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コラム

磯焼けとは?~気候変動の海洋環境への影響と「適応」の鍵~

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持続可能な社会を目指す上で重要な、ネイチャーポジティブ、気候変動、サーキュラーエコノミー。これら全てに係わる重要テーマでもあり、30by30において改めて重要性が認識された海の保全と管理。その中で、里海(SATOUMI)という日本発の考え方が、改めて注目されています。第4回目のテーマは気候変動の海洋環境への影響についてです。

関連記事:「30by30目標とは?企業の生物多様性の取り組み方についても解説


高知大学 中村洋平氏 ご提供

目次

磯焼けとは?

気候変動は海水温の上昇を引き起こし、海洋環境にも影響を与えます。この海水温上昇によって海では磯焼けが多発しています。磯焼けとは、海藻・海草の群落が消失してしまうことをいいます。近年の磯焼けは、主に海水温の上昇を背景とする2つの要因により発生していると考えられています。

  1. 生息域の水温条件が海藻の成長や繁殖に適さなくなったこと
  2. 海藻を食べるウニや魚類などの摂餌行動の活発化や分布域の拡大によって捕食圧が高まったこと
気候変動への「適応」とは?~緩和策と適応策~

そしてこれらの要因が複合し、日本の沿岸域の藻場は減少しています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の気候変動シナリオによる将来予測では、南日本の主要な海藻の一種カジメは、低炭素社会シナリオ(RCP2.6)では捕食者の食害のみ影響を受けますが、高排出社会のRCP8.5シナリオでは高水温による生理的影響と食害の両方の影響を受け、2090年代に従来の分布域で生育できなくなると推定されています。

▼図1:カジメの分布の将来予測

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(出典:S. Takao・N.H. Kumagai・H. Yamano・M. Fujii・Y. Yamanaka(2015)を基に環境省作成)

▼カジメ場

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(出典:環境省 せとうちネット:カジメ場

気候変動には大きく2つの対策があります。

  1. 1つは、気候変動を抑制するために、その要因である温室効果ガスの排出量を削減する「緩和」策です。
  2. もう1つは「緩和」と同時に気候変動による被害を少しでも軽減するための「適応」策です。すでに顕在化し今後も中長期間にわたって進行すると予測されている気候変動は残念ながら避けることはできません。したがって「適応」には気候変動による影響を抑制する取り組みと、むしろ気候変動を受け入れ影響を有効に活用する取り組みの双方が含まれます。

▼図2:気候変動における緩和と適応

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(出典:国立環境研究所気候変動適応情報プラットフォーム

藻場における気候変動適応の取り組み

磯焼けの発生した海域で藻場を再生するためには、ウニや藻食魚による食害を防ぐ必要があります。食害を防ぐために、ウニに対してはハンマーで直接潰す方法や藻場をフェンスで囲んで侵入を防ぐ方法がとられています。一方、アイゴやイスズミなどの藻食魚は刺し網で捕獲し除去する方法や網で藻場を囲み食害を防ぐ方法がとられています。さらにウニを除去し海域の藻場を回復させると同時に、除去したウニを陸上養殖し食品として流通する取り組みも行われています。

▼図3:刺し網

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(出典:農林水産省)

しかし、これらの方法は設備投資や継続的な労働作業を必要とすることから、負担は少なくありません。そこで、海域にウニの天敵となる生物を増やす方法も考えられています。たとえば、広範囲に磯焼けが発生した海域に人工礁を設置したところ、イセエビの密度が増加し、イセエビがウニを捕食した結果、藻場が再生した事例が報告されています。また、同じくウニの捕食者であるイシガニを導入して、コンブをウニの捕食から守る実験研究も行われています。

また、海藻の増殖についても取り組みが進められています。海藻の増殖は、近隣に母藻(成熟個体)がある場合はそれを移植し、ない場合には種苗を移植する方法が用いられます。種苗には人工的に育てるケースと天然の種苗を採取するケースがあり、藻場の状態に応じて適切な方法で行われています。

▼図4:海藻藻場における適応策

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(出典:国立環境研究所 気候変動適応情報プラットフォーム

海の変化を受け入れる「適応」も

ここまで、状況を改善させる適応策についてご紹介してきましたが、変化を受け入れる適応策も実施されています。近年、ホンダワラの仲間をはじめとする南方系の海藻が出現・繁茂する海域も広がってきました。そこで、新たに増えてきた南方系の種を活用した藻場の再生も検討されています。南方系の種もウニの食害を受けますが、藻食魚の捕食や高水温に比較的強い特徴を持つので、藻場の再生が期待できます。ただし、海藻が自然に分布域を拡大した場合はまだしも、他地域から新たな種を人為的に導入することは生態系や生物多様性に思わぬ影響を与える可能性があるので、注意が必要です。
また、同じく高水温によって分布を拡大する藻食魚を水産資源として有効に利用する取り組みも行われています。近年では、造礁サンゴの分布の北上も指摘されていますが、藻場が消失しサンゴ礁の海へと変容したとき、変化を受け入れてマリンスポーツを楽しむことや南方系の魚介類を流通し、美味しくいただくことも「適応」の一つといえます。

適切な「適応」を決定する上で鍵となるのは?

待ったなしの気候変動の状況に対して、私たちは柔軟でしたたかな「適応」が求められています。気候変動の影響を抑制し被害を最小限に抑える試みを継続しつつ、状況によっては環境の変化を受け入れて、自分たちの行動やライフスタイルを見直す必要もあるでしょう。どこに軸足をおいて「適応」していくのか、その意思決定はどのように行えばいいのでしょうか。

EUが出資するヨーロッパ16ヶ国21団体から成るコンソーシアムClimeFishは、気候変動影響に対する養殖業、海洋漁業、内水面漁業の成長戦略に向けた意思決定支援システム(Decision Support System (DSS))を開発しています。そのシステムを使うと、それぞれの魚種や漁業について、水温上昇に伴う数十年後の漁獲対象種成長速度や漁獲サイズの変化、暴風や熱波などによるリスクの増減、市場動向などの予測が示され、漁業者が将来の成長戦略を立てるのに役立てることができます。こうしたシステムの構築には研究者、行政、漁業者、企業など多彩なステークホルダーの連携が必須です。

もう一つ重要なのは、海の状態を継続して調査・観察するモニタリングです。モニタリングは、生態系の変化を察知するいわば健康診断であり、問題の要因や対策を考えることができるとともに将来を予測する材料になります。さらに広範囲で長期的に実施することで、問題をグローバルか、地域固有かといった地理的な分析や生態系の変化の方向性や速度を測ることができます。

環境省は、気候変動適応法第14条第1項※に基づき、地域における関係者の連携をさらに強化し、地域レベルで幅広い関係者が連携・協力して気候変動適応を推進していくため、全国7地域で気候変動適応協議会を設置しました。九州地方環境事務所は、気候変動適応九州・沖縄広域協議会を設置し、『沿岸生態系の気候変動適応マニュアル~生き物がにぎわうサンゴ礁と藻場を未来へ~』を作成しました。多様な担い手がつながり、海の環境変化に目を向け、気候変動に対し適切に「適応」することが望まれます。

※気候変動適応法第14条:地方環境事務所その他国の地方行政機関、都道府県、市町村、地域気候変動適応センター、事業者等その他の気候変動適応に関係を有する者は、広域的な連携による気候変動適応に関し必要な協議を行うため、気候変動適応広域協議会を組織することができる。

参考情報

執筆者プロフィール

koumatsushi3.png 神松 幸弘(こうまつ ゆきひろ)氏
 環境省 九州地方事務所 環境対策課 里海づくり推進専門官



2001年3月京都大学大学院理学研究科生物科学専攻博士後期課程修了、博士(理学)。人間文化研究機構総合地球環境学研究所助教、京都大学生態学研究センター研究員、京都大学防災研究所研究員、京都大学フィールド科学教育研究センター研究員、立命館大学グローバル・イノベーション研究機構准教授を経て2023年4月から現職。九州・沖縄管内県において、里海づくりの推進、沿岸生態系における気候変動適応の業務に携わる。

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