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コラム

藻場・干潟とは?~生き物を育む「オアシス」~

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持続可能な社会を目指す上で重要な、ネイチャーポジティブ、気候変動、サーキュラーエコノミー。これら全てに係わる重要テーマでもあり、30by30において改めて重要性が認識された海の保全と管理。その中で、里海(SATOUMI)という日本発の考え方が、改めて注目されています。第3回目のテーマは「藻場・干潟とは?」です。

前記事:「ブルーカーボンとは?J-ブルークレジット制度とは?
関連記事:「30by30目標とは?企業の生物多様性の取り組み方についても解説

「『令和の里海』モデル事業」で行われた干潟の土壌改良(尾道市)

目次

藻場・干潟とは

藻場とは、海藻がつくる茂みのことです。藻場は波や潮流による水の流動を和らげるとともに、幼稚魚に外敵から身を守る隠れ場を与えます。微少な藻類やプランクトンなどを付着させこれを餌とする小型の甲殻類であるワレカラ類、ヨコエビ類といった生き物を葉上に集めます。さらにこれらの葉上生物は魚類の餌になり、数珠つなぎの多様な生物層を形成していきます。また最近は、二酸化炭素を吸収し、大気中への拡散を防ぐブルーカーボンとしての機能も知られるようになりました。

干潟とは潮の満ち引きにより、干出と水没を1日に2回ずつ繰り返す砂泥地のことです。地形的な特色により次の3タイプに分類されます。河口部に形成される「河口干潟」、砂浜の前面に位置する「前浜干潟」、湖沼の岸に沿ってできる「潟湖(かたこ)干潟」です。潮流や川の流れなどにより豊富な栄養が集まります。また、干出と水没の繰り返しは、海水に大量の酸素を供給。これにより有機物を分解するバクテリアを活性化させ、海に流れ込む汚れを浄化します。

          ▼ 藻場                ▼干潟

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減少する藻場・干潟 

藻場・干潟は近年では減少傾向にあります。高度経済成長期以降の埋め立てや護岸整備、海砂の採取などを原因として消えていきました。環境省の中国四国地方環境事務所へは、漁業者らから懸念の声が寄せられています。「メバルの稚魚を放流しても隠れ場がないため、成長する前に外敵に捕食されてしまう」「小さな魚が消えると、それを餌にする大型魚もいなくなってしまうのではないか」「海底にヘドロが増え、生き物を見なくなった」「アサリが取れなくなった」「養殖ガキが大量に死んでしまう」「潮干狩りができなくなり、浜辺からにぎわいが消えた」・・・。

上記問題にはさまざまな要素が関係していますが、藻場・干潟の減少も大きな原因の一つと考えられるでしょう。

▼瀬戸内海の藻場・干潟面積の推移(響灘を除く)

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(出典:環境省「せとうちネット」

藻場・干潟を増やすための対策例

失われた藻場・干潟を取り戻そうと、国内ではさまざまな取り組みが進められています。

岡山県備前市日生町地区では、1950年代に590ヘクタールあったアマモ場が、護岸整備や埋め立てによってわずか12ヘクタールに減少。地元の日生町漁協が中心となり40年ほど前から全国に先駆けて再生活動に乗り出しました。
海面を漂う「流れ藻」から手作業で種を採取し、播種。カキ殻を海底に敷設することで、浮泥を抑え光合成を促すと同時に根を張りやすくする工夫も凝らしました。

2012年には岡山県、NPO法人・里海づくり研究会議、生活協同組合おかやまコープと協定を締結。4者が連携し資金繰りや技術面をカバーしてきたほか、アマモの役割を伝える学習会も企画し、種まきに市民の力も加わるようになりました。250ヘクタールまで面積が回復した現在も活動を継続。日生町地区に続けと、県内外で再生活動が見られるようになりました。

環境省でも「『令和の里海づくり』モデル事業」と銘打ち、地域で行われる藻場・干潟の保全、再生活動を後押ししています。令和4年度から毎年度10団体ほどを採択。全国で取り組む里海づくりからモデルとなる事例を見つけ、活動資金の支援や情報発信、事業者同士のネットワークづくりを進めています。令和5年度には、アサリをはじめ生き物が豊かに息づく干潟づくり(広島県尾道市)や、藻場を食い荒らすアイゴを食べて減らすためのレシピ開発(山口県防府市)を実施。瀬戸内海の魅力を体感するツアーや子ども向け学習会(岡山県岡山市、備前市)などのイベントも催されました。

他にも、国や自治体により干潟を造成する事業も進められています。航路浚渫で生じた土砂を石垣で囲った遠浅の海に投入して整備するのが一般的です。干潟や森林の再生を目指す自然再生推進法が2003年に施行されたことを機に増え、全国に少なくとも100か所以上はあるといわれています。

ただ、一度失われた藻場・干潟を元に戻すのは容易ではありません。アマモの種を何年もまき続けているものの、思うように増えないという声は多く聞かれます。アマモを定着させるためには、潮流の速さや海底に届く光の量など、いくつかの条件を満たす必要があるようです。造成干潟もつくる場所を間違えると、波に砂がさらわれてなくなってしまいます。また、狙い通りの生き物を生息させるには、勾配や砂の質などを細かく調整する必要があり、科学的な知見に基づいた計画が必要です。そのため、復元再生・造成事業とともに、今ある自然を守ることが求められます。

   ▼ 流れ藻からアマモの種をより分ける作業風景(備前市)  ▼アマモの種

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参考情報
執筆者プロフィール

nishihira_prf.png西平 亮(にしひら りょう)氏
環境省 中国四国地方環境事務所 環境対策課 里海づくり推進専門官

2016年4月、株式会社山陽新聞社に入社。記者として経済部、倉敷本社編集部、西日本豪雨取材班、報道部に所属。22~23年、環境問題取材班の一員となり、海の環境問題を取り上げた年間企画「里海からの警告」を紙面連載した。同年8月より環境省へ出向し現職。中国地方をフィールドに里海づくりの推進業務に携わる。

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