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統合報告とステークホルダー・エンゲージメント企業の持続性を高める!統合報告活用のすすめ

Some_rights_reserved_by_eeki.jpg本コラムは、近年、企業報告の実務として広がりを見せている統合報告について連載します。今回は「ステークホルダー・エンゲージメントと統合報告はどう関係するか」という点について解説します。

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ステークホルダーのニーズ、期待及び懸念をどのように捉えるか

統合報告では、長期的な価値創造の観点から企業経営の多様な側面を包括的に報告することが求められますが、そのためには、企業が多様なステークホルダーのニーズ、期待及び懸念を理解し、戦略に反映できている必要があります。しかし、こうしたニーズ、期待、懸念は、ステークホルダーからの声として顕在化している場合もありますが、そうでない場合もあります。

一つの例として、従業員のダイバーシティ戦略との関係におけるエンゲージメント活動を考えてみましょう。近年、多くの日本企業はグローバル化を重要な戦略要素と位置付けていますが、その場合、企業は人材の多様性を高めていくことが必須となります。国内従業員がグローバル人材となって外に出ていくことと併せて、海外の優秀な人材が活躍できる環境を整えていかなければなりません。海外の優秀な人材を採用するにあたり、彼らが報酬やキャリアパス、働き方といった点で、どのようなニーズを持っているかを理解することが重要となるのは言うまでもありません。

一方で、近年の調査では、海外からの留学生等が日本企業への就職を考えるに際して、昇進のスピード、キャリアパスに関する考え方、能力・成果に応じた評価がなされないといった懸念を持っていることが明らかになっています(※1)。実際、筆者も日本の大手企業に勤務する外国人職員達から、日本企業における昇進スピードの遅さ、いわゆるグラス・シーリングがあるのではないかという懸念や、革新的な研究活動がしにくいという不満の声も耳にしています。

企業の中長期戦略において、外国人従業員や学生が重要なステークホルダーに位置付けられる場合、彼らのこうしたニーズや懸念を、どのように捉え、また、人事、広報、企業文化の醸成といった企業活動に反映していくかは、グローバル化という戦略要素の重要な成功要因となります。そのためには、彼らとの対話(エンゲージメント)が必要不可欠です。彼らとの対話は、フォーカス・グループを設けてのディスカッション、アンケート調査の実施、支援団体との対話など、多様な形を取ることができます。また、人事面談や採用面接における声など、すでに企業自身の通常の活動の中で(時に、無意識的な形で)エンゲージメント活動が実施されている場合もあります。

しかしながら、こうした多様なエンゲージメント活動を通じて得られたステークホルダーの期待、ニーズや懸念に関する会社側の認識が、統合報告書に反映されている例は非常に少ないのが、現状です。グローバル化の推進という企業の全体戦略における海外人材登用や活躍推進の必要性、戦略遂行上の課題が何か、効果的に対策が取れているかどうかといった点について、投資家を中心とする統合報告書の読者も理解したいと考えるのではないでしょうか。すでに述べたとおり、ほとんどの企業でエンゲージメント活動として認識されていないことが多いのですが、採用面接やセミナーのアンケート等、何らかの形でエンゲージメント活動が実施されているはずです。

(※1) 経済産業省「内なる国際化」研究会調査におけるアンケート結果(2016)より

エンゲージメント活動の実効性を高めるためのステップ

こうしたステークホルダーとのエンゲージメント活動が、企業報告(統合報告書)に(しかも実質的な形で)反映されるための前提として、ステークホルダー・エンゲージメントが経営プロセスに組み込まれていることが必要です。むしろ、本来的には、ステークホルダー・エンゲージメントは経営活動が統合的思考に基づくものとなるためのものであり、それに基づく経営上の認識や戦略、結果を報告するのが統合報告の役割です。以下に、エンゲージメント活動の経営上の実効性を高めるために必要と考えるアクションを列挙します。

▽企業に求められるアクション

  1. 企業の多様なチャネルを通じてエンゲージメント活動が実施される。
  2. エンゲージメント活動の中で得られたステークホルダーのニーズ、期待、懸念が集約され、分析の結果、その背景、根源的なニーズ、課題が特定される。
  3. 関係部署における対応と併せて、エンゲージメント活動の概要や特定された重要な課題について経営者や取締役会にレポートされる。
  4. 議論の結果、必要な経営資源の配分やトップダウンのアクションが取られる。

本稿では、ステークホルダーとの直接的なコミュニケーションをエンゲージメントと呼んできましたが、本来のステークホルダー・エンゲージメントはこうした一連のプロセス全体を意味します。

統合報告では、この広義のステークホルダー・エンゲージメントを経て認識された経営上の課題、そして実施されるアクションを、個々の戦略要素に関する記述に組み込んだ形で報告することが必要となります。ステークホルダー・エンゲージメントの主たる目的は、統合的な思考にもとづく経営を実現することにありますが、ステークホルダーの視点を的確に反映して報告書を作成することによって、統合報告書の読み手の納得感や信頼を得ることにつながります。統合報告において、ステークホルダー・エンゲージメントは重要な意味を持っており、こうした考え方から、国際統合報告委員会(IIRC)の国際統合報告フレームワークでは「ステークホルダーとの関係性」を指導原則の一つに置いています。

執筆者プロフィール

iirc_mr.mori.jpg森 洋一 (もり よういち) 氏
公認会計士
国際統合報告評議会(IIRC)統合報告フレームワークパネル
(<IR>Framework Panel)メンバー

一橋大学経済学部卒業後、監査法人にて会計監査、内部統制、サステナビリティ関連の調査研究・アドバイザリー業務を経験。2007年に独立後、政策支援、個別プロジェクト開発への参加、企業情報開示に関する助言業務に従事。日本公認会計士協会非常勤研究員として、非財務情報開示を中心とした調査研究を行うとともに、国際枠組み議論に参加。

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