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コラム

世界で起きている資源問題と日本の鉱物資源政策 初心者向け資源循環新時代~ものづくりはどう生き抜く?

image003.jpg資源問題やリサイクルを環境問題で語る時代は過去となり、世の中は資源循環を経済や社会のベースに据えようと動き出しています。日本の企業はどう立ち回ればよいのでしょうか?本コラムでは、国立研究開発法人産業技術総合研究所 畑山 博樹氏にものづくりの長期ビジョンを考えるヒントについて連載していただきます。第2回は、世界で起きている資源問題と日本の鉱物資源政策についてです。

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Photo by Dominik Vanyi on Unsplash

平成の資源問題を振り返る

令和の時代が幕を開けました。平成は20世紀から21世紀にかけての30年間でしたが、その間に金属資源の世界情勢は大きく変化しました。

  • 新興国での需要拡大

中国での鉄鋼消費量は、平成元年の1989年には6千万トンと世界全体の8%でしたが、2017年には10倍以上となる7.3億トンまで増加し、世界の約半分を占めるまでになりました。インドや東南アジアの一部の国々の需要も、ここ10年で2~3倍のペースで増加しています。アフリカでの需要拡大は比較的緩やかですが、その人口の多さから将来的に中国と同じようなインパクトをもたらす可能性があります 。190613_Apparent_Steel_Use.png

各国の鉄鋼消費量 (画像はクリックすると大きくなります)
World Steel Association Webサイト「Steel Statistical Yearbook」を基にアミタ(株)が作成

  • 資源ナショナリズムの台頭

先進国での工業の発展は、アフリカや南米、アジアの国々に埋蔵している鉱物資源によってもたらされてきました。近年では、資源によってもたらされる利益を先進国に搾取されないよう、資源国が輸出や外資企業の活動を制限するケースが増えています。中国によるレアアース等の輸出規制は世界貿易機関の協定違反と判断されましたが、それ以外にも採掘利権料の値上げ、外資の資源開発企業に対する自国企業への資本移転義務といった鉱業政策を資源国がとるようになりました。「中東有石油、中国有稀土」は鄧小平の1992年の言葉ですが、資源国による資源へのアクセスの管理は資源経済や外交に大きな影響を与えるようになりました。

  • 資源開発が採掘地に及ぼす影響への対処

資源の価値が高まり採掘が加速する中で、現地で起こっている様々な問題について声が上がるようになりました。紛争鉱物の規制が定められた背景には、鉱物資源が反社会勢力の資金源となっている問題がありました。また、採掘に伴う自然破壊と環境汚染も各地で大きな問題となっています。資源開発は現地の経済発展や雇用創出にもつながりますが、社会、環境への悪影響を心配する住民の反発を受けるケースも少なくありません。資源開発はこのような悪影響を抑えつつ進められることによって現地に受け入れられるべきとの考え方が広まっており、その社会的受容性はSLO (Social License to Operate )やSDLO (Sustainable Development License to Operate )と呼ばれています。

20世紀の中頃には、資源利用の持続可能性として鉱物資源の埋蔵量や可採年数が注目されたため、資源問題は環境問題の一部として捉えられがちでした。しかし近年の資源問題は、環境だけでなく経済や社会とも切り離せないものとなっています。

日本の鉱物資源政策

日本のものづくり産業は鉱物資源の輸入に依存しており、国としても「海外資源確保の推進」「備蓄」「省資源・代替材料の開発」「リサイクル」を4本柱に据えた資源政策を打ち出してきました。また近年では、「海洋資源開発」が5本目の柱に位置付けられています。

2010年に経済産業省・資源エネルギー庁が発表した第3次エネルギー基本計画では、金属の自給率の目標値が「ベースメタル(銅・亜鉛)は2030年に80%以上、レアメタルは50%以上」と設定されました。また、2018年発表の第5次エネルギー基本計画には、「2016年に50%であるベースメタルの自給率を2030年に80%以上に引き上げることを目指す」と書かれています。 自給率は以下の式で定義されており、海外の一次(天然)資源と国内の二次(再生)資源の両方の確保を進めることが安定供給に不可欠と考えられています。

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2012年に発表された資源確保戦略では、産業界におけるレアメタル等の重要性と鉱物資源の供給リスクの高まりを考慮して、政府として重点的に資源獲得に取り組む30種の戦略的鉱物資源を選定しました。30種の多くはレアメタルですが、鉄やアルミニウムなどのベースメタルもリストアップされており、社会インフラや日々の生活を支える身近な金属についても戦略的な確保が必要と考えられています。

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資源政策のターゲットは?

資源政策には「どのように資源確保を進めるか」が示されていますが、その方向性はこれまで一貫して4本柱を中心としたものでした。一方で、「どの資源の確保を重点的に進めるか」を決めるのは、資源の世界情勢や先端技術でのレアメタル使用状況が目まぐるしく変化する中で難しい判断です。これまでの資源政策でも、備蓄対象鉱種やリサイクル重点鉱種、そして戦略的鉱物資源が具体的な対象としてその時々に選定されてきました。

▼資源政策における重点対象鉱種の指定の例

名称 概要
備蓄対象鉱種 1983年に備蓄制度が創設されて以降、情勢に応じて対象鉱種を変更しており、現在は34鉱種とされている。備蓄目標は国家備蓄と民間備蓄を合わせて国内消費の60日分。
リサイクル重点鉱種 鉱種ごとの供給リスク、需要見通し等に加えて、リサイクルの状況を踏まえてリサイクル検討優先鉱種14種を選定。さらにリサイクル技術の開発段階を考慮して、重点鉱種として5鉱種(W, Co, Ta, Nd, Dy)を選定。
戦略的鉱物資源 「日本の産業にとっての重要性」「供給上の支障が生ずる可能性」「日本企業・政府が参画することによって安定供給の実効性が確保できるという事業実施可能性」の3要素を考慮して選定。(詳細は前述の通り)

今後も、「資源リスクが高いのはどの金属か?」を見極めて資源政策の重点対象を設定することが、ものづくり産業が生き抜くための大きな助けとなるでしょう。次回は、その見極めを進める中で形成された"クリティカルマテリアル"の考え方についてお話しします。

参考情報

資源確保戦略(資源エネルギー庁ウェブサイト)
世界の産業を支える鉱物資源について知ろう(資源エネルギー庁ウェブサイト)

執筆者プロフィール

mr.hatayama.png畑山 博樹(はたやま ひろき)氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所
安全科学研究部門 主任研究員

東京大学大学院工学系研究科でマテリアル工学を専攻後、現職。マテリアルフロー分析、資源リスク評価、ライフサイクルアセスメントなど、持続可能な資源利用に関する研究をおこなっている。日本LCA学会、日本鉄鋼協会所属。
発表論文等:Google Scholar, researchmap

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