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コラム

クリティカルマテリアル|資源リスクをどのように評価するのか? 初心者向け資源循環新時代~ものづくりはどう生き抜く?

190723_graph_criticality.pngのサムネイル画像資源問題やリサイクルを環境問題で語る時代は過去となり、世の中は資源循環を経済や社会のベースに据えようと動き出しています。日本の企業はどう立ち回ればよいのでしょうか?本コラムでは、ものづくりの長期ビジョンを考えるヒントをお伝えします。第4回は、クリティカルマテリアルの詳細について解説します。各国において、資源リスクはどのように評価されているのでしょうか。

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クリティカリティの評価方法 | 何を根拠に"資源リスク"の大きさは決められるのか?

クリティカリティは「供給リスクの顕在化によって経済に大きな影響を及ぼす可能性」を示す指標であり、それ故クリティカルマテリアルは各国の資源政策の重点対象となります。 政府機関や学術機関を中心に多くのクリティカリティ評価が実施されていますが、実はそれぞれが独自の方法によって行われています 。 クリティカリティ評価では、地質学的、地政学的、経済的、社会的な要因を幅広く取り入れた総合的なリスクを把握することを目指していますが、いざ評価を行おうとすると、まず求められるのが、「供給リスクや経済への影響度を算定するために、どの要因を考慮するか」を選択することです。加えて、「どの要因がより重要視されるべきか 」という重み付けをする必要があります。このような評価モデルの構築過程において、ルールやガイドラインは特に存在しません。要因の選択や重み付けは、評価実施者の考え方次第となっています。
とはいえ、各評価で考えられている要因がまったくバラバラというわけではなく、多くの評価においてよく取り入れられている、「クリティカリティと関連性の強い要因」が存在します。例えば金属の供給リスクに関連しては、以下が挙げられます。

▼クリティカリティの主な要因(供給リスク関連)

資源の埋蔵量 リスクの大きさを判断する指標としては可採年数が用いられることが多いですが、採掘コストや鉱山開発の投資額を指標とした評価もあります。多くの方が第一に思い浮かべる要因かもしれません。
供給国の集中 供給リスクの低減策として分散調達が知られていますが、供給元が寡占状態であるとそうもいきません。例えば、2010年にはレアアース問題が大きな話題となりましたが、実はレアアースは可採年数にして数百年分の埋蔵量があり、その半分以上は中国以外に存在しています。しかし、鉱石の生産は中国の一極集中だったため、中国の動向に世界が翻弄されることとなったのです。
副産物(バイプロダクト)としての生産 レアメタルの中には、ベースメタルの鉱石を製錬する過程で副産物として得られるものがあります。この場合、レアメタルの供給量は、ベースメタルの生産量に依存することになります。このようなレアメタルの需要が急増すると、需給ギャップが発生して資源価格の高騰を引き起こす恐れがあります。
資源価格 資源価格の上昇あるいは変動の激しさも、供給の不安定さを示す要因として考慮されます。一方で、これらはリスクが顕在化して市場に影響した"結果"であり、要因ではないという意見もあります。
カントリーリスク 資源の生産国の政治や社会が不安定であると、供給障害が生じる可能性が高まると考えられます。紛争鉱物の問題は、その代表例です。
輸入依存度 原料を海外からではなく自国内で調達できれば、供給リスクは大きく下がります。天然の鉱山をほぼ持たない日本の場合は、都市鉱山の活用(=リサイクルの推進)が必要になります。
代替性 ある材料の確保が難しくなったとしても、同様の役割を果たしうる他の材料があればクリティカリティは低くなります。


経済への影響度へと反映される要因としては、「金属が使用されている産業のGDP」(あるいは市場規模)や、「今後の需要見込み」が挙げられます。

前回ご紹介した欧州、米国、日本各政府のクリティカルマテリアルのリストでは、それぞれ以下の要因が重視されています。

欧州委員会 2010年から継続して「供給国の集中」、「カントリーリスク」、「代替性」、「再生材使用率」、「産業のGDP」を用いたクリティカリティ評価を行ってきました。加えて2017年の評価では、「輸入依存度」や「貿易の制約」を考慮しています。
米国内務省 「供給国の集中」、「カントリーリスク」、「資源価格」、そして「鉱石生産量の増加」をクリティカルマテリアル選定の絞り込みの判断材料として用いています 。
日本 戦略的鉱物資源(第2回参照)は、「日本の産業にとっての重要性」「供給上の支障が生ずる可能性」「日本企業・政府が参画することによって安定供給の実効性が確保できるという事業実施可能性」を考慮して決められていますが、それらが具体的にどのような要因で判断されているかは明らかにされていません。

クリティカリティ評価はどのように活用すべきか ?

評価方法がバラバラだとなると、そもそも「クリティカリティ評価の結果は参考にして良いのか?」と思われるかもしれません。しかし、評価実施者ごとに方法が違うことこそが正常な評価の在り方です。各国それぞれが安定供給に対する考え方を持っており、資源供給の状況や資源政策も異なります。先に挙げたような一般的なリスク要因だけでなく、日本の状況に対応した日本固有のリスク要因(あるいはリスク軽減要因)も評価に反映することで、より戦略性を帯びたクリティカルマテリアルのリストが得られるでしょう。例えば日本の鉱物資源政策の5本柱(第2回参照)に挙げられている海外資源確保や備蓄の状況を評価に取り込むことで、リスク軽減の施策をクリティカリティ評価の結果にリンクさせることができます。
ただし、クリティカリティ評価の結果のみで、クリティカルマテリアルが決まるわけではありません。クリティカルマテリアルの選定は一般的に2段階のプロセスになっています。

▼クリティカルマテリアルの選定プロセス

1段階目 クリティカリティ評価によるリスクの定量化とクリティカルマテリアルの候補の絞り込み
2段階目 評価で考えきれなかった事象を加味した専門家による選定

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クリティカルマテリアルの選定


クリティカリティ評価の精度向上は大切ですが、絞り込みに用いられることを前提とするならば、評価モデルにおいて「正しく現実のリスクを構造化し、精確に定量化する」ことはそこまで追及する必要はないと考えています。クリティカルマテリアルが情勢の変化に応じて継続的な見直しが重要なものであることを考えれば、「容易に利用可能なデータ(=公開されている統計など)を用いて、リスクの大小を粗々で判断する」ことに配慮する方が実用的と言えます。

クリティカリティ評価のほとんどは、欧州や日本といった国や地域レベルで実施されてきましたが、その評価方法を企業レベルに応用する議論も行なわれています。例えばゼネラル・エレクトリック社が米国学術研究会議の方法をベースとして自社評価し、レニウムをクリティカルマテリアルとして挙げた事例もあります。自社にとって重要な資源を考える際に新たな視点が必要と感じられたなら、クリティカリティ評価研究を覗いてみるとヒントが見つかるかもしれません。

執筆者プロフィール

mr.hatayama.png畑山 博樹(はたやま ひろき)氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所
安全科学研究部門 主任研究員

東京大学大学院工学系研究科でマテリアル工学を専攻後、現職。マテリアルフロー分析、資源リスク評価、ライフサイクルアセスメントなど、持続可能な資源利用に関する研究をおこなっている。日本LCA学会、日本鉄鋼協会所属。
発表論文等:Google Scholar, researchmap

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