コラム
ビジネスを循環型に再設計する原理とは?(後編)~利益を生み出す5つの設計思想と実践プロセス~ コンサルタント執筆コラム
サーキュラーエコノミーは、もはやサステナビリティだけのテーマではなく、経営やビジネスそのものに関わる重要な概念として認識され始めています。
前編の記事では垂直統合型で自社完結の「クローズド・ループ」を築いたキャタピラー社、市場原理と外部パートナーを活用し「オープン・ループ」を形成したBack Market社をご紹介しました。アプローチは対極的ですが、両社はともに高い収益性を誇るサーキュラービジネスの成功例です。 後編では、この2社に共通する「ビジネスを循環型にするための設計原理」を紐解き、自社の事業を「再設計(リデザイン)」するための具体的な実践ステップを解説します。
2つの事例に共通する「サーキュラービジネスの設計原理」
垂直統合型のキャタピラーと、分散協働型のBack Market。一見異なる両社のモデルですが、その根底には共通した「ビジネスを循環型にするための設計原理」があります。アミタの視点で分析すると、あらゆるビジネスに応用可能な5つの設計原理が見えてきます。
原理①:ライフサイクル全体を見通した「循環型の設計」
両社とも、製品が市場に出た後で「どうリサイクルするか」を考えるのではなく、ビジネスの初期段階から「どうすれば価値が失われずに循環し続けるか」を設計しています。
- キャタピラー:再製造しやすい製品設計
- Back Market:再生品への消費者不安を払しょくするため「高品質な再生品」のみを扱うマーケットプレイスとして設計
このように、自社の製品・サービスが、使用後にどのような経路を辿り、どうすれば価値を維持できるかを構想することが第一の原理です。
原理②:戻ってくる「回収システムの設計」
「循環」のためには、顧客の手元にある使用済み製品・部品を効率的に回収するシステムの設計が不可欠です。
- キャタピラー:ディーラー網とインセンティブを活用して自社で回収ルートを確立
- Back Market:再生業者が効率的に中古デバイスを調達できる市場環境を整備
「単に売る(動脈)」だけでなく「どう戻すか(静脈)」の経路設計で循環ループを回し続ける必要があります。
原理③:市場をつくる「品質と信頼の設計」
循環させた製品(再製造品や再生品)が顧客に受け入れられるためには「安かろう悪かろう」のイメージを払拭し、新品に劣らない信頼性を提供する必要があります。
- キャタピラー:「新品同等の品質と保証」を、付与する
- Back Market:最低1年の動作保証と厳格な品質基準、また顧客レビュー、返品率、検査結果などのデータを活用して再生業者をスコアリングし、品質の維持・向上を促す仕組みを設ける
顧客の不安を取り除く品質や保証の仕組みを設計したからこそ、そこに新たな市場が生まれました。品質への信頼こそが、循環型ビジネスを成立させるカギとなります。
原理④:顧客メリットに基づく「提供価値の再設計」
サーキュラービジネスは、単に「環境に良い」だけでは普及しません。顧客にとって明確なメリット、すなわち価値を提供する必要があります。
- キャタピラー:「総所有コストの削減(新品より安価に、新品同様の性能が得られ、さらに使用済み部品の返却で代金が還元される )」という価値を提供
- Back Market:「信頼できる製品を、安価に手に入れる」という選択できる価値を提供
このように資源循環はあくまで手段です。顧客のどのような課題を解決し、どのような新しい便益をもたらすのかを定義(設計)することが重要です。
原理⑤:全体の最適化「エコシステムの設計」
循環は一社だけでは完結しません。関係者全体がメリットを享受できるエコシステム(生態系)の設計が必要です。
- キャタピラー:ディーラーや顧客を含めた垂直統合型の関係性構築
- Back Market:再生業者や消費者を巻き込んだ分散協働型のプラットフォーム構築
自社単独で全てを担うのか、パートナーと協働するのか。事業の特性、自社の特性に合わせて、関係者全体で価値と利益が循環仕組みを構想する視点が不可欠です。
▼両社の循環デザインのまとめ
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設計原理 |
キャタピラー(垂直統合型) |
Back Market(分散協働型) |
共通する本質 |
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① 循環の型 |
再製造しやすい製品設計 |
「高品質な再生品」のみを扱うマーケットプレイス |
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② 回収システム |
自社ディーラー網で物理的に回収 |
市場を整備し再生業者による調達を効率化 |
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③ 品質・信頼 |
メーカーとして新品同等の品質保証 |
動作保証、品質基準、業者スコアリング等による信用担保 |
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④ 経済的価値 |
総保有コストを下げる実利を提供 |
新品以外の選択肢を提供 |
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⑤ エコシステム |
自社系列内で価値を最大化 |
外部パートナーの力を最大化 |
作成:アミタ株式会社
このように、サーキュラーエコノミーへの転換とは「リサイクル活動の実践」ではなく「価値が循環し続ける経済構造を、自社の事業としていかにデザイン(設計)するか」という、極めて戦略的な設計課題なのです。
実践へのヒント:自社でサーキュラービジネスを設計するには
これらの設計原理を踏まえ、自社でサーキュラービジネスを構想するためには、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。実践的なヒントを4つご紹介します。
- 「売上起点」から「使用起点」へ。バリューチェーン全体の可視化
まずは思考の転換が必要です。製品が「売れた後」どうなっているかに着目します。顧客は製品をどのように使い、いつ、なぜ手放すのか。使用後の製品はどこへ行くのか。製品の使用状況データや、回収・廃棄の経路を可視化することから始めましょう。そこに、新たなビジネスチャンス(修理、アップグレード、回収、再販など)が眠っています。
具体的な手法としては、特定の部分だけではなくバリューチェーン全体を把握し、バタフライダイアグラムを活用して資源の流れを理解することが有効です。
- 循環を評価するKPI(重要業績評価指標)の導入
測定できないものは管理できません。サーキュラーエコノミーへの取り組みを、具体的な数値目標に落とし込みましょう。従来の売上目標とは異なる、例えば、以下のような循環型のKPIが考えられます。
- 回収率:販売した製品のうち、どれだけが使用後に自社やパートナーの元に戻ってきたか。
- 再利用・再製造率:回収した製品のうち、どれだけ価値ある製品として市場に戻せたか。
- 顧客生涯価値(LTV):売り切りではなく、顧客との継続的な関係性からどれだけ収益を得られたか。製品販売後もサービス提供などで関係が続くサーキュラーモデルでは、LTVが重要な指標となります。
これらのKPIを業績評価に組み込むことで、組織全体の意識と行動変容を促すことができます。
- 自社内完結ではない「エコシステム」の設計
すべての循環プロセスを自社で担う必要はありません。「誰と組めば、より効率的で価値の高い循環ループを形成できるか」という視点で、外部のパートナーとの共創を模索しましょう。地域の廃棄物処理業者、リサイクラー、物流企業、修理専門業者、再販プラットフォーマーなど、自社のリソースと外部の機能を組み合わせ、最適な循環システムを設計することが、スピードと競争力を生み出します。まずは、小規模な実証実験からパートナーシップを試してみるのも良いでしょう。
- 環境価値を競争力に変える「情報」の提供
自社の取り組みによる「環境価値」を、可視化し、顧客に伝えましょう。例えば、再製造品を選ぶことでどれだけのCO₂排出量や資源使用量を削減できるのかを数値で示すことは、顧客が「価格」や「性能」だけでなく「環境価値」を基準に製品を選ぶことを可能にします。またその数値情報は、顧客のESG情報開示やScope3排出量の算定・報告にも直接活用できるため、数値化していない他社製品よりも更に選ばれやすくなると言えるでしょう。
サーキュラーエコノミーとは、経済を"回し直す"ための再設計
本記事で解説してきたように、サーキュラーエコノミーの本質は環境対応ではなく、経済システム・ビジネスモデルの再設計にあります。
「製品をどう売るか」ではなく「顧客との関係をどう維持し、価値を回し続けるか」
を設計することで、激しく変化し続ける外部環境の中で利益構造を保つ経営が可能となります。それがまさにこれからのビジネスにおける競争軸であり外部からの評価軸となるでしょう。
サーキュラーエコノミーは、資源制約、市場の成熟、新しい企業評価軸といった現代の経営課題に対応し、企業が持続的に成長するための、必然的な経済の再設計なのです。
キャタピラーのように自社で価値を回し続けるのか、Back Marketのように他者を巻き込み市場を創るのか。そのアプローチは企業の数だけ存在します。重要なのは、自社が「循環の設計者」になるという意志を持つことです。その時、貴社のビジネスに眠る新たな価値と成長の可能性が、きっと見えてくるはずです。
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執筆、編集
中村 圭一(なかむら けいいち)
アミタ株式会社 サーキュラーデザイングループ
静岡大学教育学部を卒業後、アミタに合流しセミナーや情報サービスの企画運営、研修ツールの商品開発、広報・マーケティング、再資源化製品の分析や製造、営業とアミタのサービスの上流から下流までを幅広く手掛ける。現在は分析力と企画力を生かし、企業の長期ビジョン作成や移行戦略立案などに取り組んでいる。
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