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コラム

ASC養殖場認証の効果|改革をしくみ化し働き方改革も実現環境と経済は両立する 南三陸バイオマス産業都市構想

190517_pic001.jpg南三陸町は人口約1万3千人、海里山が一体となった豊かな自然環境を有する町です。同町は東日本大震災後の復興の過程で「エコタウンへの挑戦」を掲げ「南三陸町バイオマス産業都市構想」を策定。2014年3月に国の認定を受けました。その後、南三陸町では構想の実現に向けて、様々な取り組みが進んでいます。この南三陸町の取り組みは、単なる震災復興だけではなく、多くの地方自治体にとって参考になり得ます。

そこで本コラムでは、南三陸町総合計画の将来像である「森里海ひと いのちめぐるまち 南三陸」の実現のために人材育成などを行っている一般社団法人サスティナビリティセンターの代表理事太齋様に、南三陸バイオマス産業都市構想の経済・社会・環境影響について、参考事例などを交えて連載していただきます。第2回は、ASC養殖場認証取得の社会・環境影響についてご紹介します。(写真はカキの延縄式養殖の様子。)

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延縄式養殖による過密養殖の影響

前回は戸倉地区のカキ養殖生産部会が「養殖密度を震災前の1/3にする」という決断・実行をし、それにより劇的な生産性向上を成し遂げたことをお伝えしました。今回はそれが環境や社会面にも良い結果をもたらしているという点についてご紹介します。

190517_pic002.jpg現在、三陸沿岸で主流となっているカキの養殖方式は延縄式養殖という方法です。これは、楕円形のブイを水面に並べて両側に2本のロープを張り、そこからさらに海底に向けて垂直に伸びるロープを等間隔に垂らします。このロープにカキの稚貝が数十個ほどついたホタテ殻を30cm程度の間隔をあけて挟んでつるすやり方です。この方法は単位面積あたりのカキの収量が一気に跳ね上がります。しかもカキの餌は勝手に流れてくるプランクトンのため、人間にとっては非常に効率が良い養殖方法といえます。しかし、養殖施設が混み合えば個々のカキにまわる餌の量が制限され、成長が悪くなります。成長の悪さを補うために、さらに延縄の施設を投入する悪循環に陥っていたのが、震災前の戸倉地区でした。

養殖期間の短縮が環境に好影響を及ぼしたことが研究チームによって証明された

「養殖密度を震災前の1/3」にした場合の環境への調査については、様々な大学が参加した環境省の戦略研究により明らかとなってきました。東北大学の坂巻准教授を中心とするチームが着目したのは、カキの糞に含まれる有機炭素含有率とカキの年齢の関係でした(研究結果を発表準備中|2019年5月時点)。

餌を食べたカキは、消化できなかったものを糞や擬糞と呼ばれる形で排出します。これが天然のカキ生育密度程度であれば問題にはならないのですが、カキ養殖では話が違います。海底に積もった糞中の有機物(≒有機炭素)は微生物などによって分解されますが、その際に酸素を消費します。海底に酸素が供給されるスピードには限りがあるので、有機物量が多ければついには酸素が使いつくされ、いわゆる無酸素状態が生じます。こうなると、たいていの生物は死滅し、養殖物への被害が出ることもあります。

坂巻准教授らの調査結果では、27カ月経ったカキは、3カ月のカキと比べて糞中の有機炭素含率が高く、酸素の消費速度も倍ぐらいの差があるということでした。年をとったカキは栄養吸収率が低下し、たくさん餌を食べる割には身にならず、有機物の多い糞で海底を汚しているということが明らかとなったのです。この結果をもとに行った別チームのシミュレーションでは、震災前と比べて志津川湾の底層のDO(溶存酸素)は回復していることが示されました(参考文献)。

つまり、養殖施設の間隔を広げ、養殖期間を1年もの主体とした結果、生産性向上に加え、湾内の環境も改善されたという結果が得られました。これは、養殖と湾内の環境保全を両立する上で非常に重要な結果です。

1年もの主体のカキ養殖は、経済・社会・環境すべてに好影響を及ぼした

次の3つの点からも、1年もの主体のカキ養殖が理にかなっているといえます。
1つは、出荷までのロスが減る点です。長期間の養殖ほど、脱落や斃死(へいし)の割合が高くなります。カキは1年で成熟し、放卵・放精子しますが、生物にとって生殖は大きなエネルギーを必要とします。夏場の成熟期には斃死が多いことが松島や広島で知られており、これは志津川湾でも当てはまることで、そのリスクは2年、3年と養殖期間が長いほど高くなっていくといえます。また、波浪などで脱落した個体は底にたまり、他の生物に食べられるなどして分解されていきますが、その量が多ければ、環境悪化の原因となってしまいます。

2つめは、災害リスクの観点です。人が管理する養殖といっても、自然相手のことですので、いつまた津波のような災害がくるか分かりません。近年では大型の台風も増え、そのたびに養殖施設にも大きな被害が出ていました。収穫までの災害リスクが3年間から1年に短縮されることで、たとえ被害があってもそのリスクの程度は下がり、漁業者の精神的な負担が変わるでしょう。現場では、1年もの主体の養殖とした結果、少々の波では脱落しづらくなったという話も耳にします。これは、つるしているカキの大きさと波のエネルギーの関係からも説明できそうです。

3つ目はキャッシュフローの視点です。収入が生まれるのが1年後なのか3年後なのかで、資金繰りの苦労は全く違ってきます。

つまり、養殖期間を長くとっていた従来のやり方は、経費・労力・リスクを増やし、環境にも悪影響を与えていました。言われてみれば当たり前に聞こえるでしょうが、日本各地では今なお2〜3年もののカキ養殖が主流なのです。それをやめるという決断をできたことこそが戸倉地区の凄いところであり、私が多くの方にお伝えしたい事例なのです。

改革を一時的なものに終らせないしくみ化としてのASC養殖場認証取得

戸倉地区の改革はここで終わりませんでした。後藤清広カキ生産部会長の心配は、いつまた取り決めた約束がなし崩しとなり、過密養殖に戻ってしまうかもしれないという点でした。そこで当時、日本ではまだ例のなかったASC養殖場認証の導入が話題にのぼりました。戸倉地区には震災直後からWWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)が支援に入り、ギンザケでのASC養殖場認証の導入が検討されたり、町としてもバイオマス産業都市構想をまとめ、FSC®やASCの導入を謳っていたりしているところでした。こうしてWWFや町の支援の元、適切な養殖施設を守るというという観点から、日本初のASC養殖場認証の取得が実現したのです。

若手後継者も喜んだ労働環境改善による定休日

tokura_af.jpgASC養殖場認証取得は働きやすさの改革にもなりました。ASCが労働環境についても厳格な基準を設定しており、「定休日」などの設定も必須です。これまでの休みは「海が荒れた時」であり、出荷量を稼ぐために夜中からカキむき作業をするのが当たり前でした。天候に影響を受ける1次産業だとやむを得ない面もあるのですが、これではいつ休めるのか分からず、予定も立てられません。それを「日曜日は定休日」としたことが、特に若い世代には好評だったといいます。(写真は戸倉支所の様子「戸倉っこかきポスター」より クリックすると拡大します。 撮影:浅田政志)

また、"日本初の環境認証取得"というのも、働き手にとってはやはりどこか誇らしいものではないでしょうか?こういった様々な改革の結果、今、戸倉地区の漁港に行けば、1次産業の後継者不足問題とは無縁に感じられるほど、20〜30代の若い漁師の姿をよく見かけます。戸倉地区の方々が描いた「子や孫に残せる漁業の復興を!」という思いは、少なくとも一部は実現しつつあるように思います。

とはいえ、課題がすべてなくなったわけではありません。次回は、ASC養殖場認証取得で見えてきた課題とそれにどのように対処しようとしているのか、についてお伝えします。

※参考文献:志津川湾におけるカキ養殖等の環境容量に関する数値モデル解析 -震災前と現在の比較-

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執筆者プロフィール

mr.dazai_s.jpg太齋 彰浩(だざい あきひろ)氏
一般社団法人サスティナビリティセンター

代表理事

民間研究所での研究生活を経た後、地域密着型の教育活動を志し、志津川町(現・南三陸町)へ移住。東日本大震災で後は、行政職員として水産業の復興に取り組むとともに、「地域循環の仕組み」づくりに注力。平成30年4月、有志により(一社)サスティナビリティセンターを設立。現在は、世界に誇れるまちづくりを自分事として目指す人々の支援を行うとともに、持続可能なまちづくりを担うリーダーを養成するためのプログラム開発を行う。

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