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サステナブル投資を引き寄せる方法は?【前編】

Image by Pexels from Pixabay

経済・環境・社会の持続性に配慮した投資手法であるサステナブル投資。近年では、個人向け投資信託のみでなく、機関投資家にも広く採用されてきています。しかしながら、「サステナブル投資家からの投資をうけるには、どうしていくべきか」頭を悩ます企業の方々も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、NPOや企業の社会的インパクトの評価手法を開発し、数多くの企業へ診断やアドバイスを実施されている、株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ 代表 熊沢氏に、「サステナブル投資の増加に向けて」をテーマに解説いただきます。前編では、「何がサステナブル投資を妨げるのか?」という要因と課題について、後編では、課題を乗り越えるための解決方法について、お届けします。

後編はこちら

はじめに

経済・環境・社会の持続性に配慮した投資手法であるサステナブル投資は、日本ではかつては「エコファンド」など、個人向け投資信託の一部にとどまっていました。しかし近時は、2015年におけるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のPRI(国連責任投資原則)署名やESGインデックスの設定などにより、サステナブル投資は機関投資家にも広く採用されています。その結果、機関投資家におけるサステナブル投資の残高は、2018年3月末で約231兆9,500億円まで拡大しています(※1)。

そのような中で、当社のクライアント企業からは、「機関投資家からサステナブル投資を受けたいが、どうしたらいいのかがわからない」、「自社の取り組みをサステナブル投資家に対して、どのように発信すればいいのかわからない」などの質問が多く寄せられるようになっています。まずは、企業側の立場からサステナブル投資における課題を整理してみましょう。

(※1)日本サステナブル投資フォーラムのホームページより https://www.jsif.jp.net/

事業性と社会性の両立を掲げる企業が増加

企業も、本業での社会課題の解決を打ち出したり、事業性と社会性の両立を掲げる企業が増えています。企業のホームページや統合報告書(※2)等においても、事業とSDGsとの対応をマッピング、紐付けする記載が増えています。
このような中で、「企業が事業と社会課題の関係をどう捉えていくべきなのか?」また、「それをどのように開示していくか」が企業にとって大きな課題となっています。

(※2)統合報告書とは、「財務情報と非財務情報を統合して開示し、企業の今後の価値創造に関する方針と見通しをまとめた報告書」です。本稿では、企業の非財務情報について記載した各種報告書(環境報告書、サステナビリティ報告書、CSR報告書等)を含むものとします。

サステナブル投資家の現状と本音(?)

前述の通り、日本の機関投資家はサステナブル投資志向を強めていますが、本音では、企業の社会性の追求によって、財務リターンが大幅に下がることは望んでいません。投資のパフォーマンスが低下するからです。サステナブル志向の機関投資家は、長期的な視点で企業が財務リターンと社会的リターンを両立することを望んでいるのです。

企業による財務リターンと社会的リターンの両立の難しさ

では、企業にとって、財務リターンと社会的リターンの両立は簡単なことなのでしょうか?ハーバード大学のエクルス教授は3,000社を超えた実証研究によって、企業の財務リターンと社会的リターンの両立度合いを調査しました。(研究では、それぞれ財務パフォーマンス、ESGパフォーマンスと示されています。)その結果、エクルス教授は、これらの両立は、製品、ビジネスプロセス、ビジネスモデルなどに大きなイノベーションがないと実現できないという結論をづけています。

image_performancefrontierline.png 図表1 パフォーマンスフロンティアライン
参考:ESGパフォーマンス:持続可能な指標 HBR2013年9月

企業が総花的にESGを高めることは、投資にとってマイナスに働く

投資家のESGに関する考え方に影響を与えた、ハーバード大学のセラフェイム教授による研究をご紹介します。この研究は、「企業の超過リターン」と「企業のESG要因に対する取り組みレベル」との関係を研究したものです。

この中で、「重要なESG要因では取り組みレベルが高く、重要ではないESG要因では取り組みレベルが低い」の組み合わせが最も超過リターン(6.01%)が高くなり、総花的にすべてのESG要因で取り組みレベルが高い企業群の超過リターンは1.96%と低くなります。この論文の発表以降、投資家もESG要因の重要性(マテリアリティ)に注目する動きが広がりました。企業も総花的に、すべてのESG要因に対する取り組みレベルを上げる努力をするよりも、戦略性を持って、マテリアリティの高い要因に絞り込んで取り組む必要性が高いことがわかります。気候変動、生物多様性、水資源など、様々な分野の取り組みがありますが、選択と集中が求められます。

image_CorporateSustainability.png

図表:企業のESG要因の取り組み度合いと投資リターンの関係
参考:Khan, M., G. Serafeim, and A. Yoon. 2016. Corporate Sustainability:
First Evidence on Materiality. The Accounting Review

何が投資を阻むのか?企業の統合報告書における現状の課題

さまざまな企業の統合報告書を見る機会がありますが、いくつかの共通の課題が見受けられます。そして、これらの共通の課題がサステナブル投資家からの投資を阻む要因として働いています。

課題1:多くのマテリアリティが掲げられて、どれが戦略的に重要なのか?その企業は何を重視しているのかがわからない。また、タイムラインもはっきりしない。
→サステナブル投資家からすると、フォーカスが曖昧で、何に投資していいのかがわからないので、投資できない。

課題2:多くの日本企業のSDGsの取り組みは既存事業をSDGsテーマに結び付ける「SDGsマッピング、紐付け」段階で思考停止状態にある。マッピングされた課題をどのように解決し、企業の利益にいかに結び付けるかという、企業戦略にまで落とし込みがなされていない。
→サステナブル投資家からすると、企業戦略まで落とし込みされないと、具体性に欠けるので、投資できる段階に至っていない。

課題3:事業性と社会性の両立を掲げつつも、実際の情報開示においては、KPI(重要業績評価指標)が示されてない。また、その企業の製品の販売数などのアウトプット(直接的な結果)だけがKPI(重要業績評価指標)として掲げられている。
→サステナブル投資家からすると、企業の取り組みが社会課題の解決につながる道筋(ロジック)がわからないので、投資できない。

課題4:企業の事業性と社会性の両立も1つのエピソード1つの事例で説明しているだけで終わってしまっている。
→サステナブル投資家は比較的長期スパンで投資を検討するが、その企業の取り組みがどれくらい持続的な取り組みなのか、コミットメントがはっきりしないと投資できない。

現在、多くの企業が上記の共通の課題を抱えています。事業による社会課題の解決を掲げたり、事業とSDGsのマッピングを掲げても、このような現状では、事業性と社会性の両立は「絵に描いた餅」で終わってしまうのではないかという危惧を私は持っています。
後編では、このような現状の解決策を考えていきたいと思います。このことがサステナブル投資を引き寄せる方法に繋がるのではないかと考えています。

執筆者プロフィール

image004.png熊沢 拓(くまざわ たく)氏
株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ
代表

ベンチャーキャピタルにてベンチャー投資を行っていたが、リーマンショックでサステナブル投資の必要性を実感し、2010年に創業。日本で先駆けとなる独自のインパクト評価指標を開発する。大手企業やNPOにインパクト評価コンサルを提供。また、自社ファンドにて事業性と社会性を両立するインパクト投資を行う。

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