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コラム

ニュープラスチック・エコノミーへどう備えるか? 初心者向け原田先生の廃プラ問題最前線!企業におけるリスクとチャンス

Some_rights_reserved_by_Snemann.jpg本コラムでは、今話題の"廃プラスチック問題"について、大阪商業大学公共学科准教授の原田禎夫氏に分かりやすく解説していただき、国内外の情勢や企業に与えるリスク、取り組み事例等をお伝えします。第2回は、世界の廃プラスチック規制や業界の動向を紹介し、企業にとってのリスクと、今後どのように行動すべきかをお伝えします。環境制約・リスクをチャンスに変える戦略立案にお役立てください!

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はじまる投資家の選別

私の手元に、日本のある大手証券会社が昨年夏に法人向けに発行した1編のレポートがあります。海洋プラスチック汚染問題についてまとめられたこのレポートには、「今後、紙で代替できる、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)といった汎用樹脂でできた消費財が、政府による規制や自主的な使用制限により影響を大きく受けるだろう」と、化学メーカーへの中長期的な投資に向けて欠かせない視点がまとめられています。また、外食産業や小売店で大量に使用されてきたストローやレジ袋はもちろん、急速に高齢化が進む中で急激に成長する中食産業においても、食品トレイとしてプラスチックトレイが数多く利用されていますが、そうした食品トレイについても今後、本格的に議論が活発化するだろうとも指摘されています。

このレポートでは、生分解性プラスチックをすでに製品化しているメーカーや、リサイクル技術を確立しているメーカーの可能性についてもふれています。特に、食品トレイのリサイクル技術の確立に数十年にわたって取り組んできたあるメーカーの社名をあげ、こうした企業が再評価される可能性を指摘しています。

そして、日本を代表する化学メーカーの名前が列挙され、中長期的に「何らかのマイナスの影響」を受けることは不可避である、とも指摘しています。近年、世界ではESG投資やエシカル消費が大きな話題になっていましたが、残念ながら日本国内では今ひとつ理解が進んではいませんでした。しかし、海外のみならず国内の機関投資家も海洋プラスチック汚染問題を大きな社会問題として認識するようになった今、漫然とこれまで通りの企業活動を続けることは、それ自体が大きなリスクであるといえるでしょう。なお、大手総合化学メーカーは以前から汎用品比率を下げており、日本全体で見るとレジ袋などに使われる高密度ポリエチレン(HDPE)については、日本はすでに6万トン/年の純輸入となっており、むしろこれらの素材を使った加工品メーカーへの影響が大きくなることも考えられます(図1)。

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図1: 高密度ポリエチレン(HDPE)の輸出入の近年の動向 財務省「貿易統計」各年度版より(執筆者作成)

国内外で強まるプラスチック規制

2017年7月、先進国では初めて、フランス政府はプラスチック製レジ袋の使用を全面的に禁止しました。さらに翌年1月からは、野菜などの販売に使われるプラスチック製フィルムの使用も禁止しています。また、2020年以降、すべての使い捨てのプラスチック容器を原則として禁止することを打ち出しています。このフランス政府による規制は、反発も大きく、当初は厳しすぎて広まらないのではないか、という声も少なくありませんでした。しかし海のプラスチック汚染の深刻さが明らかになるにつれてむしろその取り組みは広がりを見せ、2018年11月にはEUは2030年までに使い捨てのプラスチック包装を全面的に禁止すると発表しました。また、プラスチックごみ問題がより深刻な途上国では、規制についてさらに厳しい対策がとられています。たとえばケニアでは2017年からプラスチック製レジ袋の製造・販売・輸入をすべて禁止し、使用した場合でも最長で4年の禁固刑または最高4万ドルの罰金刑とする法律が施行されています。またインドでも、生分解性素材のプラスチック袋以外は使用禁止とし、同じく罰金刑などを定めています。

2018年、カナダで開催されたG7サミットで提唱された「海洋プラスチック憲章」に日本とアメリカが署名をしなかったことが大きく報じられましたが、そのアメリカでも地方政府においては、むしろ積極的な規制が進みつつあります。たとえばハワイ州では、2015年7月からプラスチック製レジ袋の使用が禁止されました。生分解性プラスチック製や紙袋を無償配布するなど、その対象となる範囲は順次拡大しています(写真1)。また、ニューヨーク市では2019年1月から発泡スチロール製トレイや梱包材の使用が禁止されました。こうした動きは全米の各都市に広がっています。

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写真1:紙袋が使用されている、ハワイ・ホノルル市のスーパー。(執筆者撮影)

こうした中、日本国内の取り組みは残念ながら十分なものとは言えませんでした。しかし、昨今、政府においてプラスチック資源循環戦略(案)が取りまとめられ、2030年までに、使い捨てプラスチック容器などを25%排出抑制する目標などが示されるなど、企業活動も対応を迫られています。

動き出した化学業界

使い捨てプラスチックに対する規制が各国で急速に強化されていますが、化学業界の取り組みも大きく進み始めています。欧米の化学メーカーが主導して設立したAlliance to End Plastic Waste(AEPW)に、日本の三菱ケミカルホールディングスと住友化学、三井化学の化学3社も設立メンバーとして参画することが報じられました。AEPWは5年間で約15億ドル(約1600億円)を投じて、さまざまな面から海洋プラスチックごみ汚染に取り組むとしています。国内でも、2019年1月に経済産業省がプラスチック製品の持続可能な使用や代替素材の開発・導入を推進し、イノベーションを加速化するためのプラットフォームとして「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」を設立したことを発表しています(2018年1月11日時点で159社・団体が参加)。

今後、こうした動きは化学業界だけではなく、プラスチック製品を利用するさまざまな業界に波及していくことは間違いないでしょう。本当にプラスチックが必要な場面はどのようなものなのか、代替素材はないのか、そうしたことを企業自らが見極めないといけない段階にきているといえます。たとえば、前述のニューヨーク市における発泡スチロールトレイの使用禁止に際しては、代替素材がない場合に限って引き続き従来品の使用が認められますが、その証明は小売店自ら行う必要があります。ごみ問題は「消費者のモラルの問題」と片付けていては、今後は通用しないということです。

執筆者プロフィール

mr.harada.jpg原田 禎夫(はらだ さだお)氏
大阪商業大学 公共学科 准教授
NPO 法人プロジェクト保津川 代表理事

1975年京都府生まれ。現在、大阪商業大学公共学部准教授。近年深刻な問題となっている海や川のプラスチック汚染について、内陸部からのごみの発生抑制の観点から取り組むNPO法人プロジェクト保津川代表理事。

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