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コラム

第六回 社会実装の仕方トランジション・ストラテジー(移行戦略)のすすめ ~循環型ビジネスの実現~

IMG_5721_re.jpgこれまでの連載にて、循環型ビジネスへの移行戦略は、経営そのものの課題として捉えて事業計画を考えること、そしてそのビジネスモデルの設計においては、サーキュラーエコノミーを実現する5つのビジネスモデルの類型 が参考となるという点をお伝えしました。

移行戦略さえ立てれば実現ができるのかといえば、答えはNOです。いかに優れた仕組みがあったとしても、それを実際に実現させる=社会実装させることは、決して容易なことではありません。実現に向けては、目的・目標をぶらさずに、いくつかのステップを着実に踏んでいく必要がありますし、同業他社やサプライヤーなど、社会実装のために連携が必要な多くのプレイヤーをいかに巻き込んでいくかが大きなポイントとなります。
社会実装を着実に推進している企業の多くが、実は共通した進め方をしており、そこにはある種のセオリーが存在するとアミタは捉えています。本記事では基本となるステップについての解説を行います。

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目次

社会実装に必要なステップとは?

循環型ビジネスを社会実装していくためには、次の5つのステップがあると考えています。

1. ビジョンとゴール、ロードマップやステップを示す

移行戦略により新たな取り組みや施策を進めていく際、必ずといってよいほど、課題に行き当たり、解決すべき事項が多数発生します。ビジョンをしっかり腹落ちさせておくことは、何か課題が出たとしても軸をぶらさずに進む上で重要な羅針盤となります。ビジョンの明確化がなぜ重要かについては、第四回の記事でまとめております。(参照:コラム第四回『新規事業づくりのポイント解説』
そしてビジョンだけではなく、目指すべきゴールについても、しっかりデザインしておかなければなりません。よくあるケースとして、自社のリソースや技術・ナレッジなどに頼り、現状の延長線上にある小さなゴールを目指してしまう場合があります。それでは既存のビジネスモデルからの移行は極めて困難といえるでしょう。そうならない為には、未来における気候変動やエネルギー問題などの制約条件を最初に定義し、バックキャストを踏まえてゴールを具体的に設定しておくことです。自社単体で事業を進めていく上で不足しているリソースや技術、製造や流通などのパートナーやコストの問題などの前提条件は一旦除き、あるべき姿を明確化しておくことが何よりも重要です。その上で「目的に資するビジネスモデルをつくる」ということを常に念頭におきましょう。

2. 自社がやることと、他社を巻き込むことで達成することを分けて認識する

循環モデルを構想していくと、多くの場合、1社だけで無理に取り組んでも事業採算性が低い、物量が少なくコストが高いなどといった課題が見えてきます。こうした課題が解決できず、自社ではどうにもならない、とプロジェクトが先に進まなくなり、そのまま頓挫するケースが散見されます。とはいえ、いきなり大規模に他社を巻き込もうとするのは、各社思惑やタイミングが異なるために足並みが揃わず、かといって勝手に進めることもできなくなり時間ばかりが掛かる、合意形成が難しくなることが想定されます。他社が自分たちと同じ方向やゴールを目指すように、前提とする市場の見立て、社内コンセンサスの程度などは自社のポジションやビジネスモデル仮説を固めたうえで実行に移すことが大切です。
そこで、最初から自社で全てを完結しない前提でプロジェクトを考え、また自社でできる範囲と他社を巻き込まないとできない範囲を認識しておくことが、今後のプロセスを進めていく上で大変重要なポイントとなります。自社の能力や現状把握をしっかり行い、また、連携可能なプレーヤーがどういったものなのか、同業他社なのか異業種なのか、あるいは行政を動かす必要があるのかなど、連携先に目星をつけておくとよいでしょう。

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「領域の仕分け」アミタ作成

3. 小さな範囲を巻き込み、スモールスタートをする

次は、自社で可能な限り進めてみるというステップです。ステップ2で整理した通り、自社で実施可能な部分は仕分けしておきます。具体的に何を進めるかという点ですが、市場のマーケティングや現場でのテスト検証を考えてみてください。
例えば、ホテルアメニティ(歯ブラシやカミソリ、ヘアブラシなど)の資源循環型のビジネスモデルを考えた場合、回収拠点、対象品目、エリア、期間、再資源化方法や物流、リサイクラーの検討、費用対効果、人的な工数など、様々な検討要素があります。
それらを一定期間実施し、成果や課題、予測やリスクマネジメント、費用対効果などを具体的に結果を検証してみましょう。全て完結しなくても、どのような拠点で出荷量に対してどれだけの使用済み製品の回収ができるか、また回収されたものはどのような状態、荷姿なのか、選別や再資源化の支障はないかなどの状況が可視化されます。その上で再資源化ルートや物量の確保など、不足点や課題点、特に「次のステップとして他社を巻き込み規模を大きくすることでクリアしたいこと」を整理しておくことが大切です。
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「テスト検証」アミタ作成

4. 巻き込む範囲を大きくし、規模を拡大していく

プロジェクトを実際のビジネスモデルとして進めていく上では、スケールメリットや効率性を上げるため、同業他社も含めた、異業種、産官学、分野を超えた連携を模索することになります。
ただし、この「連携」には注意が必要です。ステップ2で記載した通り、安易な連携模索はプロジェクトにとって阻害要因になります。また、最近では企業間の「協業」「連携」が一種のブームのような状態で飛び交っており、担当部門としてはいうなれば「連携疲れ」のような状況に陥っているという話も耳にします。
他社を巻き込むにあたっては、巻き込まれる側の心理を想像しましょう。「何のために連携し、何を行い、どのような成果物を得ようとするのか」を明確化しておくこと、プロジェクトの不透明性の低さ・実現性の高さを示すこと、そして何より投げかける側の本気度が伝わる必要があります。1・2・3のステップを踏むことで、これらの材料を獲得できます。
ポイントの一つは、ステップ3で獲得した経験・知見を、できるかぎり共有することです。「先行し苦労して得た知見を、なぜ他社に共有するのか」と思われる方がいるかもしれませんが、他社もそう考えます。仮に自分達のやり方がベストと考え、秘匿しようとしても、市場には必ず後発者が参入します。後発の方が、より低コストで、より効果的な仕組みを生み出すことも多々あります。先行者がリスクばかりを背負い、後発者が得をするシナリオになりやすいために、どの企業も最初に取り組むことを躊躇します。だからこそ「先行者が得た知見」には価値があり、それを共有することで先行企業が今回の取り組みを競争領域でなく協調領域として捉えていることが示され、また本気度が伝わっていくのです。

各社による価値創造のコアでない部分、静脈領域など規模の経済が必要な部分、あるいは共通化したプラットフォームで進めた方がより効果的であると思われる部分については、得られたノウハウを同業他社などに伝えていき、同業他社にもメリットがある形で一緒に巻き込みながら進めていきます。連携先の会社の中で「先行企業はここまでやっている」とコンセンサスを後押しする材料にもなるでしょう。先行者側も長期的なコストをみていけばメリットがありますし、何よりも得られた知見や経験がフルに活きるような形で、その業界としてのルールメイキングを主導できるという点も大きいと思います。

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「協調領域」アミタ作成

5. 社会に実装される仕組みをつくる

次に考えるポイントとしては、いかにその事業を社会の仕組みとして社会に組み込んでいくかということです。
ここで、持続可能なビジネスモデルを実現させようとしている取り組みを紹介します。株式会社アールプラスジャパンです。アールプラスジャパンは2020年に12社の共同出資により設立された会社です。世界で共通となっているプラスチック課題の解決に貢献すべく、回収プラスチックの選別処理、モノマー製造、ポリマー製造、包装容器製造、商社、飲料・食品メーカーなど業界を超えた連携により、2027年の実用化を目指してます。現在では40を超える企業が参画しています。
サントリーホールディングスの新浪社長は「世界的な課題に対して、日本から、テクノロジーの切り口でプラスチック問題を解決していこうという思いで、異業種、同業種合わせて12社が集った」と設立の背景を述べています。原料メーカー、容器包装メーカー、消費財メーカー、流通業者、処理業者とプラスチックのバリューチェーンに関わるプレイヤーのすべてが参画していますが、各企業もそれぞれ、各社のビジョンの中で共通化出来る部分を上手く取り入れ、事業化されているというのがわかります。 rplus.jpg

「参画企業」(出典)株式会社アールプラスジャパンWebサイトより

他社を巻き込みながらビジネスモデルを構築した後は、いかにそれを発展させていくかを考えなくてはなりません。将来的なことも踏まえ、検討すべきポイントとしては、大きく2つあります。

  • 制度として組み込んでいくこと
    複数の同業他社を巻き込んでいくことにより、行政側もその動きにアンテナを働かせてくれるようになります。ビジネスモデルの公共性が高いことは大前提として、より良い制度の在り方について、関連省庁などにも意見をいえる状況をつくることは非常に重要です。

  • インフラとして組み込んでいくこと
    誰もが利用する施設や公共サービスと同じように、インフラの一部として組み込んでいくことも検討しましょう。たとえば、よく使うアプリとの連携などをしていくことで、あるのが当たり前、そうするのが当たり前といった今までの前提を覆したような仕組みづくりが見えてきます。
最後に

前回のコラム「移行戦略の立て方」に続き、今回は、事業活動を通じて循環型ビジネスを実現するまでのプロセスや手法を解説しました。アミタのCyano Projectでは、この先自社がどこを目指すのかを再認識し、捉えた課題に対してお客様と一緒に解決策(攻めと守りのESG戦略)を構想~実装する支援をしています。

関連情報

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執筆、編集

kinoshitasan.jpg木下 郁夫(きのした いくお)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
グループマネージャー付

企業向けのソリューション営業の経験をベースに、廃棄物管理に係わるシステムの設計・開発、業務フローの構築などに従事。現在はサステナビリティ経営に向けた新規事業の提案など、更なる顧客満足度の向上を目指し、提案・サービス活動を行っている。

minamisan.jpg南  修央(みなみ のぶお)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
山吹チーム シニアコンサルタント

大 手自動車メーカー・非鉄金属メーカーなどに廃棄物リスクマネジメント講師、コンサルティング支援などを提供。廃棄物管理のクラウドサービス「現:Smartマネジメント」を設計開発。1,000拠点以上の廃棄物管理のIT化に携わる。

matuisan.jpg松 井 惇(まつい あつし)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
山吹チーム

企業向けのサステナビリティコンサルティングを担当。
GHG排出量の算定業務、CDP回答支援、廃棄物管理マニュアルの作成に従事。

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