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コラム

インドネシアの気候目標:課題とビジネスへの影響循環への航海 ~インドネシア廃棄物管理の現状と未来~

indnesia_four_thumbnail.png本コラムでは、インドネシアの廃棄物管理の現状、規制強化、気候対策、課題、そして日本の支援可能性を5回にわたり多角的に解説しています。本記事ではインドネシア政府の廃棄物管理規制の取り組みと、規則の重要性について解説します。

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      気候目標への障壁

      前回は、インドネシアが掲げる2つの主要な気候目標―「2060年までのネットゼロ」と「2040年までの廃棄物ゼロ」―に向けた政策や取り組みをご紹介しました。政府は、国家開発計画へのサーキュラーエコノミーの導入をはじめ、生産者による廃棄物削減ロードマップの設定、企業の持続可能な取り組みを促すグリーン産業基準の導入など、多方面にわたる施策を進めています。

      しかし、その実現にはいまだ高い壁が立ちはだかっています。政府における一貫性の欠如や構造的な課題に加え、リサイクルの拡大に伴う新たな問題も浮上しつつあります。

      ▼図1 インドネシアの気候目標達成に向けた進捗の総合評価

      Comprehensive assessment of Indonesia's progress towards achieving its climate goals.png

      出典:Climate Action Tracker(2024) [1]

      ここからはその理由について見ていきましょう。

      1. 石炭問題

        インドネシアは、世界で3番目に大きな石炭生産国(2021年実績)であり、最大の輸出国でした。石炭は国の純輸出総額のほぼ20%、政府の収入の3%を占めており[2]、その経済的重要性を考慮すると、石炭を完全に廃止することは依然として難しい決断です[2]。

        ▼図2 インドネシアの石炭経済依存度

        Indonesia's economic dependence on coal.png

        出典:Stockholm Environment Institute [2]

        政府は2050年までに石炭を使用した発電の段階的な停止を計画していますが、石炭は依然としてエネルギー以外の産業で(スプレー加圧ガス・塗料・接着剤・合成樹脂などとして)使われ続ける予定です[2]。加えて、2022年の大統領令第112号では、進行中の石炭火力発電所建設に対して例外を認めており[3]、これはインドネシアが目標とする気候変動対策に対し大きな矛盾といえるでしょう。このままインパクトのある政策を導入しなければ、2060年までにネットゼロを達成するのは極めて難しいでしょう。

      2. 廃棄物管理施設の不足

        インドネシアの廃棄物管理部門は、インフラの不足という大きな課題に直面しています。2023年12月、インドネシアは廃棄物データの報告方法を変更し、未管理の埋立地を除外した結果、公式な廃棄物管理率が60.2%から39%に下がりました[4]。また同年のインドネシアの廃棄物の総量は6,990万トンですが、そのうちの57%が施設の不足により非公式な方法で処理されたことも明らかになっています。
        これらの事実は、廃棄物管理の改善が急務であることを示しています。
        この問題に取り組むため、2024年10月に就任した新しいインドネシアの環境大臣は、同国で初めて、野外埋め立ての禁止を宣言しました。

        しかし廃棄物管理100%の達成は、埋立地の容量不足や非効率的な廃棄物収集を考慮すると非現実的です[4]。インドネシアは2040年までに廃棄物ゼロを目指していますが、その達成のためには、大規模なインフラ投資、規制の強化、そして強力な市民参加が必要です。

      3. 社会的特性

        インドネシアの廃棄物の大部分は家庭から出ていますが、家庭からの一般ゴミに対して罰則を課すのは難しく、改善には高いハードルがあります。
        インドネシアにおいてリサイクル率を高める上で最大の障害の一つは、市民の社会的な意識と態度です。これは単なるインフラの問題ではなく、社会的特性の問題でもあります。インドネシアでは、多くの人は廃棄物を「価値のないもの」と見なしており、リサイクルに関心を持っていません。[8]

        改善のカギは、以前の記事でご紹介した「バンク・サンパ(ごみ銀行)」や「TPS-3Rシステム」のようなコミュニティが主体となる取り組みの推進にあると言えるでしょう。ある研究によると、ごみ問題に熱心なコミュニティに参加している人ほど、リサイクルへの意欲が高いことが分かっています。この傾向は、周りの人の影響を強く受けるインドネシアのような文化では特に顕著です。コミュニティで一体感が生まれれば、人々がごみ処理に対して感じがちな「面倒くさい」といった気持ちを乗り越える助けになるのです。[8]。

      企業への影響
      1. 一貫性のない規則

        インドネシアはESG導入を促す環境規制を進めていますが、その一貫性の欠如が企業にとって大きな課題となっています。多くの企業が、どの規則に従えばよいか判断できずに混乱しており、頻繁な規制変更もコンプライアンス維持を難しくしています[5][6]。

        特に拡大生産者責任(EPR)制度は不透明で、WWF(2022)によると、以下のような問題点があります[7]:

        ・業界ごとの明確な基準がない
        ・MoEF(環境・森林省)からの支援やトレーニングが不足している
        ・明確な期限がなく、義務化されているのは一部の大企業のみ

        その結果、大企業はサステナビリティ戦略チームの設立や外部コンサルとの連携で対応していますが、中小企業には大きな負担となっています。規制対応は今や、企業規模を問わず戦略的な優先事項となっています。

      2. 評判のリスク

        環境規制を遵守する目的は、単に罰金を避けることだけではなく、ブランドを守り、信頼を築き、投資を確保することでもあります。企業が規制に違反すると、信頼が損なわれ、顧客や投資家を失い、最終的にはブランド価値が低下する恐れがあります[6]。例えば、製鋼メーカーのPT Gunung Garudaは、無許可で廃棄物を不法投棄したとして摘発され、IDR10億の罰金と清掃義務を科されました[9]。この事件はオンラインで広く報道され(図3)、同社の評判は回復が難しいほどのダメージを受けました[9]。

        ▼図3 PT Gunung Garudaによる不法投棄活動の公表

        PT Gunung Garuda discloses illegal dumping activities.png出典:Berita Cikarang

      課題をチャンスに変える

      インドネシアが気候目標を達成するにあたっては、依然として多くの課題が存在しますが、企業にとっては変革をリードするチャンスでもあります。持続可能な廃棄物管理を積極的に取り入れることで、規制対応に加え、ブランド価値や消費者の信頼向上にもつながります。アミタのような専門企業は、リサイクルソリューションや規制への対応支援を通じて、企業の環境対応とビジネスの持続可能性を後押しします。次回は、アミタが企業の変革をどのように支援しているかをご紹介します。

      参考資料

      [1] Climate Action Tracker (2024). Indonesia.
      [2] SEI, Climate Analytics, E3G, IISD, and UNEP. (2023). The Production Gap: Phasing down or phasing up? Top fossil fuel producers plan even more extraction despite climate promises.
      [3] Simon. J., (2023). Despite billions to get off coal, why is Indonesia still building new coal plants? National Public Radio.
      [4] Juwaita. R. D. J., (2025). Indonesia set to miss 2025 waste management target by wide margin. The Jakarta Post.
      [5] Eco-mantra (2024). Waste Management in Indonesia - Path to Sustainability.
      [6] Siregar. F. S., (2024). Understanding ESG Compliance in Indonesia: A Guide for Businesses. Corporate Secretarial
      [7] WWF (2022). Extended Producer Responsibility Guideline on Plastic Products and Packaging for Industries in Indonesia.
      [8] Shinta. A. (2024). Character Education and Responsible Behavior in Waste Management: Essay Article. J Psych Sci Res. 2024;4(2):1-4.
      [9] Berita Cikarang. (2023). Cemari Lingkungan, PT Gunung Garuda Bayar Denda Rp1 Miliar.

      執筆、編集

      アミタホールディングス株式会社
      海外事業統括グループ
      城地 咲知

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