ロート製薬株式会社|代表取締役会長 兼 CEO 山田 邦雄 氏 シリーズ「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー(第一回) | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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コラム

ロート製薬株式会社|代表取締役会長 兼 CEO 山田 邦雄 氏 シリーズ「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー(第一回)経営者が語る創業イノベーション

rohto_header.jpg創業者は、社会の課題解決のため、また、人々のより豊かな幸せを願って起業しました。その後、今日までその企業が存続・発展しているとすれば、それは、不易流行を考え抜きながら、今日よく言われるイノベーションの実践の積み重ねがあったからこそ、と考えます。

昨今、社会構造は複雑化し、人々の価値観が変化するなか、20世紀型資本主義の在りようでは、今後、社会が持続的に発展することは困難であると多くの人が思い始めています。企業が、今後の人々の幸せや豊かさのために何ができるか、を考える時、いまいちど創業の精神に立ち返ることで、進むべき指針が見えてくるのでは、と考えました。

社会課題にチャレンジしておられる企業経営者の方々に、創業の精神に立ち返りつつ、経営者としての生きざまと思想に触れながらお話を伺い、これからの社会における企業の使命と可能性について考える場にしていただければ幸いです。

(公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長 高橋陽子)

ロート製薬株式会社「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー
第1回 第2回 第3回 第4回

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創業から培った哲学

rohto_1_1.JPG高橋:奈良の若草山を望むロート製薬さんの厚生寮「棲霞園(せいかえん)」は、社員の合宿などに利用されるそうですが、創業者、山田安民(やすたみ)氏の私邸だとお聞きしました。安民氏は曾祖父に当たられるんですね。

山田氏:はい。当時、春日大社の敷地の一角だった土地を、曾祖父が買ったようです。

画像説明:ロート製薬株式会社東京支社にて(2016年6月30日)

高橋:安民氏は、明治32年にロート製薬の前身である「信天堂山田安民薬房(しんてんどうやまだあんみんやくぼう)」を創業され、胃腸薬や、ドイツ人博士の名前を冠した「ロート目薬」を販売するとともに、奈良県に最初の盲学校を創設なさったとか。

山田氏:盲学校の校長も務めたので、来日したヘレンケラーが「棲霞園」を訪ねたこともあったそうです。初代は、新しいことの好きな人でしたが、文化人でもあり、「棲霞園」には、能筆家であった曾祖父の「書」が残っています。そのなかに明治天皇の詠まれた歌があったんですが「難(かた)しとて 思ひたゆまば なにごとも なることあらじ 人の世の中(困難だからといって諦めてしまっては何もなすことはできない)」と書いてある。この2月に発表した新しいコーポレート・アイデンティティ(以下、CI)「NEVER SAY NEVER」と同じではないかと、改めて驚きました。

高橋:その薬房を継いでロート製薬株式会社を設立されたのは、二代目の山田輝郎(きろう)氏。「山田スイミングクラブ(※1)」や「財団法人 山田科学振興財団(※2)」を設立なさって、人の役に立つことを常に考えていらした。山田さんへの事業継承のための帝王学はあったのですか?

山田氏:進学校へ行けというのが唯一で、特にはなかったように思います。祖父は信念がはっきりしていて、滔々と述べるタイプだったので、親父はガンガン言われて辟易としたんじゃないかと思います。その反動で、放任主義でした。小さい頃には、祖父から「こういうことを考えて会社をやった」みたいなことは聞いていましたから、意識しなかったけれど、結構影響されちゃっているかもしれませんね。

高橋:子ども心に、印象に残ったことはありますか?

山田氏:水泳の話が多かったかな。超合理主義の人で、当時の水泳の練習方法は非科学的だから、やり方次第では世界一にもなれる!と言っていました。本人は、特に水泳をしていた訳でもないんですが。

高橋:それでスイミングクラブを作ってしまうという発想も、すごいですね。

山田氏:東京オリンピックで日本の水泳陣が不振だったので、なんとかしたいと思い立ったんですが、世界では、まだ女子の層が薄かったので、女子なら勝てるという戦略もあったようです。実際に、ミュンヘンで青木まゆみ選手が金メダルを取ったから驚きました。人と違ったことを発想して、挑戦する人でした。

高橋:まさに「NEVER SAY NEVER」。いま、山田さんの次の社長は創業家以外からですね。でも、DNAはしっかりと継承していこうと。

山田氏:創業時の精神は絶えることなく、同時に次の時代の新しい形も描いていかないと。
欧州系の企業には、ファミリーがしっかりとバックにあることで、長期的に根強い企業があります。M&Aで拡大していくタイプのビジネスもありますが、むしろ企業ブランドや企業ポリシーで生き残っていくほうが、理にも適っている。そうなると、企業の持つフィロソフィーや文化、歴史が大事じゃないかと思います。

※1「山田スイミングクラブ」
大阪市のロート製薬本社敷地内に1965年に開設された日本における初期のスイミングスクールで、女子を中心にした英才教育で選手を育てた。
※2 現「公益財団法人 山田科学振興財団」
山田輝郎氏が私財を投じて設立。自然科学の基礎研究を助成振興し、日本の科学研究の向上発展と人類の福祉に寄与することを目的とする。

常識の枠を超えた挑戦

高橋:創業の精神が受け継がれた、新しいCI「NEVER SAY NEVER」ですが、製薬会社としては、思い切ったスローガンです。

rohto_1_2.JPG山田氏:はじめは、健康のために、といったことを考えたんですが、どこも同じようなものになってしまうので、有志のチームが半年かけて作りました。なかなか面白いかなと思っています。

「NEVER SAY NEVER for ○○」で「○○」の部分は、一人ひとりが考えることになっています。なにかの分野で諦めずに追求すること。その分野を選ぶのが、それぞれの意思の発揮のしどころです。

画像説明:アメーバのように挑戦する立場でチャレンジ精神をコアにしました。

高橋:コンセプトブックには「常識の枠を超えてチャレンジする」と。

山田氏:うちは医薬品メーカーですが、病院薬をやってないので、製薬のなかでは規模として小さい部類だし、一般薬の目薬ではトップシェアですが、それだけにこだわっていると狭い世界で懲り固まってしまう。化粧品もやっているけれど、その分野では大手・中堅がそろっていて、どちらにおいても、大きくもないし強くもない。アメーバのように挑戦する立場にならざるを得ないので、チャレンジ精神をコアにすることにしました。

高橋:それで業態も多様に、薬膳フレンチレストランなどもやっていらっしゃる。

山田氏:薬は、病気になったら必要ですが、一時的に症状をリカバーするもの。本当の意味での健康づくりを考えれば、日々の健康を作るのは「食」の世界です。この分野でチャレンジし、貢献したいなと思っています。

高橋:沖縄の特産品を使ったアグリ事業や、奈良での生薬栽培の復活、復興支援を通した、遠野での起業家支援プロジェクトも始められたとか。

山田氏:東北で新しいものを生み出そうとする若い人たちとの出会いがあって、徐々に動きだしています。地域を活性化するプロジェクトでは、いろんなことをやっていますが、これは、将来的にビジネスと呼ばれるものにしたいと思っています。

つづく

話し手プロフィール

rohto_mr.yamada.jpg山田 邦雄(やまだ くにお)氏
ロート製薬株式会社
代表取締役会長 兼 CEO(最高経営責任者)

1956年大阪府生まれ。東京大学理学部卒業。慶應ビジネススクールMBA(経営学修士)を取得。
1980年ロート製薬に入社。1991年取締役就任。
1992年に専務、1996年に副社長、1999年に社長を経て、2009年6月から現職。

聞き手プロフィール

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高橋 陽子 (たかはし ようこ)
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長

岡山県生まれ。1973年津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。高等学校英語講師を経て、上智大学カウンセリング研究所専門カウンセラー養成課程修了、専門カウンセラーの認定を受ける。その後、心理カウンセラーとして生徒・教師・父母のカウンセリングに従事する。1991年より社団法人日本フィランソロピー協会に入職。事務局長・常務理事を経て、2001年6月より理事長。主に、企業の社会貢献を中心としたCSRの推進に従事。NPOや行政との協働事業の提案や、各セクター間の橋渡しをおこない、「民間の果たす公益」の促進に寄与することを目指している。

主な編・著書

  • 『フィランソロピー入門』(海南書房)(1997年)
  • 『60歳からのいきいきボランティア入門』(日本加除出版)(1999年)
  • 『社会貢献へようこそ』(求龍堂)(2005年)
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