題とかありますか?

小野氏:数字的には浸透しても、現場にいる人には実際にビジネスなり、自分の利益があり、自分の仕事が一番だと思いますので、CSRの優先順位は今だに低いのではないかと自己評価しております。だから、言われたから仕方なくやっているというのが実態なのではないでしょうか。理想を言えば、CSRは大事だねといって日々実践してくれるのがいいのでしょうけれど。ただ、自分が逆の立場だったときには、そこまでCSRを意識していたわけではなかったので、時間をかけてやっていくしかないでしょう。(笑)

猪又:でも、小野さんが部署に着任してからの行動力は他社の担当者も参考になりますよね。

小野氏:もともと自分の仕事のやり方として、色々な人と繋がっていくことで、結果として自分が高められていくと感じています。人がやらない仕事も進んでやってみると、なんかいいことあるかなって思うようにしてます。異動直後でしたが、GC-NJの人権分科会(当時)も共同幹事を引き受ける人がおらず、部下からは「幹事は大変なのでやめてください。」と言われてましたが、結局引き受けてしまいました。人権の「じ」の字も知らない時期だったのに。(笑)

猪又:社内外の行動力が繋がっている感じですね。小野さんの行動力の範囲が広がれば、それが最終的に貴社の活動に広がりを生むのでしょうね。でも、私の偏見かもしれませんが、商社のイメージは利益追求ということで、現場のCSR浸透は大変なのではないでしょうか?

小野氏:確かに、商社はバリューチェーン上で考えてみれば川上から川下までやっていますし、商品も幅広いですし、エリアでいえば国内から海外までですし、要はCSRのリスクだらけなんですよね。だから、実際にCSRをしっかりとやらないと困るのは最終的には営業なんですよね。とにかくそれを言い続けるしかないんです。特に、海外駐在前の社員にはリスク研修を実施して強化していますね。海外はリスクがとても多いので。もし仮に問題に出喰わしてしまった場合には、すぐに相談してくれと言っています。

画像コメント:海外を含む7,000人の社員にも毎年1回e-learningでCSR浸透を図る。

伊藤忠のマテリアリティは「1.気候変動、2.持続可能な資源の利用、3.人権の尊重・配慮、4.地域社会への貢献」が重点課題

itochu2-004.jpg猪又:最後に、貴社の課題について教えてください。

小野氏:マテリアリティの浸透ですね。弊社のマテリアリティはe-learingと同時に実施する、世界中の社員を対象にしたCSR意識調査の結果を出発点としています。つまり社員の声からキーワードを抽出していき、外部の有識者にも意見を聞いて社内のCSR委員会で決めていきました。最初から多くの課題を設定すると大変なので、まずは広く捉えて設定をしました。将来的にはもう少しきめ細かく、詳細まで考えていく必要があるとは思いますが、マテリアリティを設定してまだ2年経過したところなので、あと1~2年は4つの課題を社員意識にも落とし込むことに集中する必要があると思っています。恐らく、うちの社員にマテリアリティを4つ答えさせても、まだ言えない社員がほとんどだと思います。

ただ、「三方よし」だったらほとんどの社員は答えることができると思いますね。社員への定着が図れないうちに、マテリアリティを増やして意味がありませんので、そこは社員の意識を高めて、その機会が熟したら課題を修正していこうと思っています。

画像コメント:マテリアリティの社内浸透にはまだまだ時間がかかる

オールジャパンでメイドインジャパンのCSRをアピールすることが将来の夢

itochu2-002.jpg小野氏:また、グローバルコンパクトで色々な企業の方々と話して感じることとして、日本企業のCSRのレベルは決して低くないということがあります。ただし、グローバルレベルでみれば、日本企業でCSRが凄いと言われている企業は少ない状況です。ここをなんとかしたいなっという気持ちを思っています。ただ、なんとかしたいと思っていてもどうやるかが難しいんですが、日本企業が連携してCSRの優れた取組みを、世界中へ伝えていく機会をもっと増やせないかと思っています。その意味ではグローバルコンパクトは最適の場ではないかと思っています。

猪又:確かにそうですね。2003年がCSR元年と言われていますが、今まではどうしても西洋キャッチアップ型できていますが、さすがに10年たって企業も変わっていない気がします。

小野氏:みんな当たり前だと思ってやっていることを日本全体としてアピールしたら、日本ってすごいな、サスティナブルだなってイメージを世界中に与えることができると思うんですよね。たまたま、環境ビジネスをやっていたときも同じジレンマを感じたことがあったのです。日本の環境技術ってすごいモノがあったのですが、アピールで負けて、結果として太陽光などの世界的なポジションがどんどん落ちてしまったのです。日本企業だけで単独でやると限界があるのですが、海外の企業と一緒にプロジェクトを連携しながらやっていくと日本の企業ってすごいなと自分も相手も気づかせてくれるのです。だから、もうちょっと外に開かれた活動を実施していけるといいですね。

猪又:日本全体として、CSRも企業枠を超えてメイドインジャパンとしてやるのは面白いかもしれませんね。それができるのは貴社のような取りまとめ企業が必要だと思います。日頃お会いしているので、改めてこういった機会でお聞きすると恥ずかしいですね(笑)今日は長時間に渡ってありがとうございました。色々と私も勉強になりました。今後ともよろしくお願いします。

インタビュアー

inomata_profile.jpg猪又 陽一 (いのまた よういち)
アミタ株式会社
CSRJAPAN編集長 兼 CSRプロデューサー

早稲田大学理工学部卒業後、大手通信教育会社に入社。教材編集やダイレクトマーケティングを経験後、外資系ネット企業やベンチャーキャピタルを経て大手人材紹介会社で新規事業を軌道に乗せた後、アミタに合流。環境・CSR分野における仕事・雇用・教育に関する研究。環境省「優良さんぱいナビ」、企業ウェブ・グランプリ受賞サイト「おしえて!アミタさん」、「CSR JAPAN」等をプロデュース。現在、企業や大学、NPO・NGOなどで講演、研修、コンサルティングなど多数実践中。

貴社の環境戦略をともに持続可能なものへ!
アミタの支援サービス「The Sustainable Stage (TSS)」

vision1.png




アミタの支援サービス「The Sustainable Stage」では、廃棄物管理を始め、脱炭素にかかる施策(CDP質問書への回答、SBT、RE100への取組み・実践体制の構築、支援など)、SDGs、生物多様性、バイオマス発電など企業の持続可能性を環境面から支えるための支援を行っています。

このページの上部へ