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コラム

産業廃棄物処理委託契約書の作成、損害賠償請求、契約解除事由等はどう書く?佐藤泉先生の「廃棄物処理法・環境法はこう読む!」

190910_ImagebyGerdAltmann_from_Pixabay .jpg廃棄物処理委託契約には、法定記載事項以外の内容を記載することがあります。今回は、損害賠償契約解除事由など法定記載事項以外で一般的に記載される内容や、その注意点をご紹介します。
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(1)法令の遵守

よくある疑問
Q.現在、契約書において法令遵守に関する記載を行っていません。記載が無いとトラブルがあった際に、不利益が発生しますか?
A.法的には法令遵守に関する条項の有無に関わらず、契約の当事者には、日本の法令及び条例遵守の義務があります。そのため、条項の記載が無い場合でも法的な義務に変わりはありません。

(解説)多くの契約書に「排出事業者(甲)及び処理業者(乙)は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律その他の関連法令を遵守するものとする。」という記載があります。しかし、この条項がなくても、契約の当事者は、日本の法令及び条例遵守の義務があります。また、法令の遵守だけではなく、常識に基づく説明義務、事故防止、安全対策等の義務を負っています。
したがって、法令遵守の条項は、法的には意味がなく、確認の意味と考えてよいでしょう。

(2)損害賠償に関する記載
よくある疑問
Q.現在、契約書において損害賠償請求に関する記載を行っていません。記載が無いとトラブルがあった際に、損害賠償請求をできなくなるのでしょうか?
A.処理委託契約書に特段の記載がなくても、相手方に契約不履行があった場合には、民法に基づき債務不履行又は不法行為による損害賠償請求ができます。

(解説)例えば、下記のような事例が挙げられます。

  • 排出事業者が、故意または過失によって、リチウムイオン電池などの危険物を混入させた場合で、これによって処理業者の施設が破損・操業停止が発生した場合
    排出事業者は処理業者に発生した損害を賠償する義務があります。
  • 処理業者が不法投棄や横流しをした場合
    処理業者は排出事業者に発生した損害を賠償する義務があります。

しかし(処理委託契約書に特段の記載がなくても)、処理委託契約書において、「具体的な禁止事項」 や「損害賠償の予定額」を記載することによって、紛争の防止や早期解決が期待できます。ただし、一方当事者にあまりに有利な契約は、後日紛争になる可能性があるので、お勧めしません。例えば、排出事業者が「廃棄物に異物等が混入して事故が発生した場合であっても、廃棄物処理業者が排出事業者に請求できる損害額は処理料金の2倍を上限とする。」というような規定は、実際に火災や人身事故が発生した場合には無効とされる可能性が高いです。排出事業者は、廃棄物の性状等について、説明義務を負担しています。したがって、この説明義務を実質上無効化するような契約には問題があります。
さらに、トラブルを防止・解決するためには、契約書への記載だけではなく、当事者間で双方向の情報共有により注意喚起をすることが有効です。例えば、処理業者は、排出事業者に対し、「近時、廃棄物処理施設において○○による火災等が発生する事案が多発しています。○○の混入がないよう、事前にご確認ください。」というような注意のメール、ファックス、手紙等を配布して、事故防止に協力を求めることは、契約書に記載するよりも、現実的であり、かつ効果があると思います。

(3)リユース・リサイクル・部品取り等に関する記載
よくある疑問
Q.処理業者に対し、リユース・リサイクル・部品取り等を禁止する条項を記載しようと考えています。そもそも、処理業者によるリユース等は適法ですか?
A.処理業者が許可の範囲で3Rに取り組むことは適法です。しかし、近年、廃棄製品等の委託時に横流し防止のために、リユース等の禁止又は方法の限定に関する記載が増えているようです。一方で処理業者における3Rの推進も重要ですので、当事者間での話し合いが必要であると考えます。

(解説)
一般的には、排出事業者は廃棄物の所有権を放棄しているので、処理業者は許可の範囲で3Rに取り組むことができます。例えば、下記の例が挙げられます。

  • ペットボトルや空き缶などの空容器の処理について
    中間処理業者が、圧縮・梱包・破砕などを行って、処理後物を売却することは適法であり、常識的に排出事業者の承諾は不要。
  • 建設廃棄物の処理について
    建設廃棄物に含まれる鉄スクラップについて、中間処理業者が事前選別をして売却することは適法であり、常識的に排出事業者の承諾は不要。

また、廃棄物処理法では、積替え保管場所での有価物回収も認めています。
しかし、メーカーが排出事業者としてリコール品・不良品・在庫品を処分する場合には、処理業者に対し、リユース・リサイクル・部品取り等を一定の範囲で禁止する場合があります。
特に、特許や著作権がある商品については、メーカーが横流し防止のために、リユース・リサイクルの方法を禁止又は限定する例が増えています。例えば、「破砕して金属回収する場合には必ず○○センチ以下に破砕すること」、「部品取りはしないこと」などの条件を記載する例があります。トラブルを防止するためには、排出事業者と処理業者の間で、リユース・リサイクル等に関する考え方を、事前に確認した方がよいでしょう。確認内容は、全部契約書に記載する必要はなく、議事録やメールなどで文書にしても大丈夫です。
なお、処理業者が、委託された商品廃棄物をそのままネットオークションなどに出すことは、契約違反であり、同時に処理をせずに処理報告を行ったとしてマニフェスト虚偽記載に該当します。

(4)現地確認への協力義務

廃棄物処理法では、排出事業者は処理施設の現地確認をする努力義務があり、さらに複数の自治体ではこの現地確認を義務化しています。そこで、契約書において処理業者に対し、排出事業者の現地確認について協力する義務を定めている例があります。一般的には、処理業者は合理的な範囲で排出事業者の現地確認を認めていますので、必要性の低い条項だと思います。

(5)反社会的勢力排除条項・機密保持条項

排出事業者、処理業者を問わず、反社会的力排除の条項及び機密保持条項を記載する例があります。一般的な記載であり、問題ないでしょう。

(6)契約解除事由

契約解除条項では、一般的に、契約当事者による契約の解除ができる事由を各号で列記するように規定します。この契約を解除できる事由のことを、「契約解除事由」といいます。 契約解除条項は、通常の契約では重要であり、契約当事者間で、料金不払い等により信頼関係が失われた場合、解除条項に基づく催告や通知により、契約を終了させることができます。しかし、廃棄物処理委託契約の場合には、契約を解除しなくても、排出事業者は将来個別の処理委託をしない、または処理業者は将来個別の処理受託をしないというだけで、結果的に契約解除と同じ効果が得られます。したがって廃棄物処理委託契約では、契約解除条項はあまり重要ではないと思います。 

(7) 処理料金の支払い代行・受領代行

排出事業者と処理業者間に、処理料金の支払・受領を担当するいわゆる管理会社が介在することがあります。その場合、処理料金の支払いルートに関する合意を、処理委託契約書の中に記載する場合と、別途覚書を作成する場合があります。どちらも有効ですが、処理委託契約書に記載するメリットは、覚書用の印紙が不要となることです。しかし、処理委託契約書に支払いルートを記載する場合、処理委託契約書が複雑になるため、覚書を別途作成している会社が多いと思います。また、支払代行の合意について、覚書を作成する必要はなく、当事者が承認していればよいので、メールでの確認、通知等の形式で問題ありません。

最後に

契約書を作成する場合、主語と述語をはっきりさせ、分かりやすい内容にすることが必要です。管轄自治体の行政担当者は、排出事業者及び処理業者に対する立入検査をする際、契約書を確認することがあります。また、行政から報告徴収の際、契約書の写しを行政に提出するよう求められることもあります。契約書の保管ファイルは、契約期間中のものと、終了したものを分け、地域別又は名前順等により、いつでも簡単に検索できるように整理して保管することをお勧めします。

執筆者プロフィール

佐藤 泉(さとう いずみ)氏
佐藤泉法律事務所 弁護士

環境関連法を主な専門とする。特に、企業の廃棄物処理法、土壌汚染対策法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法等に関連したコンプライアンス体制の構築、紛争の予防及び解決、契約書作成の支援等を実施。著書は「廃棄物処理法重点整理」(TAC出版)など

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