コラム
先進事例に見るサーキュラーエコノミーへのビジネスアプローチ
(前編)
サーキュラーエコノミーについて先進企業の事例から、重要なポイントを解説します。本記事は公益財団法人自動車技術会に寄稿した記事を一部転載しています。全文は自動車技術会 会誌『自動車技術』2024年9月号をご購読ください。
後編はこちら
サーキュラーエコノミーの重要なポイント
近年、エコデザイン規則やELV管理規則案など、EUを中心にサーキュラーエコノミーに関連した規則動きが活発です。規則の整備によって業界全体の資源循環促進効果への期待は大きいですが、サーキュラーエコノミーは規制強化のみで達成されるものではなく、バタフライ・ダイアグラムの大小の円を掛け合わせたビジネスとして確立させるものでもあります。ビジネスを循環型に移行させる上で重要な視点として、以下の3点が挙げられます。
▼サーキュラーエコノミーに取り組む上で重要な視点
1. 物理的な設計だけでなく、商品の企画段階からサーキュラーエコノミーの3つの基本原則を念頭にビジネスモデルや協業パートナーの検討なども含む商品設計を行う 2.循環の輪をなるべく小さくローカルに回す 3.ビジネスおよび商品を循環型にすることのメリットが提供側の企業、顧客双方にとって十分にあること |
▼バタフライダイアグラム
関連記事:サーキュラーエコノミーとは? 3Rとの違いや取り組み事例まで解説!
サーキュラーエコノミーに取り組む企業事例
以下、サーキュラーエコノミーの本質を捉え、上記の3つの視点を確実に押さえることで環境と経済(利益)の両立を実現した企業取り組みの好事例を紹介します。
ICTをサーキュラーデザインの核とした建機メーカーの事例
●コマツ 機械稼働管理システムKomtrax(コムトラックス)
建設機械・重機メーカーのコマツは、ICTを巧みに活用してサーキュラーエコノミーを実現しています。同社は、2001年より機械稼働管理システムKomtrax(コムトラックス)を車両に標準搭載し始めました。KomtraxにはGPSおよび通信システムが装備され、車両内ネットワークから集められた情報やGPSにより取得された位置情報により、コマツやKomtrax搭載車両を利用する顧客は、建設機械の状態を遠隔で確認可能になっています。ICTを通じて車両の健康状態を把握することで、例えば部品の摩耗やオイル交換など、最適なタイミングでのメンテナンスが可能になり、故障を未然に防げるや、稼働情報を把握することで、車両のダウンタイムを短縮・回避、車両の性能を維持し製品寿命を延長することにも貢献しています。
▼顧客との関係強化を重視したコマツのビジネスモデル
出典:コマツ
またコマツは、顧客の元で長期間稼働した建設・鉱山機械のエンジンやトランスミッションなどのコンポーネントを取り外して交換するアフターサービスを提供しています。回収したコンポーネントを分解、洗浄、修理、再塗装等し、新品同様に蘇らせて再び市場に供給する「リマン事業(コンポーネントの再生ビジネス)」においても、ICTが重要な役割を担っています。
▼リマン事業 工程
出典:コマツ
リマン事業においては、交換用のコンポーネントを事前に準備しておくことが重要ですが、ICTを通じて収集・蓄積した機械稼働時間とコンポーネント寿命の情報が、車両毎のコンポーネントのオーバホール需要の予測を可能にしています。
コマツが行っているのは、製品寿命の延長というハード面でのサーキュラー化だけではありません。コマツはICTによって得た車両の情報を元に、前述したような適切なメンテナンスだけでなく、建機の稼働状況から見えてくる顧客の生産性や安全性の向上に資する提案を行ったり、定額の保守契約プランを提供したりと様々なアフターサービスを提供しています。このアフターサービスの拡充は、単に投入した資源からより多くの利益を得るだけでなく、顧客の生産性を高め、コマツのサプライチェーン下流におけるCO2排出量の削減にも寄与します。また通常であれば役割を終えた車両は中古車ディーラー等に販売されることも多いですが、アフターサービスの中で部品交換や建機自体の買い替えと下取りを提案することにも繋がり、それが再びコマツに利益をもたらすという好循環を生んでいます。
このように、コマツはICTをフル活用することで、ビジネスをハードウェア売り切りのリニア型から脱却し、サーキュラー型に移行させることに成功しています。これを可能にした要因の一つに、製品のライフサイクル全体でビジネスモデルを設計する視点があったと考えられます。リニア型では利益を得られるのは物販の際の一度きりですが、販売後も顧客との接点を増やすことで、利益を得るチャネルを多様化させました。また、修理や中古品の販売には回収スキームや修理拠点が必要になるため、コストが掛かるという懸念が先行しがちですが、製品ライフサイクルの複数の場面で利益を得ることができればそのコストを上回る収益の確保と顧客満足度の向上を実現できる可能性があります。
サーキュラリティを商品設計の核としたエレベータのサービサイジング事例
●三菱エレベータヨーロッパ M-Use®
オランダに本社を置く三菱エレベータヨーロッパ社は、エレベータを「Vertical Mobility(垂直なモビリティ)」と定義し、従量課金制のサービスM-Use®を提供しています。M-Use®では、所有ではなく「使用」に重点を置き、サーキュラリティを商品設計の中心に据えた、エレベータとしては非常にユニークなビジネスモデルとなっています。顧客はまず、エレベータの初期投資費用としていくら払うかを自分で決めることができ、その後は年間固定料金と使用量に応じた料金を支払います。固定料金は初期投資した金額に基づき決定され、メンテナンスや第三者機関による検査費用が含まれています。通常であればエレベータには多額の初期費用が必要であり、さらに故障や交換の際にまとまった支出が発生しますが、M-Use®ではエレベータに対する支出をイニシャルとランニングに分散させることである程度一定の額に保つことが可能です。
▼通常のエレベータ購入時の費用とM-Use®サービス利用時の金額比較
出典:三菱エレベータヨーロッパ
またエレベータの所有者はメーカーとなるため、定期メンテナンスや耐用年数を超えた際の交換など、エレベータの維持・管理からも解放されます。これは顧客が製品寿命を通してエレベータに支払うトータルコストの削減にも寄与します。一方メーカー側のメリットは、コマツの事例同様、サービス使用料として安定的な収益が得られること、顧客との関係性を維持し囲い込みが可能になること等が挙げられます。
このような、サービサイジングというビジネスモデルによる一番の効能は、製品の長寿命化の実現や、リサイクルしやすい設計に取り組む動機がメーカー側に生まれる点です。顧客にモノを売ることで利益を上げる既存のビジネスでは、製品の故障や不具合、また買い替えはメーカーにとって販売機会となり、そのような動機は生まれにくくなります。製品をサービスとして提供する場合、故障や不具合により製品が使用できない期間、使用料収入は途絶えてしまいます。また三菱の場合、不具合により騒音が生じるなど契約において顧客と合意したクオリティを提供できない場合、顧客側に返金対応をしているため、エレベータが快適に使用できる状態を維持することが自社の利益につながっています。そのために三菱はICTを活用し、稼働状況や部品ごとの負荷を測定し、適切な種類のメンテナンスを最適なタイミングで提供することで、年間故障回数は1回未満でダウンタイムは通常のエレベータの20%未満という成果を出しています。これがユーザのメリットにもつながることは言うまでもありません。
また、三菱は本体や部品のリユース・リサイクルにも徹底的に取り組んでいます。まず契約満了を迎えた製品は、中古エレベータとしてリユース可能な場合は再リースを行い、部品についても外部パートナーと協業してモジュール化・共通化することで、自社製品のみならず他社製品にもリユースできるようにしています。またリユースできなかったものに関しても、分解しできるだけリサイクルができるようにしており、最終的に出る廃棄物の量の削減を推進させています。
記事の続きは後編からご確認をいただけます。後編ではASMLの徹底的な製品寿命の延長を実現した半導体製造装置の事例と、サーキュラーエコノミーに向けたビジネスモデルの変革の必要性について解説していきます。 ・先進事例に見るサーキュラーエコノミーへのビジネスアプローチ(後編) |
関連情報
・サーキュラーエコノミーとは? 3Rとの違いや取り組み事例まで解説!
・サーキュラーエコノミーの社会的意義とは?社会課題の解決・ウェルビーイング向上と循環型ビジネスを両立させる方法
・サーキュラーエコノミーに取り組むメリット・デメリットとは?競争優位性を獲得する「社会的価値」・企業事例を紹介!
執筆者情報
中村 圭一(なかむら けいいち)
アミタ株式会社 サーキュラーデザイングループ
持続可能経済研究所
辰巳 愉子(たつみ ゆうこ)
アミタ株式会社 サーキュラーデザイングループ
持続可能経済研究所
長谷川 孝志(はせがわ たかし)
アミタ株式会社 サーキュラーデザイングループ
持続可能経済研究所
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