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コラム

生物多様性とSDGs(その6):「生物多様性」は生命が体現化した「SDGs戦略の結晶」本多清のいまさら聞けない、「企業と生物多様性」

Photo_by_Elaine_Casap_on_Unsplash-240.jpg本コラムでは、「生物多様性とSDGs」をテーマに、アミタの本多が"超解説"をお届けします!
最終回の今回は、「生物多様性に倣うSDGs戦略」フェーズⅢの発展的取り組みとして、「第2の公」を目指すCSVのあり方についてと、「生物多様性に倣うSDGs戦略」が必要な理由についての解説をお届けします。

Photo by Elaine Casap on Unsplash

前回は「生態系の多様性に倣ったSDGs戦略」、即ち「時代の変遷に伴う社会的課題への対応」として、南三陸町におけるアミタの資源循環事業をご紹介しました。

一方で事業規模の大きな企業であれば、自社収益から事業予算を確保し、さらなる収益や自社の持続可能性を獲得するための投資として、自治体の公共機能を担う「第2の公」たる存在になり得ることを唱えました。今回は、そのような「第2の公」たりうる自社事業、即ちCSV(共有価値の創造)のあり方について、アミタが策定した支援サービスの構想をご説明します。 

【構想1】食品メーカーの場合:「三方よし」のCSVで「第2の公」を担う

例えば製品の原料に鶏卵や食肉を用いる食品メーカーの場合、その調達ラインにおいて「第2の公」の役割を果たすことが可能です。家畜や鶏の飼料には多くの場合、輸入コーンが使用されていますが、これを工場周辺や関係地域の水田で生産された飼料米に転換することで、地域社会を活性化させる「第2の公共事業」を振興できるのです。遊休農地化した水田を復活させて地域の生態系を育むと共に、雇用を促進することにもつながります。

さらに、自社製品ユーザーを工場周辺の農地での援農活動に招くサービスを展開すると、製品の販路拡大と地域支援にもつながります。

viva.png例えば、生鮮野菜の収穫作業は機械化が困難なため、農家は手作業で収穫しなければなりません。そのため慢性的な人手不足に悩んでいます。そこでサラダドレッシングのメーカーが自社製品ユーザーに「突然ですが明日、○○町でレタス3000個の収穫を手伝ってください!」という援農ミッションメールを送り、駆け付けたユーザーが収穫を手伝えるようなシステムを構築するのです。援農に参加した-ユーザーは畑仕事で汗を流して得る健康と共に、お土産に新鮮な野菜類(ただし出荷規格外品)を持ち帰れるというものです。現実に、人手不足で農地から作物を収穫できず、品不足で購買者の需要に追い付かない悩みを抱えたJA直売所が、消費者による「援農支援青空フィットネスクラブ」を展開している事例(滋賀県)もあります。その援農システムを食品メーカーとユーザーが行うというものです。

(画像:慢性的な人手不足と品薄状況に悩むJA直売所が取組む、購買者による援農青空フィットネスクラブ 「VIVA!」(JAおうみ富士:滋賀県))

▽【図-1】食品メーカーとユーザーによる生鮮野菜農家への援農システムの構想

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このように「生産者と消費者の関係性を豊かにする取り組み」の中で生産地の人手不足という課題を解決し、同時に自社製品のファンも拡大させることができるのです。こうした「三方よし」のCSV、つまり「第2の公共事業」は、既存の行政サービスや施策とは異なるアプローチにより、地域に大きな価値をもたらすことも十分に可能なのです。

【構想2】パートナーシップで豊かな関係性の獲得を

こうした取り組みは一企業だけで展開するよりも、他業種の企業と連携したほうが、より大きな目標を達成できます。SDGsの目標17に掲げられている「パートナーシップで目標を達成しよう」を実践するわけです。例えば、大手工業メーカーの社員食堂は一日で数tもの農産物を消費します。そのような工業メーカーと食品メーカーが連携し、社員やその家族が援農活動に参加できるシステムを作れば、双方の従業員に農業体験を通じた心身の健康を提供し、福利厚生面での成果をあげられます。支援先の農家に環境や生きものに配慮した共生農業を推奨することで、安全安心の食材を確保すると共に、地域の生物多様性向上にも貢献できます。食品メーカーと工業メーカー、どちらが主体になっても構いません。企業城下町を形成しているような大企業であれば、自治体の環境行政(一般廃棄物処理)や生物多様性戦略と連携するCSV (弊社ではBioDivercity-CSVの意味を込めて「BD-CSV)と略称しています)を展開することで、まさしく「地域まるごとのSDGsの展開」も可能になるのです。

▽【図-2】BD-CSV事業構想(クリックすると拡大します:全3スライド)

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【構想3】鉄道会社の場合:住民の幸福と安心を運ぶ事業へ

また、例えば地域と地域を結ぶ鉄道会社であれば、沿線地域の価値と持続可能性を向上させる取り組みを展開することで路線価を上げることもできます。沿線の都市住民と、田園地帯の農家や遊休農地を結びつける取り組みは、地域住民のQOLを向上させると共に、震災等の災害時における沿線住民のセーフティーネットワークの構築にもつながるでしょう。

さらに、自社の未利用保線区や沿線工業地帯の遊休地でも、「景観エネルギー作物」(菜の花やヒマワリなど)の栽培で新たな価値を創出できます。「景観エネルギー作物」は、四季を鮮やかに彩るだけでなく、バイオガスプラントの発電用資源とすれば、鉄道車両の動力を再生可能エネルギーに転換していくこともできます。沿線住民の家庭からの生ごみもバイオガスプラントの発電用資源となります。このような取り組みを展開することで、鉄道事業を単なる「乗客の移動手段」ではなく、「沿線地域の関係性を豊かに結び、住民の幸福と安心を運ぶ事業」に昇華させることが可能になるのです。そのような鉄道会社の路線価はうなぎ上りになるでしょう。このような取り組みこそが、真のCSV(共有価値の創造)なのです。

▽【図-3】フラワートレイン事業構想

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なぜ「生物多様性に倣うSDGs戦略」なのか

さて、長きにわたって「生物多様性とSDGs」の関係性をご紹介させていただきましたが、その根幹的なテーマは以下の2つになります。

  1. 近代の経済社会には「生産者」と「消費者」というファクターしかなく、一方通行で持続可能性が失われている。一方、生態系には「生産者」、「消費者」、そして「分解者」が存在し、持続可能な物質循環を成立させている。すべての企業は商品やサービスの「生産者」であると同時に原料やエネルギーの「消費者」でもあるが、「分解者」としての自覚意志をもち、その責務を果たしていかなければならない。
  2. 生物多様性は生命が40億年の歴史の中で培ってきた「持続可能な発展と進化」、即ち「生命のSDGs」を体現化した姿である。生物多様性の3つのフェーズ(遺伝子・生物種・生態系の多様性)にはそれぞれの機能と戦略があり、地球規模の危機を幾多も乗り越えつつ持続可能な発展と進化を担っている。その知恵の結晶を体系的に学ぶことが、全人類の共通目標たるSDGs(持続可能な開発目標)の達成に役立つと考えられる。

こうした「生物多様性に倣うSDGs戦略」のアプローチ理論を発想するきっかけとなったのが、国連のシンクタンクが昨年発表した「各国のSDGs進捗度ランキング表」です。評価対象国となった157ヵ国中、日本が11位にランクされていることが話題になりました。しかし他の国々の順位を見てみると、上位40ヶ国のうち、じつに34ヶ国がヨーロッパ圏の国々なのです。さらに言えば、日本を唯一の例外として39ヶ国はキリスト教の国(韓国を含む)でした。現状のSDGsは、このような進捗度の上位を占める国々の共通価値観、即ちヨーロッパ史観、ひいてはキリスト教史観の影響を強く受けているものと考えられるでしょう。もちろん、だからと言ってSDGsに掲げられた目標や達成基準に疑念を挟むものでは決してありません。しかし「彼の国々の人々には分かりやすい」ものが、「私たち日本人には分かりにくい」ということは多分にあるでしょう。

典型的な例が、連載4回目で紹介した「生物多様性オフセット」におけるアプローチ方法の違いです。欧米では「人間界」と「自然界」の概念的な境界線が明瞭なのに対し、日本では境界線が曖昧でグラデーションになっています。日本の生物多様性は「自然や万物の全てに宿る神々(=八百万の神々)と人々が共存してきた歴史」の上に成立しているからです。そのため、生物多様性の価値を「切り貼り」するような欧米流の利用権取引の実施は非常に困難です。欧米でのオフセットは多くの場合、「開発」と「代償」が別々のステージで行われます。しかし我が国では「開発と代償を同じステージで達成する」手法が望ましいのです。つまり日本のSDGsは「生物多様性と一体になったアプローチ」を模索することが、目標を達成するための最良の方策と考えられます。

日本人の精神的価値観に宿る「八百万の神々」とは、生物多様性が育む生態系サービスへの畏敬を現わしたものに他なりません。ならば、生命40億年の歴史が培ってきた「知恵の結晶」である生物多様性を体系的に紐解き、その機能と戦略を羅針盤にすることで、日本に相応しいSDGsへの適確な取り組みができるはずです。いわば「生物多様性史観に基づくジャパン・オリジナルのアプローチ」です。

また、ある著名な環境コンサルタントの方が、私的な談話で次のように述べられていたそうです。私もその方のご意見に強く共感したので、最後にここでご紹介します。

「欧米の人々は"神からのご託宣"に従って高い目標を目指して行く考え方に慣れているけれど、日本人はどちらかというと"日々の営みの中で努力や功徳を積み重ねて神に近づく"というスタンス。その違いが、SDGsのようなゴール設定のフレームに対する取り組み方の違いに現れるのではないだろうか。」

長らくの連載にお付き合いいただきましたことに、深く感謝申し上げます。

関連情報
アミタでは、生物多様性戦略/環境調査サービスを提供しています。

seibutu_tayousei.png企業活動が生物多様性におよぼす影響の把握やリスク分析には高度な専門性と多くの時間が必要であり、具体的な進め方に悩む企業が多いのが現状です。アミタは周辺の里地・里山・田園と連携した生物多様性の保全・向上施策など、地域社会の持続性に貢献する本質的なCSV戦略の立案・実施をご支援します。

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e-book04-160.png宮城県北部、人口約13,000人の町で今、過疎やコミュニティ崩壊といった地域課題に真正面から立ち向かう革命が起きている。南三陸町で実践される循環のまちづくりについて、本コラム著者、本多が取材しました。

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執筆者プロフィール(執筆時点)

本多 清(ほんだ きよし)
アミタホールディングス株式会社
環境戦略デザイングループ 環境戦略デザインチーム

環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)、『魔法じゃないよ、アサザだよ』(合同出版)、『四万十川・歩いて下る』(築地書館)など。

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