サーキュラーエコノミー戦略の作り方 WWFガイドとGCPで整理する企業の実務プロセス

サーキュラーエコノミー戦略の作り方 WWFガイドとGCPで整理する企業の実務プロセス

近年、サーキュラーエコノミー(以下、CE)は企業の重要な経営テーマとして注目を集めており、欧州を中心に政策が進展し、企業には資源利用の効率化や循環型ビジネスモデルの構築が求められるようになりつつあります。しかし、実務の現場では「CEに取り組む」と言っても、その進め方は必ずしも整理されていないことが多いのが実情です。

実際、多くの企業では

  • CE戦略の検討
  • 循環性指標の導入
  • LCA(ライフサイクル評価)
  • 資源フロー分析


といった取り組みが、それぞれ別々に進められているケースも少なくありませんが、本来これらは相互に関連する要素であり、企業のCE戦略プロセスの中で連動して機能するものです。

本稿では、こうした実務上の整理の手がかりとして、2つの代表的なフレームワークを取り上げます。
一つは World Wide Fund for Nature(WWF)が公表した「サーキュラーエコノミー戦略ガイド(Circular Economy Strategy Guide)」、もう一つは World Business Council for Sustainable Development(WBCSD)が策定した「Global Circularity Protocol(GCP)」です。

両者はしばしば「どちらがより実用的か」「ガイドとしてどちらを採用するべきか」といったように比較されがちですが、実際には競合するツールではありません。むしろ、企業がCEを実務として進める際には、異なる役割を持つ補完的なフレームワークとして理解することが重要です。

サーキュラーエコノミー戦略の思考フレームとしてのWWFガイド

WWFの「サーキュラーエコノミー戦略ガイド(Circular Economy Strategy Guide)」は、企業がCEを経営戦略として設計するための思考フレームを提示したガイドであり、2025年10月には日本語版が発行されています。企業の個別施策や技術的な取り組みを解説するものではなく、CEを企業戦略の文脈でどのように位置づけ、どのような手順で検討していくかを整理した実務ガイドとして設計されています。

このガイドを作成した環境NGOの WWFは「人と自然が調和して生きられる未来を築く」という使命に沿って、企業に対して持続可能なビジネスへの転換を促しています。同ガイドにおいても、CEを単なるリサイクルや資源効率化の取り組みとしてではなく、企業の事業構造や価値創出のあり方を見直す戦略課題として位置づけている点が特徴と言えます。

具体的には、ガイドでは、CE戦略の検討プロセスを大きく次の三段階で整理しています。


  • 現状分析(バリューチェーンや環境影響の把握)
  • 戦略設計(優先領域と目標の設定)
  • 実装(ロードマップと組織的な取り組み


▼インパクト指向のCE戦略を導入するためのステップ

インパクト指向のCE戦略を導入するためのステップ

出典:WWF CE戦略ガイド


企業はまず自社の事業活動と環境インパクトの関係を把握し、資源利用や廃棄物、製品ライフサイクルといった観点からバリューチェーン全体を整理します。そのうえで、循環型のビジネスモデルや製品設計の可能性を検討し、どの領域に優先的に取り組むべきかを戦略的に判断していきます。つまりWWFガイドは、CEの取り組みを個別施策の集合ではなく、企業戦略として体系的に設計するための枠組みを提示しているのです。

特に特徴的なのは、企業がCEを検討する際に、単に自社内部の効率化にとどまらず、サプライチェーン全体や市場環境、規制動向などの外部要因も含めて戦略的に検討することを重視している点です。これはCEが単一企業だけで完結する取り組みではなく、サプライチェーン全体の協働や市場構造の変化と深く関係するためです。

このように整理すると、WWFガイドは、企業が「なぜCEに取り組むのか」「どこに重点を置くのか」といった戦略的な問いを体系的に整理するためのフレームワークと言えます。CEに関する多くの議論が個別の技術や施策に焦点を当てがちな中で、このガイドは企業戦略としてのCEの全体像を描くための思考枠組みを提供している点に大きな意義があると言えるでしょう。

GCP(グローバル循環プロトコル)の役割

一方、GCP(Global Circularity Protocol)は、企業の循環性を定量的に測定・評価するためのフレームワークであり、企業がCEへの移行を進める際に、自社の資源利用や循環性の状態を体系的に把握し、共通の考え方に基づいて評価・開示できるようにすることを目的としています。

CEの議論では長らく、理念や戦略の方向性が語られることは多いものの、実際にどの程度循環性が高まっているのかを測定する定量的な指標や共通ルールは必ずしも統一されていないという課題があり、GCPは、この課題に対応するべく開発されたものです。

具体的には、GCPでは企業活動における資源の投入、使用、再利用、廃棄といった流れを整理し、マテリアルフローの観点から循環性を分析します。その際に重視されるのが、マテリアルフロー分析(Material Flow Analysis)循環性指標の算出です。これにより企業は、自社の事業活動の中でどの資源がどのように利用され、どこで廃棄や損失が生じているのかを可視化します。

このような定量的な分析は、CE戦略の検討においても重要な役割を果たします。例えば、資源フローを詳細に分析することで、製品ライフサイクルのどの段階に大きな資源損失や廃棄が存在するのかを特定することができ、循環型設計やリサイクルの強化、製品の長寿命化といった施策の優先順位を検討する際の重要な判断材料となります。

ここで理解しておかなければならないのは、GCPが単一の循環性指標を提示する仕組みではなく循環性評価・判断のための共通の方法論を提示する仕組み「プロトコル(protocol)」である、という点です。近年、企業は環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報開示を求められる機会が増えており、CEに関する取り組みについても透明性の高い情報開示が求められつつあります。しかし、業種や製品によって循環の意味や評価方法が大きく異なるという現実を踏まえると、企業の循環性を一つのスコアで評価したり、ランキングしたりすることは困難です。GCPは、資源フローの把握、循環性の評価範囲の設定、指標の選定といった一連の分析プロセスを体系化し、共通の考え方に基づく指標や評価方法を提示することで、企業が自社の循環性の取り組みを「一定の比較可能性を持つ形で」外部に対して説明するための基盤を提供しているのです。

このように整理すると、GCPは企業がCEに取り組む際に、循環性を定量的に測定・評価し、施策の進捗を管理し、外部に説明するためのフレームワークとして位置づけることができます。

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「測定」と「戦略」をつなぐ、サーキュラーエコノミーにおける実務の循環プロセス

他の様々な企業戦略と同様、CE戦略も一度作って終わりではありません。狙い通り戦略によって循環性が高まったのか、循環性向上も含めて企業価値が高まったと言えるのかを評価できなければ、戦略とその効果の進捗を管理したり、戦略の方向性をより良く修正したり、外部評価に繋げることができないからです。実際のCE戦略の実務は、次のようなサイクルで進められます。

  • 資源フローや循環性を可視化する →主にGCPを用いる
  • CE戦略を設計する →主にWWFガイドを用いる
  • KPI管理や外部開示を行う →主にGCPを用いる


つまりCE戦略の実務は、大きく捉えると「測定 → 戦略 → 測定・評価(開示)→戦略...」という循環プロセスであり、このような整理に立つと、WWFガイドとGCPは対立するツールではなく、CE戦略の異なる側面を支える補完的なフレームワークとして理解することができます。企業がCEを実務として進めるためには、戦略的な方向性を示す枠組みと、実際の進捗を測定する枠組みの両方が必要であり、その意味で両者は相互に補完関係にあると言えるのです。

サーキュラーエコノミー戦略/実務プロセスとフレームワークの関係

企業がCEを戦略/実務として進める際には、現状分析から戦略設計、実行、評価までの一連の定型プロセスが存在します。そのプロセスとWWFガイド・GCPの関係まで踏み込んで整理してみましょう。

▼CEの戦略/実務プロセスとフレームワークの関係

CE戦略/実務プロセスWWFガイドの役割GCPの役割
現状把握市場環境、規制動向、バリューチェーンの整理資源フローの初期把握
マテリアルフロー分析バリューチェーン理解資源フロー分析、循環性指標
インパクト・ホットスポット特定環境インパクトの観点から優先領域を検討資源フローから課題を可視化
CE機会の特定循環型ビジネスモデルや施策の検討定量データの提供
優先順位付け戦略的重要度の判断定量的比較
目標設定CE戦略目標の設定測定可能な指標設計
実行ロードマップ戦略実装の設計指標との連動
KPI管理・開示戦略レビュー進捗測定、外部開示

作成:アミタ

こうした整理から分かるように、CE戦略の多くのプロセスでは戦略思考と定量分析の両方が必要とされます。

例えば、ホットスポットの特定では、WWFの枠組みによる環境インパクト分析と、GCPによる資源フロー分析を組み合わせることで、企業活動のどこに重要な課題があるのかをより明確に把握できます。また優先順位や目標設定の段階でも、WWFが提示する戦略的視点とGCPの定量指標を併用することで、戦略として意味があり、かつ測定可能な目標を設計することが可能になるのです。

まとめ:サーキュラーエコノミー戦略を実務として進めるために

CEを企業経営に組み込むには、理念や方針だけでは不十分です。戦略としての方向性を定めると同時に、それを定量的に測定し、進捗を管理する仕組みを念頭に置いておかなければなりません。

WWFのCE戦略ガイドは、企業が循環型のビジネス戦略を設計するための思考枠組みを提供し、他方、GCPは、その戦略がどの程度循環性を高めているのかを測定し、比較可能な形で示すための枠組みです。CEに関する議論では、こうしたフレームワークが個別に紹介されることが多いですが、実務の観点から見ると、重要なのはそれらを比較することではなく、一つの戦略プロセスの中で統合して考えることと言えるでしょう。

資源フロー分析、インパクト評価、戦略設計、KPI管理といった要素を連動させることで、企業は初めてCEを実務として進めることができます。WWFガイドとGCPを組み合わせた整理は、そのための一つの有効な手がかりになると考えます。

執筆者情報

  • きのした いくお

    木下 郁夫

    アミタ株式会社 おしえて!アミタさん編集部

    大学では教育と環境の二足の草鞋を履き、アミタ入社後は、企業向けの提案・営業の経験、廃棄物管理に係わるシステムや業務フローの構築などに携わる。現在は『おしえて!アミタさん』の編集を含めたメディア運営、イベント企画、情報発信を担当。特にサーキュラーエコノミー領域に感度高く、アミタ社外との共創を日夜模索中。鳥取在住。

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