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守りのESG戦略 既存のビジネスにESG価値を追加するには?(第2回)

SDGs、ESG、脱炭素経営…次々と現れるトピックの中で、企業がよりサステナブルな経営を実現するための「トランジション・ストラテジー(移行戦略)」が注目されています。本コラムでは「守りと攻め」の両方の視点から、移行戦略の考え方とヒントを解説します。今回は、移行戦略における守りのESGにあたる「既存ビジネスへのESG価値追加(変革)」について解説します。

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「守りと攻めのESG戦略」アミタ作成

「既存のビジネスモデルは変えずにESG価値を追加する方法」とは?

既存のビジネスを持続可能な事業へ変革するために、まず必要なのは、これまでのサプライチェーンを見直すことです。例えば、従来の調達、生産、物流、販売(営業)のサプライチェーンに廃棄の観点を含め、サプライチェーンの各フェーズを見直すことで脱炭素対応を進め、ESG価値を高めることが考えられます。

1.調達方法を変える
国産材を使用した再生可能な素材へ切り替えること、または国内で再生された原材料を使用することで、製造時の廃材についても原材料として再利用することができます。

2.生産方法を変え、エネルギーの見直しを行う
再生可能エネルギーの導入や、燃焼設備・照明設備などを更新し省エネを進めること、また太陽光発電など自家消費型の再エネ電力調達、CO2ゼロ価値を示す電力調達証書の購入などが考えられます。

3.物流を効率化させる
今後、EV車の導入が進む中、トラック輸送における積載効率の見直しや、鉄道・船舶などを利用したモーダルシフト以外にも、大型トレーラーの活用や、IoTを活用した輸送・荷役システムなども検討が進んでいます。また、製品の軽量化によって、運搬を効率化することでCO2の削減にも繋がります。

4.販売方法を変える
これまでBtoBのみに展開されていた商品をECサイトなどで販売したり、サービスをサブスクリプションモデルで提供することで販売対象をBtoCに広げ、新たな市場を開拓することができます。

5.廃棄の観点を含めて使用する
使用後の商品が廃棄される前提から、メンテナンスを強化し修理を行う事や、廃棄時に回収し、分別・分解などを経て部品の再利用や、原材料に戻して再製造することでサーキュラー型のサプライチェーンへの転換が考えられます。

理解はしているが、うまくいかない!? 事業変革のポイントとは?

前段において、既存ビジネスを持続可能な事業に変革するためには、サプライチェーンの各フェーズにおける見直しが必要であると解説しました。しかし、何十年もの改善を経て構築された最適なビジネスモデルや組織体制に対し、変革を起こすことは容易ではありません。
アミタでは、既存ビジネスを持続可能な事業に変革するための検討ポイントとして、ビジネスモデルに関する3つのポイントと、社内風土・組織全体に関する2つのポイントがあると考えています。

ビジネスモデルに関する3つのポイント

まず、ビジネスモデルに関する1つ目のポイントは、”ESG品質の製品を希求する新しい市場を探す”ことです。例えば、原材料の調達において再生可能な素材へ切り替えることは、施策としては有効ですがコストアップになるケースが多いでしょう。このように、サプライチェーンの各フェーズをESG品質に転換することは、その有効性を認識していても、コストアップを懸念し踏み出せない企業は少なくないでしょう。一方、昨今ではZ世代に多く見られるように、たとえコストが上がってもサステナブルな製品購入を重視する層も現れています。つまり、ESG品質の希求による製品のコストアップは必ずしも企業にとって重荷ではありません。ビジネスモデルは変えずともこのようにニーズのマッチする市場へ移行することで、企業のESG価値の向上と財務価値の統合が可能となります。

ビジネスモデルに関する2つ目のポイントは、”個別最適ではなく全体最適の視点で捉える(各部門で考えるのではなく横櫛で捉える)”ことです。さらにこれは、自社領域の拡大による全体最適を追求する”垂直統合型”と、他社連携による全体最適を達成する”エコシステム型”に分けられます。垂直統合は従来から用いられる手法ですが、サステナビリティの視点で捉えると、製造プロセスのトラッキングがし易くなる他、不要な工程を減らすことなどの効果が発揮されます。具体的には、児童労働や人権侵害の防止、GHG排出量の精緻な把握および排出削減施策の検討などが挙げられるでしょう。エコシステム型では、サーキュラーエコノミー化に伴う資源回収の工程を追加することや、共同配送による配送の最適化のように、これまでになかった新しい関係を構築することで、業界全体や自社のエコシステム全体でのESG価値の向上と自社の費用負担削減による収益改善が見込めるでしょう。

ビジネスモデルに関するポイントの3つ目は、”サプライチェーン自体をデジタル化する”ことです。いわゆるDX化です。需給バランスの予測や配送の最適化等に活用できることはもちろんですが、IoT化により事業そのものの幅を広めることも可能です。例えば、よく取り上げられる成功事例に小松製作所の機械稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」があります。コムトラックスでは、IoT化により建機の位置情報や、稼働時間といった車両情報を取得することで、省エネ運転のコンサルを行っており、コマツは製造業からサービス業へと転身を遂げたといえます。

社内風土・組織全体に関する2つのポイント

ここまでは、ターゲットの捉え方やサプライチェーンにおける転換など、ビジネスモデルに関するポイントを解説してきましたが、変革に取り組む社内風土・組織全体に関してさらに2つのポイントがあります。それは、パラダイムの転換と共感の創造です。
パラダイムとは、あるひとつの時代の人々の考え方を根本的に支える概念のことです。ある出来事に対して慣習や定型が定まっている時、私たちはわざわざ未知の選択肢を選ぶことはなく、既存の型を優先します。例えばビジネスの場において、新規の取引先と既存の取引先を比較した場合、新規取引先においては改めて信用調査等を実施せねばならず労力(コスト)がかかります。既存の取引先の場合はこのようなコストが発生しないため比較的容易に取引を開始することが可能です。このように慣れ親しんだ考え(パラダイム)から次のパラダイムへと移行することを容易に行うことは出来ないのです。

以下の図をご覧ください。高度成長期を経験した日本において「不特定多数の人に価値を届ける」「モノが飽和したら次なる市場を探す。または差別化する価値を足して、さらに買ってもらう。」というような慣れ親しんだ考え(パラダイム)に陥っていないでしょうか?しかし、今後の人口動態をみると、そのようなパラダイムは転換すべきかもしれません。人口が減る時代を初めて経験する私達、現役世代は、モノを作れば売れる時代は終わったと考える方が自然でしょう。サービス化においては、特定多数の人とつながり続け、繰り返し使ってもらえることがキーとなります。

「日本の人口ピラミッドの図、世界の図、パラダイムのシフトの必要性」アミタ作成
(出典)国土交通白書2013「我が国人口の長期的な推移」より

本記事ではサプライチェーンの各フェーズでのESG転換が必要であることは述べてきましたが、頭でわかっていても移行を実践する際に発生する人間関係のコストが大きく、移行できないケースも少なくはないのです。このような状態を打破するためには、既存のパラダイムを壊し、新しいパラダイムへと移行しなければなりません。また、サステナビリティの運営には周囲の協力が欠かせませんから周囲のパラダイムも移行させる必要があります。ポイントの2つ目の共感の創造はこの時発揮されます。共感しあえる取引先、消費者であれば取引コスト(トランザクション・コスト)を最低限に抑え、ESG化推進の取り組みを実行することが可能なのです。

次回のコラムは「ビジネスモデル自体を変える」、攻めのESGについて紹介します。

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執筆者情報

  • たべい しんいち

    田部井 進一

    アミタ株式会社 取締役

    アミタグループ合流後、主に企業の環境・サステナビリティ部門に対し、環境ビジョンの策定や市場調査など数多くの支援を行う。
    2020年からは、グループ事業の柱である「社会デザイン事業」の確立に向け、取締役として新規サービスの創出や市場開拓をリード。
    2023年より現職を務め、顧客価値の最大化に取り組んでいる。

  • いそやま しげる

    磯山 茂

    アミタサーキュラー株式会社 循環資源研究所

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