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コラム

第8回:「手元マイナス」に関する規制緩和の流れ堀口昌澄_連載「揺らぐ廃棄物の定義」

Holiguti_8_Some_rights_reserved_by_duncan.jpg本連載シリーズでは、廃棄物関連のコンサルタントや研修を数多く実施してきたアミタの主席コンサルタントの堀口昌澄が、連載12回を通じて、「揺らぐ廃棄物の定義」について解説します。 廃棄物を取り巻く法の矛盾や課題を理解することで、今後起こりうる廃棄物関連法の改正への先手を打つことができます。

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今回は、「手元マイナス」に関する規制緩和の流れから廃棄物の定義について解説いたします。本コラム記事の一覧はこちらから。

手元マイナス

「売れているから廃棄物ではない」と安易に判断してしまうと、廃棄物処理法に違反してしまうリスクがある。運賃が売却費より高いため、トータルでは費用の持ち出しになってしまう取引は「手元マイナス」や「逆有償」と呼ばれている。(なお「逆有償」は単に処理費を払っていること一般を指す場合もあるため、ここでは用語を「手元マイナス」に統一する。)

「手元マイナス」は、平成17年の環境省_旧規制改革通知で以下のように説明されている。「輸送費が売却代金を上回る場合~中略~産業廃棄物の収集運搬に当たり、法が適用されること。一方、再生利用するために有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降については、廃棄物に該当しないこと。」

この通知の発出以前は、多くの自治体が有償で譲り受ける者=購入者も処分業の許可が必要という指導をしていた。この通知の発出後は運搬者のみに許可が必要で、購入者は許可不要と規制緩和された。さらに、平成25年3月29日に「有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降については、廃棄物に該当しないと判断しても差し支えない」と改正され、運搬についての言及を避けている。同時に発出された通知からも明らかなように、この改正の目的は東日本大震災後の電力需給がひっ迫する中でバイオマス発電を促進することである。つまり、「手元マイナス」に該当する場合も事業者が運搬段階を(総合判断により)許可不要と解釈し、一般貨物として運搬する余地を作ったと考えられる。

リサイクル推進のための適用除外

まとめると、「手元マイナス」取引は運搬時も処分時も許可が必要だったが、平成17年の通知発出以降は処分のみの許可不要、平成25年の通知発出以降は処分も運搬も許可不要と規制緩和に向かっている。廃棄物処理法の規制がリサイクルの推進を阻害している点について、社会的要請に応えて通知によって適用除外にしたのである。

また、「事業全体において引渡し側に経済的損失が生じている場合であっても」という枕詞がついており、前回取り上げた水戸木くず判決の「当該物に関連する一連の経済活動の中で価値ないし利益があると判断されているか否か」という判断基準とも符合する。「手元マイナス」も水戸木くず判決も、取引のトータルコストが排出事業者にとってマイナスになったとしても、リサイクルした方が焼却・埋立するより安い、社会的に有用性が認められるなどのメリットがある場合は、廃棄物ではないという解釈が容認されたといってよいだろう。

さて、本シリーズの5回目までは廃棄物処理法の適用範囲を有価売却できるモノに対しても広げるべきだという流れだった。ところが、6回以降は処理費を払ってもリサイクルできるなら適用を除外すべきだという逆の流れだ。矛盾するようだが、この2つを両立させることは可能だ。規制をかける範囲は広げるが、有害性が低くリサイクルするものについては大幅な規制緩和をし、必要最低限の合理的な規制に留めればよいのだ。問題はリサイクルを阻害する過剰な規制なのであって、リサイクル可能なものについて法の適用除外とすることが求められているわけではないはずである。

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執筆者プロフィール(執筆時点)

堀口 昌澄 (ほりぐち まさずみ)
アミタ株式会社 
環境戦略支援営業グループ CSRチーム 主席コンサルタント(行政書士)

産業廃棄物のリサイクル提案営業などを経て、現在は廃棄物リスク診断・廃棄物マネジメントシステム構築支援、廃棄物関連のコンサルタント、研修講師として活躍中。セミナーは年間70回以上実施し、参加者は延べ2万人を超える。 環境専門誌「日経エコロジー」にも連載中。環境新聞その他記事を多数執筆。個人ブログ・メルマガ「議論de廃棄物」も好評を博している。大気関係第一種公害防止管理者、法政大学大学院特別講師、日本能率協会登録講師。

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