
前編では、グローバル循環プロトコル(Global Circularity Protocol:以下、GCP)GCPの概要、開発の経緯、指標としての設計思想をその特徴とともに解説しました。GCPは、インターオペラビリティ(相互運用性)などを前提思想として組み込み、より企業が導入しやすく、ビジネスとして意義のあるプロトコルを志向している点に特徴があります。
後編では、企業がGCPを導入するための具体的なステップと、導入により得られるメリットを解説していきます。
GCP導入のステップ
前編でもご紹介したGCP v1.0では、評価から改善、開示までを一連のステップとして整理しています。企業実務に落とし込むと、次のような流れになります。
▼GCPの導入ステップ

1. Frame 目標設定:評価対象と目的を明確化
最初のステップは
- 何を評価するのか(例:素材レベル、製品・サービスレベル、企業・事業ポートフォリオレベル)
- なぜ評価するのか(例:経営戦略の見直し、CE移行のロードマップ策定、外部評価・情報開示)
を明確にすることです。
GCPは柔軟な設計になっており、いきなり企業全体を対象にする必要はありません。戦略上重要な領域から段階的に適用(Step-by-Stepアプローチ)することも可能です。最初から「完璧」を目指すより、「どこから変えたいか」を言語化することが、GCP活用の第一歩になります。
2. Prepare 準備:データ収集とマテリアルフローの整理
次に行うのが、評価の土台となる情報の整理です。多くの企業ではすでに、
- 資源投入量
- 製造・使用・廃棄段階のデータ
- LCAや環境データ
などが部門ごとに存在しています。GCPでは、これらを新たに集め直すというよりも、マテリアルフローとして再整理し、全体像を可視化することが重視されます。また、この工程を経ることで、自社の上流/下流にも目を向けることになります。明らかにすべきなのは「どこで資源が多く投入されているのか」「どこで価値が失われているのか」といった、「資源循環における構造的な課題」です。本質的な課題は、必ずしも自社内にあるとは限りません。この整理と可視化は、後の改善プラン策定と戦略への落とし込みに大きく関与する、GCP導入プロセスの要諦とも言える工程です。
ただ、自社の資源投入量や廃棄物排出量などについては、すでに多くの企業が自社内においてはその情報を持っていますが、サプライチェーン・バリューチェーン全体について「資源循環における課題の構造」を予め整理できているケースは稀です。この整理・可視化には、バタフライダイアグラムへのバリューチェーンマッピングの手法がお勧めです。このアプローチでは、製品・素材のマテリアルフローのみならず、上流/下流のプレイヤーやユーザーの顕在/潜在ニーズ、影響を受ける/及ぼす社会課題などまで視野を拡げていきます。バランスの取れたズームイン/ズームアウトの視点を獲得することにも繋がるでしょう。
このアプローチについては別記事でも詳しく解説していますので、参考にしてください。
関連記事:事例から見るサーキュラーデザインによるビジネス戦略
▼バタフライダイアグラムへのバリューチェーンマッピングのイメージ

アミタ作成
3. Measure 測定:GCP指標による循環性パフォーマンスの数値化
整理したデータをもとに、GCPの考え方に沿って循環性を測定します。ここでのポイントは、
- Narrow(資源投入の抑制)
- Slow(使用期間・利用の質)
- Close(循環の高度化)
といった複数の視点から、循環性を多面的に捉える点にあります。単一のスコアを出すことが目的ではなく、どの領域が強みで、どこに改善余地があるのかを把握することが重要です。極端に言えば、リサイクル率を高めることよりも、資源投入量を削減することのほうが、資源保全にとってより重要で、自社の戦略により適っているかもしれないからです。
「測定=採点」ではありません。GCPの測定は、次に議論すべき論点を浮かび上がらせる工程です。
4. Manage 管理:改善プラン策定と内部PDCAへの組み込み
測定した結果は、ここで初めて「経営判断の材料」になります。
ここで策定する改善プランは、リサイクル率向上、再生材の追加導入、回収スキームの検討といった単発の施策リストに留めるべきではありません。
- 戦略的に、どの施策を最優先に進めるべきか
- 製品設計・調達・販売・回収のどこを変えるのか
- 中長期でどの程度のステージを目指すのか
など、戦略レベルの計画として整理した上で、具体的な改善アクションとロードマップ、またPDCAサイクルに落とし込むことが推奨されます。現場の日々の活動が、リサイクル率といった目先の数値ではなく、企業の循環戦略のどこを前進させるのかを結びつけることで、環境施策がコスト論や理想論に終始せず、戦略的な議論の対象となり、また現場のモチベーションを高く維持することに繋がります。
5. Communicate 開示:国際比較可能な形での情報開示と対話
最後のステップが、外部への開示・コミュニケーションです。
GCPに基づく評価結果は、投資家、取引先、パートナー、社会との対話において、国際的に通用する共通言語として機能します。しかし、既存のESG開示や統合報告書からの置き換えを志向するものではなく、従来の開示では見えにくかった、
- なぜその施策を選んだのか
- 他の選択肢と比べて妥当なのか
- 循環経済への移行として筋が通っているのか
といった、企業としての「意思決定のロジック」を補強し、循環経済への取り組みを、より説得力のある形で伝えることを可能にするツールです。
GCP導入により企業が得られるメリット(効果と価値)
前編で整理したGCPの特徴や、導入ステップを踏まえて、GCPを導入することで企業が得られるメリットを整理します
1. CEを「取り組み」から「経営判断」に引き上げられる
GCPは、Narrow/Slow/Closeを横断的に評価するため、設計、調達、ビジネスモデル、投資判断といった、経営レベルの意思決定と直結させやすい点が特長です。これにより、サーキュラーエコノミーが「個別施策の集合」から「中長期戦略の一部」へと位置づけ直されます。
2. 「共通のものさし」で、環境・社会インパクトを統合的に説明できる
GCPは、GHGや自然への影響だけでなく、社会への影響、ビジネスへの影響も含めて評価できるため、各種ステークホルダーとの対話において「なぜこの循環施策に取り組むのか」「どのような価値を生んでいるのか」を一貫したストーリーとして説明できます。
関連記事:サーキュラーエコノミーのメリットとは?|競争優位性を獲得する「社会的価値」とは?
また、GCPは国際的に策定されたプロトコルであり、独自指標で、あるいは定性的に語られがちな循環性を、定量的に比較・説明可能な形で外部に示すことができます。
3. 「評価」がそのまま改善テーマになる
GCPでは、
- 評価結果=次の打ち手
- スコア=改善余地の可視化
という構造になっているため「数値を出して終わり」にならず、評価プロセスそのものが、
- 社内議論の材料
- 部門横断の共通言語
- 中長期ロードマップの起点
として機能し、CE移行を前に進める実務ツールになります。
まとめ:GCPと企業競争力 -CEを「コスト」から「強み」へ-
前編・後編にわたって解説してきたように、GCPを取り入れることは、単に評価対応を強化することではありません。
- 資源制約への耐性
- サプライチェーンの信頼性
- 投資家からの評価
- 新たなビジネス機会の発見
といった要素を通じて、循環経済を中長期視点での企業競争力へと転換する基盤になります。
サーキュラーエコノミーが「努力目標」だった時代から「競争条件」へと変わりつつある今、GCPは企業が資源循環領域における自社の強みを可視化し、戦略として磨き上げるための有力なツールの一つといえるでしょう。
執筆者情報
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きのした いくお
木下 郁夫
アミタ株式会社 おしえて!アミタさん編集部
大学では教育と環境の二足の草鞋を履き、アミタ入社後は、企業向けの提案・営業の経験、廃棄物管理に係わるシステムや業務フローの構築などに携わる。現在は『おしえて!アミタさん』の編集を含めたメディア運営、イベント企画、情報発信を担当。特にサーキュラーエコノミー領域に感度高く、アミタ社外との共創を日夜模索中。鳥取在住。
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