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インタビュー

TNFD先進企業事例!SMBCグループに聞く お客様とともに発展するためのTNFD活用

2022年の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、2030年までに「生物多様性の損失を止め、反転させる」ためのネイチャーポジティブな行動が必要だとされました。 そのような中、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足され、定量的な評価が難しいビジネスと自然資本の関係性について統一された開示フレームワークが作成されています。2023年9月に1.0版が発表されましたが、三井住友フィナンシャルグループは発表前からTNFDレポートを公表し、金融業界で先駆的な取り組みを行っています。今回は、同行にてTNFDレポート発行を推進した
島 健治氏にその背景と今後の展望を伺いました。

※本記事の内容は、インタビューを行った2023年8月時点のものです。

TNFDに取り組む意義やTNFD対応を経営戦略に活かす方法について解説したセミナーの動画を公開しました。
※三井住友フィナンシャルグループ 島氏以外の講演内容となります。

ボタン_動画と資料はこちら.png

早期にTNFD開示を行った背景

武津(アミタ):本日はよろしくお願いします。貴行はTNFDレポートを金融機関でいち早く開示されましたが、1.0版も正式発表されていない中で、早々に発行された理由について伺えますか?

島氏:当行は、TNFDが注目される以前から、自然関連リスクに注視しておりました。2006年にエクエーター原則(※)を採択し、環境・社会に多大な影響を与える可能性のある大規模な開発プロジェクトを融資する際には、行内ルールの評価プロセスを経て、プロジェクトの環境・社会への配慮を継続的に確保するよう努めています。

※エクエーター原則:大規模な開発プロジェクトや建設への融資の際に、民間の金融機関が地球環境や社会課題に考慮した融資を行うためのガイドラインのこと
三井住友銀行のエクエーター原則はこちら

気候変動関連の財務リスクに対する考え方の整理はTCFDの普及によって進みました。気候変動の次は自然関連だろうと予想していましたので、2021年のTNFD検討開始当初から進捗を注視していました。今年発表した中期経営計画の根幹には「社会課題の解決を主導することにより、経済成長と社会課題の解決を実現し、そこに生きる人々が幸福を感じられる状態に貢献する」という意志があります。この中期経営計画と親和性が高いTNFDを活用して、弊行は何をするべきかと考えた際、とにかく最初の一歩である開示をできるだけ早く行いたいと考えて準備を進めてきました。

図:三井住友フィナンシャルグループの中期経営計画「Plan for Fulfilled Growth(幸せな成長)

plan for fulfilled Growth.PNG

TNFD開示によって得られた3つの効果

武津:TNFD開示準備を始めたときの様子はいかがでしたか?

島氏:当初は「自然って大事だよね」「うんうん!」「・・・で?」という状況で、正直に言えば、自然というものの理解が全然できていませんでした。TNFDのフレームワークに沿って進める中で、自然とビジネスの関係を依存と影響の2つの観点で、まがりなりにも整理ができました。関係性がわかると、リスクもしっかりと線がつながるように浮かび上がってきました。

武津:完成されたレポートによって、社内に何か変化が起きましたか?

島氏:自社のリスク管理を明確にすることに役立ちましたね。自然に依存しているビジネスの場合、いずれは負の影響がビジネスに跳ね返ってくる可能性がある、ということをTNFDに沿って分析することで論理的に経路を示すことができました。今までの「なんとなく自然って大事だよね」程度の理解では、他のリスクと同じレベルでリスク管理を議論することが難しく感じていたのですが、現在では自然リスクを他のリスクと同じレベルまであげて議論を行っています。これはTNFDレポートを発行した効果だと感じています。

図:TNFDレポートのリスク管理

risk.png

武津:レポートに対する社内の反応はいかがですか?

島氏:当行の営業担当の勉強ツールとして、このレポートは使えると思っています。お客様の中には、すでに取り組んでいる業もいらっしゃるので、営業担当はお客様から教えていただいたり、一緒に学びながら共に成長させていただくための入口になると思います。

武津:お客様にもTNFD開示を進めてほしいというお気持ちはありますか?

島氏:あります。我々金融機関だけではLEAPアプローチのうち、L(ロケート)の分析・評価を行うことが難しく、具体的なLはお客様しか知りません。我々のいまの状態は、残念ながら総論的な評価を行った状態です。これを踏まえてどうリスクを回避するの?ビジネスに活かすの?となると、やっぱりお客様のLがないと具体的な議論が深まらない、という認識です。

武津:お客様と共に行うことで、貴行のリスク管理の強化やビジネスチャンスも見えてきますね。今後、金融機関として、TNFDを具体的にどのように活用されたいと考えていますか?また自然とビジネスの関係における貴行の役割はどのようにお考えですか?

島氏:そうですね。そこが非常に難しい部分だと思っています。「お客様のビジネスにおける自然リスクを理解し、リスク解消のためにどのように金融支援ができるか」さらには「当行がお客様のリスク改善に向けてどのようなソリューションを提供できるか」が求められると思います。簡単に答えがでるものではありませんので、TNFDはお客様と金融機関のエンゲージメント(共通対話)のツールとして当面は機能するのではないかと、思っています。

企業とのエンゲージメントで期待すること、ヒアリングしたいこと

武津:今後も対話を丁寧に重ねられるということですが、対話において企業に期待されることやヒアリングされたいことはありますか?

島氏:まず、ビジネスのどの部分に課題を認識されているか伺いたいと思っています。その課題に対して我々がどのようにご支援できるかはわかりませんが、まず課題をお聞きしなければ、対話が始まりません。そして、次のステップとして、例えばその課題を解決することでお客様のビジネスの効率が上がる、または新しいビジネスのタネになるなど、課題解決が事業活動にどのような好影響をもたらすのかというお話もしたいと思っています。

弊行の支援の具体性をあげるためにも、金融機関4団体が結束して「FANPS(Finance Alliance for Nature Positive Solutions)(ファンプス)」という団体を2023年2月に立ち上げました。この団体は、企業の事業活動のネイチャーポジティブを促進・支援することを目的に(1)ネイチャーポジティブに関するソリューション調査(2)ネイチャーポジティブ支援・促進する金融の検討を行っています。2023年9月のTNFDの1.0版発表に向けて議論を重ねつつ、企業のネイチャーポジティブへの取り組みを具体的に支援する準備を進めています。集まった金融機関4つそれぞれ異なる業態であり、それぞれのシンクタンクにも得意分野があるので、個人的には、非常に面白い話し合いができていると感じており、新しい価値提供ができると期待しています。

図:FANPSについて

fanps.png

武津:アミタは企業の持続可能なビジネスを支援するコンサルタントとして活動しており、そもそもの企業のビジネスモデルの根本を持続可能な形に変えるという改革も必要と考えているのですが、そのあたりはどう思われますか?

島氏:難しいですよね。おそらくそのためには、ネイチャーポジティブを進めていくなかで「企業がどうありたいのか」を考え、理想像に向かうアプローチを考える必要があると思います。しかし、正直これも教科書的な話でしかなくて、じゃあ具体的に何すればいいのか?という答えがすぐに出るものではありませんよね。

武津:仰った企業のありたい姿は、企業が存続するうえで非常に重要なポイントだと思います。そのありたい姿を実現するために事業活動があり、ネイチャーポジティブやサーキューエコノミーへの対応と自社の強みを照らし合わせたときに、独自のイノベーションを創出することができると思います。ですが、いきなり新しいイノベーションを起こすことは容易ではないので、既存のビジネスモデルを徐々に自然負荷低減モデルにシフトさせながら、一方でネイチャーポジティブ型のビジネスの機会を創出していくような姿勢が大事だと思います。

島氏:おそらくTNFDでは「シナリオ分析」がそれを担っていると思いますが、まだシナリオ分析のガイダンス類が充実していないので、9月に発表される1.0版上でガイダンス等も注視していきたいですね。

武津:色々とお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。最後にメッセージをお願いします。

島氏:やはり私たちができることは対話に尽きると思っております。重複しますが、弊行のリスク認識を深めるにはお客様の場所、既存リスクの軽減・管理状況などを把握する必要があります。これらの対話を通じて改善の方向性を発見することで、事業の効率化やネットワークベースでのソリューション導入・提供をご提案できればと思います。我々はレポートを出しましたし、この分野で先進的な取り組みを進めていきたいと考えていますが、まだこれからという部分もありますので、皆さんからお知恵を賜りながら、銀行の視点も重ね合わせて共に発展していきたいと考えております。

武津:本日は貴重なお話をありがとうございました。

参考情報
  • 今回インタビューを行った三井住友フィナンシャルグループ 島氏にTNFDレポートの取り組み事例を講演いただいたセミナーを実施しました。
  • アミタは「循環」に根差した統合的なアプローチで企業価値の向上&持続可能な経営を実現に貢献する、本質的なネイチャーポジティブ/生物多様性戦略の立案・実施をご支援します。
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話し手プロフィール

mrshima.jpg島 健治(しま けんじ)氏
三井住友フィナンシャルグループ
サステナビリティ企画部 企画グループ
上席推進役 シニア・サステナビリティ・エキスパート

三井住友銀行にてプロジェクトファイナンス等で支援する開発事業の環境・社会アセスメントのレビューを長年担当し、自然を含む環境リスク評価・管理に豊富な経験を持つ。現在はフィナンシャルグループおよび銀行のサステナビリティ企画部で国際的な規制動向や、自然資本・人権といったテーマについて調査・情報発信を行っている。

聞き手プロフィール

profile_fukastu.png武津 雄太(ふかつ ゆうた)
アミタ株式会社
社会デザイングループ グループマネージャー

製造業を中心とした資源循環スキーム構築の支援、環境管理ICT導入及びBPO活用支援、
脱炭素に向けた目標設定の支援など、サステナビリティに関するコンサルティングを実施。
2023年1月より現職。エコシステム事業創出プログラムCyano Projectの提供を行っている。

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