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コラム

自治体新電力の意義~地域経済循環や地域脱炭素化の主体に~地域新電⼒の未来 〜⽣き残りをかけて脱炭素社会・地⽅創⽣の担い⼿へ〜

Image by Arek Socha from Pixabay .jpg自治体が出資等で関与し、限定された地域を対象に電気供給(小売電気事業)を行う「自治体新電力」が注目されており、全国各地で設立されています。
本コラムでは、生駒市における監査請求の事例などを踏まえ、自治体新電力の意義について考察するとともに、自治体新電力による地域脱炭素化の可能性について言及します。

Image by Arek Socha from Pixabay

自治体新電力の設立目的

はじめに、自治体が自治体新電力によって解決したい主な行政課題を表1に整理しました。また、その行政課題に、自治体新電力が手段として合致しているかを示しました。
表1を見ると、1~4の行政課題それ単体を達成するためには、他の手段が優れているまたは他の手段が存在します。しかしながら、4つ全てを同時に、自治体の出資数千万円程度で、満たしうるところに自治体新電力の手段としての優位性があると言えます。ただし、ここで注意が必要なことは、3の「地域内経済循環」や、4の「地域脱炭素化」の主体になるには、単に新電力を設立しただけでは目的が達成しない点です。目的達成の手段である自治体新電力がその意義を生むためには、地域外にお任せにしない「内発的発展」が必要になるのです。

表1 行政課題と自治体新電力が手段として合致しているか

行政課題 自治体新電力が手段として合致するか
1.公共施設の電気代削減 自治体新電力を設立して供給するより、入札した方が安くなる。
2.地域の再エネを公共施設等に供給することで、「エネルギーの地産地消」という概念価値を得る 自治体新電力を設立せずとも、地域電源という要件をつけて、公共施設の電力を入札することで達成できる。
3.地域経済循環 業務内製化・地域出資であれば、電気代のうち新電力の一般管理費・利潤相当分が循環する。
(地域外事業者にお任せであれば、地産地消でも地域経済循環は起こらない。)
4.地域脱炭素化 小売電気事業者である必要は必ずしもないが、地域低炭素化事業(省エネ、再エネなど)にあっては一定のノウハウ横展開や相乗効果は有。
地域研究で頻出するキーワード「内発的発展」

内発的発展とは、農村振興・地域産業・途上国支援等の分野で研究されてきた概念で、外来型開発に対置するものとして位置付けられています。これまでの様々な実証研究では、外来型開発の限界が指摘され、持続的な地域の発展には、外部に全て任せるのではなく、地域主体でノウハウを地域に取り込み、地域発展能力を形成していくことが重要であることが示されています。この概念が自治体新電力にも当てはまります。
注:内発的発展とは、全て地域でやるという意味ではありません。外部にお任せではない「外部活用」は推奨されます。

事例から考える自治体新電力の真の意義

自治体新電力の意義を考えるにあたって、生駒市における住民監査請求の事例を紹介します。生駒市は、生駒市の出資する自治体新電力「いこま市民パワー」と随意契約を結んでいますが、この契約について、周辺市より割高な電気を購入しているとして、2018年11月に生駒市に対し住民監査請求が行われました。当該監査請求では、政策遂行上、市がいこま市民パワーから優先的に電力を購入する必要があることを認め「直ちに違法又は不当であるということはできない」と、2019年1月に退けられています。(2021年1月現在、原告側が不服として、行政訴訟となっています。)

本件で注目すべきは、次の監査委員の見解です。一般競争入札をした場合といこま市民パワーから購入する場合とに差額が生じるのであれば、それは市の政策遂行のコストと考えられること、コストを認識したうえで政策遂行の有用性、必要性を検証すべきであるというものです。住民監査請求を通じて「いこま市民パワーは、政策遂行コストを上回る効果を出す必要がある」と指摘されたのです。
自治体新電力の多くが、随意契約を行います。そのコストは一般競争入札より高くなります。そして、一般的に、自治体新電力の利益を地域還元するだけでは、入札による電気代削減効果には及ばないことがほとんどです。その他の効果を発揮する必要があります。そこで、考えられる効果の1つが、冒頭で述べたような「地域内経済循環」や「地域脱炭素化」の主体となることです。これらは、自治体新電力の真の意義とも言えるでしょう。単に地産地消という概念価値を得たい、公共施設の電気代を安くしたいというだけであれば、条件付き入札など別の方法で達成した方がよいのです。
そして、主体形成のためには、地域外事業者に業務をお任せにせず、地域内にノウハウを蓄積した内発的発展が必要です。
生駒市といこま市民パワーの取り組みは、この住民監査請求が1つのきっかけとなり、加速しています。電源構成に占める再生可能エネルギーの比率の向上に取り組んだ他、今後は、地域の家庭用太陽光発電からの電気の買い取りや、いこま市民パワーが中心となった太陽光発電の事業立ち上げも目指しています。市の政策の実現に向けて、取り組みが強化されています。
【参考情報】日経エネルギーNextWebサイト

地域脱炭素化の主体への期待

これまで自治体は、地域の低炭素化に向けて、普及啓発や補助金交付などしかとれる手段がありませんでした。収益性と時間軸を踏まえた検討が大前提ですが、将来的には、自治体新電力が自治体の環境施策を担う重要なプレイヤーとなる可能性があるのではないでしょうか。
その昔、ドイツにもFIT(固定価格買取制度)が無かったころ、ドイツのアーヘン市では、1995年に条例により電気料金を1%値上げし、それを原資に、アーヘンの都市公社が固定価格で再生可能エネルギーからの電気を買い上げることを保証しました。「アーヘンモデル」と呼ばれたこのモデルは、FITの原型となり、後のドイツのFIT(そして世界のFIT)につながったと言われています。
これに倣えば、FIT制度が終了する将来、自治体新電力が非FITの再エネ開発に再投資したり、発電事業者と長期契約(コーポレートPPA)すること、さらに新規非FITの再エネ開発を促したりすることで、ポストFITにおける再エネ拡大を牽引できるとも考えられます。特に再エネ開発においては、地域密着の自治体新電力の方が、より地域との共生がなされやすいのではないでしょうか。実際に、再エネ開発に関与していく方針を持った自治体新電力はいくつか出てきています。前述で紹介した生駒市や秩父市など、既に温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)における自治体の実行計画に自治体新電力を位置づける自治体も出始めており、今後、自治体新電力による地域脱炭素化事業の広がりに期待したいと思います。

地域新電力間でのノウハウやシステムの共有

地域新電力や自治体が中心の会員である一般社団法人ローカルグッド創成支援機構では、地域新電力・自治体新電力の設立・運営支援を行ってます。具体的には、需給管理をはじめとする様々な業務ノウハウを共有することで、各地域でのノウハウ蓄積を支援しています。ノウハウの地域化により雇用の創出、地域経済循環が図られるとともに、地域主体の持続的な事業となるためです。また、需給管理・料金計算・顧客管理など業務システムを会員間でシェアすることで、コストを削減し、競争力強化を図っています。
さらに、度重なる電力制度変更に対応するため、会員間での情報共有、戦略の共有、省庁・自治体・有識者等とのネットワーク構築なども行っています。小さくなりがちな地域新電力ですが、協力・連携により、地域創生を実現すべく尽力しています。
(一社)ローカルグッド創成支援機構 https://localgood.or.jp

まとめ
  • 自治体が出資等で関与し、限定された地域を対象に電気供給(小売電気事業)を行う「自治体新電力」の設立が増加している。
  • 自治体新電力の設立目的・利点は「公共施設の電気代削減」「エネルギーの地産地消」「地域経済循環」「地域脱炭素化」など、行政課題の解決に、同時に貢献できる点である。ただし、行政課題解決に取り組むにあたっては、外部に全てを任せるのではなく、地域主体で取り組む「内発的発展」が重要となる。
  • 自治体新電力は、一般競争入札と比べて、費用が割高となる可能性があり、それらを上回る効果を示す必要がある。単なる電気代の削減においては、条件付き入札などが有効であり、このことからも、自治体新電力の真の設立目的は、地域経済循環や地域脱炭素化のための「主体形成」であると言える。
  • 自治体新電力は、地域の低炭素化において、普及啓発や補助金交付に代わる新たな手段として注目されている。

※本稿は執筆者の個人的見解であり、所属する団体の見解を示すものではありません。

執筆者プロフィール(執筆時点)

稲垣 憲治(いながき・けんじ)氏
一般社団法人ローカルグッド創成支援機構・事務局長

文部科学省原子力計画課、東京都庁再エネ推進課等を経て、地域活性化・地域低炭素化への思いが高じ、2020年7月から現職。これまで自治体の再エネ普及策の企画、新電力の設立・運営などに従事。現在は、地域新電力の価値創出、競争力強化に全力で取り組んでいる。また、京都大学大学院において「地域新電力×再エネ×まちづくり」に関する地域経済効果や内発的発展についての研究活動も手がける。自宅では、もちろん再エネ(FIT)率の高い電力を使用。

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