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「企業と生物多様性」この生きものに注目(その1)-サシバという鳥をご存知ですか?本多清のいまさら聞けない、「企業と生物多様性」

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今回から「この生きものに注目」というテーマで、企業が生物多様性に取組むにあたって注目しておきたい生きもののお話をしていきたいと思います。

生物多様性はややこしくて面倒くさいと思う方々も、身の周りにいる生きものたちの顔ぶれや暮らしぶりに少し関心をもつことで、「生物多様性」への敷居がうんと低くなるのではないかと思います。

※写真は今回取り上げる「サシバ」です。

サシバという鳥について

第1回で取り上げる生きものは「サシバ」です。サシバはタカの仲間の猛禽類です。大きさはカラスぐらいです。サシバはかつて田園地帯の多くで見られましたが、近年はとても数が減り、環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に分類されています。

猛禽類も、他の鳥たちと同様、日本で見られる大まかな時期によって3つのタイプに分けることができます。

  1. 留鳥・・・一年中日本で暮らす鳥
  2. 夏鳥・・・夏になると南国から渡ってくる鳥
  3. 冬鳥・・・冬に北国からやってくる鳥

サシバは夏鳥です。冬はフィリピンやインドネシア、ニューギニア等で暮らし、春になると日本へ渡ってきて繁殖します。「ピッ、クイ~」という特徴のある声で鳴きますので、声を聞き覚えるとすぐに「あ、サシバがいるな」と分かります。

サシバが減った2つの理由

このサシバが減ってしまった理由は大きく分けて2つあると考えられます。

  1. 繁殖地である日本等北東アジアの国々の環境の変化
  2. 越冬地である東南アジア諸国の環境の変化

東南アジアの環境の変化は日本の企業には関係ないとは言えません。木材や鉱物等、多くの資源を東南アジアから調達している企業も少なくないと思います。知らないうちにサシバの越冬地の環境を破壊する形で採取された資源を使用していることも考えられます。

もちろん、繁殖地である日本の環境変化にも日本の企業は大きく関わってきます。巣を作り、雛を育てあげなければならない繁殖地での環境破壊は、餌と安全なねぐらが確保できればなんとかしのげる越冬地の場合よりも遥かに深刻です。

日本でサシバが減った理由1 ~日本の農業との関連性~

どんな生きものにとっても、生命を脅かす要素が大きく分けて3つあります。「餌の確保」、「繁殖環境」、そして「???(答えは第2回)」です。

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まず1つめの「餌の確保」について説明します。私たち人間を含め、食べ物が確保できなくてはどんな生きものも命を維持できませんね。サシバは猛禽ですから肉食性です。でも、その餌は鳥や獣ではなく、カエルやヘビ、それにバッタ等の大型の昆虫類です。

これらの餌となる動物たちには大きな共通点があるのですが、お分かりになるでしょうか。答えは、「冬になると姿を消してしまうこと」です。ですから、秋になるとサシバは餌が豊かな南国に渡らなくてはならないのです。日本で繁殖し、冬は南国で越冬する渡り鳥(夏鳥)のほとんどが、カエルやヘビ、そして昆虫類のいずれかを主な餌としています。

つまり、サシバを守るためには、まずは餌のカエルやヘビ、バッタが豊かに暮らす環境を守らなくてはならないわけです。それはどのような環境でしょうか?

カエルがもっとも多くいる環境は、田んぼです。田んぼの周りにはカエルを餌とするヘビもいますし、カエルの餌になるバッタ類も多くいます。サシバは、こうした生きものが豊かな田園地帯に暮らす猛禽なのです。

私たち日本人の主食であるお米を栽培する田んぼでサシバも餌を採るわけですから、本来ならサシバが餌に困るようなことはなかったはずです。しかし、近年の農業の近代化による環境の変化で、田んぼからカエルの合唱があまり聞かれなくなってしまっています。

日本でサシバが減った理由2 ~減反政策、工場立地等による繁殖環境の減少~

より深刻なのは、かつて田んぼだったところが耕作放棄され、荒れた藪地や廃棄物処分場、あるいは宅地造成地等になってしまう場合です。そのような場所は大きく開けた平野部ではなく、大型の農耕機が入りにくい中山間部か、平野部と丘陵部の境界線付近の田んぼであることが多いからです。

サシバは大きく開けた平野部の田園にはあまり住まず、むしろこうした里山環境の田園に、好んで暮らします。それは、生きものが生命を確保するために必要な2つ目の要素、「繁殖環境」が理由です。どんな生きものでも、次世代を育てる環境が確保できなければ子孫が絶えてしまいます。

サシバはアカマツ等の高い樹の上に巣を作ります。見晴らしの良い山の稜線近くの森であることも条件です。そのような条件を備えた田んぼは、広い平野部ではなく、周囲を丘や山に囲まれた地域にあります。そうした地域の田んぼは大型機械が使えず、生産効率も低いので減反政策や過疎高齢化の影響で耕作を維持することが困難な時代になってしまいました。

耕作維持されなくなった田んぼは、そのまま放棄されて薮地になったり、工場用地や宅地造成地、廃棄物の埋め立て処理場になったりします。そうなると、もうサシバの餌であるカエルやヘビを養うことはできません。

企業の事業活動とサシバの生態は無関係でない

サシバの生態に企業が無関係でないことはお分かりになると思います。工場立地や宅地造成をしようとした土地は、もしかするとサシバの餌場や巣の近くであることも考えられます。あるいは、経済効率から廃棄物を埋め立てで処分することが、サシバの生息環境を永久に奪ってしまうことにつながるとも考えられます。

それでは、どのようにすればサシバの生息環境に負荷を与えず、さらには改善や再生につなげることができるのでしょうか。続きは次回に考えてみることにしましょう。「生きものが生命を確保するために必要な3つ目の要素」も、ぜひ考えてみてくださいね。

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執筆者プロフィール

本多 清(ほんだ きよし)
株式会社アミタ持続可能経済研究所
主任研究員

環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)等がある。

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