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コラム

漏れバケツ理論|興廃の鍵である地域内経済循環と、CSRの可能性 初心者向け人・もの・カネ・気もちが巡る「地域分散シナリオ」

same_lights_reserve_kaneko_amury.jpg現在の日本において、過疎と過密は進行し、一部の都市部では社会増による人口増加が、農村部では自然減(※1)と社会減(※2)の両面から人口減少がみられます。この様子は「消滅可能性都市」という言葉で注目を浴びました。日本経済はバブル時代までのような右肩上がりは望めず、少子高齢化で増える社会保障費と減る税収。日本全体の税収の一部を地域にまわすしくみも崩壊寸前です。そんな中、今後注目されるのが地域内での経済循環を高めるしくみです。

そこで本コラムでは、幸せ経済社会研究所の新津尚子氏に、持続可能社会の鍵をにぎる「地域分散シナリオ」について、参考事例などを交えて連載していただきます。今回は、地域が衰退する原因の1つ「漏れバケツ理論」をご紹介します。

same lights reserve kaneko amury

※1 自然減(増)...出生数と死亡数のプラスの差 
※2 社会減(増)...人口移動すなわち人口流入数と流出数のプラスの差

地元に残るお金、出ていくお金

次々と撤退する工場や事業所、シャッター通り商店街。今日、疲弊している地域の光景を目にすることが多くなりました。なんとかしようと、補助金獲得や工場・お店の誘致、あるいは観光客の呼び込みを行っている地域もたくさんあります。もちろん事業やお店の存在は重要です。でも、あまり意識されないことですが、地域内でお金をまわすことができなければ、いくら稼いでもお金は地域外へと出ていってしまいます。家計と同様、稼いだお金がどんどん外に出ていってしまったら、いくら稼ぎがよくても、地域はなかなか豊かになりません。

身近な例で考えてみましょう。コンビニエンスストアなどのフランチャイズ方式のチェーン店は、本部にロイヤリティと呼ばれるお金を支払う必要があります。「粗利の40%」など、その割合は業種や企業によって異なりますが、その分、お金は地域外に出ていきます。米国のCivic Economicsが2011年から2012年にかけて米国の10地域で行った調査によると、「全国チェーン店」と「個人の小売業」を比べた場合、チェーン店では、収入のうち13.6%しか地域に残らないのに対して、個人の小売業では、40%から70%程度が地域に残るそうです。これは1,000円のうち約136円が地域に残るのか、それとも400円から700円が残るのかの違いです。

地元の経済を考えるときは、お店や事業所の有無だけではなく、受け取ったお金が、地域内で回るのか、地域外に出ていくのかを意識することが重要です。

地域経済循環を作り出す人々の力:漏れバケツ理論

地元経済を考える際にもう一つ重要なのが、日々の買い物や仕入れの方法です。地域からのお金の漏れが小さければ、地元のパン屋に支払われたお金が、地元のアルバイト店員の給料になり、そのお金が地元の文房具屋で買い物をする時に使われるといった具合に、地域内の多くの人の手に渡り、暮らしを潤すことができます。

190315_image001.pngこの効果は、みんなが地元でお金を使い続けることによって、何倍にもなり得ます。例えば、常に80%のお金が域内に残り続ける地域では、20万円のお金が入れば、最終的には100万円分もの経済効果を産むことができます。他方、20%のお金しか域内に残らない地域では、20万円のお金は25万円分の役割しか果たすことができません。しくみを説明します。(図はクリックすると拡大します。)

地元経済を盛り上げる運動が盛んな「域内町」では、皆が入ってきたお金の80%を町内で使うと仮定します。このパターンでは、域内町の住民のAさんが20万円のお給料をもらった場合、Aさんは16万円を地元のお店で買い物をしたり、事業所に支払ったりします(20万円×80%=16万円)。そしてAさんから16万円を受け取った地元のお店や事業所は、そのうちの12万8,000円を地元に暮らす従業員の給与や商品の仕入れに使います。そして、その次の段階でも、12万8,000円のうちの10万2,400円が地元で使われます。

こうして、Aさんが受け取った20万円は、20%ずつ減りながら地域の人々の手をずっと巡っていき、36番目に手にする人のところでやっと100円を切ります。この金額を20万円+16万円+12万8000円と36番目の人が手にするところまで足し合わせていくと約100万円になります。

対象的に「域外町」では、皆が手に入ったお金のうちの20%だけを地元で使っていると仮定します。このパターンでは、域外町に暮らすBさんが20万円のお給料をもらった場合、そのうちの4万円を地元のお店や事業所で使います(20万円×20%=4万円)。この段階ですでに4万円まで減っています。そして、Bさんから4万円を受け取った地元のお店や事業所が、そのうちの8,000円を地元で使います。次の段階では、8,000円のうちの1,600円が地元で使われます。域内町と同じように計算していくと、20万円+4万円+8千円+1600円+320円+64円で100円を切るまで6人にしかお金が回らない上、足し合わせた金額も約25万円にしかなりません。域内町の100万円と比べて、かなりの差があることがわかります。

上の例は架空のものですが、英国のNew Economics Foundationによると、コーンウォール地方(鳥取県くらいの大きさと人口の英国の地域)で、すべての旅行者、住民、ビジネスが、それぞれ1%だけ多く地元のモノやサービスにお金を使えば、地元で使われるお金が5,200万ポンド(2019年3月現在のレートでは日本円で約75億円)増える計算になるそうです。

上の2つの例の比較(域内町と域外町との比較)は、New Economics Foundationが提唱している「漏れバケツ理論」の地域内乗数効果という考え方を元にしています。New Economics Foundationが「漏れバケツ理論」を提唱し始めたきっかけは、貧しい地域に支援を行っても、10年後も貧しいままであることに気がついたからだそうです。住宅建築費用を支援した場合を考えてみましょう。建設工事を地元外の業者に発注すれば、低予算で素敵な住宅を建ててくれるかもしれません。でも、建築費は地域外に出ていってしまいます。地元の業者に頼めば、その時は高くつくかもしれませんが、お金は地域内にとどまります。

よい経済循環を作り出すために自治体や企業ができること:CSRの重要性

「漏れバケツ理論」を紹介した際の人々の反応は大きく2つに分かれます。「これからはなるべく地元の商店で買い物をする」という反応と、「そうは言っても、やはり安い商品を買いたい」という反応です。コスト効率だけを優先して仕入れや買い物を続けていると、お金は地域から漏れ出し、地域の資源が失われます。地域のお店や事業がなくなっていけば、地域外に頼らざるを得なくなるので、ますますお金は漏れ出してしまい、地域の力は失われていきます。これが多くの日本の地域の現状でしょう。

どうすれば、短期的なコスト効率だけにとらわれない地域づくりができるのでしょうか。自治体の役割は重要です。自治体は調達の地元率を高めることで、地域全体に大きな影響を与えることができます。また「地元の事業」も地元経済の中でお金を循環させるハブ的な役割を果たします。そして、地域内の人々のつながりを強める役割も果たし得ます。

ただし、企業経営の視点からは長期的な地域の持続可能性よりも、短期的なコスト効率が優先されがちです。だからこそ、地域への貢献が取組課題の一つであるCSRが重要な役割を果たすのです。例えばCSR活動の一環として、地域経済循環の考え方を取り入れられないでしょうか。またCSR戦略としてSDGsに取り組む企業が増えていますが、地域を元気にする取り組みはSDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」にもつながります。CSR戦略として地元経済に取り組む際に、先行事例や企業の「地元貢献度」を可視化するツールがあれば、取り組みが進みやすいのではないでしょうか。このコラムでは、そうした地元経済を元気にするための内外の事例を紹介していく予定です。

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執筆者プロフィール

niitsu-san77.jpg新津 尚子(にいつ なおこ)氏
幸せ経済社会研究所 研究員

武蔵野大学ほか非常勤講師。東洋大学大学院社会学研究科社会学専攻 博士後期課程修了〔博士(社会学)〕。幸せ経済社会研究所では、「世界・日本の幸せニュース」の編集や、社会調査(アンケート調査)などを主に担当している。
幸せ経済社会研究所 https://www.ishes.org/

■主な共著・寄稿文
『社会がみえる社会学』(2015年/北樹出版)
「幸福で持続可能な地域づくりとSDGsー海士町の取り組みを事例に」『月刊ガバナンス2月号』(2019年/ぎょうせい) 

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