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コラム

企業と生物多様性:この生きものに注目(その3)―襲いかかる死神、その名は・・・本多清のいまさら聞けない、「企業と生物多様性」

身の周りの身近な生きものたちの顔ぶれや暮らしぶりを少しでも知ると、「生物多様性」への垣根はうんと低くなります。前回に続き、今回は田園に暮らす希少な鳥たちに襲いかかる天敵という存在について考えてみましょう。

かつては「自然保護運動」のシンボルでした

佐渡で野性復帰の挑戦が続いているトキのことは、多くの方がご存知だと思います。これまでに保護増殖施設から自然界に放鳥されたトキの数は108羽。そのうち自然界での生存が確認されているのは68羽です(2012年11月時点)。毎年かなりの数が行方不明となり、1年以上姿が確認されない個体は死亡扱いとされています。卵や雛なら、カラスの餌食にもなるでしょう。でも、放鳥されたトキは成鳥ばかりです。大人になったトキが死体も残さずに行方不明になる原因としては、天敵に食べられてしまったことが考えられます。

nipponia_nippon.jpgもっとも脅威と考えられる天敵はオオタカなどの猛禽です。実際に猛禽に襲われて大怪我をしたと思われるトキが保護収容されていますから、行方不明になったトキの多くは猛禽に襲われたものと考えるのが自然だと思われます。

江戸時代には近江国(滋賀県)から越中国(富山県)に100羽のトキが「鷹狩り用の獲物」として輸出されたという文献記録が残っていますから、鷹狩りで武士に愛用されていたオオタカからすれば、トキは格好の獲物になるでしょう。(写真はトキです。)

オオタカはかつて、自然保護運動のシンボルとして扱われていた鳥です。里山地域の自然界で食物連鎖の頂点に君臨するオオタカは、豊かな生態系を象徴する存在であると共に、生息数が減っていたため絶滅危惧Ⅱ類に指定されていました。

ところが近年はオオタカの生息数が次第に増加し、環境省も絶滅危惧種としての指定を解除して「準絶滅危惧」というランクに落としています。オオタカの絶滅が遠のいたことは喜ばしいのですが、一方ではオオタカが数を増やすことによって、より絶滅の危機の高い希少な鳥類がオオタカの標的にされるリスクが増大していることが指摘されています。 トキはもちろんのこと、同じ猛禽であるサシバも幼鳥がオオタカに襲われて餌食にされてしまうことが知られています。もちろん、「里山の忍者」のミゾゴイも、ひとたびオオタカに姿を見つけられたら一巻の終わりでしょう。

ootaka_Some_rights_reserved.JPGオオタカは鳥を捕食する専門家です。飛行能力で究極の進化を遂げた戦闘機のような猛禽で、ほぼ同じ体格で喧嘩好きな、あのハシブトガラスでさえ獲物にされてしまいます。このオオタカが、より希少な鳥を保護しようとする視点に立ったときには「VIPに襲いかかる超A級のテロリスト」のような存在にもなってしまうわけです。(写真はオオタカです。写真提供:川上和人)

では、どうすればオオタカからトキやサシバやミゾゴイを守ることができるでしょうか。「テロリストは排除せよ」とオオタカを駆除してしまう訳にもいきません。オオタカはオオタカで、里山の豊かな生態系のシンボルであることは間違いないのですから。

里山のリスクコントロール

まず、オオタカは何もトキやサシバ、それにミゾゴイといった「VIP級の希少鳥類」を狙い打ちにして襲い掛かるわけではありません。たまたま目に付いた手頃な獲物を「今日のごちそう」と思って狩りの対象にしているだけです。それがたまたまVIPだったとしてもオオタカに罪はありませんし、自然界で生きる限りはVIPにも一定のリスクは覚悟してもらわなければなりません。

対応策の1つは、「リスクが不自然に拡大しないようにすること」です。つまり、オオタカが本来の生息密度よりも過剰に数を増やすと、その分、希少な鳥類が捕食されるリスクが拡大してしまいますので、そうなる要因を未然に防ぐということが考えられます。他に餌となる鳥が豊富にあれば希少な鳥類が襲われるリスクは分散されますが、あまりたくさんの餌があると、今度はオオタカが数を増やしてしまい、結果的に希少な鳥類が襲われるリスクも拡大してしまいます。

starling.jpg例えば、ムクドリという中型の野鳥は市街地でもよく姿を見かけ、とても大きな群れを作って電線に並んでいる姿を見たことがある方も多いと思います。このムクドリはオオタカにとって格好の獲物です。なにしろ圧倒的なマスで存在しますから、ムクドリの群れがいればオオタカは餌に困ることはありません。このムクドリが過剰に増えると、オオタカの数も増えてしまうことが考えられます。(写真はムクドリです。写真提供:川上和人)

そしていま、各地でムクドリが増えていることが指摘されています。その要因のひとつに上げられるのが、耕作放棄地の拡大です。湿地環境の田んぼが耕作放棄されると、多くは乾いた地面の草地になります。こうした環境を好んで餌をとる鳥の代表格がムクドリなのです。つまり、耕作放棄地の拡大を防ぐことが、ムクドリの過剰な増加を防ぎ、ひいてはオオタカの生息密度を一定に保つことにつながる、とも考えられるわけです。

「里山の用心棒」の雇い方

nosuri.JPGもう1つの有効な手段として、「用心棒を雇う」という方法が考えられます。VIPを警護するSPのような存在が、自然界にも存在するのです。オオタカやサシバが生息する里山には、重要な存在の猛禽類がもう一種、生息しています。それはノスリです。

オオタカとほぼ同じ体格ですが、ずんぐりとした体つきでオオタカほどの敏捷性はありません。このノスリは、野ネズミやモグラといった小型哺乳類を主な餌としているので、鳥にとってはそれほど怖い存在ではありません。餌の少ない冬には小鳥を襲うこともありますが、夏鳥のサシバやミゾゴイにとってはあまり脅威ではないのです。それどころか、ノスリの巣の近くにサシバが巣を設けていることもあります。なぜなのでしょうか。(写真はノスリです。)

ノスリは一見、のんびりとした風貌に見えますが、冬場などはオオタカが捕った獲物を横取りして追い払う様子がよく観察されています。繁殖期にもなれば、自分の体の数倍もあるようなイヌワシであろうと猛然と突っかかって追い払うような姿も見られます。かなり気性が激しい鳥なので、オオタカにとっては油断ならぬ存在なのです。こうしたオオタカとノスリのライバル関係を、サシバが巧みに利用しているということは十分に考えられます。非力な鳥には無関心で、オオタカを近づけさせないノスリの巣の周辺はサシバにとって安全地帯になることが考えられるわけです。

里山では馴染み深い猛禽のノスリですが、このノスリとて、いつも都合よくいてくれるではありません。ノスリが安定的に生息するには、その主食である野ネズミやモグラが豊富であることが条件になります。野ネズミやモグラが豊富な環境条件。それは、他ならぬ「人間が耕作する田畑」なのです。つまり、里山の田畑が耕作維持されていることが、希少な鳥類にとって心強い用心棒を雇うことにつながるというわけなのです。

次回は、この里山の田畑を耕作する「ヒト」という生きものについて、考えてみることにしましょう。

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執筆者プロフィール
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本多 清 (ほんだ きよし)
株式会社アミタ持続可能経済研究所
主任研究員

環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)等がある。

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