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環境省「資源循環課」が目指す、日本版サーキュラーエコノミーの未来 〜「規制」から「循環」へ。20年の変化が生んだ国家戦略〜

2025年7月、環境省は「廃棄物規制課」を「資源循環課」へと改称しました。これは単なる看板の掛け替えではなく、日本社会全体の流れと廃棄物・リサイクル行政が「規制」から「価値創造」へと大きくシフトしてきたことの象徴です。

第五次循環型社会形成推進基本計画(以下、第五次基本計画)では循環経済への移行を「国家戦略」として位置付け、2030年までに市場規模80兆円という具体的な数字も掲げられました。国際的な潮流、産業界の変化、そして地域の現場・・・それぞれのレイヤーで何が起きているのか。

今回、アミタ株式会社サーキュラーデザイングループの高瀬が、環境省 環境再生・資源循環局 資源循環課の山田浩司氏と関山聡氏(地域ライン)にインタビューを行い、その狙いと本気度、そして現場の実感を伺いました。

20年の変化と「国家戦略」への決意

「廃棄物規制課」から「資源循環課」へ──改称の意味と「国家戦略」

高瀬(アミタ)

本日はよろしくお願いいたします。早速お伺い出来ればと思いますが、今回、環境省の「廃棄物規制課」が「資源循環課」へと名称が変わりました。外から見るとかなり大きな変化に映りましたが、省内ではどのような経緯があったのでしょうか。

山田氏(環境省)

正直に申し上げると、我々としてはそこまで急に大きく変わったという認識ではないんです。

私は、環境省に入省した20年前に「産業廃棄物課」に配属されました。当時は不法投棄や不適正処理をどう抑えるかがメインの仕事でしたが、この20年の間に業界全体の意識が大きく変わってきました。昔は「規制」が前面に出ていましたが、今、適正処理は「当然のこと」として、その上で資源循環をどう進めるかという議論に変わっています。産業廃棄物課から廃棄物規制課、そして資源循環課へ──、社会全体の流れに合わせて、名前が変わったという感覚ですね。

ただ、名前が変わっても適正処理が大前提であることは変わりません。適正処理の上に、資源循環を目指していく――、この順序は今後も変わりません。

高瀬

資源循環に向けた社会全体の流れという点では、第五次循環型社会形成推進基本計画で「循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行を国家戦略として位置付ける」と明記されました。「国家戦略」という言葉にはどのような決意が込められているのでしょうか。

山田氏

循環型社会形成推進基本計画は閣議決定される文書です。今回、計画を決めるタイミングで関係閣僚会議も立ち上げました。資源循環は環境省だけで実現できるものではなく、経済産業省、消費者庁、農林水産省、国土交通省など関係省庁と一緒に進めていく必要があります。関係省庁に賛同いただいた上で政府全体として取り組むことになったので「国家戦略」ということになりました。

高瀬

経済安全保障や産業競争力という観点も計画に盛り込まれていますね。

山田氏

はい。EUを中心に、海外でも循環経済への移行が大きな政策の柱になってきています。日本としても強い危機感を持って対応しなければならない。国際的な潮流を意識して、このような言葉を使っています。

関連情報:サーキュラーエコノミーにおける日本、世界(海外)の取り組みについて解説!

80兆円達成へのボトルネックと動静脈連携

高瀬

循環経済への「移行加速化パッケージ」で2030年までに市場規模80兆円という数字が示されました。静脈産業の現場からすると、製造業との需給ギャップや品質面の課題も日々感じています。80兆円達成に向けた最大のボトルネックはどこだとお考えですか。

山田氏

おっしゃる部分は多分にあると思います。循環経済という言葉の通り、ビジネスとして自律的に回り、付加価値がついていかなければスケールしません。これまで廃棄物として最終処分されていたものを資源として扱えれば、そこで価値が上がり経済へのインパクトも出てくる。そのインパクトを太くしていくことが、現在の50兆円を80兆円に持っていく一つのポイントになります。

高瀬

2025年に施行された「再資源化事業等高度化法」も、まさにその文脈で設計されているのですね。

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山田氏

はい。高度化法は、動脈・静脈の連携を強く意識しています。これまでは適正処理されていればそれで良しとしていた部分がありましたが、これからは適正処理を大前提としながら、両者が連携してより資源が活用されるよう、後押しする制度として整備してきたことは、メッセージの一つです。

高瀬

製造業側には企業秘密の壁もあり、仕様をオープンにしにくい課題もありますが。

山田氏

おっしゃる通りです。だからこそ、高度化法では、動脈・静脈が連携して申請いただくようにしています。また、静脈側の横のつながりも重要です。お互いの得意なところを補いながら事業を作り上げていく。そういうやり方が一つの解決策になるのではないでしょうか。

高瀬

まさに私たちが運営している「ESA」のようなプラットフォームの場で、横のつながりを作りながら議論していくことがキーポイントになりそうですね。

関連情報:一般社団法人エコシステム社会機構(ESA)

資源循環と地域づくり、ウェルビーイング──現場から見える「楽しさ」という価値

適正処理と挑戦のバランス──自治体の葛藤と共創

高瀬

自治体の方から「適正処理の番人」と「サーキュラーエコノミーの挑戦者」という2つの立場の両立が難しいという声をよくお聞ききします。関山さんはこのバランスをどう受け止められていますか。

関山氏(環境省)

まず、地域によって、資源循環の取り組みやすさや利点はかなり異なると思います。農村地域であれば農業系廃棄物から新しい製品を作って価値をつける取り組みがうまくいっているところもありますし、都市部では不要な金属から有用な素材を取り出すような取り組みもあります。

適正処理と新たな挑戦のバランスについては、自治体と新たに資源循環に取り組む事業者が一体となって、その地域でどんなことができるかを共に考えて進めていただくのが望ましいと思います。既存の許可業者を置き去りにするのではなく、「一緒に新しい資源循環のやり方がないか」と考えてもらう。そういうスタンスで話ができると、自治体も事業者も一緒に進みやすいのではないでしょうか。

高瀬

おっしゃる通りですね。一方で、先ほどのバランスの話だけでなく、例えば扱う資源によっては広域ネットワークが必要になったり、自治体間や事業者間で利害の衝突が起きるケースも増えそうです。そうした現場の悩みを吸い上げる仕組みはありますか。

関山氏

環境省では令和7年度から「地域の資源循環促進支援事業」をスタートさせました。全国の自治体、企業、支援実績のある専門家に参加いただいて、一緒に新しい資源循環のやり方を考える仕組みです。同じ悩みを抱える方々に東京に集まっていただいて、1日かけてワークショップ形式で意見交換をしてもらう。互いの取り組みを紹介し合いながら、前に進めていく取り組みを始めています。

地域づくりと「ウェルビーイング」

高瀬

さきほどの地域ごとの取り組みやすさや利点の違い、といった点にも通じるかと思いますが、循環経済への移行と地域づくりの関係について、お考えをお聞かせください。

山田氏

地域で資源循環をやっていく中で、環境省はこれまでずっと自治体とのネットワークを大切にしてきました。廃棄物はなるべく地域で回すのが、環境負荷としても一番少なくできます。またエネルギーの観点でも、地域で回すのが一番効率的です。

人口は都市に集中していますが、廃棄物は人口ほど一極集中していません。地方には工場があったり、バイオマス系の廃棄物が発生したりします。エリアごとに様相が違い、出てくるものも社会構造も違います。だから一つの解決策を当てはめるのではなく、いろんな答えがあっていい―― 隣の地域でこういう工夫があるというネットワークを作っていくことが、解決につながるのではないかと考えています。

高瀬

第五次基本計画で「ウェルビーイング」という言葉が前面に出てきたことに驚きました。これまでの環境政策は「我慢」「削減」のイメージが強かったのですが、「ウェルビーイング」という言葉を環境政策で使う意図は何でしょうか。

山田氏

「ウェルビーイング」という言葉は、循環基本計画だけでなく、環境行政の根幹である環境基本計画などにも盛り込まれています。環境省が掲げる大きな政策の柱である「脱炭素」「生物多様性」「資源循環」の3つは、社会経済面だけでなく、人々の「心の豊かさ」にもつながるものです。最近では他省庁の政策でもよく使われる言葉ですが、環境省のあらゆる政策に共通する本質的なメッセージとして、非常に発信しやすく、的を射た言葉だと捉えています。

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中高生が教えてくれる、循環の「楽しさ」

高瀬

地域の現場をご覧になっていて、ウェルビーイングにつながる手触り感のようなものはありますか。

関山氏

実際に現場に足を運んだ中で印象的だったのは、中高生向けの取り組みです。例えば、プラスチックの分別。生徒に実際に使用済のプラスチック製品を持ってきてもらって、ちゃんと分別できているかを確認します。するとプラマークがついていても、実際には複合素材だったり、プラの種類で異なることが分かります。そこでソーティングセンターの方に来てもらって「これはこう分けるんだよ」と教えてもらいます。

すると生徒たちは普段使っているものがこんな素材で出来ていて、こんな風に分けられるんだ、と驚きます。分別すればメーカーが製品に戻せて、また皆さんが買っているスーパーに並ぶこともできる。そういう授業を、自治体と企業が一緒になってやっている事例を見ました。

高瀬

次世代が自分の生活と循環のつながりを体感できる。いいですね。

関山氏

そして何より印象的だったのは、そうした取り組みをしている自治体や企業の担当者の方々が、皆さん楽しそうにやっているということです。

正直、皆さん苦労しながらやっているのかなと思っていました。でも実際にいろんな方と会うと、本当に楽しそうに豊かにいろんな取り組みをされています。新しいことに挑戦すること自体が、一人ひとりの幸せにつながっているんじゃないかと感じています。

高瀬

「楽しさ」という価値は大事ですね。私も現場で同じことを感じます。

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地域の多様性と横展開──先進モデルと独自性のバランス

高瀬

先進事例を横展開していくフェーズに入っていると思いますが、ある程度の標準化・パターン化と、地域の多様性をどう両立させていくのでしょうか。

関山氏

それぞれの地域の違いは、むしろ特徴であり強みだと思っています。その地域でしか取れないもの、その地域でしか集められないものをうまく活用して、地域の文化や廃棄物処理の歴史を踏まえた上で新たな一歩を踏み出すこと。同時に先進事例をまず見ていただき、自分たちに最適化するにはどうすればいいかを新しいネットワークの中で考えていただくこと。そうやって地域独自の資源循環を作り上げることに楽しみを覚えていただければと思います。

高瀬

企業は「水平リサイクルのためにこの素材を集めたい」、地域は「地元の資源を地域で活かしたい」と、ニーズがかみ合わないケースも多いですよね。

関山氏

本当に難しいですよね。廃棄物という観点から見ると、使いたいニーズがあるものとないものがセットで出てくるので、いいとこ取りだけしようと思ってもそうはいきませんし、なかなか「これで」という答えはありません。ただ、一般廃棄物は自治体が、産業廃棄物は排出事業者が処理責任を持つという役割分担があります。その中から有用なものを取り出して資源として活用していく。適正処理を維持しつつ付加価値をつけていく。廃棄物処理コストがゼロになったり、逆に儲かったりするまでは難しいですが、付加価値をつけられる部分で処理コストを下げていくという方向性になると思います。

高瀬

多くの自治体に共通する悩みと言えば、焼却施設の耐用年数が近づき、リプレイスが進む中、生ごみをはじめとする燃えるごみをどう減らすか。財政面でも大きな課題だと聞きます。

山田氏

環境省では、焼却施設については、なるべく広域化を進めていきましょうとお話ししています。一部、事務組合で共同処理する方法もありますし、都道府県主導でブロックごとに計画を立てていただくなど、定期修繕期間中に他の自治体のものを融通し合うや、人口減少を見込んで施設を小さめにして隣の街と助け合う等、やり方は様々あると思います。

高瀬

生ごみについてはいかがですか。

山田氏

バイオマス系廃棄物については、地域によっては浄化槽汚泥や飼料と一緒に共同処理する例もあります。これは排出の際に分別して出していただくやり方で、きれいに生ごみを集めてバイオガス化し、他の資源と一緒に処理する方法です。一方都市部では、バイオガス施設と焼却施設を組み合わせるやり方もあります。地域に合った形で進めていただければと思います。

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再資源化事業等高度化法──社会実装をスケールさせる仕組み

高瀬

再資源化事業等高度化法について、法制度の特徴やポイントを改めて整理していただけますか。

山田氏

まず、認定制度とは別に、廃棄物処理に携わっているすべての方に「判断基準」として、再資源化をより効率的・合理的に進めていただくことへの意識づけをしています。

廃棄物であっても利用価値があるのではないかと常に意識し、資源として活用できる機会がないか検討していただきたいです。

その上で、もう一歩踏み込んでやろうという方には、認定制度を用意しています。都道府県ごとの許可を、国の認定で不要にするという制度です。

高瀬

認定制度の具体的なメリットと狙いを教えてください。

山田氏

最大のポイントは、国の認定によって都道府県ごとの廃棄物処理許可が不要になる点です。狙いの一つは動脈・静脈連携の推進で、単に集めるだけでなく動脈側のどこに再資源化したものを供給するかを意識していただくことが重要です。製造側も一定量が確保できなければ安定した生産につながらないため、広域的な資源収集が必要になります。収集運搬の都道府県ごとの許可を不要にする制度とセットにして、量と質を確保しながら製造事業者のニーズに応える仕組みを作るのがコンセプトです。今の規模ではやりにくいものを、全国を視野に入れてスケールアップしていただくのが大きな狙いです。

高瀬

「高度化法」という名前から、最先端の技術がないと使えないと感じる事業者もいるのでは。

山田氏

必ずしもそうではありません。既存の技術を活かしつつスキームを改善してスケールアップする、多様なパートナーと連携してターゲットの廃棄物量を確保する、そういった既存ビジネスの延長線上のスケールアップでも大いに歓迎です。

自治体についても同様で、規模が小さいために専用施設を用意できず最終処分されていたものも、高度化法の認定を受けた事業者とタッグを組んで複数の自治体から広域で集めて処理するといった活用方法もありえるのではないでしょうか。

高瀬

地域での取り組みが起点となり、社会実装・スケール化の段階で高度化法が活きてくる、という流れですね。

山田氏

まさにそうです。「地域の取り組み」が具体化して、いざ社会実装しようという段階になった際に、高度化法が手助けになればと思っています。制度という後ろ盾があることで、事業者も自治体も踏み出しやすくなる、そういう制度として広く活用していただければと思います。高度化という名前で敷居が高く見えがちですが、自分たちの事業にこの制度を使えないかという視点で考えていただき、まずお気軽にご相談ください。

おわりに:循環経済を「自分ごと」にするために

高瀬

今日は貴重なお話をありがとうございました。

関山さんの「新しいことに取り組んでいる自治体や企業は、皆さん楽しそうにやっている」というお話が一つの象徴のように思われましたが、循環経済は、経済システムや行政の仕組みを変えるだけでは根付かない。私たち一人ひとりのライフスタイルが変わっていく必要があり、そのためには「循環に参加することが楽しい」「地域の資源を使うことで自分の暮らしが豊かになる」という実感が大切なのだと改めて思いました。

追加で発生するコストも、生まれる新しい価値も、どうみんなで分配していくか。そのバランスを取りながら生活者・市民の皆さんに届けていくことが重要なのだと、お話を伺いながら強く感じました。私たちアミタも、企業や自治体の皆様と一緒に、日本版サーキュラーエコノミーの実現に向けて取り組んでいきたいと思います。本日はありがとうございました。

話し手プロフィール(取材時点)

山田 浩司氏

環境省 資源循環課 課長補佐 (併任:総務課 資源循環企画官)

平成17年に環境省採用。廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課、厚生労働省水道課、中間貯蔵チーム、環境再生・資源循環局廃棄物処理適正課、廃棄物規制課などを経て、現職。

関山 聡

環境省 資源循環課 課長補佐

平成13年に財務省東京税関採用。平成21年に財務省主計局から環境省へ出向。平成25年に環境省へ転籍、その後指定廃棄物対策チーム、会計課、廃棄物処理適正課、地球温暖化対策課などを経て、現職。

聞き手プロフィール(取材時点)

高瀬 晴太

アミタ株式会社 未来デザイン本部