プラスチックユーザー企業必見! 「今すぐ使える」パーム畑の廃棄物由来のバイオプラスチックとは? | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

環境戦略・お役立ちサイト おしえて!アミタさん
「おしえて!アミタさん」は、未来のサステナビリティ経営・まちづくりに役立つ情報ポータルサイトです。
CSR・環境戦略の情報を情報をお届け!
  • トップページ
  • CSR・環境戦略 Q&A
  • セミナー
  • コラム
  • 担当者の声

インタビュー

ニューマテリアル社 佐久間 俊介氏 / テクスケム・ポリマー社 Dr.Pun Meng Yanプラスチックユーザー企業必見! 「今すぐ使える」パーム畑の廃棄物由来のバイオプラスチックとは?

産業用の食用油や洗剤原料等で私たちの暮らしに深く根付いているパームオイル(以下、パーム油)。実は、インドネシアやマレーシアなど原産地の国々ではパーム油に関連した農業廃棄物が膨大に発生し、社会課題になっている。こうした中、日本人がマレーシアで起業したコングロマリット、「テクスケム・リソーセズ」では、非可食部の農業廃棄物を原料にしたバイオプラスチック「TEXa®(以後TEXa)」を開発し、日本をはじめ各国で実用化を進めている。テクスケムグループ傘下でTEXaの販売を担うニューマテリアル社のゼネラルマネージャー・佐久間 俊介氏と開発、製造を担うテクスケム・ポリマー社、副社長のDr. Pun Meng Yanに、「今すぐ使えるバイオプラ」のTEXaの特色と、その展望を伺った。

テクスケム・グループ...マレーシアの大手コングロマリット。日本人企業家・小西史彦氏が、1973年、マレーシア・ペナン州で化学品専門商社テクスケム社を起業。以降、45年以上に渡り、製造業・貿易業・飲食・水産加工業などを営み、マレーシア屈指の大企業となる。グループ傘下には現在、約45社の企業が存在しており、東南アジア全域に拠点を設ける。

(写真:ニューマテリアル社の佐久間俊介氏(右)とDr.Pun(左)。テクスケム・ポリマー社にて)

マレーシアのパーム由来の廃棄物は年間8千万トン以上

「日本ではパーム油というと一般家庭では馴染みが薄いですが、年間で75万tが日本国内へ輸入されています。主な用途は食品メーカーの加工用油やマーガリン、チョコレートなどの食用、あとは化粧品や石鹸などですね。そのパーム油を1t生産するのに、およそ9tの廃棄物が出ると言われています。廃棄物の中には、バイオマス原料として利用できるものもありますが、マレーシアでは、POME(パーム廃液)を除いた固形のバイオマスだけでも年間で8千万t以上が排出されているんですよ。その固形バイオマスを有用資源として活用したバイオプラスチックがTEXaなんです。」

190424_image01.jpg佐久間氏がパーム関連の農業廃棄物の現状を語った。日本人の主食のコメの国内での年間生産量がおよそ8百万トン前後。そのおよそ10倍ものバイオマスがマレーシアで毎年排出され、多くは未利用のまま放置されているという。廃棄されたバイオマスに固定されたCO2が自然分解の過程で再び大気に排出されるだけでなく、メタンガス(温暖化効果はCO2の25倍)も発生しているそうだ。最近では油を搾った後のパーム殻の発電所の燃料や、農業用の土壌改良材への利用が進められているが、全体の発生量が多すぎるので全く追いつけていない状況である。

(写真:搾油前のアブラヤシ(パーム椰子)果実(FFB:Fresh Fruit. Bunch)(テクスケム・ポリマー社 提供))

マレーシア政府も国の基幹産業であるパーム産業が引き起こす課題への対策として規制に乗り出している。持続可能な森林管理の促進や生物多様性の強化などをパーム農園に義務化したMSPO(マレーシア持続可能なパーム油)基準(注1)を設立し、その認証がなければパーム油を出荷できなくなる規制が既に始まっている。現在は大規模農園を対象にした規制だが、2019年末までには小規模農園を含むすべてのパーム農園にも適用していく方針だ。

一方、日本でのパーム油の国内消費量は、人口一人あたりで約6㎏に相当し、これは全ての植物油脂の中で大豆油や菜種油に次ぐ第3位の量(約20%)を占めている。安価なパーム油は、一部の国では一般家庭の食用油としても用いられているが、日本でのコンシューマーは、ほぼ全てが事業者だ。つまりパーム油生産に関わる農業廃棄物の発生責任は、そのコンシューマーである企業にもあると言えるだろう。

開発のきっかけは「世界的な有力IT企業からのダメ出し」

「もともと弊社はプラスチック加工品を製造してエレクトロニクス企業を中心に提供しており、原料としてのポリマーも生産していました。2007年からはバイオプラスチック素材を生産する事業も始めており、主に電機製品の外装部やトレーなどの食器の素材としてメーカーに提供していたんです。当時はバイオベースにトウモロコシ由来の澱粉質を用いていました。ところが、世界的なIT企業に梱包用トレーとして採用される寸前になって、『可食バイオマスを使用した素材は自社のポリシーとして認められない』という理由で破談になってしまったという苦い経験をしました。しかし、そこで初めて可食部を用いないバイオプラスチックのニーズがあることを知ったわけです。お恥ずかしい話ではありますが、それが非可食部のみのバイオベースを素材とするプラスチックのTEXaを開発するきっかけになったというわけです。」

植物由来のバイオ燃料やバイオプラスチックを石油資源に代替する動きが世界各地で加速しているが、その一方で課題視されているのが「人の食料生産との競合」だ。トウモロコシの澱粉のような可食部を原料とすると、もともとそれを食用として必要としていた人々に(同じコストで)行き渡らなくなる可能性がある。一方で新たな農地を求めて乱開発すれば、現地の生態系を破壊しかねない。再生可能なバイオ素材は、飢餓や貧困の解消を筆頭に掲げ、生態系の保全を目指しているSDGsの趣旨に沿う形で生産される必要がある。時代の先端を行く同企業は、早くからそうした認識を持っていたのだろう。

マレーシアで最も豊富な未利用資源を採用

「非可食部のバイオマスをプラスチック資源にしなければならないということになって素材を検討した際に、『マレーシアで最も豊富な未利用資源を採用しよう』という方針になりました。そうすると自ずと国の基幹産業であるパーム油と、国民の主食であるコメ(長粒米)の農業廃棄物ということになります。ですから油を取る果実を採取した後のパーム殻(果実房)や、定期的に伐採して更新されるパームの木の樹幹(トランク)、そして稲籾や稲わら、これらを主要なバイオベース素材にすることにしました。」

と、佐久間氏が語る。汎用性が求められるバイオプラスチックの原料を「豊富にある未利用資源」から選ぶことは最も理想的な方針だ。しかし、その加工技術の開発には相当な苦労があったのではないだろうか。この点をTEXaの開発総責任者のDr.Punに伺った。

未利用資源を「できるだけ丸ごと使う」ことの意味

190424_image02.jpg「バイオプラスチックを開発するうえで重要な課題となるのは生産コストと汎用性です。TEXaを開発するうえでも、この点がテーマとなりました。まず、原料である農業廃棄物を『できるだけ丸ごと使う』ことで資源を最大限に活用し、同時に生産コストを抑えることを目指しました。」

農業廃棄物に最も多く含まれるのはセルロースだ。セルロースをプラスチック化する技術は「酢酸セルロース(セルロース・アセテート)」などで知られている。しかし農業廃棄物には低濃度ながら澱粉質も含まれている。この低濃度の澱粉質もプラスチック化して素材に利用する技術で、テクスケム・ポリマー社は11か国で特許を取得している。

(写真:同社で製造されたTEXaレジン(テクスケム・ポリマー社 提供)

1070624-2.png廃棄物由来の資源活用というと、廃棄物の中から「要る成分だけを精製・抽出」して獲得するのが従来的な手法だ。しかし、それでは「要らない成分が再び廃棄物になる」と共に、「精製と抽出」の加工行程が生産コストを押し上げてしまう。その真逆の、「要らないもの同士」を組み合わせて資源化する「調合」の手法を取ることで、資源の最大活用と生産コストの抑制を両立したのがTEXaの特色だ。

―――弊社(アミタ)の産業廃棄物のリサイクル事業でも、様々な工場から発生する廃棄物を資源化する際に重要な技術となるのが「調合」です。「要らないもの同士」を組み合わせることによって、低コストで良質な資源化を達成するという視点は共通するものがありますね。

「そうですね、精製や抽出の工程を省くだけでなく、できるだけシンプルな工程でプラスチックを生み出す技術の開発に苦労しました。様々な原料を、どんな組み合わせにすると最も良い状態のプラスチックになるか、添加する薬品には何を用いるか、という点が重要な開発ポイントでした。」

(写真:パーム果実を取った後のパーム殻(果実房)を示すDr.Pun。かなり大きな質量のバイオマスだ。)

―――しかし、農業廃棄物を資源化するという点ならではの苦労もあったのではないでしょうか?

「やはり、調達面での苦労がありましたね。果実を採った後のパーム殻(果実房)や稲籾、稲わらという資源量自体は非常に豊富です。しかしその一方で、発生する地域の方々からすれば有用資源という認識はなくて"ごみ"という認識だったんです。それを資源化し、プラスチック原料とするためには石ころや金属などの夾雑物がない状態にしないとTEXaのプラントには入れられません。その課題を克服するために、農業廃棄物をごみではなく資源として品質管理し、安定的に調達してプラントに納品してくれるパートナー事業者の獲得と育成に苦労しましたね。」

セールスポイントは「今すぐ、そのまま使ってください」

190424_image04.png「お客様には『どうぞ今の機械(射出成形器)に、そのまま使ってください。それだけで半分以上がバイオベースの製品となります』と申し上げています。」

と、佐久間氏が語る。同社によって素材化されたバイオベースのプラスチックを51%使用し、残りの49%に石油由来のPP(ポリプロピレン)と添加剤を配合して汎用性を高めたハイブリッドのプラスチック素材がTEXaだ。その特長は、「あえて半量でのバイオベース配合率にすることで、PPと同様の汎用性と耐久性を確保したこと」である。TEXaは、従来の石油由来のプラスチックを用いる射出成形器を改修することなく使用でき、射出成形器の寿命にも影響を与えないという優れた汎用性がある。そして生産コストも従来のPPに近づいている。

(図:TEXaの概要(テクスケム・ポリマー社 提供))

ちなみに、植物繊維のセルロース由来のバイオプラスチックの生分解性は低く、TEXaも生分解性プラスチックとしての機能は追求されていない。TEXaは素材としての耐久性を高めることで、植物が固定したCO2を長期間固定するカーボン・ニュートラルに特化したバイオプラスチックなのだ。佐久間氏は次のように語る。


190424_image03.png「地球温暖化対策に貢献するというだけでなく、プラスチック素材としての性能を追求し。耐久性も優れています。ですから、TEXaの使用用途としては、長く使ってもらえる製品の原料として頂くことが望ましいと考えています。文具などの事務用品やトレーなどの食器、保管容器や家具、園芸用品、家電製品の筐体などですね。そうすることで、農業廃棄物が固定した大気中のCO2を、より長い期間で固定することができます。また、配合するPPもリサイクル原料を選択できますから、原料素材の全てをリサイクルで調達した製品としてのご提供も可能ですよ。」

(写真:TEXaを使用した製品(テクスケム・ポリマー社 提供))

―――最後に、日本のプラスチックユーザーである企業にメッセ―ジをお願いします。

1070601.jpg「そうですね、日本が輸入している約75万tのパーム油(うち45万トンがマレーシア産)を生産するためには、9倍にあたる約675万tの農業廃棄物が排出されていると推定されています。そして、この膨大なバイオマスを有効資源化した素材を活用していただければ、より持続可能なパーム油の生産につながると共に、地球温暖化対策にも貢献して頂けます。
2019年6月26日には、第3回 国際 インテリア&家具 EXPO【夏】にも出展いたします。実際の製品等の見ていただくことができますので、ぜひご活用を検討して頂きたいです。」

―――日本国内では大手電機メーカーが素材として採用しており、現在、商品開発を進めている企業もあるという。TEXaの今後に、期待が高まっている。

注1:マレーシア持続可能なパーム油(MSPO)基準

パーム油の生産農地というと、絶滅が危惧されるオランウータンやボルネオゾウなどが生息する熱帯雨林を乱伐しての農地開発をイメージする人も多いと思います。マレーシアでは主にイギリス植民地時代に整備された広大なゴム園のプランテーションをパーム農地に転換して生産していますが、ボルネオ島のサバ州やアラワク州などでは新たなパーム農地開拓のため大規模な熱帯雨林の伐採も行われ、人と野生動物との軋轢も発生しました。 
こうしたパーム農地を巡る環境問題が課題となる中、WWF(世界自然保護基金)が発起人となり、持続可能な環境管理のもとで生産されたパーム油を認証するRSPOが発足しました。一方、生産国の政府主導による認証制度もはじまり、マレーシアではMSPO、インドネシアではISPOがそれぞれ発足しています。認証基準のレベルが最も高いのは民間機関による任意制度のRSPOですが、MSPOはマレーシア国内すべてのパーム農園を対象に法的義務が課せられるのが特長です。

TEXaに関するお問い合わせ先

お問い合わせ先:ニューマテリアル社 担当:佐久間 俊介
URLhttps://www.texchem-polymers.com
電話:+60 10 245 1552(マレーシアへの国際電話となります。)
E-mail: sakuma@nmm.com.my

話し手プロフィール(執筆時点)

mr.sakuma190424.png佐久間 俊介(さくま しゅんすけ)氏
ニューマテリアル社
ゼネラルマネージャー

大学卒業後、日本のメーカーで勤務した後、2010年にテクスケムへ入社。
以後グループ傘下のプラスチック成形加工会社(テクスケム・パック社)で勤務しながらTEXaの販売も推進。2019年より現職。

dr.pun_190423.jpgDr.Pun Meng Yan
テクスケム・ポリマー社
副社長(Deputy Managing Director)

マレーシア科学大学(Universiti Sains Malaysia)で高分子化学(Polymer Technology)の博士号取得。2002年よりテクスケム高分子研究所、R&Dマネージャーとしてばプラスチック材料の開発を担当し2007年からバイオプラスチックの開発に着手。現テクスケムポリマー社副社長。

聞き手プロフィール(執筆時点)

本多 清(ほんだ きよし)
アミタ株式会社
環境戦略デザイングループ

環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)、『魔法じゃないよ、アサザだよ』(合同出版)、『四万十川・歩いて下る』(築地書館)など。

このページの上部へ