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気候変動による影響は?IPCC第6次報告書の将来予測とは

Image by Markus Spiske from Unsplas

世界各地で急な大雨や洪水、猛暑など異常気象による被害が増えてきた昨今、気候変動の深刻さが叫ばれています。実際のところ気候変動はどのくらい深刻な状況なのか、最新の気候変動の現状と将来予測について解説いたします。

目次

気候変動は何故起こるのか?

気象庁によると、気候変動は、大気の状態である気候が長い時間をかけて移り変わりゆくことを意味します。気候変動が起こるのは、自然の要因と人為的な要因があります。

気候変動の発生要因

自然の要因 ・海洋の変動
・火山の噴火によるエーロゾル(大気中の微粒子)の増加
・太陽活動の変化
人為的な要因 ・大量の石油や石炭などの化石燃料の消費による二酸化炭素濃度の増加
・森林破壊

自然の要因は、大気や海洋の相互作用によって引き起こされる気候変動であり、未然に防ぐことができません。一方で人為的な要因はしっかりと対策を立てれば軽減することは可能です。しかし昨今、人間活動が気候変動の悪化を招き、深刻な状態に陥っています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書では「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記されました。これまでの報告書と異なり、人間活動が地球温暖化に影響していることが断定されたのです。下記の図では人為的な要因が自然の要因に比べて気温の上昇に大きく影響を与えていることが分かります。

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出典:気象庁「IPCCAR6/WG1報告書政策決定者向け要約(SPM)暫定訳」P6より

※IPCC...国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)の略。人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された組織。

日本と世界で起きている気候変動とその影響

近年、異常気象により世界各地で甚大な被害に見舞われています。異常気象の種類別に出来事や被害状況を見ていきます。

  • 集中豪雨・台風の影響
    世界気象機関(WMO)によると、1970年から2019年の50年間における水害の被害総額が報告されています。暴風雨による被害額は、5,210億米ドル(2021年米ドルベース/2021年10月のレート換算で、日本円で約59兆円)、洪水による被害額は1,150億米ドル(2021年米ドルベース/2021年10月のレート換算で、日本円で約13兆円)となりました。また、世界中で発生している災害の44%が洪水に関連していると言われています。報道によると、2021年7月にオーストラリア南東部で100年に1度の洪水が発生したと伝えています。また同じく7月にドイツでも大規模の洪水が発生し、死者・行方不明者合わせて300人以上と事態の深刻さを物語っています。
    日本の状況について、国土交通省の「水害レポート2020」によれば、時間雨量50mmを上回る短時間降雨の発生件数が増加していると報告されています。下図にあるように、全国での年間発生回数は、1976年から1985年の10年間における平均回数が226回であったのに対して、2011年から2020年の10年間の平均回数は334回と増加傾向(約1.4倍)であることがわかっています。気象庁によれば、50mm以上80mm未満の雨の強さは、傘が全く役に立たず、車の運転が危険になるほどの非常に強い雨であるとされています。

    suigaireport.png出典:国土交通省「水害レポート2020

    また総雨量1,000mm以上の雨も頻発する等、雨の降り方の集中化が確認されています。総雨量1,000mmを超える大雨としては、2014年の台風第21号、2019年の台風第19号などがあり、2018年の西日本豪雨では総雨量1,800mm以上の豪雨が発生しました。異常気象による水害が多発する中、水害被害額も増加を続けています。国土交通省が公表している2019年の水害被害額は、約2兆1,800億円であり、水害被害額の統計開始以来最大の金額となっています。
  • 干ばつの影響
    世界気象機関(WMO)は、過去50年の中で干ばつによる死亡者数が65万人にのぼると報告しました。これにより、世界の異常気象による最も多い死因は干ばつであることがわかっています。干ばつの被害状況は、世界の多岐に渡ります。2021年8月に米内務省開拓局は、主要河川の一つであるコロラド川の水不足を宣言し、付近の地域に影響が及びました。コロラド川は米西部の農業に大きな役割を果たしており、もしも10%の水を利用できなくなれば、経済損失額が1,430億ドル(約15兆7,000億円)に達すると言われています。また、ブラジル国家食糧供給公社は、2020年から2021年度の穀物生産量の見通しを2億5,230万トンと、前年度比1.8%減に引き下げるなど干ばつの影響が見られます。アフリカでも水不足の影響により、農作物が育たず、各地で食糧不足に陥っています。
    干ばつの問題は、日本では馴染みがないかもしれません。しかし、2021年8月に北海道で異常な干ばつの被害が出たと報道されています。100年に一度の少雨と高温を記録し、玉ねぎの変形、飼料作物の収量大幅減、農作物が枯れるなどの被害が出ています。干ばつに関しても、日本は他人事ではいられないのです。

  • 地球温暖化の影響
    世界各地で気温の上昇に伴い、熱波や猛暑による被害が起きています。世界の年間平均気温は100年あたりで0.75℃の割合で上昇しています。海外で顕著なのは、熱波による被害です。熱波とは「広い範囲に4~5日またはそれ以上にわたって、相当に顕著な高温をもたらす現象」と気象庁では定義されています。インドでは2015年に記録的な熱波が発生し、合計2,200人以上が死亡したと言われています。2017年にパキスタンでは54℃を記録し、東半球の観測史上最高気温に並びました。また2021年7月、カナダ西部で史上最高気温を更新し、熱波による山火事が発生しました。
    一方で、日本の年間平均気温は100年あたり1.26℃の割合で上昇しています。日本の気温上昇が世界に比べて高いのは、気温の上昇率が比較的大きい北半球中緯度に日本が位置しているからと言われています。また全国の猛暑日の年間日数は増加傾向にあります。下記の図にある通り、観測が始まった1910年は猛暑日が0日でした。しかし2018年は全国各地で猛暑に見舞われ、7.1日を記録しています。同年の7月には熱中症による死者数が1,000人を超える事態となりました。

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出典:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化

気候変動の将来予測とは?

今後も地球温暖化の進行によって気候変動が深刻化していくとされている中で、将来私たちの住むこの地球では何が起ころうとしているのでしょうか。IPCC第6次報告書では「SSPシナリオ」という5つのシナリオにもとづいて、降水量や気温など気象の種類ごとに将来予測を分析し、公表しています。まずは、SSPシナリオとは何か、そしてそれにもとづく将来の気候変動予測について順番に下記で解説いたします。

  • SSPシナリオとは?
    SSPシナリオは、地球上の様々な可能性や条件を仮定して、気候変動がどのように進行するか予測したものです。
    第6次報告書では、気候変動対策や経済発展の動向と温室効果ガスや大気汚染物質の排出量を組み合わせて5つのシナリオが作成され、それぞれの社会状況をもとに気候変動の進行具合が示されています。下記の表では、SSP1-1.9からSSP5-8.5の5つのシナリオについての概要がまとめられています。SSP1-1.9からSSP5-8.5と数字が上がるにつれて、温室効果ガスの排出量が多いシナリオとなります。

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出典:JCCCA「将来予測のSSPシナリオとは?

それでは、この5つのシナリオに基づいてどのような気候変動予測が公表されたのか下記で気象ごとに説明していきます。

SSP...Shared Socio-economic Pathways(共有社会経済経路)

  • 降水量の将来予測
    地球温暖化が進むと、大雨の頻度が増加する可能性が非常に高くなります。地球温暖化が1℃進行するごとに極端な降水が約7%強まると予測されており、非常に強い熱帯低気圧の割合も、温度上昇に従って増えていきます。

    rain.png出典:気象庁「IPCCAR6/WG1報告書政策決定者向け要約(SPM)暫定訳」P21より

    上記の図は産業革命以前の1850年から1900年の気候を基準として、将来の地球温暖化の水準と比べたときに、10年に1回起こるとされる大雨の発生頻度を表しています。気温が2℃上昇すれば、発生頻度は1850年から1900年の1回から1.7倍の頻度になると予測されています。
  • 気温の将来予測
    世界平均気温は、全ての排出シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまで上昇を続けます。向こう数十年の間に二酸化炭素及び温室効果ガスの排出を大幅に減少させない限り、21世紀中に地球の気温は1.5℃及び2℃を超えると報告されています。最大排出シナリオ(SSP5-8.5)においては、今世紀までに3.3℃から5.7℃上昇すると予測されています。また、地球温暖化が0.5℃進行するごとに、熱波を含む極端な高温の現象が極めて高く、起こりやすくなります。

    kionhenka.png出典:気象庁「IPCCAR6/WG1報告書政策決定者向け要約(SPM)暫定訳」P26より

    下記の図は降水量と同様に、産業革命以前の1850年から1900年の気候を基準として、将来の地球温暖化の水準と比べたときに、10年に1回起こる極端な気温上昇が発生する頻度を表しています。地球温暖化が最も進んだ場合、発生頻度は1850年から1900年の1回から9.4倍になると予測されています。

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出典:気象庁「IPCCAR6/WG1報告書政策決定者向け要約(SPM)暫定訳」P21より

  • 海面水位の将来予測
    報告書によると「海洋深部の温暖化と氷床の融解が続くため、海面水位は数百年から数千年にわたり上昇することは避けられず、また数千年にわたり海面水位が上昇した状態が継続する」と言われています。また、世界平均海面水位が21世紀の間上昇し続けることはほぼ確実であることも断言されています。下記の図では、2100年までに温室効果ガスの排出が最も少ないSSP1-1.9シナリオで、海面水位の上昇量は0.32mから0.62mの上昇、最も排出量が多いSSP5-8.5シナリオでは0.63mから1.01m上昇すると示されています。

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出典:気象庁「IPCCAR6/WG1報告書政策決定者向け要約(SPM)暫定訳」P15より

さいごに

いかがでしたでしょうか。将来、何かしらの気候変動対策をしない限り、気候変動が私たちの生活に影響を及ぼし続けることが第6次報告書で明らかにされました。気候変動の深刻さが増していけば、今後も世界各地で洪水や干ばつなどの被害に見舞われることが予測されます。気候変動から私たちの生活を守るためにも、企業活動において二酸化炭素の排出量を抑えていくことが引き続き求められるでしょう。
2021年8月にIPCC第6 次報告書で発表されたのは、気候変動の科学的根拠を示したもので、今後下記スケジュールの通り、2022年2月には気候変動の影響や社会・自然システムの脆弱性について、3月には温室効果ガス削減の対策についての報告書が公表される予定です。今後の公表内容にも注目していきましょう。

▼今後のIPCC第6次報告書スケジュール

公表予定日 報告書名 原文報告書の入手先
2022年2 第6次報告書 第2作業部会の報告
「気候変動―影響・適応・脆弱性」
https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-ii/
2022年3 第6次報告書 第3作業部会の報告
「気候変動―気候変動の緩和」
https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-3/
2022年9 第6次報告書 統合報告書
事業創出プログラム「Cyano Project(シアノプロジェクト)」を提供

「Cyano Project(シアノプロジェクト)」は、企業が「イノベーションのジレンマ」に陥ることなく、時代や社会の変化に合わせて新たな価値を創出し、経営と社会の持続性を高めることを目的とした約3年間の事業創出プログラムです。
特設サイトはこちら:https://www.cyano-amita.com/cyanoPJ.png

執筆者プロフィール(執筆時点)

長谷部 尚孝(はせべ なおたか)
アミタホールディングス株式会社 
カンパニーデザイングループ ヒューマンリソースチーム

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