インタビュー
「廃棄物は大きな可能性を秘めている」- インドネシア環境省B3管理規制局・Erin氏に聞く
インドネシアでB3廃棄物の管理を担うのは、環境省のB3管理規制局(Kementerian Lingkungan Hidup Dan Kehutanan, B3 Utilisation)。国家の環境政策を支える重要な役割を果たしています。今回は、その最前線で働くErin氏に、B3廃棄物管理の現状や課題、そして未来への展望について伺いました。
インドネシア B3管理規制局の役割
アミタ:本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、Erinさんの現在のお仕事について教えてください。
Erin氏:こちらこそありがとうございます。私は日本で環境分野の学位を取得し、現在(2025年7月末退職)はB3管理規制局で局長の補佐をしています。具体的には、化学や環境の専門知識を活かしながら、各種データの収集や分析を担当しています。
アミタ: B3管理規制局は、どのような役割を担っているのでしょうか?
Erin氏:大きく7つの役割があります。
▼インドネシアB3管理規制局の主な役割
| 1) 政策、規制、ガイドラインの策定と確立 |
具体的には、国家政策と関連技術規制の策定、 B3廃棄物の識別と分類、B3廃棄物の保管、輸送、利用、処理、埋立。 |
| 2) 許可と技術的承認の付与 | 技術的評価を実施し、大規模なB3廃棄物排出事業者に対して環境承認またはB3廃棄物管理許可を発行。 また、OSS-RBAシステムを通じて、B3廃棄物管理の技術的承認、B3廃棄物利用の証明、B3廃棄物輸送・処理許可(県をまたがる場合、または大規模な産業の場合)を実施。 |
| 3) 監督と法執行の実施 | 廃棄物排出事業者によるB3廃棄物管理活動の直接監督。 さらに、違反した排出事業者/管理者に行政、民事、刑事上の制裁を課す。 |
| 4) 廃棄物報告・追跡システムの管理 | 廃棄物排出事業者が使用するSPEED有害廃棄物管理情報システム(SIMPEL)の管理、B3廃棄物の量と種類の報告、廃棄物の輸送と最終目的地の記録、適切な管理の検証。 |
| 5) ガイダンスと社会化の提供 | B3廃棄物の産業/排出者に、規制を理解し正しく実施するための技術的・法的ガイダンスを提供。理解を深めるため、廃棄物の排出者や管理者に技術的なガイドラインやトレーニングも提供。 |
| 6) B3廃棄物の利用と環境にやさしい技術の支援 | 廃棄物排出事業者に、廃棄物の最小化と代替、B3廃棄物の再利用とリサイクルを推奨すると共に、安全で環境に優しい新技術の試験とその認証を支援。 |
| 7) 地方自治体の調整と指導 | B3廃棄物排出者の監督において、州/県/市のDLHの指導と監督を行う。 指導を行うにあたり、地域に基準と技術的ガイドラインを提供する。 |
※DLH:清掃局(Dinas Kebersihan)と環境管理委員会(Badan Pengelolaan Lingkungan Hidup Daerahが統合された、環境局(Dinas Lingkungan Hidup)のこと。
出典:アミタ作成
B3廃棄物の利用を進める理由
アミタ:随分と色々な役割を担っているのですね。規制局と名前からもわかるようにB3廃棄物の管理や規制についての役割は理解できました。ただインドネシア政府はB3廃棄物を有効に"利用"してく方針とも伺っています。B3廃棄物利用を推進する目的についてお聞かせできますでしょうか。
Erin氏:はい。おっしゃる通りインドネシア政府は、持続可能な環境保全管理(環境負荷の低減)を奨励し、国の経済成長に貢献するため、環境省/環境管理庁は、サーキュラーエコノミーの概念を通じて、B3廃棄物および非B3廃棄物を最適に利用するプログラムを実施しています。これは、廃棄物を単なるゴミではなく、資源として再利用する仕組みです。こうすることで、環境負荷を減らしながら、国の経済成長にも貢献できます。さらに、廃棄物の再利用は新たな雇用を生み出す可能性もあります。地域の中小企業がリサイクル事業に参入することで、経済の活性化にもつながるのです。
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アミタ:B3管理規制には、どんなものが含まれるのでしょうか?
Erin氏:インドネシアでは、B3・非B3廃棄物の利用(リユース・リサイクル・回収)の管理を、雇用創出に関する2020年法律第11号の派生法と、環境保護と管理の実施に関する2021年政府規則第22号で定めています。簡単に言うと、B3廃棄物をエネルギー源の代替に使ったり、原材料の代替に回したり、品質基準を満たした原材料として製品に再生したりするためのルールです。同時に、私たちは限りある資源への依存や、環境に負荷を与える新規採掘を抑え"捨てずに循環させる"設計に切り替えることで、資源保護と環境保全の両立を目指しています。
一方で、B3に分類される廃棄物でも、規定に沿って特性試験を行い、要件を満たせば非B3に再分類できるものがあります。代表例としては、次のようなものです。
▼非B3廃棄物の種類と関連産業
| No | B3コード | 廃棄物の種類 | 関連産業 |
| 1 | B409d | 食品・飲料業界の排水処理スラッジ | 食品・飲料 |
| 2 | A109d | 植物油産業の使用済み漂白土 | パーム油産業 |
| 3 | A106d | 石炭燃焼によるフライアッシュ | エネルギー/発電 |
|
4 |
A107d | 石炭燃焼によるボトムアッシュ | エネルギー/発電 |
| 5 | B407 | 石油タンクのスラッジ | 石油・ガス/石油産業 |
| 6 | B110d | 水処理残渣(フィルター残渣等) | 一般産業(ボイラー等) |
| 7 | A345-1 | 集塵機による粉塵(プロセス由来) | セメント、鉄鋼、肥料 |
| 8 | B3.31 | 非B3廃棄物の使用済み容器(プラスチック、鉄等) | 全産業 |
| 9 | B119 | 精製された非反応性の廃油 | 修理工場、一般産業 |
出典:アミタ作成
B3廃棄物の利用における現状と課題
アミタ:現在インドネシアでは、どのくらいB3廃棄物の利用が進んでいるのでしょうか?
Erin氏:インドネシア環境省のSPEED(デジタル報告・評価システム)のデータによると、2024年のB3廃棄物利用は、経済価値に換算すると5.8兆ルピアに達しています。これは、エネルギー源の代替、原材料の代替、原材料としての利用など、B3廃棄物の利用が国の環境経済成長の真の原動力となっていることを示していると考えます。
2025年6月現在、B3廃棄物利用額は4.4兆ルピアに達しており、2025年末までの目標額8.5兆ルピアのうち51.7%を達成しています。中でも、金属スクラップ廃棄物の金属インゴット製造への利用は48%と最も高く、次いでB3廃棄物使用済み漂白土(SBE)の油回収活動(24%)、土木インフラ用のコンクリート製品、レンガ、その他類似製品の製造のための原料代替としてのB3廃棄物の利用(10.8%)(図1)となっています。
▼2025年のインドネシアにおけるB3廃棄物の利用とその割合
さまざまな技術を活用することで、これまでは無価値なものと思われていた廃棄物が、実は経済成長を促しし、雇用を創出し、人々の福祉を向上させる大きな可能性を秘めているということが認識され始めてきています。
アミタ:目標達成に向けて、どのような課題がありますか?
Erin氏:廃棄物の利用の可能性が認識され始めたといっても、まだまだ施設や専門家の不足、事業者のコンプライアンス意識の低さ、地域住民の不安など、多くのの課題があります。財政的なインセンティブが不十分なことも大きな問題といえます。また、地方自治体との連携も必須です。それぞれの課題を具体的に見てみると次のような論点が浮かび上がってきます。
1)インフラと技術の限界:
- 地域社会の抵抗: 健康への影響や汚染に対する懸念から、周辺地域社会の抵抗に直面している。
- 透明性の欠如: 産業界からの情報開示が不十分であり、透明性が欠如している。
- 信頼の喪失: 上記の不安と透明性の欠如が、地域社会からの信頼を損なう要因となっている。
2)事業者のコンプライアンスと意識
- 規制の理解・遵守不足: 規制を理解していない、あるいは遵守していない事業者が多い。
- 不適切な処理の選択: 不法投棄など、安価だが環境にやさしくない方法を選択しがちである。
- 許認可プロセスの認識: 許認可プロセスは複雑で時間がかかると考えられている。
3)社会的受容の問題
- 高いリスクの存在: 適切に行われなければ、有毒物質の排出、土壌汚染、生態系へのダメージなど、高いリスクを伴う。
- 安全確保の要件: 真に安全で有益なものとなるよう、厳格な監督と技術検証が絶対に必要である。
4)経済的インセンティブ
- 産業界がB3廃棄物を代替原料として利用することを奨励する、財政的インセンティブや経済政策の欠如
5)健康・環境リスクの軽減
- 利用に伴うリスク: 適切に行われなければ、有毒物質の排出、土壌汚染、生態系へのダメージなど高いリスクを伴う。
- 監督と検証の必要性: 真に安全で有益なものとなるよう、厳格な監督と技術検証が絶対に必要である。
B3廃棄物の利用に対するインドネシア政府の取り組みと対策
アミタ:このような課題に対し、インドネシア政府はどのような取り組みを実施していますか?
Erin氏:B3廃棄物を利用した循環型経済を実現するには、様々な努力と課題への対処が必要です。
例えば、B3廃棄物管理のための技術承認や、標準運用基準(Standard Level of Operation:SLO)の発行を加速させています。また有害廃棄物報告システムにおいて、非有害廃棄物としての利用価値を報告できる仕組みも設けました。さらに、セミナーや展示会、技術指導、表彰制度などを通じて、事業者や活動現場への循環経済の普及にも力を入れています。インセンティブ政策も実施しており、例えば石炭火力発電所から排出されるFABA(フライアッシュ・ボトムアッシュ)については、一定の基準を満たせば有害廃棄物(B3)の区分から除外するといった措置をとっています。
アミタ:財政面での支援はあるのでしょうか。
Erin氏:はい。財政的・経済的インセンティブとして、以下のような税制優遇措置があります。
- B3廃棄物を含む廃棄物管理への投資に対し、最大30%の純所得税控除
- B3廃棄物処理設備に対する減価償却の加速
- 廃棄物利用に必要な機械設備の輸入にかかる輸入税および付加価値税の免除
- 研究開発や職業訓練に対する特別税額控除
一方で、環境保護・管理に関する罰則も厳格です。基本となるのは「2009年法律第32号(環境保護と管理に関する法律)」ですが、これは「雇用創出に関する2020年法律第11号」によって一部更新されています。環境汚染に対する罰金や行政制裁については、環境法第76条から第82条に規定されており、厳しく取り締まられています。
最後に、インドネシアで事業展開する企業へ期待すること
アミタ:今後インドネシア現地で活躍する企業へ期待することはありますか。
Erin氏:B3廃棄物の適正な管理には、排出業者、輸送業者、最終処理業者の三者連携が欠かせません。
特に東インドネシアなどの地域では、金や石炭の発掘が多い一方で、処理業者が不足しており、不法投棄などの問題が起きています。そこでアミタのような企業が、こうした廃棄物利用の未開拓エリアに進出してくれることを強く期待しています。
今後は、国際的な技術協力や知見の共有も進めていきたいと考えています。環境問題は国境を越える課題ですから、グローバルな視点での取り組みが不可欠です。また、環境省で推進しているPROPERへ、さらに多くの企業に参加していただきたいです。
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インタビュイー・インタビュアー
インドネシアのバンドン工科大学にて化学を専攻し、学士・修士課程を修了。その後、日本の富山大学大学院理工学研究科 (博士課程)で環境科学を専攻。インタビュー当時は、B3廃棄物及び非B3廃棄物管理局にて上級環境影響管理官を務め、現在は退職。
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