スローイノベーション(Slow Innovation)の時代 6 .SDGs時代:誰もがイノベーターになる「SDGs時代」10年 | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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スローイノベーション(Slow Innovation)の時代
6 .SDGs時代:誰もがイノベーターになる「SDGs時代」10年
スローイノベーションの時代

turtle_rev.jpgSDGsがますます注目されるなか、企業のCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)の必要性が高まってきています。CSVを成功させるには、行政やNPOを含むクロスセクターの協力関係を丁寧に築き上げ、粘り強く社会イノベーションに取り組むことが重要です。本連載の最終回は、Slow Innovation株式会社代表 野村恭彦様より、これからの10年間のイノベーションの在り方について解説いただきます。

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Photo by quianyu pan on Unsplash

イノベーションのやり方が変わる

2020年、世界は新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)に苦しむ一方で、経済発展のスピードを緩めて持続可能性に舵を切るチャンスを迎えています。そして、2030年までの10年間、世界中の政府、企業、NGOがSDGs(持続可能な開発目標)に向かって何らかのアクションを起こそうとしています。まさに、これからの10年は「SDGs時代」と呼ぶにふさわしいのです。

SDGsの本質は、17番目のゴールである「パートナーシップ」にあると考えます。政府とNGOだけでは持続可能な開発目標の達成は不可能であり、企業が足並みを揃えてSDGsに向かってアクションを起こすことが必要です。しかし、各セクターの先進的手法として注目されている行政主導の公民連携(Public Private Partnership)、企業主導のオープンイノベーション、そしてNGO/NPO主導のコレクティブインパクトは、すべてクロスセクターのパートナーシップの取り組みですが、いずれも社会に大きなインパクトを与えるには至っていません。

注:NPO(非営利組織)は、営利を目的とせず社会的活動を行う民間の団体。一般市民が社会的な活動をすることを促進するための組織形態。NGO(非政府組織)は国連が使った呼称で、地球規模の問題解決に取り組む民間の団体のこと
参考情報:国際協力NGOセンター JANIC<https://www.janic.org/ngo/faq/>

公民連携のクロスセクターのイノベーションは、行政と企業の信頼関係がなければ成功し得ません。現状は、行政の仕事を民間に移してコストを削減したり、自治体の持つ土地を企業のビジネス利用のために提供したりと、創造的なパートナーシップを組めているとは言い難い状態です。
企業のオープンイノベーションも、企業間の信頼関係、さらには各企業の損得を超えた大きなビジョンがなければ成功しません。現状は、大企業が集まるコンソーシアムはたくさんあっても、お互いのビジネスシーズを持ち寄るだけで、創造的な成果が生まれることは多くありません。また大企業とスタートアップのマッチングも大流行していますが、形だけのワークショップに終わりやすいのが実情でしょう。
NGO/NPOの世界では、設定した社会課題に対して、多様なステークホルダーが目標を共有して協力し合うことで、目に見える社会課題解決を達成しようという「コレクティブインパクト」が注目されています。しかし残念なことに、成功事例が少ないのが現状です。

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図:行政・企業・NGO/NPOいずれも「招き入れ型」のクロスセクターイノベーションが必要

これら3つのセクターの先進的手法と言われているパートナーシップが成功しない原因は、同じところにあると考えています。特定のセクター、例えば行政が旗を振って企業やNPOを集めても、「あるべき論」で集められた組織にとっては主体的にその問題に取り組む動機づけが弱いため、どうしても「やらされ感」になってしまいます。オープンイノベーションやコレクティブインパクトがうまく行かない理由も同様です。企業にとっては、経済的なベネフィットが見えないと社会課題解決に本気で取り組むことは難しいのです。リーダーがどれほど正当な社会的理由を述べても、参加企業は「できる範囲のお付き合い」に終始してしまいます。これが「巻き込み型」の限界と言えます。

そこで必要になるのが、「革新的な共創の場」です。革新的な共創の場を定義するならば、(1)特定のゴールを設定せずに、(2)多様なステークホルダーと予算を集め、(3)あらかじめ想定し得なかった成果をあげる、という3点が企図されている場といえます。この場の特徴は、特定のリーダーを置かずにファシリテーターが「志」を立て、その志に共感する組織が「自らの問いを持って」、同じ立場で参加していることです。つまり、企業であれば「地域の未来を創るために自分たちはこんなことができないか」という想いを持って、この場に参加するのです。ファシリテーターは、共通ビジョンへの「巻き込み型」ではなく、相手の想いを引き出す「招き入れ型」で共創の場をつくっていきます。誰もが主体的に自らの問いを持つことが前提で、その上で参加者全員がお互いに高め合う関係性を持っているからこそ、共創が起きるのです。

責任ある消費者がイノベーションを牽引する

イノベーションのやり方が変わろうとしていても、組織は旧来の縦割りの価値観をなかなか抜け出すことができません。そこで、SDGs時代を牽引するもう一つの重要な存在があります。それは、「責任ある消費者」です。

責任ある消費者とは、例えば、飛行機に乗ったら、自分の排出したCO2は「オフセット」します。オフセットとは、単純に言うと「自分の排出したCO2の量と、同等の量のCO2を吸収する森林を植える」といった行為のことを指します。もちろん、個人で森林を植えるわけにはいかないので、そのような活動をしているプロジェクトに寄付をするなどが考えられます。そのような責任ある消費者は、ゴミの分別を徹底的にしたり、生ゴミをコンポストにして土に返したりすることにも努力を惜しみません。それは、「やるべきだから」ではなく、「そうしたいから」という動機づけから来ています。そのため、「ゼロ廃棄のジーンズ」(ユーザが自社ジーンズを使った後にすべて回収するビジネスモデル)や「アップサイクルのバッグ」(ゴミになるはずの原材料を価値ある商品にデザインして使う)などをかっこいいと思うのです。

理論上、私たちは「衣食住」を「CO2ネットゼロ」に変えることができます。ゼロ廃棄のファッションを大切に使い、地産地消を意識した買い物をすることでフードマイレージをゼロに近づけ、そして家やオフィスで使うエネルギーをすべて再生エネルギーに変えることができるのです。旅行は、「せっかく多くのCO2を排出して移動する」のだから、「地域の持続可能性に貢献する」ことを意識した旅をしたいものです。

いつでもできる一人ひとりの「選択」をすることによって、私たちが「責任ある消費者」として生きることにつながります。この選択をする人が欧州で無視できない規模になってきたことで、企業の商品づくりの原則が変わり、政府は業界標準を整備せざるを得ない状態になります。つまり、社会を持続可能に変える「最大のドライバー」は私たち一人ひとりの選択なのです。

イノベーターのタイプも変わる

工業社会のイノベーターは、「バリューチェーンの再構築」ができる人でした。業界知識が豊富で、交渉力があり、実行力のあるカリスマ的リーダーを彷彿させます。一番わかりやすい例は、スティーブジョブスがアップルミュージックを立ち上げる際に、あらゆるレコードレーベルを説得して回ったというケースです。

しかし、SDGs時代のイノベーターは、サプライヤー側だけにいるわけではありません。責任ある消費者側にも、イノベーターがたくさん登場します。「持続可能な観光」の分野においては、サプライヤー側のSDGsの取り組みとしては水素や電気を使った飛行機や自動車の活用といった努力も必要ですが、社会を大きく変えるのは、「自然や文化にネガティブな影響を与える旅行には行きたくない」という市場の変化、つまり私たちの選択なのです。

企業の中でSDGsに取り組むイノベーターも、業界知識だけではなく、「地球市民としての生きる知恵」へのアンテナを高めておく必要があります。そのためには、朝から晩までオフィスの会議室で議論している「生き方そのもの」を変える必要があるのです。

そう、COVID-19で在宅勤務せざるを得なくなったイノベーター予備軍たちが、今、まちじゅうに溢れているのです。サプライヤーの知識だけで仕事をしてきた人たちが、家に戻り、コミュニティに戻り、地球市民としての意識を高めるきっかけが、今ここに生まれたのです。

「誰もがイノベーターになるSDGs時代」をどう生きますか?
スローイノベーションを一緒に楽しんで行きましょう!!

関連情報

tsunageru30.jpgSlow Innovation株式会社では、社会イノベーションの基盤としての「市民協働イノベーションエコシステム」づくりのために、地域内の企業・行政・NPOなどセクターを超えた30人のマルチステークホルダーが協働する地域主導プログラム「つなげる30人(Project30)」を展開しています。2016年渋谷区からはじまった同プログラムは、2020年現在、京都市、名古屋市、気仙沼市へと広がっています。

2020年度(11月スタート) 「京都をつなげる30人」第2期メンバー募集中! 〜ともに京都市のオープンイノベーションを起こしていく仲間になりませんか?
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執筆者プロフィール

mrnomurapro.png野村 恭彦(のむら たかひこ)氏
Slow Innovation株式会社 代表取締役

金沢工業大学(K.I.T.虎ノ門大学院)イノベーションマネジメント研究科 教授。博士(工学)。
国際大学GLOCOM 主幹研究員、日本ナレッジ・マネジメント学会 理事、日本ファシリテーション協会フェロー、社団法人渋谷未来デザイン フューチャーデザイナー。

慶應義塾大学修了後、富士ゼロックス株式会社入社。同社の「ドキュメントからナレッジへ」の事業変革ビジョンづくりを経て、2000年に新規ナレッジサービス事業KDIを立ち上げ。2012年6月、企業、行政、NPOを横断する社会イノベーションをけん引するため、株式会社フューチャーセッションズを創設。2016年度より、渋谷区に関わる企業・行政・NPO横断のイノベーションプロジェクトである「渋谷をつなげる30人」をスタート。2019年10月1日、地域から市民協働イノベーションを起こすための社会変革活動に集中するため、Slow Innovation株式会社を設立。

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