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コラム

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を企業で実現するには?
カギとなる"心理的安全性"とは
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)経営による企業価値創出

diversity2.jpg本コラムでは、ダイバーシティ&インクルージョンを企業経営に取り入れる重要性を紹介します。
ダイバーシティ(多様性)という言葉はかなり一般的になりましたが、いまだにダイバーシティ=女性活躍推進のように特定の属性と結びつけ、狭い意味で使われていることも多くあります。またインクルージョン(包摂・包含)こそが成功のカギといえるものですが、インクルージョンを十分に理解している企業が少ないのも現状です。

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第1回目の振り返り

前回は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは何かを解説し、多様性の受容や社員一人ひとりをいかす環境がいかに重要かという視点をお伝えしました。今回は、ダイバーシティ&インクルージョン経営を実現するために不可欠な心理的安全性をどのように育めばよいのか、実際にダイバーシティ施策に取り組む企業はどのような成果を上げているのかという点について、紹介します。

ダイバーシティ&インクルージョンの風土をつくる「心理的安全性」とは

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む組織では、職場で働く一人ひとりが受け入れられ、その人らしく活躍できる環境をつくることで、組織の生産性が高まり、イノベーションを起こすような良い循環ができることを目指しています。そのための重要な要素として、近年「心理的安全性」というキーワードが大きな関心を集めています。
「心理的安全性」が注目を集めるようになったきっかけは、グーグルが行った生産性向上に関する大規模調査「プロジェクト・アリストテレス」にあると言われています。このプロジェクトでは、自社の数百にも及ぶチームを分析し、生産性の高いチームに共通している5つの要素は何かを明らかにしました。

その5つとは、チームの中に1. 「相互信頼」がある、役割や計画目標が明確になっている。2.「構造と明確さ」がある、仕事が自分にとって意味あるものと感じている。3.「仕事の意味」、意義がありよい変化を生み出す。4.「インパクト」のある仕事をしている。そして、最も重要なものが5.「心理的安全性」です。
「心理的安全性」とは、リスクを恐れずに本音で話ができる、自分らしくふるまえる、自信をもってそこにいられる状態を指します。

心理的安全性の低い組織では「意見を言うと空気を壊したり嫌われたりするのではないか」「質問をすると「何も知らない」とバカにされるのではないか」「失敗をすると厳しく非難されるのではないか」という不安から、率直に自分の考えを述べることができません。組織の中の少数派であり弱い立場にある社員ほど、自分の意見を言うことへの恐れや不安があります。つまり、心理的安全性が低い組織では、言わない、やらない方が安心・安全であり、社員一人の行動やチャレンジを阻害し、強みを発揮する機会や自らの可能性を閉ざしてしまうのです。
職場の心理的安全性を高めるには、率直に意見を言うことを奨励し対話を増やし、相談しやすい雰囲気を作り、奇抜なものや異質なものを面白がる楽観性を持つことが大切です。また「失敗」に対する考え方を変え、前向きにとらえなおすことも重要です。

心理的安全性が確保された職場では「健全な衝突・対立(ヘルシーコンフリクト)」が起こります。ヘルシーコンフリクトとは、信頼関係を前提とした上で、対立を恐れずにお互いが意見をぶつけ合い、時には不協和音を生むような緊張感すらも乗り越え、組織の活性化を促すことを意味します。ヘルシーコンフリクトがあるからこそ、多様性がイノベーション創出の契機となるのです。
多様性を受け入れ、組織の心理的安全性を高めることで「未熟な意見かもしれないが、とにかく発言してみよう」という積極的な気持ちや「ダメでもやってみよう」という前向きな行動が生まれます。多様な意見のぶつかり合いにより、A案がA´に、B案がB´に変容したり、新たなC案の創出につながるのです。心理的安全性は、多様な人々を受け入れて活かすインクルーシブな組織にするために不可欠な要素です。

多様性を受容するダイバーシティ&インクルージョン、4つの成果とは

ダイバーシティ&インクルージョンは、決して社員満足度や企業イメージの向上のために行うものではありません。ダイバーシティを尊重したビジネスのあり方が、新しい常識になりつつある今、経営の重要な戦略として本気でダイバーシティ&インクルージョン推進に取り組む企業だけが、先んじてその成果を手にしています。
経済産業省では「ダイバーシティ経営」について「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。そして、ダイバーシティ経営の成果を、1.プロセスイノベーション、2.プロダクトイノベーション、3.職場内の効果、4.外的評価の向上という4つの軸で評価しています。

1. プロダクトイノベーション
「対価を得る製品・サービス自体を新たに開発したり、改良を加えたりするもの」です。多様な人材が異なる分野の知識、経験、価値観、考え方(視点)を持ち寄ることで「新しい発想」が生まれます。

2. プロセスイノベーション
「製品・サービスを開発、製造、販売するための手段を新たに開発したり、改良を加えたりするもの(管理部門の効率化を含む)」です。多様な人材が能力を発揮できる働き方を追求することで、効率性や創造性が高まります。

3. 職場内の効果
「社員のモチベーション向上や職場環境の改善」などです。自身の能力を発揮できる環境が整備されることでモチベーションが高まり、働きがいのある職場に変化していきます。

4. 外的評価の向上
「顧客満足度の向上、社会的認知度の向上」です。多様な人材を活用していること、及びそこから生まれる成果によって、顧客や市場などからの評価が高まります。

この4つの成果のうち、1と2は企業の収益や業績など財務的価値に直結する「直接的効果」をもたらす一方、3と4は企業のブランディングや人材獲得などの非財務的価値に親和性が深い「間接的効果」となってあらわれます。また、これらの成果は様々な取り組みの結果として複合的にあらわれるため、どれか一つから徐々に広がる場合や、すべての成果が一気に起こる場合など、組織の導入ステージによってさまざまな段階があります。

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ダイバーシティ経営の成果を手に入れた企業事例

ここでは、2009年からダイバーシティ推進に取り組むカルビー(株)のケースを例に、ダイバーシティ経営の4つの成果を具体的にみていきます。同社は松本晃氏の会長就任をきっかけに「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」という方針のもと、女性活躍を中心にダイバーシティ経営を行い、大きな成果をあげています。

1. プロダクトイノベーション:イメージ刷新!手抜きから「賢く時短」へ
グラノーラにドライフルーツを混ぜたシリアル「フルグラ」。発売から10年以上横ばい状態だったフルグラの売り上げを大きく伸ばしたのは、テコ入れを任された一人の女性管理職でした。マーケティング戦略を見直し、シリアルの「手抜き」というイメージをリブランディングし「栄養バランスもよい時短メシ」として売り出したところ「第三の朝食」として爆発的なヒットにつながったのです。2011年度37億円だった売り上げは、2020年3月期には約316億円と10倍近くになりました。

2. プロセスイノベーション:ニューノーマルな働き方を模索
カルビーのダイバーシティ&インクルージョン推進は、イノベーションが起きる環境をどう作るか、人の能力をどう最大化するかということにフォーカスしています。そのために様々な業務効率化や働き方改革を進め、2020年7月からは、オフィスで働く社員を対象に、モバイルワークの標準化やフルフレックスタイム制の導入、業務上支障がない場合の単身赴任の解除など、ニューノーマルな働き方「Calbee New Workstyle」をスタートしています。働きやすさだけでなく、働きがいややりがいの実現をめざした取り組みは、介護や育児などの制約を持つ社員だけでなく、すべての社員のモチベーションアップや生産性向上につながっています。

3. 職場内の効果:性別の壁を超える取り組み
執行役員や管理職に積極的に女性を登用し、2010年に5.9%だった女性管理職比率は2021年には21.8%となり、短時間勤務の女性執行役員を輩出するなど多様な女性が活躍できる職場を実現しています。また、人事制度を大きく改革し、目標と成果の明確化「C&A(コミットメント&アカウンタビリティ)」を導入しました。目標を数値化して公開し、結果を出せば評価されるし、そうでなければ降格もありうるという制度に当初は戸惑う社員もいたようです。けれど、上司とともに自分で立てた目標に向けて行動し、結果を出せばきちんと評価されるという制度は、今ではしっかりと浸透しているようです。

4. 外的評価の向上:組織風土が評価され、内閣総理大臣表彰
経済産業省が東京証券取引所と共同で選定している「なでしこ銘柄」は、女性活躍推進に優れた企業を選定するものですが、カルビーは水産・農林業、食料品業種区分で唯一、2014年から7年連続で選定されています。また、2016年には内閣府による「女性が輝く先進企業表彰」において『内閣総理大臣表彰』を受賞しています。

最後に

ダイバーシティ&インクルージョン推進は、ビジネスの新しい常識であり、すべての企業にとって不可欠なものです。経営層が本気で取り組むことはもちろんですが、働く私たちも多様性の大切さをしっかりと理解し、多様性を受け入れて活かす職場づくりを意識的に行っていく必要があります。
まずは、自分自身に目を向けてみましょう。あなた自身も多様性の一部であり、組織の多様性を構成する大切な存在です。そして、職場の人達と一歩踏み込む対話を始めてください。身近な人のことはよく知っている、理解しているつもりでも、その価値観や考え方、やる気の源泉、思考・行動パターンは実に様々であることに気づくでしょう。対話を深めることで、お互いを尊重する気持ちや違いを活かしていこうという前向きな気持ちが生まれ、それが心理的安全性やその先のヘルシーコンフリクトへとつながっていくのです。
世界が急速に変化し不確実性、複雑性、曖昧さが高まっているVUCAの時代に、悩んでいる時間はありません。皆さんがダイバーシティ&インクルージョン推進に向けてはじめの1歩を踏み出すことを期待しています。

参考情報

Google re:Workサイト,「「効果的なチームとは何か」を知る」
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/identify-dynamics-of-effective-teams/
経済産業省,「多様な個を活かす経営へ~ダイバーシティ経営への第一歩~」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/turutebiki.pdf
経済産業省,「ダイバーシティ100選」https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/entry/pdf/h27betten.
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執筆者プロフィール

arakane_profile.jpg 荒金 雅子(あらかね まさこ)氏
株式会社クオリア
代表取締役

1996年米国訪問時にダイバーシティのコンセプトと出会い強く影響を受ける。以降一貫して組織のダイバーシティ推進や働き方改革の実現に力を注いでいる。意識や行動変容を促進するプログラムには定評があり、特にアンコンシャス・バイアストレーニングやダイバーシティ&インクルージョン推進プログラムは高い評価を得ている。

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