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コラム

ランドスケープアプローチで実現する地域のネイチャーポジティブ~東北大学・アミタ共同制作 NP実践ガイドを解説!

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2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」。

この国際目標を地域で実現するための鍵として「ランドスケープアプローチ」という手法が注目を集めています。
2025年11月、東北大学ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点とアミタホールディングス株式会社は、このランドスケープアプローチの視点を取り入れた実践ガイド『地域のネイチャーポジティブ活動の手引き』を発表しました。

この手引きに基づき、ランドスケープアプローチとは何か、なぜ今この視点が必要なのか、
そして具体的に地域でどう実践すべきかを簡単にまとめました。

目次

ランドスケープアプローチとは?「守る」から「価値創造」への転換

これまで日本各地で行われてきた自然保護活動と、今回提唱されているランドスケープアプローチに基づく活動には、決定的な違いがあります。

従来型の自然保護が「自然を守る(赤字を出さないように節約する)」活動だったのに対し、ランドスケープアプローチでは、自然を地域の経済や暮らしを支える基盤として捉え直し、「未来に向けて積極的に投資し、資産を増やしていく」活動へと発想を180度転換します。

本手引きでは、ランドスケープアプローチを以下のように定義付け ています。

  • 自然の保全と回復のためには、地域の経済・産業・暮らしを統合的に捉えて解決を図る視点 (ランドスケープアプローチ)が必要
  • 生態系と社会・産業を統合した流域・景観単位での統合的な視点と取り組み

つまり、特定の生物種や保護区だけを見るのではなく、川の上流から下流、農地、住宅地、森林、海といった広がり(景観=ランドスケープ)全体を一つのシステムとして捉え、そこにある課題を統合的に解決しようとする手法なのです。

ランドスケープアプローチが必要な理由

ではなぜ今ランドスケープという視点が必要なのでしょうか。それは自然環境と私たちの経済活動が相互に深く依存しており、すでに切り離せないものになっているからです。

手引きでは、主に以下の4つの理由が挙げられています。   

 1.相互依存関係の解決

特定の場所の自然を守るだけでは不十分で、上流・下流のつながりや、産業や暮らしにおける自然への「依存」と「影響」を切り離さず、一つのまとまりとして捉える必要があるため

 2.課題の広域化への対応

ひとつの行政区画や特定の所有地の中だけでは完結しない自然環境課題に合わせ、行政区分や所有者の境界を越え、流域や景観(ランドスケープ)といった広い視野で課題を解決する必要があるため

 3.「コスト」から「投資」への転換(地域の価値創造)

自然回復を、農林水産物のブランド化や観光資源の増加、災害に対するレジリエンス向上といった
具体的な「地域利益」に結びつけ、自然保護を「コスト」ではなく「未来への投資」に転換するため

 4.複合的な課題の同時解決

気候変動や地域文化など複数の課題を統合的に扱うことで、トレードオフを防ぎ、相乗効果を生み出すため

ランドスケープアプローチ視点で進める4つの実践ステップ

手引きでは、ランドスケープアプローチを具現化するために、4つのフェーズに沿って活動を進めることを推奨しています。本書では、各フェーズのアプローチについて詳細に記載していますが、ここではフェーズごとの概要をご紹介します。

▼ランドスケープアプローチ4つのフェーズ

Step 1:
課題把握とビジョン策定
Phase A

地域の自然・産業・暮らしにおける「依存と影響」の関係を地域全体の視点で把握し、国際的枠組み「AR3T(回避・軽減・復元・変革)」に基づき、悪影響の回避・軽減を優先しつつ将来的な自然回復を目指す目標を設定する。(P1041

Step 2:
計画策定と科学的アプローチ
Phase B

ロジックモデルを用いて、ビジョン実現に向けた活動計画を策定する 。活動範囲を特定の場所だけでなく、生物の移動経路や流域全体といった「広がり」で捉え 、専門家の知見を取り入れながら科学的根拠に基づいた計画を立案する 。(P4251

Step 3:
活動の実行とモニタリング
Phase C

安全管理を最優先にフィールド活動を実施し 、活動前後のデータを比較して科学的な効果測定を行う 。単なる活動実績だけでなく、その活動が地域全体の生態系や社会にどう寄与したかという「アウトカム(成果)」を評価する 。(P5260

Step 4:
スパイラルアップと連携
Phase D

活動の成果と課題を基に改善のサイクルを回し、活動をより高次なものへと「スパイラルアップ(循環的発展)」させる。

最終的には、自治体の政策や企業の経営戦略にネイチャーポジティブの視点を組み込み、地域社会全体に定着させることを目指す。(P6173

出典:地域のネイチャーポジティブ活動の手引き Ver. 1.0

ネイチャーポジティブ先進事例に見る、ランドスケープアプローチの経済効果

ネイチャーポジティブの実践は、すでに地域経済に具体的なメリットをもたらしています。その中でもランドスケープアプローチを用いたいくつかの事例をご紹介します。

  • 佐賀県唐津市(藻場再生): 漁業者と研究機関が連携し、水産資源の回復と「Jブルークレジット」認証取得を両立。環境保全を経済価値へ転換しました。 具体的には、ウニの密度管理や陸上海藻養殖を行っていますが、これは単に海藻を増やすだけでなく、海の生態系回復を漁業者の収益向上(ウニの身入り改善など)や脱炭素価値(ブルーカーボン)と結びつけています。

    「海中の生態系」と「漁業という産業活動」を切り離さず、一つのシステムとして統合的に課題解決を図っている点が、まさにランドスケープアプローチの実践と言えます。


▼ウニの密度管理を行い、陸上海藻養殖を開始

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出典:唐津市ホームページ

  • 宮城県南三陸町(森林・養殖認証): 同一流域内でFSC認証(森林)とASC認証(養殖)を取得。「森・川・海」のつながりを認証という形で可視化し、ブランド化に成功しています。具体的には、上流の「森林」と下流の「海(養殖)」を別々の場所としてではなく、一つの流域(ランドスケープ)として捉えています。豊かな森から注ぐミネラル豊富な水が海を育て、良質なカキができるという自然の連環を、FSCASCという国際認証の同時取得によって産業レベルで可視化・統合管理している点が、ランドスケープアプローチの好例です。

    FSC認証とASC認証の両方を取得した世界初の自治体

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    出典:南三陸森林管理協議会

これらの事例は、ランドスケープアプローチが環境を守るだけでなく、地域のブランド価値を高め、持続可能な経済循環を生み出す有効な手段であることを証明しています。また手引きでは企業の具体的事例についても取り上げています。

  • サントリー「天然水の森」活動: 工場で汲み上げる以上の地下水を育むために、水源かん養※
    エリアの森林を整備。科学的データに基づき、単なる植林ではなく生物多様性の回復を含めた広域的な森林保全を行っています。

    ※森林が雨水を土壌に蓄え、地下水や河川にゆっくり供給することで洪水の緩和と水の流量を安定させかつ水質を浄化する働きのこと

    ▼森づくりのサイクル

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    出典:サントリー 「天然水の森」プロジェクト

その他にも、積水ハウス(「5本の樹」選定による都市の生態系ネットワーク作り)、キリン(スリランカ紅茶農園での持続可能性支援)、メルシャン(ヴィンヤードでの生態系保全)など、事業活動と自然回復をリンクさせた多くの事例が紹介されています。

まとめ:ランドスケープアプローチで地域の未来へ投資する

実践ガイド『地域のネイチャーポジティブ活動の手引き』が示すのは、ランドスケープアプローチによって自然資本を回復させ、地域の「価値」を再発見する道筋です。

「ネイチャーポジティブはコストではなく未来への投資である」

行政、企業、市民がランドスケープアプローチという共通のレンズを持つことで、立場を超えた協働が可能になります。

なお、本手引きは上述の4つのステップに対応する「ABCD」の4パートで構成されていますが、必ずしもAから順に完璧に進める必要はありません。

必要な情報がまだ十分集まっていない場合や、すでに一定の活動が進んでいる場合などは、地域の状況に合わせてABCDのどのパートからでも着手でき、一部を後回しにして進めていくことも可能です。本手引きは、まずは「できることから」、最初の一歩を無理のない範囲で行動に移すことを推奨しています。

▼活動ステップアップのイメージ

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出典:地域のネイチャーポジティブ活動の手引き

「どこから手をつければいいかわからない」という方も「今の活動をさらに良くしたい」という方も、まずは手引きをダウンロードして、自分たちの地域に合ったページから開いてみてください。

自然と共生し、豊かさが循環する地域社会への転換点として、本手引きの活用が期待されます。

出典

東北大学 ネイチャーポジティブ 発展社会実現拠点、アミタホールディングス株式会社『地域のネイチャーポジティブ活動の手引き Ver. 1.0』(202511月)

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執筆者情報

大重 宏隆
アミタ株式会社
サーキュラーデザイングループ

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