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コラム

第三回 攻めのESG戦略 ビジネスモデルを変えるためには?トランジション・ストラテジー(移行戦略)のすすめ ~循環型ビジネスの実現~

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前回のコラムでは移行戦略における2つの戦略のうち、「①既存のビジネスモデルは変えずにESG価値を追加する方法(守りのESG)」について解説しました。今回は、もうひとつの「②企業としての提供価値は変えずにビジネスモデルを変える方法(攻めのESG)」について解説します。

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目次


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「守りと攻めのESG戦略」アミタ作成

"消費"は過去のもの。顧客と企業が価値を共創する"投資"市場へシフト

昨今の消費者における価値観の変容を表す言葉として「モノ消費からコト消費へ」があり、さらには「モノ・コト消費からイミ消費へ」というものがあります。「モノ消費」とはモノやサービスを獲得するための消費ですが、「コト消費」は製品やサービスから得らえる自らの体験に価値をおく消費です。

さらに「イミ消費」になると「商品・サービスそのものの機能だけではなく、それらに付帯する社会的・文化的な価値に共感して選択する消費」と、一般的には解説されています。
しかし、そこにはもっと端的でドラスティックな変化が生まれていることを見落としてはいけません。
「社会的・文化的な価値に共感して選択する」イミ消費とは、即ち「本質と真実を志向する購買行動」なのです。その背景にはインターネットやSNSの発達により、世界のあらゆる分野の第一人者が長きに渡る探求や経験の中で辿り着いた「本質と真実」の最新情報に、誰もが簡単にアプローチできるようになったという時代変革があります。生まれた時から発達したIT環境が整っていた「Z世代」などは、その象徴的な存在です。幼少時からネット社会の膨大な情報量に触れてきた彼らは、情報における「量質転嫁の法則」を備えた世代といえるでしょう。

ではZ世代の若者は何を求めてイミ消費をするのでしょうか。それは情報として知り得た価値に自らの実体験を重ねることで体現化し、さらに深化や発展をさせて新たな価値を創造することで自己肯定感を達成できるからです。つまり、市場における最も大きな価値観の変化は「価値を獲得するための購買行動(即ち"消費")」から、「価値を創造するための購買行動(即ち"投資")」へのシフトが拡大しつつある、ということなのです。【図-1】

「もはや"消費"者などいない時代」を迎えようとしている現在において、高度経済成長期の「大量生産・大量消費」のビジネスモデルや「もっと良い品質のものをもっと安く求める」といった消費者像からなる市場は失われつつあると言えます。購買者が「投資に資するモノやサービス」を求める"総投資家の市場" に対応するには、柔軟かつドラスティックな自己変革を成し遂げ、新たなビジネスモデルを生み出すことが不可欠です。それを実現し得る企業が生き残り、「次の時代」を担っていくことになるでしょう。

value co-creation.JPG「顧客の購買動機と価値意識の変化を表わす概念図」 アミタ作成

新たな時代の購買志向とは

では「本質と真実」を志向する購買者がどのようなモノを選ぶか、端的な例をひとつ紹介しましょう。
産業革命期に「世界の工場」と呼ばれた英国は高品質な工業製品と共に多くの分野で"英国王室御用達"のブランドを産み出しました。しかし近年ではその多くがアジアの製造拠点で生産されています。品質管理は英国の本社が行うので「良いモノを安く」のビジネスモデルです。ところが素人では分かりにくいレベルのコストダウンの影響もすぐに知れ渡る時世となった昨今では、高価であっても本国での製造を続けるEU圏の他社製品を求める購買層が増え、ブランドの競争力が損なわれつつあります。

そんな中で英国の老舗釣具メーカーのハーディ社は、一部のブランド製品で自社発祥の地である本国のアニック(映画「ハリー・ポッター」のロケ地で有名なアニック城の城下町)での工場生産を復活させました。すると同じブランドで同じ機能のアジア製品の倍以上もの価格差があるにも関わらず、好調な売れ行きとなっています。 このことは、製品というモノを購入しているように見える顧客が、実はモノではなく、モノを介して"物語"という「形も役務もない価値」に対価を支払っていることを表しています。

この場合の"物語"とは、英国発祥の文化であるフライフィッシング(洋式毛鉤釣り)の背景や伝統を知り、その道具を使った釣りの技術や楽しさを知る職人が「顧客の豊かな時間をイメージしつつ製作した」というストーリーです。 こうした物語に裏打ちされた価値がモノを介した「本質と真実」の現れであり、「物語を共有するメーカーとユーザーが、豊かな時間という"価値"を共創する関係性市場」への支持が広がっている事例、と言えるでしょう。ITによる情報化社会では、このように「物語と関係性」を求める購買層が増えていくことは間違いないと思われます。

一方で、「大量生産・大量消費」の市場社会が記憶にある企業経営者からすれば、こうした購買層の変容は、いわば「ファスト市場からスロー市場への回帰」であり、「モノやサービスが(量的に)売れなくなる」という市場縮小のイメージを持たれるかもしれません。しかし、それは大きな間違いです。逆に市場は拡大するのです。例えば「美味しい料理を食べたい」というニーズを対象にした従来型の市場には、高級食材や高級料理といった「モノやサービス」の提供ビジネスがあります。
一方で「本質と真実」を探求する自己投資型の顧客は、究極的には「食材の生産から料理までを自ら最高のレベルで達成」しようとします。その実現には数多のナレッジやスキルを獲得しなければなりませんし、歴史や文化的価値に裏打ちされ、料理の出来栄えを雲泥の差にも変えてしまう「本物の調理道具」も必要です。単なる"モノ消費"とは比較にならないほどの「市場創出の機会」があるということがわかります。企業は、こうした顧客層の潜在的ニーズを捉え、いままでにない顧客を「創造・育成する」ことにより、新たな市場を獲得することができます。そして、その最大のチャンスは「今」なのです。

時代観・生態系史観に合わせて会社が提供する価値を再定義する

コロナ禍によって、少なくとも十数年はかかると思われた「働き方改革」が極めて短期間に進んだ現在、リモートワークやフレックスタイムにより「通勤時間」や「都市生活」への価値観が大きく変わりました。多くの人々が都市部を脱出し、自然環境や伝統文化が豊かな地域での子育てや、部分的な自給自足を取り入れたライフスタイルを求め始めています。

このことは、戦後の日本経済とそのビジネスモデルを支えてきた「大量生産・大量消費」の経済と共に、「大都市集中型」の社会という、二つの大きな土台が覆されようとしていることを表わしています。そもそも歴史を顧みれば、従来型のビジネスモデルを支えてきたこれら二つの土台は、極めて一過性の"突風"のような事象にすぎないことが分かります。

そして僅か半世紀程度の"突風の時代"に、地球環境の持続可能性は大きく損なわれてしまったのです。

環境や社会問題への取り組み、ガバナンスに注目し、短期的ではなく安定的かつ長期的な成長を目指すESGの価値観は、このような時代背景から生まれ、加速しています。つまり、私たちが成すべきは"突風の時代の延命策"などではなく、「新たな永続の時代の構築」であることを理解する必要があります。

従来型のビジネスモデルにESG価値を追加しようとすれば、コストアップにつながるでしょう。旧来のビジネスモデルの土台が根底から覆されようとしている時代に、対症療法的なESG価値の追加や"ESGウォッシュ"でやり過ごせると思うこと自体が誤った判断と言えるでしょう。

そうした誤った判断は、生態系史観からみると巨大な牙をもったサーベル・タイガーの運命に重ねられます。マンモスのような大型動物を倒し、大量の肉を効率的に得ることに特化したサーベル・タイガーは食物連鎖の頂点に立つ存在でした。しかしマンモスが滅んだ後、小型で動きの素早い他の獲物にシフトすることができずに絶滅してしまいました。一方で他の肉食動物は体を小型化させて俊敏性を増し、あるいはチームワークで俊敏な獲物を捕らえる術を獲得し、豊富な餌資源を活用して現代まで生き残ることができたのです。

こうした時代の変革期に企業が生き残るためには、「新たな永続の時代」に向けていち早く事業戦略を見直し、ESG価値を土台とした新たなビジネスモデルを構築することが不可欠になります。それが「攻めのESG」と呼ぶべきものなのです。

「攻めのESG」で新たな顧客を創造するためのポイントは?

「本質と真実」を体現化しようとする自己投資型の購買層からなる市場。そこで企業がビジネスチャンスをつかむためには、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといったESG価値を土台としたうえで、自社が提供する価値とその顧客を創造するビジネスモデルを開拓する必要があります。

ではどのようにして顧客を創造すれば良いのでしょうか。そのポイントとなる要素をいくつか紹介しましょう。

自社の顧客層と、顧客と共創する価値を明確にする

よく「パーバスや理念を実現する」といった言葉で表現されていることですが、要は自社が「どんな顧客層と共に、どんな価値を共創するか」ということです。価値を「提供」するのではなく、「共創」するのです。
「提供」とは文字通り、企業が顧客に対し一方通行で価値をもたらし対価を得るビジネスモデルですが、価値共創のビジネスでは企業と顧客が共に価値を作り、高めていきます。
例えばパソコンという電子機器はメーカーがモノ(Goods)を生産して顧客に売るビジネスが主体でしたが、顧客はパソコンが欲しいのではなく、パソコンを使って情報を集めたり、資料を作ったり、データを保管するなどの活動をしたいわけです。企業は、そうした顧客の目的を果たすために最適化された「価値」を、顧客と共に創っていくのです
そうすると、まずパソコンはモノとして売るよりも、利用に対して課金するモデル(サブスク等)の方が圧倒的に合理的です。

日進月歩の代表格である電子機器類は、常に最新の機種を使える状況の方が顧客にとって「より高い価値」が得られるからです。そして、パソコンの進歩にはユーザーからのフィードバックが欠かせません。どんな進化をしていくべきか、は企業と顧客が共創していく価値観の中から生まれてくるのです。顧客は、企業と共に価値を共創するために、その対価として「投資」をするのです。
ですから企業は「企業と顧客が協働出資する価値づくりの市場」を想定し、自らの立ち位置を明確にする必要があるのです。そこで不可欠になるのが「メーカーとユーザーの関係性の構築」です。企業はサプライヤーのみならず、様々な形でエンドユーザーと協働するステージを模索し、顧客との関係性を広げながら川上と川下が繋がるサプライチェーンを戦略的に構築していくことが求められます。

また、「企業と顧客が協働出資する価値づくり」の市場では、様々な価値の創出に向けて複数の企業が協働するネットワーク型のビジネスが可能になります。そのほうがより効率的に価値を創出できるからです。
従来のバリュー・チェーン(価値連鎖)はサプライヤーから顧客まで一方通行で価値が追加されていくものでしたが、市場の様々な主体(アクター)が価値共創のプロセスに貢献していくネットワーク型ビジネスは「マルチサイド・プラットフォーム」と呼ばれ、様々な主体が価値共創に関わる構図からバリュー・コンステレーション(価値星座)とも呼ばれています。

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「価値付加型のValue Chain(価値連鎖)から価値共創型の
Value constellation
(価値星座)への変化を示す概念図」アミタ作成

自社製品のパソコンやスマホを使う顧客が「5W1Hで何を求めているか」に対応する価値共創市場では、より多くの企業が連携することが効果的であることは容易に想像できるかと思います。それはあたかも自然界の生態系(エコシステム)において、様々な生物がお互いに関わりあいながら暮らしている状況と同じビジネスモデルです。

自社の体制とビジネスモデルを変革する

さて、自社の顧客層と、顧客と共創する価値、そして自社の立ち位置を明確にできたら、次はそのビジネスモデルを実現していくための体制変革が必要になります。パソコンメーカーの営業先は問屋や小売店が窓口でしたが、新たな市場では顧客そのものが窓口になります。
つまり、顧客とダイレクトにつながるための双方向性のプラットフォームが必要になります。それをどのように構築し、運用していくかを計画し、それを実行しなければなりません。今までのビジネスモデルからドラスティックな変革を遂げなければならないのです。

企業が、こうした時代の変化に適応するための自己変革を可能にするうえで、とても大切なポイントがあります。それは自社のアイデンティティーを構築する戦略においてコア・コンピタンス(自社の核心的な強み)に固執しすぎないことです。コア・コンピタンスは競争優位性を得るうえで重要な要素ではありますが、反面、それに頼りすぎてしまうと状況の変化に対応する柔軟性が失われてしまいます。

生物史におけるサーベル・タイガーの辿った運命は、その典型的なものです。企業の存続と発展にとってより大切なのは、状況や時代の変化に対し、柔軟に自己変革して適応できる力、すなわちダイナミック・ケイパビリティ(自己変革力)です。「危機を敏感に感知し、適切なタイミングで組織を再編成して、新たな組織とビジネスモデルへの変容を実現できる企業」となること。それが、新たな時代の企業経営者に求められる「本質と真実」なのです。

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執筆、編集

tabeisan.jpg田部井 進一(たべい しんいち)
アミタ株式会社
取締役

アミタグループへ合流後、主に企業の環境部・サステナビリティ部門を対象に、環境ビジョンの策定や市場調査など、多くの支援実績を持つ。2020年より取締役として、アミタ(株)における営業および市場開拓を担当。アミタグループの事業の柱となる「社会デザイン事業」の確立に向けて、新規サービスの創出・新規市場開拓を進める。

hondasan.jpg本多 清(ほんだ きよし)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
群青チーム

環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)、『魔法じゃないよ、アサザだよ』(合同出版)、『四万十川・歩いて下る』(築地書館)など。

ms_nakamura_kozue_77x77.jpg中村 こずえ(なかむら こずえ)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
緋チーム チームマネジャー

高知県出身。鳥取大学大学院終了後、環境問題に関心があり、アミタの「無駄なものなどこの世にない」という理念に共感して合流。現在は企業向けのサステナビリティコンサルティングを担当。

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