コラム
「未完」×「共創」のデザイン-共感のつくり方-(第八回)トランジション・ストラテジー(移行戦略)のすすめ ~循環型ビジネスの実現~
これまでの記事を通じて、新規事業や新規商品を構想するにあたって、より豊かな未来像や社会課題の解決といった、共通の価値観・在りたい姿を掲げることの重要性について触れてきました。しかし実際には、それらを掲げただけでは、市場や顧客からの強い共感を得ることは難しく、またともすれば"共感の押し売り"に陥ってしまう懸念もあります。ポイントは、ビジョンや理念を「ストーリー」として商品に落とし込むこと、またそのストーリーにサプライチェーンにおけるプレイヤーやユーザーを巻き込むこと(=「共創」)であり、そのためには商品やサービスに、あえて手を加える余地、すなわち「未完」のデザインが有効です。
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目次 |
「未完」×「共創」のデザインの事例
まず「未完」から「共創」を生み出している分かりやすい事例を見ていきましょう。
■参画型クラウドファンディング
クラウドファンディングの市場規模は2014年の金融商取引法改正以降、急速に拡大し、2020年度の国内市場規模は、新規プロジェクト支援額ベースで1,841億円7,700万円と推計されています。製品開発やイベントの開催に付随する多額の資金調達のハードルを下げる効果はもちろん、近年増加しているのは、パイロット商品やプロトタイプ実証への参画(購入)費用として出資を募るケースです。商品の掲げる理念やコンセプトを「応援したい」「試してみたい」と考える人を、製品づくりや実証の一端に巻き込む効果があり、テストマーケティングやファンづくりにも資する仕組みと言えます。
■アミタ【MEGURUステーション】
アミタの「MEGURUステーション」は、老若男女の別なく日常的に行う"ゴミ出し"をきっかけに、住民参加型でコミュニティ活性化を促進しようとする装置であり、これまで宮城県南三陸町、奈良県生駒市、兵庫県神戸市、福岡県大刀洗町などで導入されてきました。装置は各地域の事情や特性に合わせて様々な要素が組み込まれますが、実装にあたって大切にしていることの一つに、参加した住民によって新たに付加したり改善したりできる「余白」を残す、ということがあります。誰かからのお仕着せでなく、自分たちで考えて議論して手を加えることができるという設計が、住民の参画意識をより高めると考えています。
写真:生駒市MEGURUステーション(地域の方が看板づくりをしている様子)
■「Fairphone(フェアフォン)」
スマートフォンは「未完」を象徴する商品の一つです。初期インストールされているアプリケーションだけを利用し続けるユーザーはほとんどいないでしょう。アプリケーションだけでなく、スマートフォン本体までユーザー自身で修理やカスタマイズし続けられるスマートフォン「Fairphone」は、ほとんど利用しない機能やそのアップデート、メーカー主導で行われる計画的陳腐化※などを疑問視し、サーキュラー・エコノミーや「修理する権利」といった思想に共鳴するユーザーたちと、強い共感で繋がっています。
※計画的陳腐化:製品寿命が短縮する仕組みや、新製品を市場に次々投入することで、旧製品が短期間に陳腐化するように計画し、新製品の購買意欲を上げる手法のこと。
「未完」×「共創」のデザインがユーザーにもたらすのは、同じ考え方を持つメーカーや仲間たちと共に、商品やサービスに落とし込まれた「ストーリー」の一端を自分も担ったという経験価値であり、社会的欲求(参画欲求)や承認欲求、自己実現欲求などが満たされることによる、深い満足感です。そしてそれは、商品やそれにまつわる価値を提供する側・される側、ストーリーやコンセプトに対して共感する側・される側という彼我の関係性の消失でもあるのです。
人の欲求にフェアフォンが効果を及ぼす概念図(アミタ作成)
ビジョンを「ストーリー」に落とし込む
「未完」×「共創」をデザインするには、まず、企業が掲げるビジョンを、商品やサービスの「ストーリー」として落とし込むことが必要です。社会をこう変えたい、企業としてこう在りたいといった抽象度の高いメッセージを、より具体的に、この商品が大切にしている価値観は何か、商品を通して社会に何を働きかけたいのかといったメッセージに変換した上で、商品づくりの背景や、製作に傾けられた情熱や工夫・苦労、ユーザーの手元に届くまでのプロセスと関係者の表情などとともに伝えていきます。商品にまつわる主観的で人間的な要素、さらにストーリー性が伝えられると、受け取り手の側では、登場人物の視点の疑似体験や感情移入が起こりやすくなります。ある研究結果によれば、論理的な記述に比べて、物語の方が22倍も記憶に残りやすいと言われています。
「未完」×「共創」のデザインは、ストーリーを伝えるに留まらず、ユーザーをそのストーリーの登場人物の一人として位置づけ、ユーザーが手を加えることでストーリーが完成する(完成に近づく)ことを表現します。このような「自分だけの物語」「自分ごととして捉えること」をユーザーに喚起する手法は、近年「ナラティブ・アプローチ」と呼ばれ注目を集めています。
B2B商品における「未完」×「共創」のデザイン
とはいえ、商品やそのストーリーに、いかに「未完」をデザインするのか、特にB2Bの商品では悩ましいところかと思います。「未完」とは、中途半端な製品をつくることでも、技術や品質にこだわりを持ってきた矜持を捨てることでもありません。例えば、下記のようにB2Bの領域でも意味のある「未完」×「共創」のデザインは様々あります。
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B2B領域では「未完」よりも「共創」を意識したほうが考えやすいとも言えるかもしれません。
もう一つの問題は、それらのデザインが購買動機につながるのかという点です。その点については、企業による調達分野においても、持続可能な調達、サプライヤー・エンゲージメントといった文脈の中で、徐々に意味を増し始めているといってよいでしょう。例えばCDPの評価の一つにも、サプライヤー・エンゲージメント評価があり、気候変動課題の解決に向けて、その会社がサプライヤーに対していかに働きかけ、連携したかが評価されます。B2B領域においては、そうした購入者側の状況や意識の変化にも目を向けるとよいでしょう。
サプライチェーンのプレイヤーとの「共創」
ここまでは、商品やサービスの利用者との「共創」について解説してきました。最後に、サプライチェーンのプレイヤーとの「共創」について考えてみましょう。
サプライチェーンのプレイヤーを巻き込みながらビジネスモデルを循環型に変革する際のポイントについては、これまでの記事の中でも触れてきました。共通の価値観・ありたい姿を掲げて志を束ねるといったことは大前提として、個別最適ではなく、全体最適の視点で捉えてエコシステム化やDX化を進める(第二回コラム)、本質的な課題に焦点を当てることで取り組みのインパクトを高める(第四回コラム)、まずは自社でできる範囲で取り組んでみて、その知見も共有しながら、他社が参画したくなる・しやすくなる状況をつくる(第六回コラム)といったことです。
「未完」×「共創」という観点から、もう一つのポイントをお伝えすると、巻き込むプレイヤーの役割を用意するということです。そのプレイヤーは取り組みの中でどのような役割を果たすのか、そのプレイヤーのコア・コンピタンスや保有するアセットなどが取り組みにどう親和するのか、なぜそのプレイヤーでなければならないか、などを示すことで、参画意識向上に大きな効果をもたらします。企業にとっては、収益に直結しない取り組みへの参画は何らかの「投資」と位置付けられます。最近では、企業間の「協業」「連携」が一種のブームのような状態で飛び交っており、金銭的な投資対効果とは別に、その取り組みに参画することが企業としての成長につながるのかを、各社シビアに見ているはずです。呼びかける側として、負担を増やすと参画に二の足を踏まれるのではという懸念はよくわかりますが、その配慮がかえって参画意識の低下を招いているかも知れません。
商品やサービスに、あえて手を加える余地、すなわち「未完」をデザインするというのは、特にメーカーにとっては抵抗のあることに違いありません。しかし、その先に「共創」までデザインすることによって「ストーリー」の一端を自分も担ったという経験価値や「自分ごと」の意識をもたらすことが可能になり、価値を提供する側・される側、共感する側・される側という彼我の関係性の消失に繋がります。市場や顧客から大きな共感を獲得する道筋は「自分たちだけでは完成できない」「大きな目標のために、あなたにはこの役割を担ってもらいたい」と真摯に伝えていく、自己完結の欲求から一歩踏み出す勇気の先に見えてきます。
関連情報
執筆、編集
木下 郁夫(きのした いくお)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
グループマネージャー付
企業向けのソリューション営業の経験をベースに、廃棄物管理に係わるシステムの設計・開発、業務フローの構築などに従事。現在はサステナビリティ経営に向けた新規事業の提案など、更なる顧客満足度の向上を目指し、提案・サービス活動を行っている。
渥美 黄太(あつみ こうた)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
群青チーム チームマネージャー
石油精製・化学・自動車・食品・機械など、環境を軸に多くの企業への提案・支援実績を経て、現在はコンサル部門にてビジョン・長期目標の策定、循環型のビジネスモデル構築を支援中。
駒井 真帆(こまい まほ)
アミタ株式会社 社会デザイングループ
山吹チーム
2018年、アミタ株式会社に合流。環境管理業務の統合支援サービスSmartEcoの営業を担当後、現在は企業向けのサステナビリティコンサルティングを行っている。
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