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コラム

第12回:海外法との不整合~バーゼル条約との差異~堀口昌澄_連載「揺らぐ廃棄物の定義」

Some_rights_reserved_by_Catawba_County.jpg本連載シリーズでは、廃棄物関連のコンサルタントや研修を数多く実施してきたアミタの主席コンサルタントの堀口昌澄が、連載12回を通じて、「揺らぐ廃棄物の定義」について解説します。 廃棄物を取り巻く法の矛盾や課題を理解することで、今後起こりうる廃棄物関連法の改正への先手を打つことができます。

Some rights reserved by Catawba County

最終回は海外法との不整合~バーゼル条約との差異~について解説いたします。
※環境新聞への連載は継続しています。

本コラム記事の一覧はこちらから。

相次ぐ海外廃棄物投棄の発覚

1980年代、先進国では環境規制が厳しくなり、有害廃棄物の適正処理コストが高くなった。そのため、環境法規制や取り締まりが不十分な発展途上国に廃棄物が相次いで発覚した。

例えば、米国船が1986年にダイオキシン、重金属などを含む焼却灰を化学肥料と偽りハイチに散布したキアン・シー事件、イタリアの企業がナイジェリアに PCB を含む有害廃棄物を投棄し1988年に発覚したココ事件などが挙げられる。廃棄された物質はいずれも、日本国内では特別管理産業廃棄物として扱われている種類のもので、適正処理しないと相当高い確率で健康被害が発生する。

バーゼル条約はこのような有害廃棄物の輸出入を規制する目的で、1989年3月にスイスのバーゼルで採択、1992年5月に発効した。

バーゼル条約の規制対象は、下記1と2の両方の要件に該当する物だ。

  1. 廃棄の経路(医療行為、有機溶剤製造等18経路)・含有成分(鉛、ヒ素等27種類)
  2. 有害特性(爆発性、急性毒性等)

つまり、1で対象とする廃棄行為と含有物を特定し、2で実際の有害性を評価して、規制対象とするかどうかを決定しているのである。

条約ではこれをより具体的にリスト化している。「規制対象品」として、鉛蓄電池、メッキ汚泥、廃石綿、シュレッダーダストなど、「規制対象外品」として鉄くず、固形プラスチックくず、紙屑等が挙げられている。ポジティブリストとネガティブリストの両方を掲げているわけだが、これらのどちらにも該当しない場合は、1と2の基準に戻って判断することになる。

有価・無価でなく有害・無害

この判断基準の中には、有価・無価は含まれていないため、有価取引される物でも、有害物を含んでいる場合は規制されることになる。日本の廃棄物処理法で措置できていない領域にも対処できており、非常に合理的な考え方である。廃棄物処理法の対象でも、バーゼル条約の対象外となるものや、その逆に廃棄物処理法の対象外でも、バーゼル条約の対象となるねじれ現象が発生している。前回取り上げた「有価物として取引されている水銀含有スラッジ」などが後者の例として挙げられる。我が国が国際資源循環を表明しているのであれば、国際基準とのズレも意識して国内法のあり方を考えるべきだろう。では、バーゼル条約と同様の考え方で廃棄物処理法を組み替えることは可能なのだろうか。答えは部分的に可能だが補足が必要となる。

バーゼル条約は処理コストが高い有害廃棄物だけを対象としており、有害性の低い廃棄物(無害な無価物)は対象としていない。輸送コストを考えれば、輸出するだけのメリットが低く、規制する必要性が低いからだろう。しかし国内は有害性が低い廃棄物も不法投棄される可能性は残っている。建設廃棄物などはその例であり、健康被害が発生するリスクは低いが不法投棄してよいわけではない。したがって、仮にバーゼル条約をプロトタイプとして廃棄物処理法のしくみを作り変えたとしても、無害な無価物についての規制は別途必要だろう。その他、バーゼル条約の「規制対象外品」を規制不要リストとして運用することで、資源循環を促進することができるなど、いろいろな可能性が考えられるだろう。

※本コラムは、環境新聞にも連載中です。

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執筆者プロフィール(執筆時点)

堀口 昌澄 (ほりぐち まさずみ)
アミタ株式会社 
環境戦略デザイングループ 環境戦略機能チーム 主席コンサルタント(行政書士)

産業廃棄物のリサイクル提案営業などを経て、現在は廃棄物リスク診断・廃棄物マネジメントシステム構築支援、廃棄物関連のコンサルタント、研修講師として活躍中。セミナーは年間70回以上実施し、参加者は延べ2万人を超える。 環境専門誌「日経エコロジー」にも連載中。環境新聞その他記事を多数執筆。個人ブログ・メルマガ「議論de廃棄物」も好評を博している。大気関係第一種公害防止管理者、法政大学大学院特別講師、日本能率協会登録講師。

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