スローイノベーション(slow innovation)の時代2. 協創が生まれる土壌を地域でつくる | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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コラム

スローイノベーション(slow innovation)の時代
2. 協創が生まれる土壌を地域でつくる
スローイノベーションの時代

turtle_rev2.jpgSDGsがますます注目されるなか、企業のCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)の必要性が高まってきています。CSVを成功させるには、行政やNPOを含むクロスセクターの協力関係を丁寧に築き上げ、粘り強く社会イノベーションに取り組むことが重要です。本コラムでは、Slow Innovation株式会社代表取締役 野村恭彦様より、社会イノベーションの基盤となる「市民協働イノベーションエコシステム」について解説いただき「地域から日本を変える」取り組みのヒントをお届けします。

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Photo by Mitchel Lensink on Unsplash

協創が生まれる土壌:市民協働イノベーションエコシステム

企業・行政・NPOが立場を超えて協力し合わなければ、社会イノベーションをそう簡単に起こすことはできません。なぜなら社会課題は、簡単に解決できないからこそ、今でも社会課題として残っているわけです。

たとえばゴミゼロをめざして社会イノベーションを起こそうとしたとき、企業がパッケージを含めてモノの売り方を変えなければ、消費者サイドだけでゴミゼロを実現することはできません。企業からすると、自社だけがビニールやプラスチック容器を使わずに非効率な事業を行えば、価格競争や利便性で他社に負けてしまうおそれがあるため、行政が規制をかけてくれることを期待します。また企業がゴミゼロを実現するためのノウハウを得ようとしたとき、非営利組織の持つ環境問題解決の知識が必要不可欠になります。

では、企業・行政・NPOというセクターを超えた協創関係というものは、どうすればできるようになるのでしょうか。他のセクターを「巻き込む」と気軽に言う人もいますが、そう簡単に巻き込むことはできません。それぞれのセクターは異なる目的をもって、時には矛盾した目標に向かって努力を続けています。自己都合の理由で巻き込もうとしても、セクターを超えた協創関係を得ることはできません。そこで「巻き込む」というよりも「招き入れる」というマインドセットが必要になります。では、どうすれば他のセクターを招き入れることができるのでしょうか。

他者を招き入れるうえで最も重要なことは「共通の目的」を持つことです。しかし、セクターを超えて多様なステークホルダーが「共通の目的」を持つことは、とても難しいのです。そこで「1.スローイノベーションの時代」で書かせていただいた「地域を限定する」ことによってステークホルダーを限定し、そのなかで「信頼関係を築いていく」というアプローチをとるようにしてきました。このときの「共通の目的」は、地域愛、シビックプライドと呼ばれるものになります。「この地域のためにやるなら、私も協力するよ」という気持ちが、セクターを超えて伝播することで、社会イノベーションを起こす役者が揃うのです。

次図は、市民協働イノベーションエコシステムを構築するためのフレームワークです。図の下の方の□と○は、"バリュープロポジションキャンバス"から借りたものです。バリュープロポジションキャンバスは、○にユーザーのニーズを描き、□に企業が提供するサービスを描いて考えるビジネスフレームワークです。解決するユーザニーズ(○)と、企業の提供サービス(□)のバランスが保たれるので、経済的に成立するわけです。
(参考:アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール、グレッグ・バーナーダ、アラン・スミス著『バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品はサービスを創る』翔泳社, 2015年)

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図:市民協働イノベーションエコシステム構築のためのフレームワーク

ここでポイントになるのが、市民協働イノベーションエコシステムの場合は、〇がユーザニーズではなく社会課題となることです。通常、社会課題はいくら解決をしてもユーザー(社会課題の当事者)はお金を直接払わないので、ビジネスがシンプルには成り立たちません。

そこで、社会課題解決をビジネスやイノベーションの力で推進するために、この"市民協働イノベーションエコシステム"のフレームワークでは、上の△が登場します。△のフレームのキーセクターは、行政です。行政がリーダーシップを取り「行政と市民が協働して、解決すべき社会課題を明らかにすること」と「行政と企業が協働して、ビジネスによる社会課題解決の条件を整えていくこと」という二つの市民協働によるイノベーションを促していきます。

地域には長期ビジョンがありますが、その長期ビジョンに合った形で市民が「この地域では、こういうことをやっていこうよ」と高いレベルで課題設定について合意することを促し(※図内1)、企業がイノベーションによって課題を解決し(※図内2)、最終的にはそのアイデアを行政が政策にして加速させていく(※図内3)。この循環が生まれると、市民協働イノベーションエコシステムが育っていきます。

この〇と□と△が揃った都市や街は、これまで社会課題は行政が税金で解決すると考えていたところから、セクターを超えて、みんなで「こういうことを目指そうよ、こういうことをしていこうよ」と協働して全体がまとまっていくことが一番大事なのだと考えられるようになります。

企業の「地域でのイノベーション失敗」あるある

ここまで市民協働イノベーションエコシステムをどう構築していけばいいかということについて、考えてきました。では、この市民協働イノベーションエコシステムが「ない状態」では、地域でどのようなことが起こっているのでしょうか。

たとえば、たくさんの企業が集まっていれば、技術や人財、スペースなど使える資源も豊富ですし、まちづくりを企業が立ち上がって行えば、相当なインパクトを出せるのではないかと思います。しかし、企業だけが集まっても、多くの場合、地域でイノベーションは起こせません。地域にねざしたNPOなどの組織と連携しない限り、企業が社会課題を考えても、どうしてもSDGsのような「大括りな課題感」になってしまって、社会課題をその地域ならではの高い解像度で見ることができません。

また、市民協働イノベーションエコシステムが「ない状態」だと、社会実験もうまくいきません。トップダウンで強引に社会実験を起こしたとしても、それは「社会実験のための社会実験」で終わる可能性が高く、社会実験期間が終わると、その地域の社会課題は解決しないまま、企業はその地を去っていくことがほとんどです。

だからこそ、協創が生まれる土壌である市民協働イノベーションエコシステムを豊かに耕し続けておく必要があるわけです。企業・行政・NPOが地域のなかでシビックプライドを通してつながり、長期的な目標に向かって協創することができれば、企業は、社会課題解決をビジネスにするチャンスがあります。行政は、財政だけに頼らずに企業のイノベーション能力を使って地域の未来をつくっていくことができます。NPOにとっても、企業の力をテコにして社会課題解決を推進していくことができるようになるのです。

クロスセクターリーダーの時代

市民協働イノベーションエコシステムが豊かな地域には、必ず「元気な行政」がいます。そして、元気な行政と盟友関係の「地域愛の強い企業やNPO」がいます。つまり、市民協働イノベーションエコシステムのてっぺんの△が豊かなのです。△が豊かではじめて、市民が高いレベルでの社会課題の合意をすることができます(○)し、それによって企業の社会イノベーションやCSV(□)が起こせるようになるのです。

その鍵を握る行政職員は「市民に向けてサービスを提供するのが自分たちの仕事」という意識が強く「市民に対して社会課題設定と行動を促す」ことや「企業に対して社会課題解決ビジネスを促す」ことを得意としてきませんでした。能力は、一夜にして変わるものではありません。企業・行政・NPOが連携して、社会イノベーションの協創を何度もなんども繰り返していくことが大事なのです。その結果、他のセクターの人脈も豊富で、他のセクターのキーパーソンを「招き入れる」ことのできるリーダー、いわば「クロスセクターリーダー」が、企業のなかにも、行政のなかにも、NPOのなかにも生まれてきます。

社会イノベーションの基盤となる市民協働イノベーションエコシステムで豊かな地域をつくっていきたい。それが、Slow Innovationのめざす姿です。

関連情報

つなげる30人新聞.pngSlow Innovation株式会社では、社会イノベーションの基盤としての「市民協働イノベーションエコシステム」づくりのために、地域内の企業・行政・NPOなどセクターを超えた30人のマルチステークホルダーが協働する地域主導プログラム「つなげる30人(Project30)」を展開しています。2016年渋谷区からはじまった同プログラムは、2020年現在、京都市、名古屋市、気仙沼市へと広がっています。

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執筆者プロフィール

takahiko_nomura_rev1.jpg野村 恭彦(のむら たかひこ)氏
Slow Innovation株式会社 代表取締役
金沢工業大学(K.I.T.虎ノ門大学院)イノベーションマネジメント研究科 教授。博士(工学)
国際大学GLOCOM 主幹研究員、日本ナレッジ・マネジメント学会 理事、
日本ファシリテーション協会フェロー、社団法人渋谷未来デザイン フューチャーデザイナー。

慶應義塾大学修了後、富士ゼロックス株式会社入社。同社の「ドキュメントからナレッジへ」の事業変革ビジョンづくりを経て、2000年に新規ナレッジサービス事業KDIを立ち上げ。2012年6月、企業、行政、NPOを横断する社会イノベーションをけん引するため、株式会社フューチャーセッションズを創設。2016年度より、渋谷区に関わる企業・行政・NPO横断のイノベーションプロジェクトである「渋谷をつなげる30人」をスタート。2019年10月1日、地域から市民協働イノベーションを起こすための社会変革活動に集中するため、Slow Innovation株式会社を設立。

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