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コラム

第一回「移行戦略」とは?これからも続く企業であるためにトランジション・ストラテジー(移行戦略)のすすめ ~循環型ビジネスの実現~

+01_ZR4C7208.JPG気候変動の分野では「脱炭素への移行(トランジション)」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし企業にとって、脱炭素の実現はゴールではなく、持続的にビジネスを継続するための条件の一つを満たしたに過ぎません。企業の持続性を高めるためには部分的な環境負荷の低減ではなく、循環・持続性といった概念の本質を見据えた移行戦略が必要です。本コラムでは、アミタが考える「トランジション・ストラテジー(移行戦略)」を解説します。第一回は「移行戦略の基本の考え方」について紹介します。

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目次
脱炭素で急速に注目を集める「移行戦略」とは?

2020年10月に菅首相が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言して以来、日本国内の企業においてもカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出量ゼロ)を目指す動きが急速に進んでいます。また、技術導入することですぐカーボンゼロになるわけではありませんが、カーボンゼロに至る過程にある技術を積極的に導入する潮流も生まれています(例:水素・アンモニア混焼技術)。
こうした企業の脱炭素に向けた変化は、一般的に「トランジション(移行)」と呼ばれており、大きな注目を集めています。例えば、CDPの情報開示プログラムでは、2022年より1.5℃目標に対する「移行計画の有無」が質問書に加えられており、企業に対しては温室効果ガス削減の目標の立案(ゴール)だけでなく、目標達成に向けた移行計画(プロセス)を示すことが重視されています。
脱炭素の潮流に対する社会的な認識は、かつては「企業に追加コストを要求する」というものでしたが、次第に「あらゆる業種業界にリスクと機会をもたらす」という見方がされるようになっています。世界では120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を宣言しており、投資活動も盛んです。日本では、経済産業省によって、企業の移行への取り組みに対する資金供給(トランジション・ファイナンス)において新しいファイナンス手法が推進されています。

esg.png「ESG市場の拡大」
(出典)資源エネルギー庁Webサイトより

気を付けたい!「移行戦略」の思わぬ落とし穴

脱炭素においては社外への取り組みの発信も企業価値を上げていくために重要になります。各企業は情報開示を強化するため、SBT、TCFD、RE100といった各種イニシアチブに参画しており、2022年3月時点の環境省の調査によれば、日本企業の参画は世界でもトップクラスとなっています。

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「TCFD、SBT、RE100取得状況」
(出典)環境省ウェブサイトより

しかし、既存のビジネスモデルをいくら「改善」しても、CO2や廃棄物の排出量をゼロにするということはほとんど不可能であると言われています。だからといって、既存のビジネスモデルを完全になくすということは現実的ではないでしょう。カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーを実現するためには、CO2や廃棄物の排出がそもそもゼロであるという前提に基づいた新しいビジネスに投資をし、可能な限りシフトチェンジしていく「攻めのESG」が必要です。
アミタでは企業が本質的に持続可能であるために、守りと攻め、以下の2つの戦略を同時に走らせることをトランジション・ストラテジー(移行戦略)と呼んでいます。

amita_esg.png「守りと攻めのESG戦略」
アミタ作成

※CDPにおける「低炭素移行計画」とは、1.どのように企業がネットゼロ排出に到達するか、また2.ネットゼロに達した後もどのように収益をあげるビジネスモデルに移行させるかということを示すものとされています。本記事におけるアミタの移行戦略とは、この1.2.を別々に検討するのではなく、同時に、統合的に検討するということを指しています。

企業の本来の目的は、事業を通じてミッション、パーパス、ビジョンといったもので表現される「企業理念」を実現することであり、CO2や廃棄物の排出をゼロにすることだけが重要ではありません。しかし、脱炭素やサーキュラーエコノミーに取り組むということは、気を付けなければそれがゴールとなってしまい、手段が目的化するという落とし穴に陥ってしまいます。
そうならないためには、脱炭素等への部分的な対応ではなく、経営戦略・事業戦略と合わせて考えることが重要です。アミタでは、移行戦略を経営戦略・事業戦略の領域で検討すべきであると考えています。

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「移行戦略(トランジション・ストラテジー)の領域」
アミタ作成

なぜ移行戦略が必要なのか

この数年来「未来はVUCAであり現在の延長線上にはない」と言われています。では具体的に、何が企業の過去と未来を不連続なものにしているのでしょう。
それは、これまでのビジネスの成長を生み出していた基盤であり原動力、いわば「成長エンジン」と呼ぶべきものの変化ではないでしょうか。

amita_business.png

「企業の成長エンジンについて」
アミタ作成

調達・流通における目下の課題として、コロナ禍や紛争によるサプライチェーンの混乱がありますが、このような状況は決して一時的なものではなく、少しずつ様相を変えながら総体として常態化していく可能性が高いと思われます。
その要因の一つが、気候変動や資源枯渇といった地球環境の制約の深刻化です。世界経済フォーラムが発表した2022年の世界の重大リスクでは感染症をはじめ、気候変動対策の失敗や異常気象、生物多様性の損失、債務危機などが挙げられています。

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「深刻度から見たグローバルリスク トップ10」
(出典)Global Risks Report 2022より

今後は、従来の経済モデルの常識が崩れ、かつてなら企業に成長をもたらしてくれたはずの優れた仕組みやアイデアの多くは、全く通用しなくなってしまいます。
不安定・不確実の世の中で企業が成長していくためには、変化することが必要不可欠となります。「サステナビリティ経営」とはVUCAな時代において、企業がCO2や廃棄物を減らすことそれ自体を目指すのではなくて、減らした後にどうするかも含めて、事業をマネジメントしていくということを指しています。
それは例えば以下のように、ESG観点から見た際の「守り」「攻め」双方の戦略に基づいた循環型の事業ポートフォリオへ移行していく計画を立てるということです。

amita_business_model_change.png「移行戦略の立案による循環型ビジネスポートフォリオ」
アミタ作成

企業の持続性を向上させる経営スタイルとは

移行戦略を可能にする経営、CO2や廃棄物の排出がゼロでも成長を可能とする経営、不安定・不確実な時代でも持続可能な経営とはどのようなものでしょうか。
アミタでは「外部状況に応じて絶えず変化しながら価値を創造し続ける」ことがポイントであると考え、自然の生態系からヒントを得て、そのような経営スタイルを「エコシステム経営」と呼んでいます。

「エコシステム経営」とは、循環型のビジネスモデルを有することに加え、以下の2つの要素を持ち合わせた経営のことです。

amita_ecosystem.png

「エコシステム経営の実践」
アミタ作成

    1. 社内外のステークホルダーを統合する共通の価値観
      統一ミッション・企業文化性の強化により、新規事業創出や変革時に発生する取引コスト(既得権益者等との調整コスト)を削減できる
    2. 変化に強い組織能力(ダイナミック・ケイパビリティ)
      外部環境の変化に対し、組織内外の経営資源を再結合・再構築し、価値を生み続ける組織能力を持つことでVUCAな時代に適応できる

組織が変化するにあたっては、変化前と変化後の状態に対して、一貫した共通の価値観があることが重要です。そうでなければ「いったいどこへ行けばいいのか」「なぜ変化しなければならないのか」と混乱を招くため、結局変化しないほうが良いという結論になってしまいます。循環型ビジネスの必要性を訴えても、社内の合意が得られず実現できないということは珍しくありません。
そこで、現場レベルの実務のいわば上位概念として、社員をはじめとする関係者に企業理念が浸透していることがその打開策となります。"2.変化に強い組織能力(ダイナミック・ケイパビリティ)"は、"1.企業理念をはじめとする「共通の価値観」"に基づいて発揮されるべきだというのがアミタの考えです。

また企業理念(共通の価値観)は、上記のように変化対応力の源泉となるだけでなく、循環型ビジネスモデルの源泉ともなります。これまでの「成長エンジン」=安定したサプライチェーン、安定したグローバル経済のもとでは、プロダクト・アウト型やマーケット・イン型の商品開発が社会のニーズを獲得するために有効な手法でした。しかし、大量生産・大量消費のビジネスモデルに疑問が呈され、ESGやSDGsがビジネスの成長をもたらすと言われる現代においては、モノからコト化=製品スペックやコストパフォーマンスよりも、社会課題の解決や価値観への共感といったものに重点を置いた商品開発が、社会ニーズ獲得のために有効です。企業理念を再確認、再定義した上で新しい商品、サービス、ビジネスモデルを考えるということは、このようなアプローチの第一歩と言えます。

モノからコト化にも、気を付けるべき落とし穴があります。「コト」化したビジネスが成功するカギは、顧客に自社のファンになってもらい、継続的な関係を築くことです。そのためには、企業理念に基づく「共通の価値観」が顧客に浸透し、共感を呼ぶことが重要です。しかし「モノ」は誰が買っても同じ物が手に入るのに比べ、「コト」は個人の感じ方に大きく差があり、企業理念がうまく伝わらなかったり、誤解されて伝わったりする可能性があります。顧客が「共通の価値観」で確実につながるためには、理念やビジョンといった企業の「夢」を明確化した上で雄弁に語ることがポイントです。モノ→コト→ユメの流れを意識することで、単純な提供方法の変更にとどまらず、企業の提供価値のレベルアップにつなげることができます。

amita_mono_koto_yume.pngのサムネイル画像

「守りと攻めのESG戦略」
アミタ作成

最後に

事業が存続しているというだけでなく、自社が発展すればするほど社会がよくなるような企業になるためにはどう行動すべきか。本コラムではこうした経営の実現に向けて、具体的なヒントとなるテーマについて取り上げ、解説しています。次回以降は、守りと攻めのESG戦略について解説します。

関連情報

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執筆、編集

mr_nakamura.png中村 圭一(なかむら けいいち)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
グループマネージャー付 グループ戦略統括担当

静岡大学教育学部を卒業後、アミタに合流しセミナーや情報サービスの企画運営、研修ツールの商品開発、広報・マーケティング、再資源化製品の分析や製造、営業とアミタのサービスの上流から下流までを幅広く手掛ける。現在は分析力と企画力を生かし、企業の長期ビジョン作成や移行戦略立案などに取り組んでいる。

ishidasan.png石田 みずき(いしだ みずき)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
群青チーム

京都出身。滋賀県立大学卒業後、アミタへ合流。広報・マーケティング部門を経て、現在は企業向けのサステナビリティコンサルティングを担当。笑顔と元気で活動中。

kameisan.jpg亀井 わかば(かめい わかば)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
緋チーム

同志社大学卒業後、アミタへ合流。現在、企業向けのサステナビリティコンサルティングを担当。企業への支援を通してサステナブルな仕組みが世の中に根付くように日々奮闘中。

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