スローイノベーション(Slow Innovation)の時代 4 .「つなげる30人」が育む協働プラットフォーム | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

環境戦略・お役立ちサイト おしえて!アミタさん
「おしえて!アミタさん」は、未来のサステナビリティ経営・まちづくりに役立つ情報ポータルサイトです。
CSR・環境戦略の情報を情報をお届け!
  • トップページ
  • CSR・環境戦略 Q&A
  • セミナー
  • コラム
  • 担当者の声

コラム

スローイノベーション(Slow Innovation)の時代
4 .「つなげる30人」が育む協働プラットフォーム
スローイノベーションの時代

turtle.jpg

SDGsがますます注目されるなか、企業のCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)の必要性が高まってきています。CSVを成功させるには、行政やNPOを含むクロスセクターの協力関係を丁寧に築き上げ、粘り強く社会イノベーションに取り組むことが重要です。
今回は、Slow Innovation株式会社様より、社会イノベーションの基盤となる「市民協働イノベーションエコシステム」について解説いただき「地域から日本を変える」取り組みのヒントをお届けします。

本コラム一覧はこちら

Photo by Tai's Captures on Unsplash

「つなげる30人」で目指すこと

私たちは、市民協働イノベーションエコシステムの土壌づくりのために「つなげる30人」プログラムを日本全国で展開しています。2016年に渋谷区からスタートしたこのプログラムは、京都市、名古屋市、気仙沼市、町田市へと活動の範囲を広げていきました。新型コロナウイルスによってもたらされた大きな社会変化の中で、企業・行政・NPOの存在意義や提供価値、リーダーシップのあり方が根本から問われている今だからこそ、この社会イノベーションのムーブメントを更に加速させていきたいと考えています。

「つなげる30人」とは、1つの都市や地域に関わる企業・行政・NPOがセクターを超えて相互に繋がり、信頼に基づいて協働することによって社会イノベーションを起こそうとする、約半年間のプログラムです。

私たちは、社会イノベーションとは『経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で「新結合」すること』と定義づけています。「つなげる30人」の文脈では、「企業のリソース」「行政の政策立案による推進力」「NPOの知識や行動力」などを新結合させることでまちを変革し、結果として社会や地域の課題を今までにない方法で解決に導くことを目指しています。

しかし、実はそれ以上に大切にしていることがあります。それは、参加する多様なセクターのメンバー30人が「継続的に都市・地域のイノベーションの担い手(社会イノベーター)であり続けること」です。

毎年30人がこのプログラムに加わり社会イノベーターへと自己変容を遂げ、その人数が60人、90人、そして300人と積み上がっていくことで、豊かな市民協働イノベーションのエコシステムができあがることに最大の意義があると考えているのです。

市民協働イノベーションエコシステム、つまり「社会イノベーションがいつでも起こせる土壌」が豊かな都市・地域は、例えば「循環型のまちづくり」をしようと考えた時に、市民の協力、NPOの協力、商店会や商工会の協力、大企業の協力、そして行政の横串の協力をパッと集めることができます。私たちは、都市や地域の社会イノベーションを起点に、日本を変えていきたいと、本気で取り組んでいるのです。

30人で社会が変わるのか?

「つなげる30人」のユニークさの1つとして「30人から始める」点が挙げられます。

「たった30人で、75億人の社会を一気に変えられるか?」と問われたら、答えはもちろんノーだと思います。なぜなら「世界を"一気に"変えることは出来ず、変化は常に"ローカル"なところから起きる」という前提が想像されるからではないでしょうか。もう1点、持続的な変化を起こすには「十分な"多様性"を内包したコアチームが必要だ」ということも挙げられるでしょう。

時には、いわゆる市民運動、政治活動、革命、破壊的イノベーションなどと呼ばれるような「新しい正しさが、古い価値観を駆逐する」ことによって、世界を一気に変えるような動きも起こり得ます。しかし私たちは、そうした稀有なイノベーションに期待するのではなく、社会を構成する一人ひとり、一つひとつの組織や団体が、自らの意志で持続的に変わっていける"状態"をつくることが、社会をより良い方向へ変革していく起爆剤になると考えています。

「つなげる30人」は、このような考えをもとに探究してきた結果、生まれた方法論です。

picture.png
図:「つなげる30人」メンバー構成

「つなげる30人」のメンバーである30人は、そのまちの暮らし・産業・社会を代表する多様なプレーヤーが丁寧に選ばれます。プログラムが開催される会場には、行政の人、まちの主要な企業の人たち、そして地域で活躍するNPOの人たちが、1つの円になって集合します。そこに階層は無く完全にフラットで、全員が相互に尊敬を持って支援し合う、まるで同級生のような関係性を築いていきます。この30人の円を見渡すと「この人たちと一緒なら、まちの中で変えられないものなんか無い」と思うことができるようになるのです。

そのような意識に変容した30人は、まちの社会課題を解決するために、課題の当事者だけでなく非当事者を含む多くのステークホルダーと一緒にアクションを起こしていくべく、多様な組織・団体や行政機関をお招きしてつながります。お招きする過程でメンバーである30人は、まちの魅力を「人を通して」再発見し、自分のまちを共創プラットフォームとして捉え直していきます。

このようにして「30人の閉じた仲間たち」の一時的なプログラムの参加者という関係では無く、「30人からスタートする」開かれた協働プラットフォームのエコシステムが育まれていくのです。

社会イノベーターの本質

企業戦略としてますますCSVの重要性が増している昨今、企業が育成したくて仕方がない人財が、社会イノベーターです。あらゆる企業で、新たな社会課題を設定し、その解決策を生み出し、事業化することのできる人を求めています。

しかし、「つなげる30人」を通して気づいた社会イノベーターの本質とは「社会イノベーターという"個人"はいない」ということ。社会イノベーションを起こす人の共通点は「1人でイノベーションを起こそうとしていない」ことだからです。

社会課題を解決に導くためには「今までにその課題が解決しなかった理由」を乗り越える必要があり、そのためにはその社会課題のステークホルダーたちが少しずつ「新しい行動」をしてくれなければなりません。もちろん、あらゆるステークホルダーたちを説得していくことが出来れば良いのですが、一般的には「それは理想論」と言ってなかなか動いてくれない人がほとんどで、最初の一歩すら踏み出すことが難しいでしょう。

そこに「あなたのためならやってみよう」と言う企業・行政・NPOが現れ、ある程度の行動を起こしてくれたならば、あるいはステークホルダーが他のステークホルダーに直接話を持ちかけてくれたならば、社会課題解決の最初の一歩を悠々と踏み出すことが出来ます。

言い換えれば、優秀なイノベーターには「君のためなら一肌脱ごう」と言ってくれる信頼のネットワークを数多く持っているのです。このような信頼関係のある人が協力してくれることによって、合理的には説得不可能な座組みをつくることが可能になり、社会課題解決のための社会実験を実行することが出来るようになります。つまり「つなげる30人」の価値は、その都市・地域に信頼のネットワークで結ばれた「社会イノベーター集団」を育成するところに有ると言えるでしょう。

可能性を信じて

最後に、企業においても行政・NPOにおいても、社会課題解決に取り組む場合、具体的にどんなプロジェクトで、どのような成果・結果を生み出しているのかが、最重要事項として問われることが多いことは想像に難くありません。私たちも「つなげる30人」の成果を語る時に、もちろん各プロジェクトの成果を説明します。

しかし心の中では「プロジェクトはあくまで副産物」という気持ちを常に持っています。なぜなら、社会課題のほとんどは長期視点で取り組まなければ意味が無いからです。その1年で何を達成したかより、継続的にその課題に組織や団体が関わり続けられるかどうかが、最も重要なのです。

都市・地域で育まれる協働プラットフォームのエコシステムの中で、社会イノベーター集団が、今まで解決不能と考えられていた様々な分野(ビジネス、経済、社会、環境など)の複雑な課題を粘り強く解決に導いていく、まさに奇跡のようなことが起きる可能性を強く信じています。

関連情報

tunageru.pngSlow Innovation株式会社では、社会イノベーションの基盤としての「市民協働イノベーションエコシステム」づくりのために、地域内の企業・行政・NPOなどセクターを超えた30人のマルチステークホルダーが協働する地域主導プログラム「つなげる30人(Project30)」を展開しています。2016年渋谷区からはじまった同プログラムは、2020年現在、京都市、名古屋市、気仙沼市へと広がっています。

詳しくはこちら

執筆者プロフィール

takahiko_nomura_rev1.jpg野村 恭彦(のむら たかひこ)氏
Slow Innovation株式会社 代表取締役
金沢工業大学(K.I.T.虎ノ門大学院)イノベーションマネジメント研究科 教授。博士(工学)
国際大学GLOCOM 主幹研究員、日本ナレッジ・マネジメント学会 理事、
日本ファシリテーション協会フェロー、社団法人渋谷未来デザイン フューチャーデザイナー。

慶應義塾大学修了後、富士ゼロックス株式会社入社。同社の「ドキュメントからナレッジへ」の事業変革ビジョンづくりを経て、2000年に新規ナレッジサービス事業KDIを立ち上げ。2012年6月、企業、行政、NPOを横断する社会イノベーションをけん引するため、株式会社フューチャーセッションズを創設。2016年度より、渋谷区に関わる企業・行政・NPO横断のイノベーションプロジェクトである「渋谷をつなげる30人」をスタート。2019年10月1日、地域から市民協働イノベーションを起こすための社会変革活動に集中するため、Slow Innovation株式会社を設立。

内 英理香(うち えりか)氏
Slow Innovation株式会社 コミュニティマネージャー

大学卒業後、大手国内系コンサルティング会社に入社。各種業界の人財・組織開発コンサルティングを経験後、ダイバーシティ・コンサルティング会社にてアンコンシャスバイアストレーニングなどの手法を用いた組織開発コンサルティングや、オンライン講座企画営業などに従事。その傍ら、より個人の内面の変容にフォーカスをおいたプロセス指向心理学をベースとした、反転学習型リーダーシップ開発プログラムを自主企画し運営。2020年4月より同社に入社後、企業への社会課題解決型新規事業開発コンサルティングや、行政への市民協働支援を通して、"想いを持った誰もがチャレンジし、ともにより良い未来を創発できる社会"の実現のために活動している。

スローイノベーションの時代 の記事をすべて見る
このページの上部へ