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コラム

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)への取り組みがもたらす企業価値とはダイバーシティ&インクルージョン(D&I)経営による企業価値創出

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本コラムでは、ダイバーシティ&インクルージョンを企業経営に取り入れる重要性を紹介します。ダイバーシティ(多様性)という言葉はかなり一般的になりましたが、いまだにダイバーシティ=女性活躍推進のように特定の属性と結びつけ、狭い意味で使われていることも多くあります。またインクルージョン(包摂・包含)こそが成功のカギといえるものですが、インクルージョンを十分に理解している企業が少ないのも現状です。今回は、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性を社内外の視点から概観し、企業価値を高めるためにどのように取り組めばよいのかを考えます。

Image by Hannah Busing from Unsplash

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは

ダイバーシティ&インクルージョンとは「一人ひとりの多様性をあるがままに受け入れ、活かしていくこと」を意味しています。

性別や年齢、価値観や考え方、ライフスタイルなど様々な属性を持つ人々が働く場では、その違いから、緊張感が生まれたり対立や衝突、摩擦が起きることもあります。「多様な人が共に働く」ことは、決して楽しいことばかりではありません。けれど、多様な人がいるからこそ、時にぶつかり合いながらもそこに活力が生まれ、新しい価値やイノベーションの源泉となるのです。ダイバーシティの成果を出すためには、お互いの違いを理解、尊重し、一人ひとりを組織の一員として受け入れ、対等に関わり合い、その能力が組織で十分に発揮される状態を作り出すインクルージョンをセットで考えることが不可欠です。

ダイバーシティ&インクルージョン経営は「社員一人ひとりの多様性を受け入れ、組織の成長や活性化、企業価値の向上を図ること」を意味します。その目指す姿は、誰もが働きやすく長く働ける職場を作ることだけではなく、社員一人ひとりの個性や価値観、違いを活かし、強みとして最大化していくことです。ダイバーシティ&インクルージョンの推進は単なる職場環境の整備や働き方改革を越えて、イノベーションを生み出す重要な経営戦略なのです。

「ダイバーシティ」への無自覚が根底に?ダイバーシティ炎上はなぜ起こる

グローバル化が進む中で、経営戦略としてダイバーシティ&インクルージョンに取り組むことは不可欠となっています。世界中で爆発的な感染を引き起こしている新型コロナウイルスや世界各地で頻発している紛争問題が、遠く離れた日本に住む私たちにも様々な影響を与えていることを多くの人が実感しているのではないでしょうか。また、何気ないSNS上の投稿をきっかけに商品が生まれる、海外のスターから「いいね」されて、世界中の注目を集め取材を受ける、といったケースも珍しくなくなってきました。一方で、悪意なく無意識に行った企業の情報発信やCMなどが、マイノリティや特定の属性への思い込みやきめつけと受け止められ、時に「ダイバーシティ炎上」といわれるような厳しい批判にさらされることも多くなっています。先日閉幕したオリンピック・パラリンピックをめぐる様々な騒動は、まさに「多様性」に対して無自覚であったために引き起こされたといっても過言ではありません。たとえ自社のビジネスが国内中心であったとしても、世界の動きと無縁ではありえない、それが私たちの置かれた状況です。特にSDGsの浸透に伴い、ダイバーシティを尊重したビジネスのあり方が、新しい常識になりつつあります。

高まるESG投資 日本企業の経営戦略上の弱点はS(社会)

また、社会に良いことをしている企業に投資するというESG投資の動きが加速しています。
世界の投資の40%近くをESG投資が占め、2018年から2020年にかけてのESG投資額は15.1%増加しました。E(環境)やG(ガバナンス)には積極的に取り組む日本企業も、S(社会課題)への対応は大きく遅れています。社会課題に関するものとしては、人権、人的資本、製品やサービスの安全・責任、公正なマーケティング、紛争地域への対応、労働基準・労働慣行、安全衛生、サプライヤー管理、データセキュリティなどがありますが、ダイバーシティは、このSの部分に深くかかわるテーマでもあります。2021年に改訂されたコーポレートガバナンスコードでも、取締役会や中核人材においてジェンダーや国際性などの多様性を十分確保するよう要請しています。企業としてダイバーシティに本気で取り組んでいるか、世界の投資家からも厳しく評価されているのです。

多様化する価値観やライフスタイル、組織内の新しいマジョリティ

一方、目線を組織内に転じてみても大きな変化が起きています。高度成長期以降の日本企業は「新卒・男性・日本人」を一般的な人材モデルとして成長してきました。「専業主婦を持つ働く夫、二人の子ども」この家族構成は標準世帯と呼ばれ、税制や社会保障制度は標準世帯を基本として成り立ってきました。しかし、現在標準世帯は総世帯数の5%に満たないと言われています。職場の中では圧倒的に共働き世帯が増え、ひとり親世帯やシングルも増えています。家事、育児、介護など様々な制約を持って働く人が当たり前となり、女性や高齢者、外国人なども含め、これまで組織のマイノリティであった人達が、マジョリティとなる時代になったのです。変化の激しい時代、ダイバーシティは「誰か」の問題ではなく、誰もが当事者になりうる「私たち」の問題でもあるのです。

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ダイバーシティは社員一人ひとりの強みを活かすインクルージョンへ

多様性を持った社員が職場のマジョリティとなった現在では、ダイバーシティ推進は「できる・できない」の問題ではなく「やるか・やらないか」というレベルに来ています。もっというならば「やらない」という選択肢は、もはやあり得ないと言っていいでしょう。
今、多くの職場は「フルーツバスケット」の状態にあります。そこにイチゴがなくても、バナナがなくても組織の姿に大きな影響を与えることはありません。多様な人が「ただそこにいる」だけでは残念ながらその効果は限定的です。今、必要なことは「ミックスジュース」をめざすことです。多様な人がそれぞれの持ち味を生かしながら交じり合うことで「多様性から知のシナジー(相乗効果)」を生み出すことができるのです。

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ダイバーシティを活かすカギは「心理的安全性」の有無にあり

多様な人が混在する職場では、社員同士の十分なコミュニケーションが不可欠です。初期のダイバーシティ推進は「女性活躍」や「育児・介護支援」「障がい者雇用」など特定の属性への支援に偏りがちですが、相互理解やすべての人を尊重する視点がないと、周囲の人たちとの不協和音が生じたり、不平等・不公平感を生み出すことにもなりかねません。
また、多様な人が共に働くということは決して楽しいことばかりではありません。時には衝突や対立も起こります。現在のように、仕事が属人化したりスピードや効率が求められたり、コミュニケーションがとりづらい状況では、相互不信やストレスが増大し、関係性の悪化にもつながる恐れがあります。インクルーシブな(多様な人を受け入れ活かす)組織を実現するカギは「職場の心理的安全性」にあります。心理的安全性とは、恐れや不安、リスクを感じることなく弱さをみせて、本音で話したり行動できる状態のことを言います。
次回は、職場の心理的安全性を高め、新しい価値を生み出すためのヒントを紹介します。

執筆者プロフィール

arakane_profile.jpg 荒金 雅子(あらかね まさこ)氏
株式会社クオリア
代表取締役

1996年米国訪問時にダイバーシティのコンセプトと出会い強く影響を受ける。以降一貫して組織のダイバーシティ推進や働き方改革の実現に力を注いでいる。意識や行動変容を促進するプログラムには定評があり、特にアンコンシャス・バイアストレーニングやダイバーシティ&インクルージョン推進プログラムは高い評価を得ている。

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