神戸発!つめかえパックリサイクルの新たな挑戦~官民連携による「まわり続けるリサイクル」モデルの構築~ | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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コラム

神戸発!つめかえパックリサイクルの新たな挑戦
~官民連携による「まわり続けるリサイクル」モデルの構築~

mawaritudukeru_recycle5.png本記事では、神戸市と多くの協力企業・市民が一体となって挑戦する「神戸プラスチックネクスト~みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル~」について、特に「つめかえパック」の循環に焦点を当て、その具体的な取り組み内容や成果、そしてこの「神戸モデル」が示す今後の可能性について、詳しく解説していきます。


   

はじめに:深刻化する廃プラスチック問題と「つめかえパック」リサイクルの壁

近年、地球規模での環境問題として、廃プラスチック問題が深刻化しています。土壌・河川・海洋のプラスチック汚染や、焼却によるCO2排出、石油資源の枯渇といった課題が山積しており、持続可能な社会を実現するために、私たちはプラスチックとの向き合い方を根本から見直す必要があるでしょう。

その中でも特に、使い捨てプラスチックの削減やリサイクルの推進は喫緊の課題です。

これまでも多くの自治体で、容器包装リサイクル法に基づき、ペットボトルや食品トレーなどのプラスチック製容器包装の分別回収・リサイクルが進められてきました。しかし、その中でも「つめかえパック」(シャンプーや洗剤などの詰め替え用パウチ)は、リサイクルが難しい品目の一つとして、多くの自治体や事業者にとって頭を悩ませる存在でした。つめかえパックは、プラスチックボトル本体に詰め替えて使用することで、本体ボトルを購入することに比べて大幅なプラスチック使用量の削減に貢献しています。しかし、つめかえパックは複数の素材が積層された複合素材フィルムでできており、単一素材への分離には高い技術が必要です。また、内容物による汚れが付着しやすいといった特性もあり、マテリアルリサイクル(材料として再利用すること)の品質安定化が難しく、多くの場合、他のプラスチック容器(ペットボトルなどのリサイクルしやすい一部容器包装を除く)と同様、サーマルリカバリー(熱回収)に留まっているのが現状です。

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出典:KOBE PLASTIC NEXT

このような背景の中、神戸市は、2011年から容器包装プラスチックの資源循環に取り組んできましたが、選別等の中間処理コスト、リサイクル残さの発生、低い再資源化率といった課題を抱えていました。

これらの課題解決に向けて神戸市は、リサイクル後の利用目的を明確にした上で、市民が排出するプラスチックを品目別に回収し、プラスチックとして継続的に利用可能にする、いわゆる「まわり続けるリサイクル」の推進を開始しました。その中でも特に、上述のリサイクルが困難な「つめかえパック」に着目し、その水平リサイクル(使用済み製品から同一種類の製品へ再生すること)を含む、高度な資源循環システムの構築を目指しました。

関連記事:水平リサイクルとは?メリットや課題、取り組み事例を解説

「まわり続ける」リサイクルの仕組みとは

本モデル事業は、202110月から現在にいたるまで実施されていますが、20249月末までに約5トンの「つめかえパック」の回収を達成しました。その中心的な取り組みとなったのが、市民が利用しやすい場所に回収拠点を設け、質の高い資源を効率的に回収するシステムの構築です。それでは「つめかえパック」をどのように回収し、再生へと繋げたのか、そのプロセスと成果を見ていきましょう。

  1. 回収から再生処理までの流れ:市民参加を促す仕組み

    このプロジェクトで一番重要なことは、市民の理解と協力です。そこでまず、市民に対して、つめかえパックリサイクルの意義や正しい排出方法(中身を使い切り、軽くすすいで乾かす等)について、広報物やウェブサイト、イベント等を通じて分かりやすく啓発活動を実施しました。

    回収されたつめかえパックは、単なる「ごみ」ではなく、価値ある「資源」として扱われます。回収後は、協力企業によって選別・洗浄され、再生ペレット(プラスチック原料)へと加工されます。そして、この再生ペレットを利用し、新たなプラスチック製品(一部は再びつめかえパックへ)へと生まれ変わらせることを目指しています。この一連の流れを市民に「見える化」することで、リサイクルへの参加意欲を高める工夫が重ねられました。

  2. アクセスしやすい回収拠点:小売75店舗・27施設に回収ボックス設置

    次に市民が気軽に参加できるよう、回収拠点の利便性も重要です。本プロジェクトでは、神戸市内のスーパーマーケットやドラッグストア、及び神戸市内各所に設置された資源回収ステーションなど、小売75店舗・27施設の協力を得て、専用の回収ボックスが設置されました。日常の買い物のついでに、使用済みのつめかえパックを資源として持ち込める環境を整備したことで、多くの市民が参加しやすい仕組みを目指したのです。

    これらの取り組みもあり、プロジェクト開始から20249月末までに約5トンの使用済みつめかえパックが市民から持ち込まれるという、大きな成果を出すことができました。

  3. 企業間の技術共有:新たなリサイクル素材開発

    複合素材であるつめかえパックを、品質の高い再生原料へと加工し、さらには元のつめかえパック、または他の容器等へと再生する「まわり続けるリサイクル」を実現するには、高度な技術が求められます。

    本プロジェクトでは、回収・リサイクルプロセスに関わる複数の企業が連携し、それぞれの持つ技術やノウハウを共有しました。洗浄技術、素材の選別技術、再生ペレット化技術、そして再生材を用いた製品化技術など、バリューチェーン全体での協力体制が構築されたのです。このような企業間の「共創」によって、従来は困難とされていたつめかえパックの高度なマテリアルリサイクル、さらには水平リサイクルの可能性を探る取り組みが進められました。

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    出典:神戸プラスチックネクスト ファクトブック

  4. 市民の意識変革と行動変容の促進

    また本プロジェクトは、単にプラスチックを回収するだけでなく、市民一人ひとりの環境意識を高め、行動変容を促すことも重要な目的としていました。回収ボックスの設置場所での啓発活動や、リサイクルの流れを紹介するイベント、SNSなどを通じた情報発信により「つめかえパックも大切な資源である」という意識の醸成を図りました。

    上述の回収量に達したという事実は、多くの市民がプロジェクトの趣旨に賛同し、分別・排出に協力した証と言えるでしょう。「ごみ」として捨てていたものを「資源」として分別する、という小さな行動の変化が、大きな成果へと繋がったのです。

官民連携の体制と課題解決のプロセス

このプロジェクトの成功は、神戸市とアミタを含む多数の民間企業との強固な連携体制(官民連携)によって支えられました。プロジェクト推進にあたっては、定期的な情報共有会議などが開催され、回収状況の分析、課題の抽出、改善策の検討などが迅速に行われました。例えば、回収効率の向上策、市民へのより効果的な情報伝達方法、再生材の品質安定化など、様々な課題に対して、関係者が一体となって解決策を模索しました。このような柔軟で協力的な課題解決プロセスが、プロジェクトを成功に導く原動力となりました。

▼プロジェクトの参画団体(五十音順)※2025年3月28日時点

  • 自治体:神戸市
  • 小売企業:ウエルシア薬局株式会社、生活協同組合コープこうべ、株式会社光洋、
         株式会社ダイエー
  • メーカー:アース製薬株式会社、花王株式会社、牛乳石鹸共進社株式会社、
         クラシエホールディングス株式会社、株式会社コーセー、
         小林製薬株式会社、サラヤ株式会社、株式会社ミルボン、
         ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社、
         ライオン株式会社
  • リサイクラー:大栄環境株式会社
  • 事務局・アドバイザー:NPO法人ごみじゃぱん、アミタホールディングス株式会社

アミタ作成

他地域 他企業への展開:「神戸モデル」を実践するポイント

神戸市で実施されたこのプロジェクトは、つめかえパックをはじめとする廃プラスチックのリサイクル推進において、新たな知見と実績を残したといえるでしょう。この「神戸モデル」は、他の地域や企業が同様の課題に取り組む上で、いくつか参考になる部分があります。

  • 市民参加型の回収システムの構築

    日常生活の動線上に回収ボックスを設置することで、市民の参加ハードルを大きく低減させています。またリサイクルの意義、正しい分別方法、回収後の用途など分かりやすい情報提供を行うことで、市民の理解と協力を得ることが重要です。また店舗回収に加え、多様な回収チャネルを組み合わせることで、より多くの市民の参加を促し、回収の質を高めることが可能です。

  • 参加を促すインセンティブ設計

    さらに本プロジェクトでは、回収したつめかえパックが具体的な製品に生まれ変わる「成果の見える化」も重要なインセンティブとして活用されました。例えば、リサイクルされた材料を用いて実際に店頭で使われる新しい回収ボックスそのものを作ったり、回収エリア他で使用することができる傘(アイカサ)が制作したりしています。


    aikasa.pngreport03_img01.png                出典:KOBE PLASTIC NEXT

    これらのリサイクル製品は、イベントでの紹介や回収店舗への設置を通じて市民に還元され「自分たちの協力が目に見える形で社会に役立っている」という実感を提供しました。このような非金銭的なインセンティブも、市民の継続的な参加意欲や協力への満足感を高める上で非常に効果的です。

参画団体からのコメント

実際にプロジェクトに参画し、取り組む神戸市様、参加企業様からのコメントを掲載します。

(自治体)
神戸市 環境局資源循環課 川上様

自治体と、製品の製造、販売、回収、再生に関わる企業が、ライバル関係の垣根を越えて、協働で、取り組んでいるのは全国でも先進的な取り組みであり、つめかえパックの水平リサイクルが実現されることを期待しています。多くの市民のみなさまに協力をいただいており感謝しています。より多くの方にご協力いただけるよう、広報啓発に努めていきます。

(メーカー)※五十音順
花王株式会社
研究開発部門研究戦略・企画部 瀬戸様 

資源循環の実現は、一企業だけでは達成できません。神戸市のもと、多くの同業、異業が集まった本プロジェクトは非常に貴重。回収した後のプラスチックがどのようにリサイクルされるのか、市民に分かりやすいことが資源循環の推進につながります。目にとまりやすい製品や、水平リサイクルとして商品に戻し、消費者の理解・協力が得られるよう、連携して取り組んでいきたいです。

小林製薬株式会社
サステナビリティ経営本部サステナビリティ戦略推進部環境グループ 坂田様

当社は、新・環境行動指針に基づき循環型社会へ貢献を進めています。資源循環の取り組みは1社単独では難しく、本プロジェクトで神戸市や他企業と協働しているからこそ、つめかえパックの水平リサイクル化検討を進めることができています。難易度は高いですが、回収に協力いただいた市民の方々にエコをカタチにした製品として還元していきたいです。

ライオン株式会社
サステナビリティ推進部 中川様

私たちの活動も4年目を迎えました。所属する企業・団体は違ってもつめかえパックリサイクルの社会実装を目指す同志としてワンチームになって進めています。すでに多くの神戸市民の皆さんの協力をいただいていますが、今後はさらに多くの皆さんのご協力が必要です。ぜひ、活動に参加してください。

循環型社会へ向けた新たな一歩

今後の課題

神戸市とアミタ、そして多くのステークホルダーが一丸となって推進した「プラスチック資源の地域拠点回収モデル事業」は、大きな成果を上げた一方で、このモデルを社会全体に普及させていくためには、乗り越えるべき課題も残されています。

例えば、回収されたプラスチックをより効率的に、かつ高品質な再生材へと加工するための「リサイクル効率の更なる向上」が求められます。これには、異物除去技術や自動選別技術の高度化が必要となります。

また、回収、運搬、再生処理にかかる「コスト削減」も事業の持続可能性を左右するため、スケールメリットや最適で効率的なプロセス化が必要です。さらに、品質への信頼性向上や用途開発を通じて、再生材を利用した製品開発とその市場を拡大していく「再生材の需要拡大」も重要な課題です。

関連記事:再資源化事業等高度化法とは? 資源循環を促進させる法律がもたらす影響

神戸市での成功は、他の地域や企業も連携すれば資源循環を進められることを示しています。今後は、自治体間、製品のサプライチェーン全体、そして業界の垣根を越えた多様な連携を強化し、より効率的で持続可能な資源循環を社会全体で実現していくことが重要となるでしょう。

神戸市の次なるステップと全国展開への期待

「神戸モデル」で示された官民連携による課題解決アプローチ、市民参加型の回収システム、企業間の技術連携といった要素は、全国の自治体や企業が抱える廃プラスチック問題解決への有効な処方箋となり得ます。アミタとしても、この神戸市での貴重な経験と「MEGURU STATIONR)」のノウハウを活かし、今後も全国各地での持続可能な資源循環システムの構築、そして循環型社会の実現を進めていきたいと考えています。

関連情報

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    執筆者プロフィール

    大重 宏隆
    アミタ株式会社
    サーキュラーデザイングループ

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