株式会社モンベル|代表取締役会長 辰野勇氏 シリーズ「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー(第四回) | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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コラム

株式会社モンベル|代表取締役会長 辰野勇氏 シリーズ「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー(第四回)経営者が語る創業イノベーション

montbell_hedder.png創業者は、社会の課題解決のため、また、人々のより豊かな幸せを願って起業しました。その後、今日までその企業が存続・発展しているとすれば、それは、不易流行を考え抜きながら、今日よく言われるイノベーションの実践の積み重ねがあったからこそ、と考えます。

昨今、社会構造は複雑化し、人々の価値観が変化するなか、20世紀型資本主義の在りようでは、今後、社会が持続的に発展することは困難であると多くの人が思い始めています。企業が、今後の人々の幸せや豊かさのために何ができるか、を考える時、いまいちど創業の精神に立ち返ることで、進むべき指針が見えてくるのでは、と考えました。

社会課題にチャレンジしておられる企業経営者の方々に、創業の精神に立ち返りつつ、経営者としての生きざまと思想に触れながらお話を伺い、これからの社会における企業の使命と可能性について考える場にしていただければ幸いです。

(公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長 高橋陽子)

株式会社モンベル「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー
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子どものケアは社会の大きな課題

高橋:最近、子どもたちの問題が深刻になっています。その原因は複雑化、深刻化していて、見過ごすことのできない状況です。でも、どんな境遇に生まれた子どもにも、幸せになる権利がありますよね。
辰野さんは、スポーツ教室やチャレンジ、東日本大震災の復興支援で始められた「手のひらに太陽の家」など、子供たちへのさまざまな育成支援をしていらっしゃいます。障がいのある子どもたちへの支援にも、力を入れていらっしゃると聞きました。

※復興共生住宅「手のひらに太陽の家」とは
震災遺児や原発事故から避難している親子を優先的に受け入れ、自然素材と自然エネルギーを利用した居住環境を提供するほか、教育支援・就労支援など、生活再建に向けての多面的なサポートを展開。将来、復興共生住宅の役目を終えた折りには、環境教育や野外教育拠点となる自然学校として再利用する。

辰野氏:ぼくは奈良に住んでいて、大仏さまで有名な東大寺の理事を長いことやっています。ここは元々聖武天皇の発願で約1,300年前に建立されたお寺。その皇后さんの光明皇后はすばらしい方で、ハンセン氏病などの患者さんを手厚く処遇されました。
その流れを受けて、60年ほど前に肢体不自由児施設「東大寺整肢園」という施設ができました。いま、そこの理事もやらせてもらっています。子どもたちの障がいが重度化していて大変なこともありますが、手狭になってきたので、勧進でお金を集めて施設を作り直そうと動いているところです。

高橋:勧進というのは募金活動ですね。昔から日本には、人のためにお金やお米を差し伸べようとする心があったんですね。

辰野氏:そうですね。その理事会で、子どものケアの問題は障害のあるなしに係わらず、これからの大きな課題であると話しました。
地方創生に関わるなかで、グランドデザインを考えてほしいと依頼されることが増えていますが、そこで見えてきたのは、女性目線で街づくりをしないとダメだということ。

高橋:女性の本来持っている力、いのちを守り育てる視点からということですね。

辰野氏:子供をどうケアするかというのは社会をどう構築していくかの基本の部分。一番大きなテーマです。いろんな角度から見ても、次世代育成を考えていない地域には将来がないと思います。

自然体験の大切さ

montbell4_1.jpg高橋:モンベルの会員には子どもさんも多いですか?

辰野氏:62万人の会員さんのなかで、一番大きなボリュームゾーンは小学生の親子です。フレンドフェアや催し物に、親子で来られて、一日遊んで帰っていかれる。

モンベルのアウトドアスポーツは5つの要素で仕事をしています。
一つ目は自然環境。二つ目はまさに子どもを対象とした、生きる力を育む野外体験。三つ目は健康寿命。四つ目は災害に対する防災教育。
最後に、いま取り組んでいるジャパンエコトラックという概念で、アウトドアスポーツを楽しみながら豊かな自然に触れるエコなツーリズム。これによって地方も経済的に潤っていけばいいと。この5つの柱は、次の世代に伝えていくことばかりです。

東日本大震災で大変な経験をした子どもたちと、ラフトに乗って一緒に川下りをするなどのイベントもやっています。大したことはできないけれど、子どもたちにはできることをやっていきたい。

画像説明:「子どもたちにはできることをやっていきたい」

高橋:不幸な境遇や体験から、ケアを必要とされる子どもたちは本気で自分を見守って、手を差し伸べてくれる大人が近くにいると、立ち直る力を得るそうですね。

辰野氏:C.W.ニコルさんが運営する「アファンの森財団」ではそういった子ども達を預かって自然体験をさせています。すると顔が変わってくるといいます。なぜかというと、自然がありのままに受け入れてくれるから。しがらみとか人間関係とかでなく、本質的になにが大事かということが見えてくる。

高橋:自然から学ぶことが多いですね。

辰野氏:ぼく自身もそうだったけれど、学校の成績が多少悪くても、山に行けばすべてスカッとする。そこにあるのは自分と山しかない、そぎ落とした、ほかに何もない世界を体感する。子どもにはそんな原体験が必要です。そうすれば、自らいのちを絶つことにもならないんじゃないかと思います。

身を任せて進む「馬なり道なり」という生き方

montbell4_2.jpg高橋:いまでも、山には登っていらっしゃいますか?

辰野氏:よく登りますよ。
ただ、今年の正月の大山(だいせん)雪山登山は、無理しないように行きませんでした。

高橋:著書に書いていただいた「馬なり道なり」という言葉。ご自身の言葉なんですね

辰野氏:「馬に乗っても、無理やり手綱を引かずに馬に任せる」というような意味です。
ぼくらは山の不整地で馬に乗った経験があります。水溜りがあるとか石ころがあるとか、馬はよく知っていて、避けて進みます。だから無理に引っ張ったり、押したりしないで、馬に身を任せることです。
岩登りでも、道は登りやすいところについている。無理やり道を外れたりしないで、いい意味で身を任せる、自然態がいいと思っています

高橋:山登りで培った決断力と慎重さ、そのバランスが大切なんですね。
今日はどうもありがとうございました。

話し手プロフィール

montbell_mr.tatsuno.jpg辰野 勇(たつの いさむ)氏
株式会社モンベル
代表取締役会長

1947年大阪府堺市に生まれる。少年時代、ハインリッヒ・ハラーのアイガー北壁登攀記「白い蜘蛛」に感銘を受け、以来山一筋の青春を過ごす。同時に将来登山に関連したビジネスを興す夢を抱く。1969年には、アイガー北壁日本人第二登を果たすなど、名実ともに日本のトップクライマーとなり、1970年には日本初のクライミングスクールを開校する。そして、1975年の28歳の誕生日に登山用品メーカー、株式会社モンベルを設立し、少年時代からの夢を実現する。またこの頃から、カヌーやカヤックにも熱中し、第3回関西ワイルドウォーター大会で優勝する。以降、黒部川源流部から河口までをカヤックで初下降、ネパール、北米グランドキャニオン、ユーコン、中米コスタリカなど世界中の川に足跡を残す。
一方、1991年、日本で初めての身障者カヌー大会「パラマウント・チャレンジカヌー」をスタートさせるなど、社会活動にも力を注いできた。近年では、びわこ成蹊スポーツ大学客員教授、文部科学省独立行政法人評価委員会など、野外教育の分野においても活動する。
2011年に発生した東日本大震災では、阪神淡路大震災以来の「アウトドア義援隊」を組織し、アウトドアでの経験をいかした災害支援活動を自ら被災地で陣頭指揮する。

趣味は、登山、クライミング、カヤック、テレマークスキー、横笛演奏、絵画、陶芸、茶道。

主な編・著書

聞き手プロフィール

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高橋 陽子 (たかはし ようこ)
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長

岡山県生まれ。1973年津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。高等学校英語講師を経て、上智大学カウンセリング研究所専門カウンセラー養成課程修了、専門カウンセラーの認定を受ける。その後、心理カウンセラーとして生徒・教師・父母のカウンセリングに従事する。1991年より社団法人日本フィランソロピー協会に入職。事務局長・常務理事を経て、2001年6月より理事長。主に、企業の社会貢献を中心としたCSRの推進に従事。NPOや行政との協働事業の提案や、各セクター間の橋渡しをおこない、「民間の果たす公益」の促進に寄与することを目指している。

主な編・著書

  • 『フィランソロピー入門』(海南書房)(1997年)
  • 『60歳からのいきいきボランティア入門』(日本加除出版)(1999年)
  • 『社会貢献へようこそ』(求龍堂)(2005年)

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