
「目標は立てた。では、どう実現するか。」
グローバル循環プロトコル(以下、GCP)に向き合う担当者から、こうした声が届くようになりました。
2026年4月、内閣府は「循環経済行動計画 」を発出しました。そこではGCPは、日本企業が優先的に活用すべき枠組みとして明記されています。循環性目標の設計に着手する企業は増えています。その一方で、実装フェーズに入ってから方針が定まらないという場面も、少なくないのではないでしょうか。
本記事は、アビームコンサルティングとアミタが共催したセミナーのレポートです。アミタ・武津が登壇したパートを中心に、現状把握と概念実証(PoC)の2つの事例を通じて「目標をどう実現するか」の論点に迫ります。事例の詳細と、登壇者たちのやりとりはぜひ動画でご確認ください。
■関連記事:GCPの基礎解説は以下をご参照ください。
2026年5月22日、アビームコンサルティングとアミタが共催したセミナーは3部構成で進みました。パート1・2では、アビームコンサルティングがGCPの概要と、循環性目標を事業目標として設計するための論点を解説しました。
パート3では、アミタの武津が「目標をどう実現するか——フォローアップの実務」と題して登壇しました。製造業2社の支援事例を通じて、実装フェーズの実務論点を語りました。本記事では、このパート3のエッセンスをお届けします。
「把握できている」は本当か——自動車メーカーの現状把握事例
(アミタ武津)
今EUではELV(廃車・リサイクル)規則案が進められています。この規則案には、新車製造における再生プラスチックの使用義務が盛り込まれる予定であり、素材調達と資源循環の両面で対応が求められることになります。この波は日本にも押し寄せており、私たちが支援させていただいたある自動車メーカーでは、脱炭素への取り組みと並行して資源循環の中長期目標の設定を検討していましたが、目標を立てる以前に一つの壁に突き当たっていました。
「自社の工場で、何がどのように処理されているか」——その全体像が、まだ高い解像度で把握できていなかったのです。廃棄物の発生量や処理委託先のデータは存在しています。しかし、そこに改善や高度化の余地はあるか、そのためには何がハードルになるか、難易度とインパクトを比較した上でどこから優先的に着手するべきかといった視点は、手元の情報だけでは見えていませんでした。
そこで私たちは排出現場訪問による保管状況確認や廃棄物の実サンプル採取、管理担当への直接ヒアリングを含む現状把握に着手しました。すると、データだけでは見えていなかった実態が浮かび上がってきました。廃棄物データを報告する側と受け取る側の間には、想定以上に、情報の解像度に開きがあったのです。
GCPが定める「Prepare(準備)」ステージでは、運用境界(スコープ)の設定とマテリアルフローの可視化が求められます。しかし多くの企業では、この「可視化」が社内データの「集計」にとどまっています。現場に聞いて初めて分かる情報がある——この事例はその現実を鮮明に示しています_____
では実際に何が見えてきて、どう目標設計に繋げたのでしょうか。詳細は、ぜひ動画でご確認ください。
突破口は「社内」にあった——刃物メーカー・貝印の循環スキーム事例
二つ目の事例は、刃物メーカー・貝印の循環スキーム構築プロジェクトです。使用済み刃物を鉄鋼原料として水平リサイクルするスキームを目指していましたが、刃物特有の形状の難しさから、既存の回収経路だけでは対応しきれない部分がありました。
新たなリサイクラーを探すことも選択肢のひとつです。しかし私たちがバリューチェーン全体を俯瞰したところ、突破口は意外なところにありました。貝印がすでに取引実績を持つ鋼材調達先の中に、最適なパートナーがいたのです。既存の信頼関係があったことで、スキームの立ち上がりは大きく加速しました。
スキームの構築は最初から完璧な計画を立てるのではなく、小さく試すところから作り上げていきました。私たちは廃棄物処理法に違反しないかを確認しながら再資源化の現場にも足を運び、引き取り条件を一つひとつ一緒に固めていきました。循環の仕組みを実際に動かしていく中で、法令対応を初期段階から考慮できるかが、長く続けられるかどうかを左右する大事なポイントです。GCPの指標で見ると、この取り組みはクローズドループのマテリアル循環率に加え、GHG削減やバージン資源の削減というインパクト指標にも接続できます。「スキームを設計する」と「スキームを動かし続ける」の間には、埋めるべきギャップがあります______
その橋渡しをどう実務に落とし込んだか——詳細はセミナー動画をご覧ください。
実装を前に進める、3つの論点
武津はセミナーの結びに、2つの事例から導いた実務の論点を3つに整理しました。
① マテリアルフローの解像度を上げる
社内データの集計だけでは見えない実態がある。「なぜ現状はそうなっているのか」「どこへ行き、何になるか」まで把握して初めて、KPIと行動計画の精度が上がります。
② バリューチェーンを見渡してパートナーを探す
新たなパートナーを探す前に、既存のネットワークを俯瞰する価値があります。突破口は、すでに持っている関係の中にあるかもしれません。
③ 法令適合性を「後から確認」にしない
実証段階からコンプライアンスを組み込むことが、スキームを安定的に動かし続ける基盤になります。「動かしてから確認」では、継続的な運用は難しい。
あなたの会社は、どのステージにいますか
GCPは「目標を測るための枠組み」にとどまりません。事業判断・開示・投資家説明をつなぐ共通言語として機能します。そのとき、循環性目標は初めて「事業を動かす目標」になります。
ただし、その実装は一度きりの設計では終わりません。GCPが示す成熟度モデル(Initiation → Expansion → Consolidation)に沿って、まず管理しやすい領域で実績を作り、段階的に対象範囲と精度を広げていくことが求められます。
目標を立てた後、多くの企業が直面するのは「では、何から手をつけるか」という問いです。現状把握の解像度は十分か。スキームを動かせるパートナーはいるか。指標と事業判断は繋がっているか。
セミナーでは、この問いに向き合うための論点と事例が、より詳しく語られています。パート1・2のアビームコンサルティングによるGCPの設計論とあわせて、ぜひ動画全編でご確認ください。
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執筆者情報
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きのした いくお
木下 郁夫
アミタ株式会社 おしえて!アミタさん編集部
大学では教育と環境の二足の草鞋を履き、アミタ入社後は、企業向けの提案・営業の経験、廃棄物管理に係わるシステムや業務フローの構築などに携わる。現在は『おしえて!アミタさん』の編集を含めたメディア運営、イベント企画、情報発信を担当。特にサーキュラーエコノミー領域に感度高く、アミタ社外との共創を日夜模索中。鳥取在住。
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