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座礁資産とは?石炭、石油に加え天然ガスが対象へ

座礁資産(Stranded Assets)とは、「市場環境や社会環境が激変することにより、投資額を回収できる見通しが立たなくなってしまった資産」を指します。また、気候変動分野では、石油、石炭などの化石燃料資産が座礁資産に当たると言われています。これらは、地球温暖化への対応によりCO2排出量の削減をしなければならない状況になると活用できなくなり、資産価値が大きく下がると考えられています。
最近では、石油や石炭に加え、天然ガスに関する設備も座礁資産と考えられています。今回は、座礁資産の定義と、それらが及ぼす企業への影響について解説します。

まず抑えておきたい!座礁資産の概要

座礁資産という概念をはじめて提唱したのは、英国の金融シンクタンクである「カーボントラッカー」です。さらに詳しく解説すれば、座礁資産が提唱されたのは2011年と言われており、これらには3つの要素があるとされています。

▼座礁資産の3要素

法規制の影響による座礁(Regulatory stranding)...規制の変化など
経済的な影響による座礁(Economic stranding)...相対コストや市場価格の変化など
物理的な影響による座礁(Physical stranding)...物理的な距離による制約や洪水、干ばつ等の発生など

出典:CarbonTracker Webサイト「Stranded Assets

また、IEA(国際エネルギー機関)によると、温室効果ガスの大幅削減目標(2℃目標)を達成することを踏まえると、CO2の回収・貯蔵技術(CCS)が広く普及されない場合、今後、世界中に存在する化石燃料の3分の1しか燃料できず、残りは座礁資産となると言われています。その総額は、28 兆ドル(2012 年米ドルベース/2012年1月のレート換算で、日本円で約2,150兆円)にのぼるという試算があるとのことです。企業にとってもその規模は見過ごせないものと言えるでしょう。

また、カーボントラッカーは、2019年10月に「日本における石炭利用の経済的な実行可能性は、安価な再生エネルギーの出現によって、著しく損なわれる可能性があり、政策改変がなければ、710憶米ドル(7兆7千億円)の「座礁資産」になるリスクがある」と発表しています。

進む投資撤退、ダイベストメントの動き

こうした「座礁資産」の概念は、主に金融や投資の世界で用いられており、「投資回収が難しいのではないか」という懸念から、これらの座礁資産に関する企業への投資を避ける動きが起こっています。このように、特定の国・地域・産業などから、投資を引き上げることを一般的にダイベストメント(投資撤退もしくは投資撤収)と言います。具体的には下記が挙げられます。

▼ダイベストメントに関する事例

2014年9月 アメリカ 世界最大の石油財閥であるロックフェラー財団が化石燃料投資から撤退宣言。
2015年6月 ノルウェー ノルウェー公的年金基金が保有する石炭関連株式を全て売却する方針が承認。
2015年10月 アメリカ カリフォルニア州にて、州内の2つの年金基金に対し、発電用の石炭に関する産業に新規投資することを禁ずる法律が成立。
2017年1月 ドイツ 大手金融機関のドイツ銀行が、新たな石炭火力発電所の建設及び既存の石炭火力発電所の拡張に関する投融資を行なわない方針を発表。
2018年1月 アメリカ ニューヨーク市長は、市長、および市の1890億ドルの年金基金のその他の受託者は、5年以内に化石燃料の設備所有者からの投資撤退を目指すと発表。
2019年1月 アイルランド アイルランド戦略投資基金(ISIF)が石油、ガス、その他の化石燃料に関わる38社からの6,800万ユーロ(2019年1月のレート換算で、日本円で約67億円)の売却が完了したと発表。

出典:環境省Webサイト「平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」・各種報道資料よりアミタ(株)が作成

一方、環境省の報告によれば、ESG要素を考慮した持続可能な投資(sustainable investment)による資産規模は、2014年の18.3兆ドルから2016年の22.9兆ドルへと拡大しており、日本でも急増しています。また、これらの増加の背景には、パリ協定の発効があるとしています。このような動きを踏まえると、ダイベストメントが活発化する背景には、こうしたCO2排出量の削減と地球温暖化防止に向けた機運の高まりが強く影響していると、考えられます。

天然ガスが座礁資産化

これまで、石炭や石油関連設備が座礁資産と呼ばれてきましたが、2019年11月22日付の日本経済新聞は、「欧州投資銀行(EIB)が、化石燃料関連事業への新規融資を近く停止すると決めたことを受けて、天然ガスも「座礁資産」として扱われる可能性が出てきた」という話題を取り上げています。
天然ガスは石炭や石油などに比べてCO2排出量の少ない燃料とされており、環境省の「地球温暖化防止行動計画」でも、(太陽光、風力発電等の促進とあわせて)発電時の利用が推進されていました。しかし、地球温暖化防止の機運の高まりから、石炭や石油の代替とみなされてきた天然ガスも、時代の流れと共に、座礁資産として認識されるようになっています。天然ガスの座礁資産化に関連する議論は以前から巻き起こっており、例えば、下記の発表がなされています。

▼天然ガスの利用に関する議論

地球の温度上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の長期目標を達成するためには、毎年世界の温室効果ガス排出量の4分の1以上を排出する電力部門が、他の部門に先駆けて(CO2を排出しない仕組みに)転換する必要があります。具体的には、電力からのCO2排出量を2050年までに世界的にゼロにする必要があります。(中略)天然ガスは、多くの場合、さまざまな再生可能エネルギー技術を補うことのできるクリーンなエネルギー資源として認識されています。ただし、ガスの抽出と輸送中に一時的に起こってしまうガスの放出は、現在も課題となっています。電力部門における天然ガスの使用量を削減し、最終的には天然ガスの使用をゼロにしていく必要があります。

出典:Climate Action Tracker Webサイト「Foot Off The Gas報告書」(2017年発表)

座礁資産に関する企業への影響は?

企業への影響はどのようなものが考えられるのでしょうか。

●エネルギー関連企業

融資打ち切りなどの懸念から、事業の見直しが必要になる可能性があります。海外では、再生可能エネルギーへの事業転換の動きが始まっており、デンマークの国営エネルギー会社である、Danish Oil & Natural Gas社では石油・天然ガスの事業を完全に売却し、洋上風力発電やバイオマス発電を行う企業へとモデルチェンジしています。  

●その他の企業

自社において、化石燃料を取り扱った事業がなくとも、化石燃料の使用を控えることや、CO2排出量の削減が求められると考えられます。また、自社だけでなく、自社の取引先を含めて、対策を求められる可能性もあります。RE100やSBTiなどへの参加も手段の一つです。

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執筆者プロフィール(執筆時点)

野田 英恵(のだ はなえ)
アミタ株式会社
サステナビリティ・デザイングループ デザインチーム

京都出身。立命館大学国際関係学部を卒業後、アミタに入社。
大学時代は、貧困問題に関心を持ち、ミャンマーやフィリピンにてソーシャルビジネスに関わった。貧困問題に限らず、社会的な構造が生み出す課題全体を見つめつつ、持続可能な社会の実現にむけて奮闘中。

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